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挿話 ヒロ 8 検討会

 リカちゃん母娘を見送って、リビングのソファでみんなでお茶にした。

 テーブルの真ん中には京都市の地図。

 ハルは黒陽様を肩に乗せ、先ほどリカちゃんが教えてくれた場所をひとつひとつ指し示した。


「ここは『(かなめ)』の地」

「ここには公表されていないが特別な剣が封じられている」

「ここは二年前に妖魔が出現した場所」


 リカちゃんの教えてくれた場所は、どれもが何らかの場所だった。

 リカちゃんの持っていたアイテムも、一般人には知られていないモノがあったという。


 竹様は固い顔でぎゅっと口を引き結んでいる。

 黒陽様も厳しいまなざしだ。


「――『災禍(さいか)』が知っていて宿主に教えたのか。

 有名な土地だからたまたま取り入れたのか……」

 ぶつぶつ言うハルに、同じく地図を見ていた母さんがつぶやいた。


「さっき『妖魔が出た』って言ったのってさ」

「うん?」

「その『災禍(さいか)』が呼び寄せたってことはないの?」


 その言葉に、ハルと竹様は目を大きく見開いて固まった。

「――『呼び寄せた』――?」

 竹様のつぶやきに「うん」と母さんがうなずく。


「『バーチャルキョート』とリアルが同じになるようにしたってことは、ない?」


「「「―――!」」」

 絶句したハルと竹様。黒陽様も息を飲んで固まっている。


「同じ……同じ……」どこかを見つめたまま竹様は口元に手をあててぶつぶつ考えに沈んでいった。

 そんな竹様のつぶやきにオミさんがポンと手を打った。


「そっか。それだ」

 のろりと竹様がオミさんに目を向ける。

 ぼくらも注目する中、オミさんがケロリと発言した。


「まだなっちゃんが小学生のときにさ。ハル、言ってたろ?

『異界』を作ってそこでなっちゃんにごはん食べさせてるって」


「ああ。それが?」

 今何の関係があるのかと言いたげな視線をもろともせずオミさんは続ける。


「この『バーチャルキョート』って、何かに似てるなあってずっと引っかかってたんだけど、それだよ」


 ジロリと視線で『どれだ?』と問いかけるハル。


「ハルの言ってた『異界』に似てるんだ」

 意味がわからなったらしいハルにオミさんがさらに言う。


「ハル、言ってたろ?

『空間をコピーしてもうひとつ別の空間を作るのが異界だ』って。

 この『バーチャルキョート』も、これだけ現実世界に似ている違う世界という意味では『異界』と言えなくもないんじゃないかな」


 オミさんの言葉に、ハルも、竹様も、黒陽様も固まった。


 そうだ。ぼくも思った。

『もうひとつの世界』だって。


『もうひとつの世界』。

 ぼくら能力者はそんな存在を知っている。

 異世界。異界。

 そう呼ばれる世界があると、知っている。


 やがて竹様がなにかぶつぶつ言いだした。

「……『異界』と現実世界……同じ……?

 連係? 影響を与え合う? そんなこと……」

 

 ハルも腕を組んで難しい顔で考え込んでいる。

 黒陽様も厳しい顔つきだ。

 ぼくらには何がなんたかわからない。

 ただ不安な気持ちで三人を見守ることしかできない。



「ハル。竹ちゃん。

 何を考えているのか、口に出してみて」


 母さんの言葉に二人がのろりと顔を上げる。


「自分達では思いつかないことに私達が気付くかもしれない」


 母さんの言葉に保護者達が力強くうなずく。

 そうだ。

 専門外だからこそ気付くこともある。

 今だって、もしかしたら母さんとオミさんの言葉が何かのヒントになったのかもしれない。


 ハルもそう感じたのだろう。

「……まだ憶測の域も出ない、荒唐無稽な話だが」なんて言う。

「それでいいわよ」と母さんもさらりと微笑む。


 母さんの微笑みに励まされるように、ハルがひとつひとつ確認するように言葉を落とす。


「『異界』を作るのは割と簡単なんだ。要は結界術の応用だから。

 霊力量があって、術の構成を理解すれば、誰でもできる」


 うん。と竹様も黒陽様もうなずく。

 その『霊力量があって術の構成を理解する』人間がどれくらい希少かは置いといて。

 三年前のナツでもできたのだから、まあ、そうなのだろう。ぼくはできないけど。


「僕の知っている『異界』の使い方としては、文字どおり『自分だけの世界』を作って、外界――俗世といったほうがいいか? 俗世から離れて暮らす、というものだ。

 龍宮城や桃仙郷などがそれだな」


 実例を出されることで保護者達の理解が深まったようだ。


「神域も『異界』だな」

「そうですね」


 同じ世界にある、この俗世とは違う次元にある神様の領域も『異界』カウントでいいらしい。


「デジタル空間という概念はこれまでなかったものだから、これも『異界』とカウントしていいのかがわからない。

 ただ、概念としては当てはまる部分もある。

『俗世から切り離された空間』

『決まった出入口からしか出入りできない』

『術者の好きに構築できる世界』」


「なるほど」と保護者達が納得する。

 顎に手を当てて何かを考えていた父さんが竹様に顔を向けた。


「竹ちゃんのいた世界にはデジタル環境のようなものはあったのか?」


「ありませんでした」

「『滅びた世界』にも?」

「はい」


「うーん」と腕を組んでうなる父さん。

「もしかしたらその『災禍(さいか)』の経験した歴史のなかにそういう方法があったのかと思ったんだけど」


 その言葉にハルがハッとした。


「――そうだ」

「ん?」


「そうだ。聞いたことがある。昔。

災禍(さいか)』は『これまでも多くの「世界」を渡り歩いてきた』と。

 あの言い方だと、きっと、姫宮達の『高間原(たかまがはら)』の前にも、いくつもの「世界」を経験している」


「その中に機械文明やデジタル環境に特化した世界があった可能性はあるな」


 うなずく父さんの意見にハルも真剣な顔でうなずく。


「何故晴明(おまえ)がそんな情報を知っている? どこから聞いた?」

 胡散臭そうな黒陽様にハルはぺろりと「冥府の役人から聞きました」と答える。

「お前……」黒陽様は頭を抱えてしまった。


「――『高間原(たかまがはら)』の前――」

 竹様がちいさくつぶやいた。

 握った両手が震えていた。


「――じゃあ、あの伝説は――」

「伝説?」


 聞きとがめた母さんの声に説明を求められていると思ったのか、竹様は生真面目に話しだした。


「私達の住んでいた『高間原(たかまがはら)』の(おこ)りに関する伝説です」


 昔、そこは鬱蒼と茂る森だった。

 生き物は魔物におびえながら生きていた。

 そんな中、ヒトの一族が天に祈りを捧げた。

「どうぞ魔物に対抗できる手段をお与えください」

 その祈りに応えるように、天から黄金に光り輝く丸い石が降りてきた。

 石を手にしたヒトの一族は、知識を得た。

 霊力を使った様々な術を用いて、浄化と結界を施した。

 やがて、森の中に魔物の侵入してこない『狭間(はざま)の地』が(ひら)けた。

 そこは『狭間原(はざまがはら)』と呼ばれるようになり、人が集まりさらに広がり『高間原(たかまがはら)』と呼ばれた。



「『祈りにこたえて』『天から降りてきた光り輝く石』

 もしかして、それが『災禍(さいか)』だったんじゃあ……」


「違う『世界』から渡ってきたのかもしれませんね」


 話を聞いたハルもうなずいている。


「だとしたら、この『バーチャルキョート』を使って何かをたくらんでいても、私達にはわかりません。

 なにか、とんでもない術式が展開されていたとしても、私達にはわからない……」


 うつむきつぶやく竹様は顔色が悪い。

 何かを考えていた黒陽様もボソリとつぶやいた。


「『災禍(さいか)』の使う術は、私達の使う術とは系統が違うようなのだ」


 どういうことかと視線でたずねるぼくらに黒陽様が説明する。


「『呪い』を刻まれたときもそうだった。

 どれだけ抵抗を試みても、反呪や防御の防具を身に着けていても、関係なく刻まれた」


 思い当たることがあったのだろう。

 竹様もハッと顔を上げ、うなずいた。


「我らに伝えられたもの以外の術があるとしたら、当然か」

 自嘲するように吐き捨てる黒陽様。


災禍(さいか)』がいくつもの『世界』を渡り歩いてきていること、その中にデジタル特化した『世界』があったこと、その可能性が現実味を帯びてきた。


「その竹ちゃん達の知らない技術を用いて『バーチャルキョート』の中で、もしくは『バーチャルキョート』を使って、何かを企んでいる可能性はあるな……」


 父さんのつぶやきにハルも黒陽様もうなずく。


 むーん。と何かを考えていたオミさんが挙手して発言を求めた。

 ハルが視線で許可を出す。


「たとえばさ」

「うん?」


「複数の技術? を組み合わせたりもできそうだよね」


 その意見に全員が絶句した。

 キョトンとしてわかっていない様子の竹様にオミさんがさらに説明する。


「『いくつもの世界』の知識があるなら『ここのこれとこっちのこれを組み合わせて新技術を開発』とか、できそうじゃない?」


 その説明に竹様がみるみる青くなった。


「……ますますお手上げだな……」

 黒陽様も頭を抱えてしまった。


「――社長本人を探るほうが早いか――」

 ボソリとハルがつぶやいた。

 その言葉に全員がハルに注目したのを感じたのか、ぐっと顔を上げて膝の上でゆるく指を組んだ。


「『なにをしようとしているのか』がわからない以上、『なにを最終目標としているのか』を探ったほうが早いかもしれない。

 そのために、社長の過去、経歴、人間関係を調べて『最終目標』の予測を立て、さらに『災禍(さいか)』との関わりを調べる。

 その上で『クロ』となったら、社長の周辺に人をやって『災禍(さいか)』を特定しよう」


「いやこれもう『クロ』じゃないのか?」


 父さんのツッコミはぼくも同意見だ。

 でもハルはゆるりと首を横に振った。


「油断はならない。

『クロ』と思わせておいて実は別に宿主がいた、なんてパターン、今までに何度もあった」


 うんうんと黒陽様と竹様がうなずく。


「織田信長が怪しいと探っていたが、実は宿主は豊臣秀吉だった、とかな」


「うわあ」とうんざりした声が出た。

 そんなぼくらに黒陽様も竹様も乾いた笑いを浮かべていた。


「ともかく、今の話は全て菊様に報告したほうがいいな」


 黒陽様の意見に「そうですね」とハルが同意する。


「僕から報告しときます」「頼む」

 短く打ち合わせをして、ハルは父さんに顔を向けた。


「タカ。安倍家主座として正式に依頼する。

 デジタルプラネットの社長の情報を探ってくれ。

 過去、経歴、交友関係、可能な限りの情報が欲しい」

「りょーかい」

「ちー、スマン。しばらくタカを借りる」

「いいわよ」


「オミ。特別任務だ。

 デジタルプラネットの社長を探れ」

「承知致しました」

「アキとちーも、何か情報がないか、気にかけておいてくれ」

「オッケー」「まかせておいて」


「姫宮と黒陽様は菊様の指示に従ってください」


 うなずく竹様が心底感心したというように「ホゥ」と息を吐いた。


「晴明さんのご家族はすごいですね」


 その言葉にハルはニヤリと笑った。


「頼りになる保護者達でしょう?」

 自慢げなハルに、保護者達が大喜びした。

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