【番外編9】西村秀智と『静原の呪い』20
青黒蛇の集落から帰還して、なんだかんだと忙しくなった。
暁月の呼びかけにより『より暮らし良い生活のために』と講習会をすることが決定した。暁月、久十郎、麻比古が中心となり講習内容を検討。テキストも作った。そのテキスト作りにマコともども協力させられた。
「論文書きなれてるだろ」と参戦させられたわけだが、俺よりもマコのほうが文章力があることが判明。「ヒデさん攻略のために色々がんばったからね」と自慢げに明かされた。どれだけ俺のためにがんばってきたのかわかり、愛おしさに殺されそうになった。
それぞれの村だけでなく、知り合い、母と交流のある者、道具屋から紹介された者と、次々と参加希望者が増えた。らしい。
そうして始まった講習会。それぞれの村を持ち回りで回ったり、ウチの裏山で開催したり、とにかくほぼ毎日なにかしらの講義が行われていた。
諏訪の連中や麻比古のところのちびどもが『人化の術』で人間形態になっては「にんげんにみえる!?」と見せにくる。ちょいちょい失敗があるのはご愛敬。母があちこちから子供用の服や小物のおさがりをもらい受け、着せては持ち帰らせていた。
◇ ◇ ◇
そんな忙しい日々の中、俺達の結婚式の準備も佳境を迎えていた。
昨年マコと入籍したときすでに、三月の最終週に俺とマコの結婚式をすることが決まっていた。
場所は寺。式を執り行うのは義弟の洋一。親父は母とともに参列者として参加するから必然そうなった。
仏前式は基本親族だけで行う。らしい。マコは身寄りがないから後見人のマット家族を誘った。で、あとはウチの両親でいいと俺は思っていたのに、あれよあれよと話が広がり、参加人数も増えていった。
アメリカにいる間に式についてはある程度話がついていた。らしい。
俺は知らない。全部母が決めてきた。
「こうするからね!」と言われ「はいはい」と答える。他になにができると。
あの母に逆らえるわけがない。文句言ったとて正面から論破されて終わり。幼い頃から染みついてるので最初から反論などしない。
母は母で俺になにを言っても無駄だと思っている。母によると俺は「一般常識がない」「研究に頭の容量全部持って行かれてる」人間らしい。否定はできない。が、それでここまで問題なく生きてこれたんだから別にいいだろうに。
ともかく、そんな俺に結婚式のあれこれの手配など「できるわけがない」と母は理解している。さすが母親。なので母が先頭切ってあれこれの手配をした。
結果、マット家族だけでなく、研究所からもマコの大学からも参加することになった。
ちょうど大学が春の休暇期間にあたるのも関係したのか「日本旅行だ!」とノリノリで参加を希望したらしい。研究所の所長。物理学研究室をまとめている部長。他の物理学系の研究室の人間。ウチの研究室の数名。マット研の数名。アンナをはじめとした事務員達。マコのゼミの担当教師。同じゼミだった数名。
全員でないのは研究所を完全に留守にできないから。なので、所長が来るから副所長は留守番。ふたりの間で壮絶なジャンケン合戦があったと聞いた。他の部署もそれぞれに話し合いだったりジャンケンだったりで参加者が決まったらしい。
というのも「マット家族の交通費は全額俺が持つ」と最初に決めていたら「他の参加者の方の交通費もヒデさん持ちで」と母が勝手に決めたから。「無料で日本に行ける!」とあって希望者が殺到したらしい。
勝手に決めんなよ! 総額いくらかかるんだよ!?
「いいじゃない」「おかねあるんでしょ?」
久十郎と暁月により毎年会計報告がなされていたらしい。初耳なんだが?
「渡米したときから洋一に『やれ』と言われ、続けていた」
俺の生活力と金銭感覚の無さを心配したデキる義弟の仕業だった。そしてデキる義弟のアドバイスに従い、久十郎と暁月により着実に貯蓄がされていた。
これまでにいくつも特許を取り褒賞ももらっていて、それなりに貯蓄はあると思っていた。が、今回改めて全財産を明示させられ、目を剥いた。
なんだこれ。なんでこんなに金あるんだ。
「金利のいいときにちょうど褒賞をもらったからな」「ほぼ全額貯蓄にまわしたおかげで、利子だけでかなりの額になった」
「ヒデったら『受賞パーティーなんて必要ない』って一度も開いてないでしょ」「普通はなにか受賞するごとに披露パーティーするのよ」「パーティー開いて、引き出物渡して、参加しなかったひとにも配って、てするのよ」「そういうの一切してこなかったから、そのぶんお金が貯まったってわけ」
「つまりは不義理のおかねです」バッサリと母が言う。
「だからこそ、ここで恩返しをしておくべきです」
母があちこちに顔を出し「これまでの不義理の埋め合わせになれば」と「交通費こちら持ち」を提案したと。参加しない研究所の人間には別途お土産と引き出物を渡すと。本来受賞パーティーに呼ぶべきだったひとにも同様にすると。
そんなのいくらかかるんだよ。
母達により試算がなされていた。相変わらず手回しがいい。正論でぶん殴ってきやがる。くそう。
そうして母の提案を「はいはい」と承認し、支払いにサインをした。仕事のできるアンナが飛行機から宿泊先その他全部手配して請求書をまわしてきやがった。ウチで三泊、足を延ばして東京で一泊。楽しそうだなくそう。
東京での宿泊代は各自持ち。それでも京都の宿泊代と食事代、そしてなにより交通費が無料とあって希望者が殺到。所長が「ヒデと関わりのあるもののみ」と制限をかけ、さらに研究室ごとに人数制限をかけ、ようやく参加者が決まったらしい。
ウチの研究所は世界的に見てもそれなりの頭脳集団で、そのために所属する研究者も職員も常に誘拐などの危険がある。街自体大学や研究所が多いこともあり、街ぐるみで防犯対策が行なわれている。おかげで街にいる限りは普通に暮らせる。
そんな研究所の人間がかなりの数街から出るわけで、当然危険性が議論に出た。結果、警備会社に旅行期間中の護衛を依頼。その依頼料とそいつらの交通費その他も俺持ちになった。
恐ろしい金額の支払いに、さすがの俺もサインをする手が震えた。
「日本にいたときの貯金もあるから大丈夫」「こういうときにパーッと使いなさい」
特級退魔師としてこき使われていたことがこんな形で役に立つとは。人生何が起こるかわからない。
「これだけ金があるなら研究にまわせたのに」ぼやいたら「そういうと思ったから黙っていた」とバッサリ返された。
デキる義弟は俺がやりそうなことをしっかりと看越し、ウチの連中の教育までしっかりとやっていた。デキる後継者が欲しかったのは間違いないしおかげで俺は留学できて研究三昧の暮らしができたのだから文句言える立場じゃないとはわかっているが、それでも文句言いたくなる。ここまでの優秀さは求めてなかった。金があったらあの機材も買えたしあの実験もできたのに。
「いいからおかね出しなさい」
母にケツを叩かれ、しぶしぶサインをした。
とにかくある程度まで決めて支払いも済ませて帰国した。無事トモの出産を終え、マコの無事が確認され年が明けてから本格的に準備に動きだした。
といっても俺がしたのは衣装合わせだけ。他は両親と義弟夫婦が手配していた。時々マコと話をしていたのは知っているが内容までは気にしていなかったから知らない。式の流れは覚えさせられた。
トモのことはどうするのかと思ったら「トモくんも出席させますよ」と返ってきた。
「当然でしょう」「トモくんのお披露目も兼ねるわよ」
マットはじめ関係者にどう説明すればいいのかと詰め寄れば「もうまこちゃん経由で説明は終わっている」とのこと。いつの間に。
「ちょうど昨日電話で説明したから」「今日あたりマットくんから連絡があるかもしれないわよ」
両親が渡米してきた日に俺とマコは妊娠に気付いたわけだが、出産で何が起こるか分からなかったから「周囲には妊娠のことは黙っておくように」と母が厳命していた。無事出産を終え、トモも順調に成長しマコも回復をみせたので母が情報開示を許可した。
ちょうど京都滞在についてアンナから問い合わせが来たことがきっかけだった。
警備上の関係で「警備会社の担当者が『一度現地を訪問したい』と言っている」とアンナが連絡してきた。そのときに「修行はどう?」と聞かれたマコ。「トモくんのことを言っていいのか」と迷い、母に相談した。
そして両親と義弟夫婦、ウチの連中が話し合い、大筋を決めアンナに話をした。母が。
「実は京都の旧い家の人間には『霊力』というものが備わっている」「ファンタジーやアニメでよくある『魔力』と同じもの」「その『霊力』には相性があり、合うひと合わないひとがいる」「『一年間の修行』は、この『霊力』の相性をみるもの」「相性が合わなかったら子供が授からないし、ひどい場合には体調が悪くなる」「ふたりで試練を乗り越えることで『霊力』の相性を判断し、互いの『霊力』をやりとりすることに徐々に慣らしていく」「そのための修行」
「ヒデさんとまこちゃんは『霊力』の相性が素晴らしくいい」「だからこそすぐに結婚してもらった」「相性の悪いひと同士だと性行為で不調をきたす」「けどふたりは逆に好調になっていったと聞く」「それはふたりの『霊力』を互いに受け入れたということ」「『霊力』が交わり循環しているのを私も確認した」
「入籍パーティーのあとすぐに、まこちゃんのおなかに新しい生命が宿ったのがわかった」「これまで黙っていたのは『霊力』の関係で無事に出産できるかわからなかったから」「少し早産だったけれど、十月に無事に生まれた」「生まれた子は旧家の血を濃く継いでいて、強い『霊力』を持っている」「だから、生まれ落ちてもしばらくはいろいろ大変だった」「最近ようやく少し落ち着いてきて、どうにか生き延びられそうと目途が立った」
「もしも万が一赤ちゃんが生き延びられなかったとしたら、皆さんを悲しませることになる」「だからこれまで言えなかった」「黙っていてごめんなさい」
「ヒデさん達に『黙っているように』と厳命したのは私」「恨むなら私を恨んでね」
母の言ったとおり、アンナから話を聞いたマットがすぐに電話をかけてきた。どれほど怒られるか文句を言われるかと思いながら電話に出ると「おめでとう!」と手放しで祝福された。
マコによると、アンナもマットの息子達も「オタク」という人種で、漫画やアニメといったサブカルチャーに傾倒している。だからこそ「霊力がどうとか」言う話をすんなり納得した。そしてそんな息子達の親であるマット夫妻も納得したと。
「三月に会えるのを楽しみにしてるよ!」と喜んでいた。
実際は入籍前に授かっていたんだが、それを言うと色々うるさそうなので母が「入籍後に授かった」で通すよう通達してきた。それもあってどこからもお叱りがないのだろう。
マットとアンナ経由でトモの存在はアメリカの知り合いに広まったらしい。アンナとやりとりしているマコが言っていた。
結婚式関係はアンナとマコが窓口となってやりとりしている。警備の問題、宿泊に関して、食事について、観光はどうするか、色々、色々。時々外国人が来て両親やマコと話していた。俺はトモの子守をしていたから詳しい話は知らない。暁月と久十郎が同席してたから十分だと放置していた。話し合いのあとでマコがどんな話をしたかや決定事項を教えてくれたが興味がないので右から左へ抜けていた。
「こいつはこういうやつなんだよ」「自分の興味のないことは耳に入んないんだよ」ウチの連中が口々にマコになんか言っていた。が、それも耳を通り抜けていく。言いたいやつには言わせとけばいい。いちいち気にしてたら時間がもったいない。
日本に帰国してからも研究所とはやりとりしている。俺の残した研究は順当に実験を重ねているらしい。いくつかは成果が出そう。引き継いだチームが論文のたたき台を送ってきたので検証する。他のチームからの相談に乗る。それ以外にもトモの世話の合間に思いついたことをメモしたり論拠を組み立てたりしている。時にはマコと数式について話をすることもある。
トモの世話をしながらそんな日々を重ねていたら、あっという間に三月末になった。
結婚式の前日。アメリカからの一同が京都にやって来た。
◇ ◇ ◇
朝から物々しい雰囲気。母が手配した地元警備会社のスタッフが動いている。寺はヒトでない連中が人間形態を取って見える状態で警護している。両親の隠居屋敷であるこっちにも数人回してくれている。寺と家の間も、周囲もそれなりの人数が警戒にあたっている。
『アメリカから世界有数の頭脳集団がやって来る』とあって地元警察も動いている。らしい。
そんな中でも俺達はいつも通りにメシを食い、いつもどおりに過ごしていた。
昼前。ザワザワが増したと思っていたら「到着されました」と連絡が入った。両親とウチの連中、マコとトモと玄関に出たタイミングで車が入って来た。
「マコト!」「マコト!」
車から降りるなりマット夫妻がマコをみつけ飛んでくる。
「久しぶり!」「元気だった!?」「まあ! この子がトモね!」「ヒデそっくりじゃないか!」
きゃっきゃと騒ぐふたりに続きどんどんと知り合いが現れる。流れるように両親に挨拶をしウチの連中とも言葉を交わしていく。警備の人間がピリピリしているのにも構わず、楽しそうな外国人達は楽しそうに家に入っていく。
「日本家屋!」「畳だ!」
「すごい」「すごい」と大騒ぎ。
今俺達が住んでいるこの家は、両親の隠居屋敷。茶道家の母のためにと父が建てた。プライベートエリアは全体の四分の一程度。他四分の三は茶室、大茶会もできる大広間やそれを支える水屋、茶道具や掛け軸を保管する倉庫、来客のための化粧室などなど、茶道関係に使うものになっている。
大広間は普段は襖で区切られ、いくつもの小部屋として使われている。アンナが調整した結果、訪日した全員を収容できるとなった。
事前にアンナが決めていた部屋割りに従いウチの連中が案内をする。荷物は護衛を兼ねた世話役が運んでくれた。そう。世話役も依頼し同行している。
落ち着いたところで母が茶を振る舞う。ここでも大興奮の一同。移動して料亭でランチ。ちょっと観光して温泉に入り別の料亭で夕食。日本らしい食事に一同大喜びだった。
早咲きの夜桜を楽しみ帰宅。家族ごとグループごとの部屋割になっていたはずなのにオッサンの集まった部屋に連れ込ま酒を飲まされた。馬鹿話をし思い出話をし新婚の心得やら父親の心得やらを聞かされた。普段はしないような話をし、案外いい時間を過ごした。
◇ ◇ ◇
翌日。結婚式当日。
朝早くから支度をし、寺で結婚式を行った。
本来は家族親族のみ参列するらしいが、外国人連中が興味津々だったので見学席を設けた。マコの親族としてマット家族。息子達の彼女も家族として座ってもらった。
外国人に配慮して椅子が並ぶ。マット達はさすがに神妙にしていたが、他の見学者達は写真も動画も撮りまくっていた。
白無垢に綿帽子のマコは神々しいほどの綺麗さ。この姿が見れただけでも大金払って結婚式をしてよかったと感動した。
トモは紋付袴に見える服。父の膝の上で大人しくしている。
その両親も紋付袴と黒留袖。洋一の子供達とその家族も参列。洋一と息子達は僧侶姿で式を取り仕切ってくれた。
厳かで華やかな式を終え、本堂を出た。
『奥様の桜』と呼んでいる早咲きの枝垂れ桜がちょうど満開。先頭を歩く洋一が散華を巻きながら進む。
先に出ていた外国人達が大喜びで散華を取る。『ヒトならざるモノ』達も人型を取ったり隠行を取ったりそれぞれに居並び、モノによってはあちこちに隠れ、俺達を祝福してくれた。
ウチの五人もいつも人前に出るときの姿で着物を着て「おめでとう!」と喜んでくれている。伊佐治のやつ、涙ぐんでやがんの。そんなに喜んでくれたらこっちまで感極まるじゃないか。
草履を履きマコと並び、集まってくれたヒト達に頭を下げる。赤い和傘がさしかけられる。散華を巻く洋一を先頭に稚児行列が続く。
最初は洋一の孫にあたる蓮と誠一郎のふたりだけの予定だった稚児が、人化の術を習得したちびどもも急遽加わった。麻比古の『番』の結依も諏訪のちびどもも人間の姿で稚児装束をまとい楽しそうに歩いている。
その後ろに俺達が続き、俺達のうしろに両親とマット家族が続く。父は式の間立て掛けてあったマコの両親の写真を持ってくれている。
寺の本堂から山門までの少しの距離の花嫁道中。それでも両側の人垣から惜しみない祝福の声がかかる。研究所の連中。檀家のひと。どこから聞いたのか親交のある日本の研究者がいる。マコの両親の知り合いの神職も来てくれた。道具屋。父の弟妹達。いとこ達。両親が引き取り育てた『西村の子供』達。たくさんのひと達が祝福の拍手を打ち鳴らしてくれている。
帰国後早い段階で父方の親戚達に帰国と結婚の挨拶をした。若いマコを目の当たりにした親戚一同は「やっぱりおまえも静原の系譜だったか」「西村の血が強いと思っていたのに」と一様に残念がった。「『静原の呪い』の逸話が増えた」と。
どうやら俺が日本を離れた三十年ちょっとの間に数件の『やらかし』があったらしい。いとこといとこの子供、数人のエピソードを明かされた。聞けばまさに俺と同じ状態。『呪い』の恐ろしさに唖然とするしかできなかった。
それでも『とらわれた』連中はそれぞれしあわせだという。俺達もしあわせ。最後は「いいひとと結ばれてよかったな」と祝福され、マコも受け入れてもらった。
『西村の子供』には洋一と由樹から連絡がいっていた。「新しい『妹』ができた」と。
面倒見のいいデキる義弟は、その面倒見の良さで昔の自分達のように困っている者に手を差し伸べてきた。その結果両親が引き取り育てることになった子供達は皆「自分の弟妹だ」と言い、面倒をみてきた。きょうだいとして構い愛情を注ぎ真人間に育てた。
自分の子供よりも年少の子供でも『きょうだい』として接する洋一。洋一がそんなだから当然由樹もそう接する。両親も愛情を注ぎ教育を施し「おとうさん」「おかあさん」と慕われているが、それ以上に洋一は『きょうだい』に慕われている。
そんな洋一からの連絡に『西村の子供』達が『新しい妹』を見にやって来た。
帰国後すぐなのに次から次へと知らないヤツらが来てはマコを構う。洋一と由樹がマコの事情を話していたとかで「ぼくらは『きょうだい』だ」「なんでも相談してね」「いつでも頼ってね」と迫ってくる。マコに対する好感度が高すぎる。何度「近寄んな」「離れろ」と警告したことか。
出産前も出産後も入れ替わり立ち替わり来てはマコを構っていく連中。マコがうれしそうだから止めないが、俺はおもしろくない。
ヤツらは俺を『きょうだい』に入れない。「秀智さん」と別枠扱い。両親の息子で洋一の義兄と認めてはいるが「自分達とは『きょうだい』じゃない」という。
なのにマコは『きょうだい』。要は幼い頃から妖魔や『ナリソコナイ』に苦労させられた同士ということ。どうもそれぞれに過酷な幼少期を送っていたらしい。だから俺は「『きょうだい』じゃない」と。
俺はマコさえいればそれでいい。マコが喜ぶならそれでいい。なので『きょうだい』連中も好きにさせておいた。
そんな父方の親戚達や『西村の子供』達も祝福をくれる。俺に対してよりはマコに対してな気がするのは気の所為か。それでもいい。マコがしあわせそうだから。
「こんな日を迎えられるなんて、考えたこともなかった」
さんざん写真撮影をし宴会を終え、白無垢からワンピースに着替えたマコがつぶやいた。
「ボクは『いらない子』だった」
「誰からも求められない、迷惑をかけるしかできない存在だった」
「それが、こんなにたくさんのひとが集まってくれるなんて」
「こんなにたくさんのひとに祝福されるなんて」
ポロポロと涙を落とし、マコは披露宴会場に目を向けた。
披露宴はガーデンパーティーにした。『ヒトならざるモノ』も自由に出入りできるようこうなった。
稚児行列に先導されて高砂席につき、挨拶のあと酒樽の前に立ち鏡開きをした。乾杯のあとは無礼講。あっちでもこっちでも笑い声があがり、集まってくれたひとは好き勝手に飲み食いした。
いつまで経っても終わる気配を見せない宴会だったが両親が閉会を宣言。俺達も挨拶をし、ようやく解散となった。
俺達は先に退場し着替えたところ。楽しそうに帰路につく面々に沙樹と美波が引出物を渡しているのが見える。
そんな会場を眺めていたマコが、涙に濡れた顔を俺に向けた。
「ヒデさん」
「ありがとう」
「ありがとうヒデさん」
万感のこもった言葉と笑顔に、たまらなくなりマコを抱き締めた。
マコも俺に抱きついてくれた。愛しくて、愛おしくて、こめかみにキスをした。
「俺こそ、ありがとう」
「俺をあきらめないでくれて」
「がんばってくれて」
抱き合うだけで満たされる。霊力が循環する。俺達はひとつだった。今またひとつに溶けている。
感謝と感動があふれている。あふれた気持ちが互いに流れ込み循環する。満たされていくしあわせに、さらにマコを抱き込んだ。
「こんな未来があるなんて思わなかった」
「ボクも」
「ありがとうマコ」
「ボクこそ。ありがとう」
「ヒデさん」「大好き」「ずっと一緒にいてね」
「もちろん」「もう離してやらないからな」「覚悟しとけよ」
抱き合いふたり笑い合った。
これまでの人生で味わったことのない感情に、ただただ満たされていた。