【番外編9】西村秀智と『静原の呪い』32
「ところで、私からも確認です」
一段落したところでサルーファスが話を変えた。
「レーイダーン島―――リディ様が跳ばされ、皆様がご降臨なさった島ですね―――こちらに魔王と邪神がいた、それをヒデサト様が滅した、というのは?」
「言ってなかったっけ?」
「初耳ですね」
イイ笑顔の腹心三人。これはヤバいやつ。
改めてこちらも説明。『跳ばされた』ときには島はどこもかしこも瘴気だらけだったこと。使うたびにいちいち浄化かけるのが面倒だったから領域完全浄化をかけながら島を浄化していったこと。島の奥の院にいた魔王を名乗る低級妖魔のこと。百五十年前にリディが輿入れ予定だった国から流刑にされた元王族が、うらみつらみを吐き出し自らの生命を『贄』として魔王と成ったこと。そいつのせいで島の神は穢され邪神に堕ちたこと。さすがの俺も神レベルの浄化はできなくて滅したこと。魂送りして『場』の浄化をしたけれど不安定で、リディと伊佐治が毎朝祈りを捧げていたこと。それで『あらたな神』ことレイが生まれたこと。
そしたら腹心達から驚く話が飛び出した。
今から百五十年前。「どこかの神が邪神に堕ちた」こと、「魔王が誕生した」ことが、神々から当時の大法王に教えられた。
当時の大法王も今代の大法王と同じく『神の声』が『聴こえる』人間だった。だからこそ大法王たりえたと。
魔王が生まれると瘴気が活性化する。それはつまり全世界の生態バランスが崩れることにつながる。管理できている『瘴気だまり』が管理できなくなり、増えた魔物が人間を襲う。人類の危機だ。
「魔王を探し出し討伐せねば」当時の大法王はすぐさま命令を出した。各地の教会に。行政担当者に。各種ギルドに。冒険者たちに。
「魔王誕生」の情報は当時の大法王によりトリアンム教全体に知らされていた。西大陸にももちろん知らせは届けられた。西大陸全体に通達が届いているかは確認できていないが、少なくとも東大陸では広く知られた話。
様々な人間が手を尽くして魔王を探した。「現在の魔王は生まれたばかり」「まだ弱い」「弱いうちに討伐せねば」
どのくらい猶予があるのかわからない。わからないからこそ一刻も早く魔王をみつける必要がある。トリアンム教は全力で魔王発見に取り組んだ。結果、西大陸の戦乱で衰退していたのが力を取り戻していった。魔王捜索の調査中、西大陸のあちこちの国でかつての『聖地』へ罪人を送っていると判明。「そのせいで魔王が生まれたのでは」となり、各国へ「強い遺憾の意」を示した。それで流刑として罪人を『聖地』に送ることはなくなった。
当然『聖地』にも調査員は派遣された。当時はまだ『聖地』への転移陣が使えた。もちろん俺達の島にも調査は入った。が、肝心の魔王が弱すぎて見つけられなかったらしい。邪神も、朽ちる寸前だったところに人間を魔王として生まれ変わらせたことで弱々になっていて「邪神だ」と気付かれなかったと。まあな。百五十年経ってアレなら、当時どんだけ弱かったんだって話だよな。
とにかく「弱いうちにやっつけよう」と探していたけれど、弱すぎて見つけられなかった。そうして百五十年経った現在でも魔王捜索は続いている。
「『百五十年前に啓示のあった魔王は消滅した』ということでよろしいでしょうか」
腹心が確認してきた。が。
「どうだろうな?」つい首をひねった俺に大法皇も腹心達も首をひねる。
「そんな神から啓示されたにしては弱っちかったぞ?」
「そうなんですか?」
「な?」同行し共に戦った定兼に同意を求めれば「確かに大したことなかったな」と笑う。
「一撃で消滅したもんな」
「ぎゃあぎゃあ煩いだけだったよな」
「確かにあいつは『自分は魔王だ』とかわめいてたけど」腕を組み浮かんだ考えを口にする。
「俺が討伐したヤツが勝手に『魔王』を名乗ってただけってことはないか?」
「もしくは『啓示とは別の魔王』とか」
俺の仮定に全員が「確かに」とうなる。
「その『百五十年前に言われた魔王』がホントにウチの島にいたやつなのか、どうにか確認できたらいいけどな」
つぶやけばレイが「そうだよー」と元気よく答えた。
「あいつがむかしのだいほーおーにおしらせしたまおーだよー」
「あいつわるいやつー」
「れいのまえのかみさまけがしたー」
「やっつけてくれてありがとー」
「レイが言うなら間違いないか」
一応は神であるレイの言葉なら信用に足るだろう。大法王も同意見。
そうして全員一致で『魔王討伐の完了』を確認した。
「ヒデサト様」
大法王が膝をつき両手を胸の前で交差させ、俺に頭を下げる。その後ろでは腹心三人がおなじようにしていた。
「邪神へと堕ちた神をお救いくださり、ありがとうございます」
「魔王を討伐くださり、ありがとうございます」
「トリアンム教大法王として、最大限の感謝を捧げます」
「よしてよ」苦笑で答える。
「たまたまだよ」「俺達が暮らすのに邪魔だから滅しただけ」
ということで、百五十年前から続いていた『魔王捜索』及び『魔王討伐』の命令は取り下げられることとなった。「魔王の討伐が確認された」との通達とともに。
そして邪神も討伐されたこと、魔王と邪神のいた場所は浄化済であること、『あらたな神』が顕現されその地を治めることも同時に発表されることになった。
◇ ◇ ◇
レイが顕現し、大法王のところで話し合いが行われた結果。伊佐治とリディが『結婚を前提にお付き合い』をすることとなった。
研究室で伊佐治とリディが結婚を前提にお付き合いを始めたことを伝えたら、どちらでも驚かれ祝福された。
「おめでとう!」
「ようやくか!」
どうもふたりが互いに想い合っているのは、大法皇と側近達だけでなく、誰から見てもバレバレだったらしい。そうと知らなかったのは本人達だけだったと。
そうと知らされたリディは真っ赤な顔を両手で隠して動かなくなってしまった。伊佐治は「まいったなあ」と言うだけでいつもどおり。が、元退魔師の俺は見逃さなかった。伊佐治の耳が赤くなっているのを。
『付き合いはじめ』とあってイチャイチャするかと警戒していたが、伊佐治は分別のある大人でリディは元王女。なので表面上はこれまでと変わらない距離感と雰囲気で過ごしている。部屋もこれまでどおり別のまま。ふたりともレイとトモを同じようにかわいがってくれ、俺もマコも構ってくれる。
ふたりの関係は変わっても、俺達はこれまでと変わらず過ごしていた。
◇ ◇ ◇
日々を過ごすうちに、伊佐治の雰囲気が変わっていった。
やわらかくなった。穏やかになった。今までも大きくどっしりと頼もしい男だったが、それに加え深みが備わった。
「子供達のことが聞けたからかな」
一緒に『落ちた』子供達のことがずっと気にかかっていたらしい。そんなことこれまで全然気付かなかった。
六十年ずっと気になっていたことがひょんなことから判明した。最悪の事態でなかったことがわかり「なんかミョーに安心しちまった」と笑う。「『肩の荷が降りた』ってのをを実感してるよ」と。
「それに」
「リディが俺を『ひとりの人間』として扱ってくれるんだ」
「ヒデを育てていたときとは違う場所を、リディが埋めていってくれてる感じがする」
そう話す伊佐治は穏やかに笑っていて、なんだか無性にさみしくなった。
言葉にできない物さびしさや心細さを伊佐治はすぐに気付いてくれる。黙ったままの俺にちょっと笑い、でっかい手で頭をわしわしと撫でてくれる。
「なんて表情してんだよ」「いいオッサンがよぅ」
そして「仕方ねぇなあ」と笑う伊佐治。
「しっかりしろよ」「おまえもう嫁さんと子供がいるんだぞ」「しゃんとしろ」
檄を飛ばし、俺の背中をバシンと叩く。
「痛ぇよ」文句を言えば「ガハハ」と笑う。
いつもそうだ。弱気になっても不安になっても伊佐治がこうして吹き飛ばしてくれる。俺にとって伊佐治は絶対的な味方。伊佐治がいてくれるからこそ好き勝手に振る舞える。
『リディやレイに取られるんじゃないか』『もう構ってもらえないんじゃないか』ココロのどこかにあったそんな不安さえも伊佐治は笑って吹き飛ばしてくれる。
『俺もうオッサンなのになあ』と思わないでもない。伊佐治に甘えきっている自覚もある。けれどやっぱり伊佐治を頼りにしてしまう。
他の連中もそれは同じらしい。「リディといなよ」「イチャイチャすれば」と言いながらもなんだかんだと伊佐治に頼っている。
けれど、そんな俺達をリディは許してくれている。
「皆様は『家族』なのですから」「私のほうがあとから加わったのですから」「当然かと」
「それに、イサジさんも皆様に頼りにされてうれしそうです」
そう笑うリディも雰囲気が変わってきた。
これまでも穏やかで上品だったが、今はそれに加え安定感を感じる。どっしりとした大木のような、伊佐治のような頼りがいがある。
『レイの母親になった』という自覚かもしれない。伊佐治に受け入れられた自信かもしれない。なんにしてもリディはさらに『いい女』になった。
◇ ◇ ◇
そんなリディを『聖女』と呼ぶヤツが増えてきた。
中央教会ではこれまで俺達のことを『御遣い様の再来』と知られていた。お披露目があったわけでも特別な説明があったわけでもないが、俺達と接することのあるヤツらから噂が広がっていた。
これまでも一般神官からはえらく神聖視されていた。が、レイが顕現したこと、魔王討伐の話が公表されたことでより神聖視されるようになった。
特にリディと伊佐治は『神のご両親』として崇め奉られるようになってきた。おまけに『聖地再興プロジェクト』が始まりリディアンム商会が設立された。どちらもが軌道に乗り一般市民にまで広く知られると、その中心人物とされるリディは「自分達の生活を豊かにした人物」「教会に莫大の富をもたらした人物」などと認識され、「聖女様」と呼ばれるようになった。
当のリディは「すべてヒデサト様達の功績なのに」「とんでもないです」と慌てふためいている。が、腹黒サルーファスの暗躍によりリディの名声はどんどんと上がっている。
マコ主導の「リディを陥れた王子と侍女にザマアする計画」は、サルーファスという有能な参謀を得て着実に進められている。「リディ聖女化計画」もマコとサルーファスの企み。
「あんな素晴らしい聖女様に危害を加えるなんて、キャルスィアームの王子は非道い」「聖女様の素晴らしさを見抜けなかったキャルスィアームの王子は無能」そんな話をじわりじわりと広げると。
「聖女様が輿入れしていたらキャルスィアームはもっと豊かになったに違いないのに」「聖女様の恩恵がもらえたかもしれないのに」なんて話も広めると。
遅効性の毒のような、真綿で首を絞めるような計画を楽しそうにするマコとサルーファス。楽しそうでなによりだ。
マコは俺達と出逢うまで『大切な人間』がいなかった。自分自身ですら大切でなかったマコが、俺達と出逢い変わっていき自信をつけた。俺達のことを『大切な家族』として大切にしてくれている。
だからだろう。俺達を蔑ろにするものは「絶対に許さない」と敵意剥き出しになり攻撃的になる。今回のリディの件でそれが明らかになった。
「ありとあらゆる手を使って、王子様と侍女さんを苦しめる」そう決意を固めていた。
そうは言っても所詮マコの考える『ありとあらゆる手』なので、俺からみたら子猫が爪を立てている程度のもの。元退魔師でもっと凄惨な現場を見聞きしてきた俺には、もっと悲惨な方法も残虐な方法も思いつく。
だから「こんなボクは嫌い?」と聞かれても「かわいいもんだ」と返した。
「腹黒なマコも魅力的だ」「じゃんじゃんやっちまいな」そう後押ししたら「ヒデさん大好き!」とマコからの好感度がまた上がった。
そうして嬉々として悪だくみをするマコとサルーファス。一応俺に許可を取りに来てくれるので全体像は把握している。それを俺がウチの連中に報告している。なので知らないのはリディとレイだけ。
リディを主人公にした伊佐治との恋愛小説は大ヒット。売れに売れ、舞台化もした。小説でも舞台でも王子と侍女は悪役。最後はふたりが落ちぶれ後悔する。このラストも俺からみたら「ぬるいなあ」と思う。が、マコが満足しているので良しとした。
ちなみにこの小説、リディは「自分を参考にしただけの完全な創作物」として純粋に楽しんでいる。まあかなり脚色されてるからな。
伊佐治は「美化しすぎ」と頭を抱えていた。リディから『軍神イザーディアス』の逸話を聞かされ「どいつもこいつも」とさらに頭を抱えた。
噂も小説もリディアンム商会も、今はまだ東大陸にしか広まっていない。サルーファスがリディアンム商会の参加者の中で貿易に強い商会に商品販売を任せていて、数社が西大陸に向けてのルートを持っている。その商会が西大陸に商品とともにいろんな話を広めてくれている。らしい。とはいえ現段階ではまだ成果報告はない。早く西大陸にも広めたいな!
◇ ◇ ◇
百五十年前から語られていた魔王と邪神が「討伐された」こと、そこに『あらたな神』が顕現されたことが発表されると、トリアンム教徒だけでなく東大陸中がお祭り騒ぎになった。それだけ『魔王がこの世界のどこかにいる』という状況は人々の心に影を落としていたのだろう。
「魔王を討伐した勇者は誰だ」「勇者に会いたい」との声が上がったらしい。
「会見を開きますか?」「それともお披露目やパレードでもしますか?」サルーファスが聞いてきた。「やだよそんなの」「めんどくせえ」そう返せば「でしょうね」と苦笑していた。
「『新たな御遣い様』の話は広まりつつあります」「『御遣い様』が魔王を討伐してくださったと発表するのはよろしいですか」
「俺達が表にでないならいいよ」
サルーファスならうまいことやるだろうと丸投げしておいた。結果、トリアンム教の力が増したらしい。お布施やら寄進やらガッポガッポらしく、大法王の側近達がホクホクしていた。
「これを資金にして『聖地再興』に取り組みたいと思います」
記録を基に『聖地』への転移を試みたが、どこも転移できなかった。つまりそれは『聖地』の転移陣が使えなくなっているということ。俺達の島のもののように経年劣化でダメになったんだろう。
リディが転移させられた転移陣が生きていたのは「運が良かったのでしょう」と研究者達が言う。それ『運が良い』って言うか? 転移陣が死んでたらそもそも転移しなかったんじゃないか?
そうツッコんだら「確かに」と苦笑していた。
「ですがそのおかげで皆様が『こちら』に来てくださったのですから」「皆様が来てくださったからこそ魔王を討伐していただけたのですから」「やはり『運が良かった』のです」
そう言われたらそうかもしれない。なによりリディが「イサジさんに出逢わせていただけた」「レイにも逢わせていただけた」「とってもしあわせです」と喜んでいる。ならまあいいかと話を終えた。
とにかく、『聖地』の転移陣が使えなくなっているということは、『聖地』に行こうと思ったら、かつての神職(実質修験者)のように過酷な道を切り開いていかねばならないということ。
現在の神職にそんなファイトも技術も基礎体力もない。なので、冒険者に依頼をするしかない。受注した冒険者に簡易転移陣の設置方法を指導し、設置してもらう。そのための資金が今回の騒ぎで用意できたらしい。よかったな。
『聖地』に行って調査するだけでは当然終わらない。そこを『聖地』として再興するためには神殿を建て直したり管理人の居住エリアを作ったりしないといけない。そのための資金は「また考えます」「ひとまずは転移陣を設置して、調査員を派遣しないと」そうサルーファスがまとめた。
それから少しして。
『御遣い様』の文書翻訳から話が広がり、様々な料理や道具が開発されることになった。
『リディアンム商会』が設立した。
その莫大な儲けを『聖地再興プロジェクト』に充てることになり、サルーファスだけでなく大法王も側近達も喜んでいた。
「レイ様の神殿を一番に修復しましょう!」
『聖地再興プロジェクト』第一弾としてウチの島が選ばれ、神職と調査員と職人が集団で島に来た。大法王と腹心達までも。まあ俺の転移陣で簡単に行き来できるから当然か。
最初は港町の教会を経由して中央教会に行っていたが、毎日となると面倒で直通の転移陣を作った。ポーランにギャンギャン言われたが大法皇が許可してくれたので問題ないだろう。
島にやって来た連中はそれぞれに調査に当たった。
元あった転移陣の残骸に絶句し、麓の神殿の崩壊具合に絶句し、奥の院のボロさに絶句した。
「これはイチから建て直したほうが早いかも」と言っていた。ただ、麓の神殿のステンドグラスは「なにかの陣になっていた可能性がある」とかで、奥の院も麓の教会も「調査研究が必要」となった。
神職と調査員と職人が仕事をする拠点として簡単な小屋を作った。もちろん風呂トイレ完備。それにも絶句していた連中だったが、俺達が暮らしている家を見てまた絶句した。中に入ってさらに絶句し、井戸や水道やトイレや風呂の説明にまた絶句していた。
「あんたは馬鹿か!」「こんなもの簡単に見せるなあああ!」「どうなってんだこの浄化装置。なんでこんなに浄化できるんだ」「こんな仕組みが……」「トイレが清潔すぎるんだが!?」「重要機密だらけじゃないかこの馬鹿!」
口々に「馬鹿」「馬鹿」責められる。なんで俺怒られてんだ?
「さすがはヒデサト様です!」「素晴らしい!」サルーファスだけが褒めてくれた。が、なんだろうな。瞳がカネになってる幻覚がみえるよ。
「さあ! リディアンム商会の腕の見せ所ですよ!」「担当者を連れて来ましょうね!」「忙しくなりますよ~!」ホクホク顔のサルーファスを、大法王も腹心達も「元気でいいねえ」「頼もしいねえ」と微笑ましく見守っている。サルーファスの好きにさせとけばいいかと放置することにした。
◇ ◇ ◇
『こちら』にも年末新年の恒例行事があった。日本で言う大晦日は家族で静かに過ごし、去りゆく年に感謝を捧げる。年が明けたら近くの教会に詣で、一年の無事を祈願し祝福をもらう。
中央教会もご多分に漏れず年末年始と大忙しだった。「邪魔になっちゃ悪いから俺達は島で大人しくしてるよ」と言ったのに、大法皇と側近達に丸め込まれてレイが新年の祝福をすることになった。
リディがレイを抱き伊佐治と三人で登壇。大法皇の挨拶のあと、リディが新年の定番曲だという祝福の歌を歌った。
さすが元王族。これだけの観衆にさらされても平気な顔で見事な歌を披露するとは。そして伊佐治もさすが元将軍。堂々としたもんだ。
レイはふたりに囲まれてニコニコしていた。最後にキラキラした魔力を振り撒き尊敬を集めていた。
ちなみに三人共に中央教会プロデュースのおそろい衣装を着ている。正直リディも伊佐治も立派すぎて他人みたい。が、三人が表に立ってくれたので俺達は裏で隠れていられた。
「せっかく新年だから」マコの提案で、菓子を振る舞うことになった。リディアンム商会から俺達にも配当金が入っている。辞退したのにサルーファスが押し付けてきた。それを使って「たくさんのひとに還元したい」とマコが提案した。
なにがいいか検討し、最終的に飴になった。暁月と久十郎により砂糖の生産量が上がっていた。飴の製造ラインもいくつかの工程で機械化を導入。これまでよりもより安価で製造できるようになった。
味も効能も多彩になった。包装も機械化し個装できるようになった。
冬で乾燥していることもあり風邪予防にもなると期待して、振る舞い菓子は飴に決定となった。「昔と異なり飴が安価になった」という宣伝にもなるだろう、と。
「神社や寺の『おさがり』ならお干菓子じゃないのか?」
ウチの寺は母が茶道家なこともありしょっちゅうお干菓子が『おさがり』に用いられた。『御遣い様』こと新井太助もお干菓子を恋しがっていたわけだし、砂糖の生産量が増えたならお干菓子にすればいいじゃないか。
そう提案したが「まだ和三盆糖ができていない」と久十郎に却下された。
「そこまでこだわらなくても」「和三盆じゃなくて落雁でもいいじゃないか」「それこそ『なんちゃって落雁』だって、この『世界』の人間にはわかりゃしないだろ」
そう言ったら怒られた。ガチ怒りの久十郎に延々と説教され落雁と和三盆の違いを説明され和三盆糖について語られて干菓子について延々聞かされた。
「いつかは落雁も和三盆も再現する」「が、今からでは時間的に間に合わない」
ということで飴になった。久しぶりに酷い目に遭った。久十郎に料理関連で余計なこと言っちゃいけないの、すっかり忘れてた。
「普通に手に入る飴じゃ特別感がない」こだわり派の久十郎と暁月が検討し、トリアンム教のシンボルである五弁の花を象ったベッコウ飴と金太郎飴が出来上がった。金太郎飴用のローラーの素材探しが大変だったが職人達はもっと大変だったらしい。が、妥協を許さない久十郎と暁月のせい……否、おかげ、で。飴製造技術は飛躍的に上昇。「新たな商品ができた!」とサルーファスと商会関係者が喜んでいた。
中央教会は東大陸各地の教会と転移陣でつながっている。事前にそれぞれの教会に届け、新年の参拝に来たひとに配ってもらった。「『御遣い様』のお慈悲」とか言われたらしい。
俺達の『世界』では正月は三が日だが、この『世界』でのいわゆる正月期間は五日間。五弁の花にちなんでいるとか。
一日未明、日付が変わってすぐから配布開始。受け取った参拝客はその美しさに感動し、口にしてまた感動した。食べた人間からは「ご利益がありそう」「元気になる気がする」と喜びの声があがった。「お土産にしたい」「食べずに飾っておきたい」と、何度も参拝するつわものもいたらしい。
噂が噂を呼び、『新年限定の振る舞い菓子』欲しさに東大陸中の教会へ参拝客が詰めかけた。らしい。各地の教会にはお賽銭も祈りも捧げられ、教会も祀られている神様も喜んだ。遊びに来られた神々からも「よくやった」と褒められた。この振る舞い飴は来年以降も継続することが決定。サルーファスに丸投げし、リディアンム商会の儲けから資金を出すよう手はずを整えてもらった。




