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挿話 ヒロ 13 土曜日 1 竹さんへの依頼

本編第十九話の朝のお話です

 翌日。土曜日。

 朝食を終えた竹さんにアキさんが話を持ちかけた。


「竹ちゃん。お願いがあるんだけど」

「はい。なんですか?」

「トモくんに、ケーキのお礼を持って行ってほしいの」


 そうしてドン! と紙袋を机の上に置く。


「竹ちゃんも黒陽様もアイテムボックス持ってるんでしょ?

 それに入れて、ちょっと持って行ってくれないかしら」


「そ「いいぞ」黒陽!」


『勝手に返事しないで!』とばかりに怒る竹さんに黒陽様はちょっと首をかしげた。


「別に構わんでしょう? トモの家には昨日行きましたから転移ですぐに行けます。

 この程度の荷物ならば無限収納も問題ありません。

 明子にはいつも世話になっていますから、このくらいの用事をするくらい大した手間ではないでしょう?」


 黒陽様の言葉に竹さんはグッと詰まったけれど「でも」と反論した。


「昨日『数日考えて』って言ったじゃない」

「それはそれ。これはこれでしょう」

「そんな。だって」

「霊玉の件とこの『お願い』はまた別件です。

 こちらは明子からの依頼です。

 見たところ、美味そうなおかずばかりです。

 持っていってやれば明子だけでなくトモも喜ぶでしょう」


 その言葉に竹さんは黙った。

 なにか葛藤しているようで、うつむいて動かなくなってしまった。

 そんな(あるじ)に黒陽様はひとつため息をつき、チラリとハルと顔を見合わせた。

 ハルはひとつうなずき、口を開いた。


「――それと、実は気になることがあります」

 ハルの固い声色に竹さんが顔を上げた。

 

「――実は昨夜、私とヒロでトモの家に行ったんです」

 ハルの言葉に竹さんは驚きながらもうなずいた。


「色々話をして、今日の予定を聞きました。

 今日はバイトをするそうです」


「なら」竹さんは『トモの家に行くわけにはいかない』と続けようとしたんだろう。

 それを制するようにハルが先に続けた。


「――『バーチャルキョート』に関するバイトだそうです」


 その言葉に、竹さんも口を閉じた。

 キッと、その目に力が宿った。


「『機材を乗せて自転車で走り回ってデータを集め、それを処理して会社に送るバイト』だとトモが話していました。

 どんな機材を使うのか、どんなデータを集めるのか、どんな処理をするのか。

 真近に見るチャンスです」


 竹さんは生真面目にうなずく。


「なにか『災禍(さいか)』が関わっている形跡があれば、姫宮と黒陽様ならばわかるのではないですか?」


 黒陽様と目を合わせた竹さんはハルに向け「わかると思います」と再びうなずいた。


「トモに本当の理由を言うわけにはいきません。まだ確証がありませんから。

 下手にトモに『「災禍(さいか)」が関わっているかも』などと言って『災禍(むこう)』に気付かれる可能性も無いとは言い切れません。

 トモは泳がせておいて、おふたりでこっそりと探ってきてはいただけませんか?」


 それでも竹さんはためらっていた。

 うつむいて、右を見て、左を見て、ぎゅっと目を閉じて固まってしまった。


 その様子にちょっと気になって、口を出した。


「竹さん、もしかしてトモのこと、苦手? もう会いたくない?」


 昨日のトモの様子を思い出す。

 デレデレと真っ赤になって「かわいい」「かわいい」しか言えなくなっていた。

 もしかして『好き好き光線』出しすぎてんじゃないかあいつ。

 ウザがられてるんじゃないか?


 パッと顔を上げた竹さんに「イヤならムリに行かなくていいよ」と言ったら、竹さんはあわてたようにブンブンと首を振った。


「イヤじゃないです! 苦手じゃないです!

 トモさんはすごく良い方だと思います!」


「ホント?」と聞くと生真面目にうなずいた。


「いつお会いしてもニコニコ穏やかにされてて。

 礼儀正しくて親切で、おやさしい方だと思います!」


「「「……………」」」


 ………なんかトモらしくないワードがいくつも聞こえた気がするけど………。

 とりあえず、嫌われてはいないみたいだ。よかったなトモ。


「じゃあ行ってくれる?」とアキさんに問われ、竹さんはアワアワとうろたえた。


「だって、ご迷惑になります」

「そんなことないよ。おかずもらったらトモも喜ぶよ。あいつ一人暮らしだから料理も自分でしてるし」


「そうなんですか!?」と驚く竹さん。

 トモが家事をするなんて考えてもいなかったらしい。

 そういうところが幼いというか、世間知らずなんだよなぁ。


「昨日『しばらく考える』って。なのにすぐ行くなんて」

「霊玉の話はしなければいいんじゃないの?」

「先触れもなしに」

「ぼくらも行くときに先触れなんかしないよ?」

「それは、ヒロさんはお友達だから」


 そこまで言って竹さんはハッと気がついた。


「晴明さんが行けばいいじゃないですか!

 晴明さんだって転移できるんだから!」


「僕はこれから菊様と打合せです」


 ハルの返答に竹さんは『そうだった!』と絶句した。


 今日はこれから京都の名家の集まりがある。

 そこで菊様と直接会って打合せをする。

 ハルの安倍家もぼくの目黒家も参加だから、保護者達もトモの家には行けない。

 ちなみに双子はすでに目黒の祖父母に預かってもらっている。


「私が行けるなら私が行くんだけど。

 そういうわけで、私もオミさんも行けないのよ。

 だから、ね! 竹ちゃん。お願い!」


「早く持って行って早く冷蔵庫に入れないと傷んでおいしくなくなっちゃうわ。

 せっかくアキが『ケーキのお礼に』って朝早くから作ったのに……」


 それまで黙っていた母さんまで『アキがかわいそう』という顔でつぶやく。


 その言葉に竹さんはグッと詰まった。

 上を見て、ぼくらを見て、保護者達を見た。


「竹さんでないと『災禍(さいか)』がからんでるかわからないんでしょ?

 今日行かないと、チャンスを逃すことになるよ?」


 ぼくの言葉に、竹さんは口を引き結んだ。

 チラリとアキさんに目をやって、泣きそうな顔でうつむいた。


 竹さんの責務のために。

災禍(さいか)』を探るために。

 そのために『わざわざ』アキさんが早起きして、『わざわざ』たくさんの料理を作ったと、気付いた。


 竹さんが気付いたことに気付いたアキさんが竹さんのそばに寄り添い、そっと肩を抱いた。


「ね? 竹ちゃん。お願い」


 あくまでも『アキさんのお願い』という形にしようとするアキさんに、竹さんは顔をゆがめた。

 うなずきそうになったけど、やっぱり固まってしまった。


 うつむいて、ポソリと言葉を落とした。


「………トモさんに、ご迷惑になります……」

「……巻き込みたく、ない、です……」


「「「……………」」」


 ……これって、どういう反応?

 無意識に『半身』を守ろうとしてる?

 単に『迷惑かけたくない』って遠慮してる?

 

 そういえばぼくらが竹さんに関わるのも最初は抵抗されたなぁ。

「巻き込めない」ってなるべく関わらないようにしてたし、ごはんも離れで食べてた。

 ごはん食べてないのがアキさんにバレてがっつり怒られてから一緒に食べるようになったけど。


 仕方ないひとだなぁ。

 そんな竹さんだから手助けしたくなるんだよなぁ。


 ハルがため息をついた。


「巻き込まないために黙って調査するんです」


 ハルの言葉に竹さんはのろりと顔を上げた。


「バイトすることでトモに『災禍(さいか)』との関わりができている可能性がないとは言えません。

 万が一関わりがあったとしたら、トモを守らないといけません。そうでしょう?」


 そこまで言われて、竹さんはようやく「……わかりました……」とうなずいた。



 頑固で。強情で。ひとの心配ばかりして。迷惑かけることをなによりいやがって。誰にもよりかからずにひとりでかんばろうとしてる。

 世間知らずでおっちょこちょいでうっかり者のくせに。


 このひと、大丈夫?


 接すれば接するほどぼくは竹さんのことが心配になって、ますます世話を焼いてあげたくなった。

 保護者達も同じ気持ちのようだ。

「どうにかトモとくっつけられないか」なんてハルの目をぬすんでコソコソ話をしていた。

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