表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/541

挿話 ヒロ 28 再修行の開始と蒼真様の暴走

本編題四十八話から五十八話のころのお話です

 二日ぶりに会ったトモは、なんだかさっぱりしていた。

 一昨日最後に見た虚ろな姿はどこにも見えない。

 しっかりと強い意志の込められた瞳。

 表情もキリッとしている。


「先日はお世話になりました」なんてまた律儀に頭を下げてくる。

「もう身体は大丈夫?」

 それでも心配で聞いたら「大丈夫」と言う。よかった。


 竹さんの話になって「竹さんがトモのこと好き」ってバラした途端、トモは真っ赤になった。

 あれ? ポンコツは返上したんじゃなかったの?


 わかりやすくオタオタして、霊力乱して、両手で顔を押さえて喜び悶えるトモ。

 まさかトモがこんなになるなんて。

 キャラ変しすぎじゃない?


 ああだこうだと言いながらふたりで打ち合う。

 とにかく強くならなくちゃ。

 生き残るために。戦えるようになるために。

 大事なひとのそばにいるために。



 再修行二日目。

 予定の時間になってもトモが来ない。

「おかしいねぇ」ハルとふたりで首をひねる。

 トモは律儀なヤツだから、遅れそうだったら必ず連絡をくれる。

 なのに電話もメッセージもなにも入ってない。


「札飛ばす?」

「まあもうすぐ来るだろう。もうちょっと待って――」


 そう話していた、そのとき。


 ドン!

 突然、爆発が起こった!


「「!!」」


 高霊力の出現!

 まさか、『ボス鬼』――?

 場所は――近い! 安倍家の敷地内!?


 ハルがすぐに式神を飛ばした!

 と。

 緊張しきった顔が、げんなりとゆるんだ。

「ハル?」

「………蒼真様だ」

「え?」

 蒼真様?

 気配を探ってみる。

 ……ホントだ。めっちゃ高霊力だけど、気配が蒼真様だ。どうしたんだろうね?


 ピリリリリ!

 突然の着信にあわてて電話に出る。

 ほぼ同時にハルのところにも札の小鳥が何枚も来た。

「もしもし」

『目黒さんですか!? 今、高霊力を感知したのですが、もしや噂の「ボス鬼」ですか!?』

「主座様! 高霊力が出現しました!」

「主座様! ご連絡ください! 緊急事態です!!」


「今のは『ボス鬼』でも危害を加えるものでもありません。すぐに確認をして折返しご連絡致します」

「落ち着け。あれは異世界の守り役様だ。問題ない。すぐに詳細を確認して連絡する」


 それぞれに対応したけど、電話を切ったらすぐに次が来る。ハルのところにもひっきりなしに式神が飛んでくる。


 と、高霊力が収まった。


「白露様と緋炎様が蒼真様を抑えた。トモも一緒だ」

 よかった。

「とりあえず事態は落ち着いたんだね」

「向こうはな」

 ため息をつく間にも次々に式神か来る。


 ハルは少し考えて、決めた。


「突然我が家に龍が降臨なされた。

 まだ子供の龍で、霊力制御ができない。

 私の直属の者が現在対応している。

 これでどうだ?」


「いいと思う」

 嘘は言ってない。これ大事。


 統一見解ができたところで、大急ぎで本家に向かった。

 動揺する皆さんを一同に集めたハルは統一見解を説明し、各方面に連絡することを命じた。

 それから離れに戻って転移陣を通って御池に帰り、オミさんを呼び出した。

 オミさんにも手伝わせてあちこちに連絡を入れる。

「はい。高位の龍が突然降臨されまして――はい。『ボス鬼』ではありません」

「人の世に危害を加えるモノではありません。現在主座様の直属の者が対応しております」


 ハルは『神使』や『(ヌシ)』に報告を入れる。

 そちらの方々は蒼真様をご存知の方も多かったので「異世界の姫の守り役の暴走」「大したことではない」と正直に報告した。



 バタバタしていたらトモが来た。

 元凶の蒼真様も、白露様緋炎様も一緒。

 そういえば黒陽様と竹さんはどうしたんだろうね?

 あんな霊力の大爆発、あのふたりならすぐに察知して駆けつけそうなものなのに。


「どこかの『異界』に潜っているんだろう。

『異界』は結界に囲まれた独立した『世界』だから。

『こちら』でなにがあっても気付かない」


 なるほどね。


 そうしてどうにか落ち着いたところで、トモと蒼真様から事情を聞いた。


 なんとトモは『異界』に迷い込んでいたらしい。

 帰り道もわからず困っていたところをたまたま蒼真様が通りかかって連れて帰ってもらったと。

 そのお礼にバレンタインに母親達からもらったチョコレートをあげたら、食べた蒼真様が爆発したと。


 なにそれ。

 チョコレートで爆発するなんて、初めて聞いたよ。


 そういえばさっきフィナンシェでも爆発してたね。


 ……美味しかったですか。よかったですね。


 そういえばこの前来られたときに蒼真様に出したお茶請けは和菓子ばかりだった。

 深い意味はなく、出した飲み物が緑茶だったからそれに合わせただけ。

 その和菓子も「美味しい!」ってすごく喜んで食べてくれてた。


 あ。東の姫が亡くなって七、八十年経ってると。

 その間『こちら』の人間と関わることがなくて、最近の食べ物は知らないと。


 アキさんが色々話をしてあげたら蒼真様はすっかりアキさんを気に入ってしまった。

「ぼくしばらく明子にの弟子になる!」なんてスリスリと甘えている。


「ああ……また増えた……」


 ウチの父さんは『人たらし』だけど、実はアキさんも『たらし』。

 ヒトだけでなくあやかしでも霊獣でもなんでもかんでも惹きつけてしまう。

 アキさんがちょっと話しただけでみんなアキさんのこと『大好き!』になっちゃう。ごはんなんか食べさせたりなんかしたらもうイチコロ。

 そんなアキさんにコロッとヤられたひと達がたくさんいて、誰もがアキさんのそばに居たがっている。

 それを最古参で専属護衛の霊狐のコンさんが抑えている。


 年に一度『主の御母堂の護衛ランキング選手権』なるものを開いて、そこで優勝したらアキさんの一番近くで護衛できるってことにした。

『ヒトならざるモノ』は『強さこそが正義!』みたいな脳筋な理屈がまかりとおってる。

 だから、わかりやすく力を見せつけたら、大人しく言うことを聞く。

 ちなみにコンさんは十七年負けなし。

 母さんの専属護衛のケンさんと密かに特訓したりしてるらしい。

 コンさんに勝てない皆さんは「来年こそは!」って修行に励み、結果アキさんのそばは適度な人数が配置されているという状態になっている。


 家の中はハルの結界があるので基本コンさん達は入ってこない。

「いつもお仕事じゃコンちゃんもかわいそう」とアキさんが気を使い「おやすみしてて」と休んでもらっている。

 本人――本狐? は四六時中ベッタリくっついていたいみたいだけど、「それだとアキが休まらない」ってハルに言われてしぶしぶ従ってる。

 だから双子が高霊力を持って生まれ、その霊力を散らしたり暴走からアキさんを守ったりするために家の中でも護衛できるとなったときには尻尾がちぎれるんじゃないかってくらい喜んでた。


 今は双子が落ち着いたこと、『災禍(さいか)』の調査が本格化して人手がいることから元の体制に戻っている。

 アキさんが出かけるときにはちゃんとコンさんを呼び出して護衛してもらう形。


 でも、蒼真様がベッタリくっついてたら、コンさん用無しなんじゃ――。


「あら。蒼真ちゃんは蒼真ちゃん。コンちゃんはコンちゃんよ。

 私の専属護衛はコンちゃんだもの。お出かけするときはちゃんとコンちゃんに頼むわ」


 ……そーゆーところが『たらし』なんだよねぇ……。

 ホラ。こっそり聞いてたコンさんが泣いてるよ。


 そういうわけで、トモとオミさんとアキさんと蒼真様が出かけるのにコンさんもついていった。




 蒼真様の暴走の原因を報告するように『神使』や『(ヌシ)』に言われていたハルは、迷った末、正直に報告した。

 当然のように「献上を許す」とあちこちから返答があった。


 神様はともかく、動物にチョコレート食べさせて大丈夫なのかな?

「……自己責任でお願いしよう」


 結果。

 高級チョコレートをご存知の方は多かった。

 参拝者の皆さん、手を変え品を変えお供えしてるんですね。

 酩酊状態になる方もあったが、具合を悪くしたり亡くなったりするような方はなかった。よかった。


 この秋の出雲の神議(かむはかり)ではチョコレートが話題にあがるかもしれない。

 出雲の担当者に報告しといたほうがいいかもしれない。

 ハルにそう進言したら採用された。

 安倍家からも各有名メーカーのチョコレートを取り揃えて出雲に贈ることが決定した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ