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挿話 ヒロ 10 ひなさんの話

 その頃は日本中が浮き立っていた。

 土地がバカみたいな高値で売れた。

 その土地をまたバカみたいな高値で売った。

 景気は上向きに上がり続け、誰も彼もがはしゃいでいた。


 そんな中で横行していたのが、土地の買収。

 二束三文のような値段で、だまし討ちのように土地を奪う輩も多かった。


 篠原家もそんな被害にあったひとつだという。



 なんでひなさんがそんな話を知っているかというと、経理部の業務の延長だった。

 ひなさんの会社にもそんな有象無象が毎日のようにやってきては「土地をよこせ」「土地を買え」と言っていた。

 それに応対していたひなさんは、とにかく情報を集めた。


 ひなさんは精神系の能力者。相対する相手がどんな人間か、なんとなくわかるという。

 前世もそんな能力者だったひなさんは、会社を守るために新米ながらそんな相手の応対を一手に引き受けた。


『能力者だからわかる』なんて説明が通らないことはわかっていたから、怪しい人間が笑顔の裏でなにをしているのか調べた。


『こいつは怪しい』とわかるのはひなさんだけ。それも『能力者だから』なんて理屈の通らない理由しか示せない。

 だから他の社員には、やってくる人間すべて信用できる人物か警戒すべき人物かを調査するように指導した。


 さらに実際の被害例を調べた。

 どこでどんな買収が行われたか。

 どんな手段が取られたか。

 どんな手口を使って来るのか。


 会社を守るためにひなさんを先頭に情報を集め、調査し、会社全体で情報共有していたという。


 だからひなさん色んな会社の裏話知ってるんだね。



 そんな情報のなかに、篠原家の話もあった。

 それに経理部唯一の先輩が反応した。

「しのちゃんのお父さんの会社だ」と。


 先輩は動揺した。あわてて『しのちゃん』に連絡を取った。一部始終を聞いた。

 精神系の能力者であるひなさんには、先輩が話を抱えきれなくて苦しんでいるのがわかった。

 だから、話を聞いた。

 学生時代の話から結婚式の話、『しのちゃん』の旦那さんや子供の話まで、話したいだけ話させた。

 吐き出したいだけ吐き出させて、泣きたいだけ泣かせた。


 先輩のその痛みを、精神系の能力者のひなさんは自分のこととして受け止めた。

 そうして、転生しても覚えていた。




「篠原家はわりと広い土地を持っていました。

 運送業を営んでおられて、会社の土地も合わせると相当な広さでした」


 伏見の流通で栄えた家だったらしい。

 広い庭のある日本家屋に骨董品などの美術品もたくさん持っていたという。


「篠原家の当時の当主――叶多さんの祖父にあたる人物ですが、彼に友人が話を持ちかけたんです。

『保証人になってくれ』と」


「「「あー」」」


 よくある話すぎてうんざりした声が出たぼくらだったけど、竹さんはキョトンとしていた。

 そんな竹さんにひなさんが説明する。


「保証人になったら、その人がお金がはらえなくなったり逃げたりしたら、代わりに借金を払わないといけないんです」


「――つまり……」

「まあ、()められたらしいです」


 青くなる竹さんに、ひなさんはひとつため息を吐いた。


「篠原家の土地を狙った悪いやつが、篠原さんの友達を探してギャンブル漬けにして借金まみれにして。

『お金が払えないなら篠原さんに保証人になってもらえ』って命令したらしいです」


「そんな――!」


 純真な竹さんは口を覆った。

 ひなさんはそんな竹さんにバツが悪そうだったけど、話を続けた。


「篠原さんもがんばったらしいです。

 美術品売ったり、会社の仕事増やしたり。

 でも結局どうにもならなくて、最後には自宅と会社、全部奪われた」


 ぼくらは『まあよくある話だよね』と聞いていたけれど、生真面目な竹さんにはショックな話だったらしい。

 黒陽様が横で心配そうにしている。


「悪いときには悪いことが重なるもので。

 ずっと一緒にがんばってきた奥様もムリがたたったのか亡くなった。

 篠原さんのご当主は失意のうちに亡くなったらしいです」


「――それは……」

 なんと言えばいいのかわからないぼくらに、ひなさんはさらに話を続けた。


「確かどうにもならなくなる寸前に子供さん家族を絶縁したと聞きました。

 子供さん達を守ろうとしたんでしょうね」


「だから調べても出てこなかったのか」

 オミさんがボソリとつぶやいた。


 そういえば戸籍とか色々探ったけど母方の祖父母の情報が見つからないと以前報告してた。

 もしかしたら子供さん達を守るために、自分達との繋がりをたどれないようにそのご当主が痕跡を消したのかもしれない。


「それで、その『しのちゃん』さん家族はどうなったの?」

 母さんの質問にひなさんは「確か…」と考えて、答えた。


「借金は追いかけてこなかったはず。私もそこまでしか知らないです」


「――『しのちゃん』さんの旦那さんの名前はわかる?」

 父さんの質問に「わかります」というひなさん。


「保志 悠馬(ゆうま)さんです」

「よく覚えてるね!?」


 オミさんのツッコミにひなさんが笑う。


「某有名漫画の主人公みたいな名前だったから」

「なるほど」


「その息子さんも『いい名前だなぁ』と思って、名前覚えてたんです。

『星に願いをたくさん叶えてもらう』みたいでしょう?」


「確かに。いい名前だね」


 それから名前の話に話題がうつり、篠原家に関する話はそれで終わった。




 ひなさんと竹さんが離れに移動したあと、父さんが真剣な顔でパソコンをいじった。

 どこからどう引っ張ってきたのか、篠原運輸の破産手続きに関する書類がプリントアウトされた。

 そこから社長の名前を調べた父さんはさらにパソコンをいじった。


「当たりだ」


 なんで画面に戸籍謄本が出てるのかな? ハッキングしたの?

 ぼくのツッコミが言葉になる前に父さんが画面を指さした。


 篠原さん夫妻の子供の欄。

 二重線で消された名前のひとつが、デジタルプラネットの社長の母親の名前だった。



「この住所、デジタルプラネットの住所と同じだ」


「――つまり……」

「『奪い返した』ということだろうな」


 アキさんのちいさな声に答える父さん。


「――そのあたりが『鍵』になりそうだな……」

 ハルもつぶやき、顎に手をかけて考えていた。


 顔を上げたハルは保護者達に指示を出した。


「その篠原家の買収にまつわる情報が欲しい。

 祖父母と両親の交友関係も。

 どうにかなるか?」


「――とりあえず、登記から調べてみるよ」

「その頃のことなら覚えてる人がまだいるかも。

 ちょっと当たってみるわ」

「オレも聞いてみる」

「私も」


 口々に請け負ってくれる保護者に、ハルはひとつうなずいた。


「菊様にも報告しておく。

 ここから『視える』ものもあるだろう」


 


 それから様々な人が様々に動いた。

 社長の両親や祖父母の親戚や友人知人を探し、元従業員を探し、社長の過去について少しずつ判明していった。


『バーチャルキョート』の調査も引き続き行われた。

 リカさんに加えお兄さんの彰良(あきら)くんも協力してくれて、バーチャルキョートの中であったクエストなどについても判明していった。


 やはりいくつものクエストが現実世界に起こった事件と連動していた。

『バーチャルキョート』が何らかの関係があることはわかったけど、それがなにを示しているのかはわからないままだった。




 そうしているうちに春休みが終わり、新年度になった。


 竹さんの京都の結界の調査も一段落した。


「やっぱり『南』の『(かなめ)』が問題ですね」


 朱雀様にも会ったという竹様によると、休眠から起きてもらうにはかなりの霊力がいるという。


 その言葉に、ふと思いついた。

「ぼくらの霊玉を使えないかな」

 そうして、朱雀様に霊力を渡す方法を検討していった。




 高校二年生になって最初の月曜日。

 学校から帰ってハルと離れに行くと、竹さんと黒陽様だけでなく白露様と緋炎様もおられた。

 北の『(かなめ)』へのご挨拶は無事済んだと報告される。

 当代も先代も快く了承してくださったと。よかったね。


「トモに会ったわよ」

 白露様の言葉に「へえ」と思わず声が出た。

 先代玄武様のおられる船岡山で会ったという。

 なんでトモがあんなところにいたんだろ?


「結界に入ってこられたから、びっくりしました」

「あいつ『境界無効』の能力者なんですよ」


 そう教えると「白露から聞きました」と微笑む竹さん。


「あの方も霊玉守護者(たまもり)さんなんですよね?」

「そうそう。ぼくらの仲間ですよ」


 ニコニコした様子から好印象だったらしい。


「トモはすごく優秀なんですよ。勉強もできるし、パソコンにもすごく詳しいんです。

 それに、ぼくレベルには強い」

「へええ!」


 ぼくの話を楽しそうに聞いてくれる竹さんにトモについて話を聞かせた。


 ハルと守り役達がなにかコソコソしていたけれど、そのときは気にならなかった。

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