挿話 ヒロ 19 日曜日 3 引き続きまとめてみよう
引き続きハルのアドバイスに従って『災禍』関係で調べたことをまとめてみよう。
一。デジタルプラネットの社長について。
これはさっきまとめた結果、情報分析班の仕事を増やすことが決まった。申し訳ない。
アキさんにおやつ作ってもらって差し入れするから許してください。
二。『バーチャルキョート』について。
約三十年前に一介の高校生が作ったゲーム。
最初はパソコンのみ対応していたけど、各種家庭用ゲーム機に対応し、今ではスマホでもパソコンでも使えるオンラインゲームになっている。
ゲームの枠を飛び出して、普通に観光したり買い物したりできるようになった。
会議や仕事もこの『バーチャルキョート』でできるようになり、『もうひとつの世界』といっても過言ではない環境になっている。
多くの企業が参入して『バーチャルキョート』内でのビジネスがさかんに行われている。
オンラインショッピングだけでなくオンライン会議やオンラインライブ、講習会や体験会など、ありとあらゆるイベントや商売が行われている。
『バーチャルキョート』の経済効果はいまや計り知れない。
『バーチャルキョート』がきっかけでリアルの京都に観光に来たい、住みたいというひともいるほどだ。
そんな『バーチャルキョート』に『災禍』が絡んでいると推察される理由は次のとおり。
ひとつめ。
その広がり方。
『災禍』を相手にすることは『ご都合主義を相手にするようなもの』とハルは表現した。
それを顕すように、『バーチャルキョート』の成長に合わせて世の中にデジタル環境が広まっていった。
何も知らずに見たら『世の中のデジタル環境の普及にいち早く対応した』ととらえられるだろう。実際ぼくらもそう思っていた。
でも、逆だったとしたら?
『バーチャルキョート』を使ってこんなことがしたい。
それには環境が整っていない。
じゃあ環境が整うよう願おう。
そんなふうに展開していったとしたら。
そして『災禍』ならば、その『願い』を叶えることができる。
つまり、『災禍』の関与があるということになる。
ふたつめ。
『バーチャルキョート』で使われている術や陣について。
『バーチャルキョート』で使われている術や陣は既存のものじゃない。
あくまでオリジナルの言語や図柄が使われている。
それをぼくらは単に『ゲーム上の演出』『製作者が考えたもの』ととらえていた。
でも異世界で『呪い』を受けた守り役達によると「『災禍』の使った術と似ている」という。
異世界で姫と守り役に『呪い』をかけたのは『黄』の国の王だという。
だけど守り役達も菊様も「実際に『呪い』を刻んだのは、王の影にいた『災禍』だ」と言っている。
「王の『願い』を叶えるために『災禍』が術を行使した。
王自身、自分のチカラだと思い込んでいたでしょうけど、実際は操られて術を『使った気になっていた』だけでしょうね」
『災禍』の使う術は姫達の『世界』に伝えられていたものとは系統が違うという。
その術に、陣に似たものが『バーチャルキョート』には多く使われていた。
その術や陣を誰が考えて、誰が採用したのかはわからない。
わからないけど、『バーチャルキョート』の開発関係者に『災禍』の『宿主』がいることはほぼ間違いない。
その最有力候補が、開発者の保志社長であることも。
みっつめ。
『バーチャルキョート』に現れる鬼について。
『バーチャルキョート』は、現実世界によく似たキョートの街に現れる鬼を倒すゲームだ。
その鬼の出現場所が、実際に鬼が出た場所とほぼ一致している。
最近ではほぼタイムラグなく出現するようになってきた。
これがなにを意味するのか。
少なくとも開発者のなかに現実世界の『ヒトならざるモノ』を察知できる『能力者』がいるはず。
そうでないとこんなタイムリーに同じ場所にゲーム上に展開できるわけがない。
『バーチャルキョート』と同じ場所に鬼が現れたとき、色々調べたけど、召還陣のようなものもおかしな術の気配もなにもなかった。
なら、どうやって同じタイミングで鬼が出現するのか。
それこそハルや菊様が使う『先見』のような能力があるのかもしれない。
とにかく「〇〇時〇〇分、どこどこに出現する鬼を倒せ」みたいなクエストがプレイヤーに届くことがある。
クエスト無しで鬼がゲーム内に出現し、遅れてクエストが発表されることもあったらしい。
『現実とゲームを同じになるようにしたのでは』
母さんの一言は真理を突いているように感じる。
同じにしてどうするの?
同じにしてどうなるの?
それがわからない。
そもそも『災禍』が何を『宿主』に願われたのかがわからない。
どの程度現実とゲームに整合性があるのか、これは昨日から調査を始めてもらっている。
結果が出るまでにはまだ時間がかかるだろう。
二。の『バーチャルキョート』について。は、こんなところかな。
最後に。
三。デジタルプラネットについて。
三十年前に保志社長が開発した『バーチャルキョート』。
その開発と展開を業務とする会社。
最初起業したときは保志社長ひとりの会社だった。
会社の住所も社長の当時住んでいた自宅アパート。
それがゲームがブレイクし、三上副社長が加わり、ちいさな事務所を構えた。
その時も社長の自宅を兼ねていたという。
ゲームをさらに作りこむためにスタッフを雇い入れ、そうして発表した新作がまたブレイクし、業績が上がったからまたスタッフを増やした。
それを繰り返して、現在では伏見区に六階建ての自社ビルを持つまでになった。
一階が受付と事務所と打ち合わせスペース。
二階が食事スペースと仮眠室。
三階と四階が開発スタッフの仕事部屋。
五階は『バーチャルキョート』を支えるスーパーコンピューターが立ち並んでいる。
そして六階が社長の自宅兼社長室。
地下に駐車場がある。
会社のスタッフ、出入りの業者、取引先などはすでに判明している。
いろんなひとがいろいろと調べたけれど、誰一人怪しいところはない。
堅実なビジネスをしているらしく、大きな負債もない。
一度黒陽様達守り役四人が隠形を取って会社に行ったことがある。
特に『災禍』の気配は感じられなかったとのことだった。
ただ、五階と六階のエレベーターホールから高霊力保持者をはじく防御陣が展開してあり、守り役達はエレベーターから出ることができなかったらしい。
非常階段の扉にも陣が刻んであり、ここから侵入することもできなかった。
もちろん式神もハルの部下の霊狐達も浸入できない。
それならと霊力の多くないひとをやったけど、普通に対人のセキュリティが施してあって五階より上階には行けないようになっていた。
ただ。
社長について。デジタルプラネットについて。『バーチャルキョート』について。
どれについても『先見』や卜占で『視』ようとしても『わからない』。
ハルや菊様だけでなく安倍家のチカラのある占者の誰も『視』えない。
ならばと逆にそこまで能力の高くない者に『視』させても、やっぱりだめ。まあそりゃそうだよね。
ただ、そのカンジが「『災禍』を『視』たときと同じカンジがする」とハルも菊様も言っている。
あくまでふたりの感覚的なもので、確たる証拠になるほどのものじゃない。
だから断定はできないけど、そんな理由で『災禍』の『宿主』はデジタルプラネット社長の保志 叶多氏が最有力。
『災禍』も保志氏のそばにいると予想されている。
次に『災禍』関連で今調べていることをまとめてみよう。
まずは『バーチャルキョート』。
最初に発表されてから三十年。
その間に『バーチャルキョート』内でなにが起こったか。
どんな事件があってどんな鬼がどこに出現したか。
その『バーチャルキョート』年表はまだ作成中だ。
ハルの婚約者のリカちゃんとそのお兄さんの彰良くんの『チーム九条』だけでなく安倍家にも別チームを作ってあたらせている。
この年表作成チームには『バーチャルキョート』内で使われたアイテムもリストアップしてもらっている。
どんなアイテムがどこでゲットできたか。
どんなアイテムなのか。
これもまだ作成中。だけど、一般人は知らないようなものがいくつもあって、そんなところからも『能力者』または『災禍』の関与をにおわせている。
『バーチャルキョート』で使われている術や陣の分析ははじめたばかり。
昨日トモの家で画像を見た黒陽様が偶然「『災禍』の使うものと似ている」と気付いたばかりなので、年表チームとは別チームを作って調べ始めてもらっているところ。
あっちこっちであがっている攻略サイトや考察サイトを片っ端から調べてもらっている。
年表チームも分析チームも現在進行形で『バーチャルキョート』をプレイしてもらっている。
新しいクエストがあったら即連絡を入れてもらい、現実世界の同じ場所にひとをやるようにしている。
もちろん『バーチャルキョート』内はプレイヤーに向かってもらう。
スクショや動画を撮ってもらい、それを分析する。
なにか気付いたことがあれば報告してもらう。
最近『バーチャルキョート』にあたらせているスタッフに攻略サイトを立ち上げさせた。
これまで調べた、公表しても問題ない部分をまとめて動画を作ってもらった。
もちろんハルや父さんのチェックを受けて、オーケーが出てからアップしている。
毎日配信していることもあり、徐々に見てくれるひとが増えている。
別のスタッフが一般視聴者を装って『こんなこと知ってるか?』みたいなコメントをあげて他の視聴者をあおり、あおられたひとたちがポロポロ情報をあげてくれるようになった。
『こんなコメントもらったので調べてみました』みたいに、サイト元が即対応するのもコメントが盛り上がる一因らしい。
おかげでこちらが把握していなかった情報が手に入ることもある。
担当者は大変そうだけど、がんばってほしい。
次に社長について。
社長の保志氏についてはほとんどの経歴や関わってきた人物がわかっているけど、肝心の『災禍』と出会ったであろう時期が確定できない。
どこでどんなふうに出会ったのか。
保志氏が『宿主』だとして、どんな『願い』を持っているのか。
これがわからないから『宿主』と確定ができない。
だから社長については調査が続いている。
社長の祖父である篠原家を陥れた人物及びその関係者についても調査中だ。
それから、京都の結界について。
これは『バーチャルキョート』と関連のあるところないところ関係なく調べている。
もともとは覚醒した竹さんのリハビリだった。
京都の外側を囲む結界は、三年前南が破られた。
今はとりあえず応急処置で穴をふさいでいるだけ。
いつ破れるかわかったもんじゃない。
だから竹さんのリハビリを兼ねて、どうにかできるか調査してもらっていた。
竹さんも「お世話になった対価を!」としつこかったし。
「結界関係は『黒の一族』」って菊様も守り役も言ってたし。
ハルが最初に依頼したのは『京都の外側を囲む結界の修復の可能性の調査』だった。
それが竹さんが昔のことを思い出して思い詰めて眠れなくなったから、仕事を増やした。
『京都の外側を囲む結界が破れたことにより、内側の結界に異変が起こっていないか』
たくさんの場所を調査しないといけない。
実際その場所に行かないといけない。
そうやって竹さんを働かせて、余計なことを考えないようにさせて、アタマも身体もクタクタにさせて寝させる計画だった。
ところが、竹さんの生真面目さゆえか、『黒の一族』ゆえか、あちこちの結界に問題が見つかった。
ほころんで今にもこわれそうなところ。
守護者の霊力不足で維持できなくなってきているところ。
結界陣が機能していないところ。
竹さんが調べたそんな場所のひとつで、鬼が出現した。
『バーチャルキョート』にも同じ場所に鬼が出現した。
偶然なのか。
結界の場所を知っているのか。
なんにしても、その問題のある結界から『ボス鬼』なんてとんでもない鬼が出現する可能性がある。
できることをできるうちにやっておこうと、改めて竹さんに結界関係の調査を依頼している。
そして今日、調査すべきことが増えた。
『ここ三十年の、京都市内の不審死及び行方不明についてのリストアップ』
不審死や行方不明に関しては安倍家に調査依頼がくることが多い。
警察からくることも、警察を通さず個人としてくることもある。
『神隠し』『呪い』『ヒトならざるモノの関与』
そんなことが原因でヒトがいなくなることがあるのがこの京都だ。
実際何件かはぼくもそんな事例を知っている。
でも、さっきぼくが作ったこのリスト。
篠原家関連だけでもこれだけの人数が生死不明になっている。
それも父さんが指定した『ここ三十年』の間に。
これだけだと篠原家関連だけにみえる。けど、もし、他にも生死不明者がいたら?
安倍家の把握していない事例が他にも多くでてきたら?
ハルは言った。
『災禍』について。
『強い願いは贄を要する』
『宿主』の『願い』のために『災禍』の生贄にされた――?
――おそらく父さんはその可能性が高いと思っている。
そしてハルも。
だから何人もに占わせた。
最初から調査の糸口を示して調べやすくした。
どんな結果がでてくるかわからないけど、調査にたくさんの人員が必要なことはわかる。
オミさんの弁護士事務所もしばらくはこっちにかかりきりになるだろう。
「人手が足りないところはオミが外注するから大丈夫」
きっぱりとハルは言う。
「仕事を抱えすぎない。手を離せるところは離す。任せられる人材を確保しておく。
このあたりはこれからヒロが身につけていかないといけない部分だな」
「抱えすぎているといざというときに動けない。
ヒロはなにか起こったときに動ける状態にしていてほしい。
調査は報告を確認するだけにしてなるべく他のモノに任せろ」
「いい機会だ。自分で判断して仕事を振り分けてみろ」
ハルはいつでもどこでもぼくを鍛える機会をくれる。
ありがたくて涙かでそうだよ!