挿話 ヒロ 6 『災禍』の話
かなり長いですが切るところがなかったのでこのままいきます。
お付き合いよろしくおねがいします。
「……『災禍』を見つけることができたら、『災禍』を滅することができたら、竹ちゃんの責務は終わるんでしょ?」
母さんの指摘に「まあ、理論上は」と答えるハル。
「そしたら、その『半身』と『しあわせ』になれるわよね?」
『「そうだ」と言って欲しい』そんな目を向ける母さんにハルは「うーん」とうなった。
「それがそう簡単なことじゃないんだよ」
顔をしかめる母さんとアキさんに、父さんとオミさんも渋い顔だ。
そんな大人達にハルはへの字口のまま言った。
「そもそも『災禍』が見つからない」
「ああ」と、あきらめたような納得したような声をあげる大人達に言い聞かせるようにハルは口を開いた。
「『災禍』を見つける方法は二つ」
ピッとまず指を一本立てる。
「その存在を目の前で焼きつけられた姫と守り役が気配を探る」
『災禍』は姿が一定でないという。
だから外見を頼りに式神で探すということはできない。
実際会ったことがあるのは四人の姫達とその守り役達だけ。
その彼女達が気配を探るのが一番確実な方法だという。
だが、それは、砂浜の中から一粒の石を探すような途方も無いことだ。
それでも姫達は探している。
あてもなく。
「もうひとつ」
ハルはピッと二本目の指を立てた。
「急成長している人物、あるいは、いままでにない『革新的』な考えなり手法を取り入れている人物を探る」
『災禍』も姫と同じく五千年は存在している。
その間に得た知識はその時代には存在しない考え方や手法もある。
『「願い』を叶えるモノ』であるからか、そんな『革新的』な方法を『宿主』に教えているらしい。
先程挙げられた歴史上の偉人達の業績を思い出す。
なるほど、確かに彼らが最初に考えついたといわれる法律や手法が色々とあった。
「ちょっと前までなら『天下に近い人物』というのもあったが、今のこの世の中では当てはまらないだろうなぁ」
どういうことかとたずねると、
「『天下をとりたい』という『願い』が多かったから。
その『願い』に『災禍』が応じて『天下に近い人物』となることがあった」
と説明してくれる。
「『災禍』という存在が『願い』をかなえるモノだから。
その『願い』がなにかがわからない以上、相手を絞れない」
なるほど。これにもうなずく。
『願い』を叶える存在だから、その『願い』をたどって『宿主』と『災禍』本体を見つけることができたということらしい。
ハルは腕を組んでため息をついた。
「昔は簡単だったんだよ。
『天下をとりたい』『えらくなりたい』『金持ちになりたい』
そんなのが『強い』『願い』だったから。
今はそういうのはあまりないだろう?」
「いやいや、今でもそんな願いを持つ人物は山といるよ」
オミさんはそうツッコんだけど、ハルはゆるく首を振った。
「昔ほどの苛烈さはないよ」
「そうかな?」
「現代はいい意味で満たされてるから」
誰でも『願い』は抱く。
だが『災禍』が反応するほどの強い『願い』となると、そうはいないとハルは言う。
「それに『天下』の意味合いが昔と現代では違うだろう?」
昔は『天下をとる』と言えば『政治の実権を握る』という意味合いだった。
だが価値観が多様化している現代において『天下をとる』というのはイコール政権掌握ではない。
『政界、財界を牛耳る』だったり『なにかの大会で優勝する』だったり『その世界の第一人者になる』だったりする。
「幅が広すぎて見当もつかない」
「それであの依頼か」
父さんのつぶやきにハルがうなずく。
ぼくが三歳のとき、菊様に『先見』をしてもらった。
その対価としてハルが受けた依頼。
『急成長している企業のリストアップ』
『革新的な取り組みをしている企業のリストアップ』
あの日、菊様は言った。
「『災禍』が動いている気配がある」
あのときは意味がわからなかった。
でも、今日説明されて理解した。
菊様は、この京都のどこかに『災禍』の『宿主』がいると判じている。
今現在、その『宿主』の『願い』を叶えるために動いていると判断している。
あの日依頼を受けてから、ハルは誓約どおり安倍家の全てのチカラをもって様々な家や企業を調べてきた。
普段は直接安倍家と関わりのない父さんやオミさんも使った。母さん達も使った。
そして大人達は定期的にハルに『これは』と思う家や企業を報告してきた。
「そういう意味があるとは思わなかった」
父さんのボヤキに「すまんな」とハルがあっさりと謝る。
「てっきり新しい株でも買うのかと思ってた」
「『ヒロ絡み』とは言っていただろう?」
「だから、ヒロがたとえば高額医療が必要になりそうとかで、まとまった金を用意するためかと思ったの」
「すまん」
ハルもあの頃はぼくを救うために必死で忙しかったから詳しい説明を省いたらしい。
「それに、あの頃のお前達に『ヒロの件とは別口なんだが』と言ったら、『ヒロを視てもらった対価』とはいえ、こんな長期にわたる依頼を受けなかっただろう?」
その意見には父さんもしぶしぶ「……まあな」と納得した。
父さんは腕を組み、ボスリとソファの背もたれに身体を預けた。
そのまま天井に顔を向け、目を閉じた。
集中してなにかを考えている。
みんなその父さんのクセを知っているから、黙って見守った。
しばらく無言で口を引き結んでいた父さんは、やがて目を開けた。
そしてムクリと身体を起こし、まっすぐにハルを見つめた。
「革新的な手腕で急成長した会社がある」
「どこだ」
ハルの声色が変わった。
ピリ、と張り詰める空気をもろともせず、父さんは膝の上で両手を組んで前傾姿勢でハルに告げた。
「伏見区のデジタルプラネット」
「なんの会社だ?」
「簡単に言えばゲーム会社」
「ゲーム会社?」
首をひねるハルに父さんが説明する。
「聞いたことないか?『バーチャルキョート』」
ぼくもその名前だけは聞いたことがある。
最初は三十年くらい前のパソコンゲーム。
京都を舞台にしたロールプレイングゲーム。
現実世界に近い舞台で『オニ』を倒すゲームだったと聞いている。
現在までに何度もアップデートやアップグレードを繰り返し、今ではスマホやタブレットでもプレイできる。
特筆すべきはその仮想空間。
『ここまでこだわるか!?』というくらいこだわりにこだわって、現実世界の京都の街並みと比べても遜色ないものになっている。
それがたとえば清水周辺とか四条周辺とか決まったエリアだけならまだ『スタッフがんばったね』で済むかもしれない。
が、この『バーチャルキョート』は、それこそ住宅街の路地一本一本まで細かく、リアルに作り込んでいる。
しかも建物の中にも入れる。
「本当の京都の街並みを歩いているようだ」と、ゲーマーでない人までもがこの『バーチャルキョート』に訪れる。
十五年ほど前からそこに目をつけた複数の企業と契約し、実際の店舗と全く同じ空間をこの『バーチャルキョート』という仮想空間に作り、実際に買い物ができるようにした。
観光協会や観光施設と提携し、実際に観光している気分を味わえたりお土産を買えるようにした。
各種行事もこだわって再現し、三大祭の当日には『バーチャルキョート』でも行列が行われる。
まさに『仮想京都』。
『仮想空間』なんて狭い範囲ではない。
『仮想世界』の、もうひとつの京都。
ユーザーはアバターを使ってキョートの街を歩く。写真を撮る。季節を楽しむ。
店に入って商品を選ぶ。買い物をする。
時折発生するイベントやミッションに参加する。
友達を作る。友達と話す。友達と遊ぶ。
数年前からはこのバーチャル空間にオフィスを構え、この中で仕事もできるようになったとか。
最近では『バーチャルキョートの中ででできないことはない』と言われるくらい、ありとあらゆることができるようになった。
ぼくらはゲームはしない。
そんなぼくらでも『バーチャルキョート』という名前を知っているくらい、有名なゲームだ。
ていうか、あれ『ゲーム』って言っていいのかな? もう『もうひとつの世界』でいいんじゃないかな?
テレビでもよく特集されている。
現実世界の行事を紹介したあと、「『バーチャルキョート』でも同じ行事が行われました」みたいに紹介されたり。
「こちらの商品は『バーチャルキョート』でも購入できます」みたいな宣伝を見たり。
だからぼくらでも名前や、どんなものかはなんとなく知っている。
ハルもわかったのだろう。「ああ」ちいさく声をあげた。
「確か最初は社長ひとりだったんだ。
三十年ちょっと前、まだ高校生だった社長がひとりで開発したゲームを販売した。
これがジワリジワリと広まって、次第に世間に広く知られるようになった。
毎年新作をリリースして、会社を立ち上げて、人を増やしていくにつれてあの正気を疑うようなリアルな街並みを創っていった」
父さんの説明にみんながうなずく。
さらに父さんが続ける。
「『バーチャルキョート』が評判を呼ぶのにあわせるように、世間にデジタル環境が広がっていった。
三十年ちょっと前、パソコンは一部の金持ちか物好きしか持っていないものだった。
それが仕事で使うようになり、仕事の必需品になり、家庭に一台あるようになった。
ネット環境の整備も進み、重たいデータも使えるようになった。
そうして携帯電話が登場し、スマホやタブレットが現れた。
デジタル環境がバージョンアップするのにあわせて『バーチャルキョート』もどんどん進化していった。
何百万というアバターを受け入れ、官公庁や企業と提携し、今ではこの京都の経済に大きく影響を与える存在になっている」
確かに、ゲームをしないぼくでも知っているくらいだ。
官公庁が取り入れたっていうニュースも見たことがある。
高校生ひとりが作ったゲームがたった三十年で一都市の経済に影響を与える。
それって、すごくない?
驚くぼくにうなずきを返し、父さんはハルに向けて説明を続けた。
「それを支えるシステム構築が、あの時代にはありえないような革新的なものだったんだ。
『なんでこんなこと考えつくんだ』って誰もが感心した。
オレもシステムに携わる人間として噂を聞いてすぐにのぞいてみたけど、まあ、目ン玉落っこちるかと思ったよ」
「そんなにすごいの」
オミさんもみんなもびっくりしている。
父さんはシステムエンジニアの世界ではそこそこ有名だとトモが言っていた。
その父さんがそこまで言うなんて。
「すごいなんてもんじゃない。『常軌を逸している』レベルだ。
そんな奇想天外なシステムを、恐ろしく短時間で書き上げている。
『あの社長いつ寝てるんだろう』って、みんな言ってたよ」
父さんの説明を、ハルは険しい顔で聞いていた。
「……条件は一致する」
ボソリとつぶやき、顎に手を当てる。
考えを整理するように言葉を落とす。
「三十年で一介の高校生が京都の経済に影響を与える存在になった。
たまたま環境が整っていったから広まった」
「たまたま」「たまたま」ぶつぶつとつぶやき、ハルは腕を組んだ。
「――見方によっては、都合が良すぎると言える」
さっきのハルの言葉が浮かんだ。
『災禍』というモノ。
『強い望みを持つモノの強い願いを叶えるために、偶然を重ね合わせて運命と結果を引き寄せる』モノ。
この急速なデジタル環境の広がりも『災禍』が関与しているというの?
そんな。まさか。
信じられなくて、理解できなくて何も言えないぼくらに、ハルはひとつため息を落とした。
「そもそも『災禍』を相手にするのは『ご都合主義』を相手にするようなものなんだ」
そして苦々しいというのを隠しもしない顔で吐き出した。
「宿主にとっては『こうしたい』と願ったとおりのことが転がり込んでくる。
だがそれにまきこまれたほうはたまったもんじゃない」
意味がわからないぼくらに「たとえば」とハルが続ける。
「『あいつ邪魔だなー。死んでくれないかなー』と宿主が強くねがったら、そいつは不慮の事故で死ぬ」
「「「―――は?」」」
「『こいつの会社さえなければ自分がもっと上にいけるのに』と宿主が強く願ったら、その会社は不幸が続いて潰れる」
「「「―――」」」
そんなこと、あるの?
ていうか、そんなこと、できるの?
ぼくのその思いをハルは察してくれたようで、皮肉げに口の端を上げた。
「信じられないだろ?」
「――うん」
「でも実際そんなことばかりなんだ」
「四百年前の『禍』の封印が解けたのも、多分『災禍』が関わっている」と言うハルに「まさか」と声が漏れる。
「あの頃秀吉は将軍職やら公家の名家の戸籍やらを欲しがっていたから。
京都の街が死の街になって、それを秀吉が解決したとなれば、望み通りなんでも手に入れることができた」
「――そのために、たくさんの人を死なせたっていうの――」
震える母さんに「いや」とハルは首を振る。
「言っただろう?『願ったとおりのことが転がり込んでくる』と。
おそらく秀吉はただ願っただけだ。
『将軍の職が欲しい』『公家の名家の戸籍が欲しい』と。
その『願い』のために『災禍』が秀吉にとって『都合がいい』状況をつくった。
それが『禍』の封印を解き、京都を死の街にすることだったんだろう」
ハルの説明に開いた口がふさがらない。
そして、説明されれば納得しかない。
それ、どうなの?
秀吉の『願い』のためにたくさんの人が死んだの?
ハルの言う通りだ。まきこまれたほうはたまったもんじゃない。
ハルは目を閉じて軽く首を振った。話しながら思い出してうんざりしたみたいだ。
「そんな『ご都合主義』を相手にしているとな。
『なんでこんなときに!』みたいなことばかりなんだ。
『あと一歩で「災禍」を特定できる』というときに『禍』の封印が解けたりな」
「あー」としか言えない。
それ、どう対処すればいの? とんでもなくない?
「だから基本は宿主に気付かれないうちに『災禍』を滅するまたは封じなければならない」
どういうことかと視線で話の先をうながす。
「これまでも姫達が近寄ったことに気付かれて、宿主や『災禍』に妨害されることが何度もあった」
そうして何度も何度も戦い、何度も何度も成功や失敗を繰り返した結果、姫達はひとつの結論を出した。
「宿主さえ気づかなかったら、『災禍』だけが気付いたのならば、身の危険を感じた『災禍』が逃げる。
結果宿主の『願い』は途中で破棄された形になって、宿主だけが滅びるだけで済む」
『災禍』を滅することも封じることもできなくても、とりあえず『世界の崩壊』だけは食い止められるとハルが話を締めくくる。
つまり?
宿主を特定して『災禍』を見つけ出して、その宿主が気付かないうちに『災禍』を滅するか封じるかしないといけないってこと?
『宿主に気付かれたらアウト』ってこと?
「難易度上がってない?」
「だから言ったろう。大変だと」
ハルは組んでいた腕を解き、ふうと息を吐いた。
「でもまあ、京都に住んでいるまたは本拠地がある人物に限ればいいとは思うから、それだけでも絞られる」
京都を囲う結界は、南が弱くなったとはいえ、封印されチカラが制限された状態の『災禍』ならば外に出さない程度には効果があるとハルが言う。
だから『急成長している人物あるいはいままでにない「革新的」な考えなり手法を取り入れている人物』のなかでも、京都在住もしくは京都出身者、京都に本拠地がある人物に絞って調査していると言う。
その人物の経歴、業績、目指す目標。
これまでにも何人もがリストアップされてきた。
その都度菊様に報告を上げているらしい。
「デジタルプラネットは候補に挙がってなかったの?」
「確か挙がってなかった。
『ゲーム会社』ということで見落とされていたのかもな」
「情報系はこの数十年でどこも業績が一気に上がったからねえ」
世の中の変化に合わせて、新しい仕事が生まれた。
生まれたばかりの仕事だからどこも急成長するしどこも革新的だ。
そんな中で『ゲーム』というジャンルは『強い願い』の手段とは思われなかったようだ。
うん。ぼくが調査員だったとしても挙げないかも。
だって、ゲームでどうやって『天下を取る』の? ゲームで果たせる『強い願い』って何?
「そのデジタルプラネットだけどな」
みんなの視線が自分に向いたのを待って、父さんが話を続ける。
「覚えてるか?
封じられていた『禍』の封印が解けた原因」
「公園の古くなった遊具を新しいものに取り替える工事をしてて、ショベルカーが封印石を割ったんだよね」
ぼくの言葉にうなずく父さん。
「その公園の遊具の新調に関して、裏がないか、あの時調べただろ?」
父さんは華道家の母さんを支えるために会社を設立し、母さんのサポートしている。
でも昔は、ホワイトハッカーとして活動していたらしい。
その実力を買われて、ぼくの余命宣告のあと安倍家の改革に乗り出したハルに安倍家のデジタル導入の責任者に任命された。
部署が軌道に乗ったところで父さんは手を引いたけれど、今でもなにか重大事態や緊急事態が起こったらデジタル担当として駆り出される。
『禍』の封印が解けたときも、父さんは裏がないか調査するためにデジタル部門に駆り出され調査にあたっていた。
「遊具新調の提案者のひとりに、デジタルプラネットの社長が入っている」
「「「―――!!」」」
―――それって、まさか、そんな。
「――偶然――?」
絞り出すような母さんの言葉に、誰も何も答えられない。
ちらりとハルを見ると、ハルはキツイ顔で歯を食いしばっていた。
その表情に、察した。
ハルは確信した。
思わずぼくもゴクリをつばを飲み込んだ。
「――どうすれば違和感なくその社長に会えると思う?」
問われた父さんがまた腕を組んでしばらく目を閉じた。
「――すぐには会えない」
目を開けた父さんの言葉にハルがうなずきを返す。
『すぐには会えない』つまり『時間がかかるが会える』ということ。
そのための策を父さんが持っているということ。
「『バーチャルキョート』に『ウチの会社も参加したい』と申し出てみる」
うなずくハルに父さんが説明を続ける。
「ウチはオンラインでも商品を取り扱っているから。その窓口のひとつになってもらえないか交渉する。
余所の会社でもそういう動きは多いから、違和感なく受け入れられると思う」
「最初は営業担当者との交渉になると思う。でも、正式契約するときに『社長と直接顔を合わせて契約したい』って言ったら、多分受けてもらえると思う」
「なるほど」
「なんならそのときにオレが元SEってことも話して。
『システムに興味があるから見せてもらえないか』って感じで本社に行かせてもらってシステム見せてもらえるかも。交渉次第だけど」
「ふむ」
「SEが足りないようなら、トモを入り込ませられるかもしれない」
「トモを?」
思ってもみなかった意見に、思わず声が出た。
「トモがなんとかできるのか?」
「多分ね。アイツ優秀だから。
ちょっと説明は必要だろうけど、トモならすぐに理解して即戦力になれるだろう」
トモをバイトとして会社の内部に入れ、間近で社長を見張らせてはどうかと父さんが提案する。
「――ふむ」
ハルは顎に手を当て「悪くない」とつぶやいた。
「その会社の社長が『クロ』だとなったら、そうしよう。
まずはその社長の調査。
タカ。さっきの案で進めてくれ」
「りょーかい。いい? ちーちゃん」
父さんたちの会社の社長は母さんだからか、母さんに確認を取る父さん。
当然のように母さんは賛成した。
「その会社の人間に会うときに、できれば姫宮を同席させてくれ。
宿主の身近な人間にも『災禍』の気配がうっすらついていることがある。
姫宮ならばそれがわかる。
もちろん当の社長に会うときは必ず同席させてくれ」
「わかった」
全く手掛かりもなかった話に、ちいさなちいさな光が見えた。
そのことになんだかほっとして、グッと闘志を抱いた。
「トモに話はしておくか?」
父さんの質問にハルは少し考え「まだいいだろう」と結論づけた。
「まずはその会社の社長が『クロ』かどうか判じたい。
トモにはそれからでいいだろう」
「りょーかい」
「ただ、担当者に『こういう男がいる』という話は匂わせておいてくれ。
どこでどう話がつながるかわからないからな」
「そうだな」
話がひと段落したところでオミさんが挙手した。
「その『バーチャルキョート』、僕達もやってみたほうがいい?」
確かにそうかも。
会社や社長本人を探るのとはちがうかもしれないけれど、どこにどんな情報が落ちているかわからない。
どんなものか経験しておくのはいいことのように思えた。
「オレとちーちゃんはやったほうがいいだろうな。
『話題を聞いてやってみて、ウチの会社も参加したいと思った』って話がもっていきやすい」
「――ふむ」
考えるハルの様子に、オミさんがさらに言う。
「リカさんが詳しいんじゃないかな?」
「リカが?」
リカさんはハルの婚約者。
なんでもこれまでの九回の人生すべて奥さんになっている人。
本人に前世の記憶はないけれど、ハルのことを『神』って言って崇め敬っている。
「ほら。お見合いの日に連絡先交換したときに。
『バーチャルキョートのIDありますか?』って聞いてきたでしょ」
「そういえば」
ハルも思い出したらしい。
少し考えて、結論を出した。
「近々リカに来てもらおう。
それで『バーチャルキョート』について講習会を開いてもらう。
オミもアキも参加してくれ」
「かしこまりました」
ぼくは聞かれるまでもなく参加が決定しているらしい。
そうして解決にむけた道筋が見えた気がしたところでお開きになった。