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挿話 ヒロ 17 日曜日 1 竹さんのお守り

本編第ニ十八話の朝のお話です

 翌日。日曜日。


「おはようございます」と顔を出した竹さんは手になにか持っていた。

 昨日話していた四重付与されたお守りだとわかった。


 ……………なんでそんなにいっぱいあるのかな?

 まさかと思いながらも笑顔で固まる。


「トモさんのついでに、皆さんのお守りも作ってきました」


 やっぱり!!


「身につけていただけるとうれしいです」

 そう言ってはにかむ竹さん。

 

『そんな高価なもの、ポンポンひとにあげちゃダメ!』ってお説教しようと口を開いたけれど、遠慮がちに微笑む竹さんに『ぼくらを守りたい』という気持ちが見えて、怒ることができなかった。


 ハルに助けを求めたけど、ハルはハルでガックリうなだれている。

「まさか全員分作ってくるとは……」って頭を抱えた。


「霊的守護と物理守護、毒耐性と運気上昇を付与してある。

 大抵の災いから守ってくれるはずだ」

「―――!!」


 ……………それ、一体いくらの値段がつくの?

 え? それ、ぼくら持ってないといけないの?


「あの池、すごくいい霊力があふれてるから、いい霊玉ができました!

 あ。ちゃんと使った霊力分は回復かけときました!」


 ……あとで確認に行こう。

 間違いなく今までよりも高位の場所になってる気がする……。


 頭を抱えるハル、笑顔がひきつるぼくの様子に、保護者達もなにか察したらしい。

 でもさすがのアキさんはなんにも気付いていないフリで竹さんに抱きついた。


「ひゃ!」

「ありがとう竹ちゃん! 私達まで心配してくれたのね! うれしいわ!」


 抱きつかれ『いいこいいこ』と頭をなでられ、竹さんはアワアワしている。

 そんな竹さんをパッと離したアキさん。

「それで、どんなお守りなの?」


 その言葉にハッとして、竹さんは両手を開いた。

 安倍家でよく使う、紐付きの小袋がいくつもあった。


「これです」

「へー。この中に石を入れてるの?」

 のぞきこむ母さんに「はい」とうなずき、竹さんはお守り袋をテーブルに置いた。

 そのうちのひとつを手に取り、中の石を出して見せた。


 ビー玉サイズの、透明な石がそこにあった。


 パッと見、そんな高霊力は感じない。

 感じないところがその石がトンデモナイものだと示していた。


「きらきら!」

「きれい!」

 双子が飛びついた。


「ほしい!」「ちょーだい!」とかわいい手を伸ばすふたりに竹さんもニコニコしている。


「これはねぇ。あそぶものじゃなくて、サチちゃんとユキくんを守ってくれる石だよ。

 それでもいい? ずっと持っててくれる?」


 しゃがんで目線を合わせ話す竹さんに双子は顔を見合わせた。


「まもってくれるの?」

「うん」

「りんとれんとおなじ?」

「うん」


 双子専属護衛の霊狐とは違うでしょう竹さん!

 貴女のその石のほうがよっぽど効果あるでしょう!!


 ツッコむ前にハルに目をやると、目を手のひらでおおってうつむき動かなくなっていた。


「あそぶものじゃないけど、もらってくれる?」

 竹さんの問いかけに「うん!」といいお返事をする双子。かわいいなぁ。


「じゃあ」と袋をひとつ渡そうとした竹さんに「ちょっと待って」と声がかかった。

 アキさんだった。


 よかった。アキさん、止めてくれるんだ。

 そうだよね。そんな高価なもの、容易(たやす)く幼児に持たせちゃダメだよね。


 やれやれ。と肩の力をぬくぼくの前で、アキさんは「ダメよ竹ちゃん」と竹さんにこんこんと言い聞かせた。


「幼児に首から紐を下げさせちゃダメよ! どんな事故につながるかわからないわ!」


 そっち!?


 目をむくぼくとハルの前で、アキさんはさらに続ける。


「身につけさせるなら……そうねぇ。

 服に安全ピンでつける?」

「そうね。この袋じゃ簡単に口が開くから、いっそ縫い止めてバッジとかブローチみたいにして、毎朝着る服に止めるのでどう?」

「それがいいかも」

「夜はどうする? 寝相が悪いから、どこにつけても危なそうなんだけど」

「肩とかは?」

「横向きだと痛いわよ」

「そっか。なるほど。うーん…」

「あの。夜はおうちから出ないわけですから。

 枕元とかに置いておくだけでいいと思います」

「そお? じゃあそうしましょ。

 サチ。ユキ。かわいいブローチ作って、この石を中に入れるわね。

 どんなブローチがいい?」


 母さんとアキさんでさっさと話が決まってしまった。

 双子は「おはな!」「さかな!」「ならサチもさかな!」と好き勝手注文をつけている。

 それを見守る竹さんはニコニコとうれしそうだ。


「じゃあ、差し当たり、石をお渡ししていいですか?」

 許可を求められて母親達は「いいわよ」と勝手に許可を出してしまった。

 ぼくやハルが口を出す間もなかった。

 そもそも母親達が、というか母さんが一度『()』と言ったなら意見をひるがえすことがないことはぼくらは経験としてわかっていた。


 父親達は母親達の言いなりだ。

 母親達が『こう』と決めたなら反対なんかするはずがない。

 この母親達にかかっては主座様よりも優先されるのが我が家だ。

 その主座様は諦めたらしく、どこか遠い目をして傍観していた。


「じゃあ、ひとまず袋ごとお渡ししますね」

 そう言ってひとつを手にした竹さんは差し出されたサチの両手に「はい」と袋を置いた。


「たけちゃ、ありがとー」

 満面の笑顔できちんとお礼を言う良い子のサチににっこりと微笑み、竹さんは袋を握ったサチの手をその両手で包んだ。


「サチちゃんを守ってくれますように」


 ……………。

 今、なんかしたでしょ?


 え? 祈りを込めただけ?

 違うよね。なんかさらに守護の術かけたよね?


「あのひとは無意識にかけるんだ」

 ボソリとハルが教えてくれる。


「高霊力保持者だからか、優秀な術者だからか、『祈り』がそのまま『術』になる。

 ……あれでもうサチは大丈夫だ。心配ない。

 よかった。うん。よかったんだ」


 ……なんか自分に言い聞かせてない?

 それ、ホントに『大丈夫』って言うの?


 高霊力保持者であるサチもナニカを感じたらしい。

「あったかい」とほんわかしている。


「これ、サチのいし」

「そうよ。サチちゃんの石よ。サチちゃんのこと、守るからね」

「まもる」


 サチは頬を真っ赤に染めた。

 ぎゅうっと石を握り込み、胸に抱き寄せた。


「まもってくれる。だいじょうぶ」

「こわいのこない。だいじょうぶ」

「これがあったら、こわくない」


 目を閉じてじっとぎゅっと石を抱きしめていたサチだったけど、ゆっくりとまぶたをあけた。

 そして、心底安心したように、ほにゃっと笑った。


「たけちゃ、ありがとー」

「どういたしまして」


 ぎゅうっと竹さんに抱きつくサチを抱きしめて竹さんも笑う。

「ゆきも! つぎ、ゆき!」

 ユキに急かされて引っ張られ、竹さんはさらに笑った。


 ユキにも同じように石を渡し、同じように喜ばれた。

「わあい!」「わあい!」と双子はごきげんで飛び跳ねる。


「これでもうだいじょうぶ!」

「こわいのこない!」


 その言葉に、幼いながらもナニカを感じていたのだとわかった。

 だから初めての場所とかでパニックになったり霊力吹き出したりしてたのか。

 ウチと一乗寺の家周辺はハルが強い結界張ってるから大丈夫だったんだな。


 ぴょんぴょん跳ねるふたりをそのままに、竹さんは保護者達にも同じようにお守りを渡す。

 ハルもぼくももらった。

 なるほど。双子がテンション上がるのも納得。

 なんていうか、薄い結界をまとってるのがわかる。バリア展開してる感じ?

 これなら『大丈夫』って、なんとなく感じる。


 そんな双子をつかまえてハルがお説教をしていた。


「姫宮のお守りがあるからといって、決して油断するな。

 お守りはあくまでも『降りかかるモノから守る』モノだ。

 お前達が迂闊(うかつ)なことをしたり自ら危険に飛び込んだりすることに関しては、お守りでも守れないんだからな」

「ハル。言葉が難しすぎ」


 それでも良い子の我が家の双子はきちんとハルの忠告を受け止めた。

「わかった」

「ゆだんしない。きをつける」

「よし」



 再びはしゃいで飛び跳ねる双子を母親達がつかまえて席につかせる。

 よだれかけをつけられる間もテンション高く話し続けている。


「……あの子達があんなになるということは、このお守り、とんでもないモノか?」


 ボソリとたずねてくる父さんにオミさんが推定金額を教える。

 目をむいた父さんはハルに視線だけで『本当か?』と問いかける。

 黙ってうなずくハルにさらに目を丸くした父さんは、おそるおそるというように胸に下げたお守りに触れた。


「……それ、全部の値段?」

「一個の値段」


 さすがの父さんも震え上がる。

 わかる。わかるよ。そんなもの身につけてるるなんて、コワいよね。


「……それを、八個?」

「『トモに作る』と言っていただろう。九個だ」

「―――」


 そろりと竹さんに目を向ける父さん。

 そんな高額のお守りをポンと渡した非常識なひとは、同じく常識なしな守り役と共に双子の話をニコニコと聞いている。


「……そんだけ効き目があるってこと?」

「そうだ」

「……あの子、価値知ってるの?」

「……おそらく理解していない」


「教えろよ!」

「教えたさ!」


 小声で怒鳴る父さんに同じく小声で言い返すハル。二人共器用だね。


「いくら言い聞かせても信じないんだ!

 あのひとの自己評価の低さは半端じゃない。

 私が姫宮を贔屓して高評価をつけていると思い込んでる。

 お世辞で褒めていると信じ込んで聞かないんだ!」

「守り役はなにしてんだよ……」

「黒陽様の言葉は『身内の贔屓目』で過剰評価だと思っている」

「「「……………」」」


 絶句するぼくらに、ハルはため息をついた。


「他の姫や守り役によると、あの守り役、元の世界では世界トップレベルの実力者だったらしい。

 だから『できる』のレベルが『一般人とちがう』と言っていた」


「……つまり?」

「……『この程度のお守り』、あのふたりにとっては本当に『大したことのないもの』なんだろう……」


「……これを……『この程度』……」

 もう白目むきそうなんだけど。

 父さんも二の句がつげないらしい。

 げっそりと疲れ果てた顔をハルに向けていた。


「……差し当たり、このお守りの対価はどうしたらいいだろうねぇ……」


『霊力なし』でお守りのすごさは感じられないけれど、安倍家の財務管理をしていて価値のわかるオミさんがハルにつぶやきを落とす。


 問われたハルはしかめっ面をして両手を腰に当てたポーズでしばらく考えていた。


 母親達にうながされて席につく非常識なお人好しを見つめていたけれど、諦めたのか深い深いため息を落とした。


「……今回の調査料及び滞在費としよう。

 もし姫宮がまた我が家を出ていこうとしたら、このお守りを引き合いに出して『まだ対価が残っている』とでも言って縛りつけよう」


 それはとてもいい考えに思えた。

 そう言えばあのお人好しで生真面目な竹さんならばぼくらの事情を考慮して居残ってくれるに違いない。


 父親達とハルと四人で『じゃあそういうことで』とうなずきあった。

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