表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/572

挿話 ヒロ 23 鬼の出現

本編第四十二話のときのお話です

 その日もいつものように双子の夕ごはんの準備をしていた。

 ハルと竹さんが双子を椅子に座らせて。よだれかけをつけて。

 ぼくはカウンター越しにアキさんが渡してくれる双子のごはんをテーブルに運んでいた。


 そのとき。電話がかかってきた。

 リカさんだった。


 ハルと視線を交わし、電話に出る。

「ヒロです」


『ヒロさん? リカです。

「バーチャルキョート」のクエストが発表されました』


 その言葉に緊張が走る。


「内容は?」

『堀川今出川交差点に鬼が出る。これを退治しろと』

「時間は?」

『あと五分。十八時十五分スタートです』

「リカさんの状況は?」

『「バーチャルキョート」プレイ中です。

 今大急ぎで現地に向かっています。

 兄も一緒です。

 他にもたくさんの人が堀川今出川交差点を目指して進んでいます』

「ぼくもすぐログインしてみる。ありがとねリカさん。

 彰良(あきら)くんもリカさんも、無理しないようにね」


 電話を切ってハルに視線を送る。ハルはうなずいた。


 双子の世話はアキさんに代わってもらい、ぼくとハルはあちこちに連絡を入れる。

『バーチャルキョート』と現実(リアル)と、両方の堀川今出川交差点にひとを()る。


 その間にタブレットを用意して『バーチャルキョート』の画面を出した。

 ちょうど呼び出したオミさんが帰ってきたからタブレットはオミさんに任せて、ぼくは連絡役に徹する。


 安倍家のひと、堀川今出川周辺の神社仏閣や守護者。

 おかしなことはないか。これからおかしなことが起こる可能性があること。なにかあったらすぐに連絡がほしいこと。

 伝えてはリストにチェックしていく。


「『バーチャルキョート』内、鬼出現。戦闘が始まりました」

 オミさんの報告。いつの間にか時間になっていた。


 黒陽様がタブレットに触れた。

「――特になにも感じない」

 竹さんも触れたけど、特になにも感じていないようだった。


 先日トモの家で父さんがデジタルプラネットの会社のシステムに侵入したときも「わからない」と言っていた。

災禍(さいか)』が竹さん達のわからない術を使っているからわからないのか、デジタルプラネットが無関係だからわからないのか、それすらもわからない。

 わからないから、調査を()めることもできない。



「――おかしいな……」


 部下をやったハルが首をかしげている。

 堀川今出川交差点に入れないという。


 なんで?

 そんなことあるの?

 誰かが結界を展開してる?

 でも、ハルの部下なのに。


 ハルは道具を並べて卜占(ぼくせん)をしたあと、厳しい顔をした。

 そしてすぐに菊様に連絡を入れる。


 菊様に一報を入れないといけない事態。

 言いしれない不安がジワリと這い上がってくるようで、ゴクリとつばをのみこんだ。


 そんなぼくをハルが見ていることに気が付いた。

 冷静な、静かな目。

 いつもどおりの、いつものハルの目。


 そうだ。落ち着け。

 あせっても不安がっても事態は好転しない。

 それよりも落ち着いて、冷静に、ひとつずつ。

 いつもハルに言われていること。

 目の前のことをひとつずつ、確実に。


 グッと目に力を込めてうなずくと、ハルはいつもの意地悪な狐みたいな顔で笑った。

 その笑顔になんだか勇気づけられて、再び連絡のためにスマホに向き合った。


 一件連絡を済ませて通話を切ったそのとき。着信が入った。

 堀川今出川交差点に行ってもらったひとだった。

 浄化の必要があると聞いて竹さんと黒陽様が顔色を悪くしていた。

 ハルが周辺調査を命じてすぐ、写真が送られてきた。


「―――!」


 その写真にちいさく写っていたのは、自転車。

 どこにでもありそうな、黒い自転車。

 でも。

 すぐにハンドル部分を拡大する。

 自転車通学すると聞いて父さんが渡した御守りがついていた。


「ハル」

 なんで

「これ――この自転車(チャリ)――」

 なんでこれがここに。

 トモは? どこ行ったの? まさか。


 ハルに画面を見せようとしたら、バッと竹さんに手首をつかまれた!

 普段のことひとからは考えられない動きにびっくりしていると、竹さんの顔からザッと血の気が引いた。


 そうだ。竹さんもトモの自転車(チャリ)知ってた。

『マズった』と思ったけど、もうどうにもできない。

 オロオロオタオタする竹さんにどうしたらいいのかぼくまでオロオロしてしまう。

 と。すぐにアキさんが竹さんを落ち着かせてくれた。


 アキさんはチラリとぼくを見て、にっこりと微笑んだ。

 いつもの笑顔にぼくも落ち着いた。

 ひとつうなずいて再び連絡役に戻ろうとスマホの画面を戻した。


 そのとき。

 緊急連絡用の式神が一羽飛んできた。


 トモだった。

「糺の森で鬼と戦う」という。


 なんで?

 これ、いつ飛ばしたの?

 なんで二通まとめて来たの?


 わからない。

 わからないけど、身体は勝手に手にしたままのスマホでトモの電話を呼び出していた。


 いくらコールしても出ない。

 なら札!

 緊急連絡用の札を飛ばした。けど、反応がない。届かない?


 なんで。なんで連絡がとれない。

 まさか。まさか。


 最悪が頭をよぎる。

 胸にどろりとした黒いものが這い上がろうとしている。


 それを振り切るように、必死で目の前のやるべきことをやっていく。


 下鴨神社に電話をかける。

 その手が震えていることに気がついた。

 必死で呼吸を整える。それでも手の震えは止まらない。


 何度かのコール音のあと、下鴨神社につながった。

「もしもし。安倍家の目黒と――」


 名乗っていたそのとき。


「行きます!」

 竹さんが突然、それだけ告げて転移した。



 あっと思ったときにはもう姿が消えていた。

 あの高間原(たかまがはら)の略礼装だという巫女装束をまとっていた。


 え? なに?

 なにがあったの?


『もしもし? もしもし?』

 電話から聞こえる声にハッとする。

「失礼しました。安倍家の目黒と申します。

 そちらの――」


 なにがなんだかわからないけど、とにかくやるべきことをやろう。

 冷静に。落ち着いて。ひとつずつ。


 下鴨神社の担当者と話がしたいと申し出てすぐ、その担当者が電話口に出た。


『非常事態です!』

 その声に、息を飲んだ。

 すぐに通話をスピーカーモードにする。


『たった今! 今! 糺の森にナニカが現れました!』


 ハルがすぐに電話を替わった。

「もしもし。安倍家主座、晴明だ。詳細を報告しろ」


 下鴨神社の担当者はわかりやすく動揺し、それでもどうにか説明してくれた。


 糺の森の結界が突然破れたこと。

 確認しようと準備をしていたら、突然高霊力のナニカが現れた気配がしたこと。

 これから確認に向かうこと。


「その『ナニカ』は、高位の鬼の可能性が高い」


 ハルの言葉に電話口の向こうの空気が凍ったのがわかった。


 少し前から――『バーチャルキョート』と現実(リアル)を同じにしようとしている可能性があることがわかってから、『ボス鬼』が現実(リアル)に出現する可能性があることを各地に連絡してあった。


 だから、下鴨神社のひと達も『まさか』とつぶやきながらも疑ってはいないようだった。


「こちらからも数人向かわせる。

 まずは己の身を守れ。決して無茶はするな。

 様子がわかる範囲でいい。わかったことがあれば、連絡をもらいたい」


『承知致しました』


 そうして、堀川今出川交差点から瘴気を追っている班に連絡をして、下鴨神社に急行してもらった。



 と、ふわりと小鳥が飛んできた。

 黒陽様の式神だ。


『晴明! 黒陽だ! 鬼は封じた!』


 その報告にホッとする。

 よかった。とりあえず鬼は片付いた。

 胸をなでおろしていたら、続く報告に血の気が引いた。


『トモが死にかけている! 今姫と浄化と治癒をかけているが、思うように回復しない!

 蒼真を呼んでくれ!』


 ――いま、なんて、言った?


 死にかけてる? 誰が?

 トモが?


 あのトモが?


 確かに霊玉渡したばかりで全盛期と比べたら一段落ちるかもしれないけど、それでも十分高霊力を持ってるし、なによりトモは剣も術も使いこなすのに。

 京都の、ううん、この国の能力者のなかでも指折りの実力者なのに。


 なのに。


 死にかけてる?

 思うように回復しない?


 わけがわからなくてハルに顔を向けた。

 ハルは黒陽様の指示を受けてどこかに連絡を取っていた。


 そうだ。なにかしなきゃ。

 ぼくもなにかしなきゃ。

 でもなにを?


 動転してぐるぐるしていたら、また黒陽様から連絡が入った。


『黒陽だ! 離れの姫の部屋にトモを連れて帰った!』


 その声色が普通じゃない。さっきより切羽詰まってる。明らかに非常事態だ。

 各所との連絡役はオミさんにお願いして、ハルとふたり転移陣のある扉に駆け込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ