【番外編9】西村秀智と『静原の呪い』18
泣き止み落ち着いた小十郎と名乗る青年に連れられ、集落にお邪魔した。そこでも久十郎は何人もと再会を喜び合っていた。
俺が生まれるずっと前。久十郎の住んでいた集落が妖魔に襲われた。触手型の巨大妖魔だった。霊力を感知していたらしく、建物に潜んでいても物陰に隠れていても見つかり次々と喰われた。飛んで逃げようとしても触手に捕まる。むしろ飛んでいるほうが先に喰われた。触手はどこまでも長く長く伸びて追い、大人も子供も喰らっていく。そんな中「せめて女子供だけでも逃がせ」と生き残っていた子供達を集落から出した。人間でいう小学校高学年の者から赤ん坊までをいくつかの班に分け、年長の者が年少の者を守りながら集落を出た。逃げる時間を稼ぐために久十郎達は妖魔に立ち向かった。が、次々と触手に捕まって喰われていく。久十郎は向かって行ったところを弾き飛ばされ樹に激突。羽と足が折れ内臓も損傷し身動きが取れなくなった。せめて一矢報いてやると、子供達が生き延びていることを願いながら死ぬ覚悟で再度突撃しようとしたときに現れたのがウチの親父。
同じく襲われた別の集落に母の知り合いがいた。そこからの救援依頼を受け駆けつけたところだった。
そのときには親父のそばにいた伊佐治、麻比古、定兼、他数人とともに妖魔と戦い、討伐した。
その妖魔は複数の集落を襲っており、母と暁月を含む救護部隊が種族関係なく手当にあたった。久十郎の集落で生き残っていたのは久十郎ただひとりだった。
逃がした子供達は見つからなかった。
久十郎の話を聞き伊佐治達が手分けして近隣を探したが、大鷲族の子供は見つけられなかった。絶対安静状態から動けるようになった久十郎が暁月達の制止を振り切り何度も何度も探しまわった。それでも見つけられなかった。
誰も口にはしなかったが、子供達は「死んだ」もしくは「別のナニカに喰われた」と判断された。
がむしゃらに探し回っていた久十郎も、半年経ち一年経ち、徐々にそのことを受け入れていった。弟をはじめとした年少者の死を受け入れると同時に久十郎のココロも死んでいった。そんな折に母に俺が宿った。
「新しく宿った生命を守ってほしい」父にそう乞われ久十郎は俺の守り役のひとりとなり、すこしずつココロを取り戻していった。そうして俺が物心つくときには今の頼りになる久十郎になっていた。
初耳なんだが?
「言うほどのことではないからな」
ならなんでマコが知ってんだ?
「あ。私が教えた」「知らずに地雷ふんじゃいけないと思って」
気の利く暁月の仕業だった。ついでに俺にも教えろよ。
「勝手にごめんね」「いや。問題ない」暁月と久十郎のやりとりの間に、ちびどもが女性をひとりひっぱってきた。
「くじゅ兄ちゃん! あかり姉ちゃんだよ!」
久十郎より小柄な、長い黒髪をひとつに結んだ女性。人間の姿にやはり猛禽のくちばしをつけていた。背の羽根は黒。良く言えば穏やかそうな、はっきり言ってしまえば地味な顔立ちの女性だった。外見からは二十五、六歳に見えるが、他種族の実年齢はわからない。
俺達をここまで連れてきた久十郎の弟の小十郎によると。
大人達に「逃げろ」と集落から出され、赤ん坊を両手に抱き幼児を背負い年少者を連れとにかく走った。自分達子供は集落から出たことはないが、大人達から別の種族の集落があることを聞いていた。そこに救援を求めようとただ走った。「助けて」「助けて」そう祈り願いながら必死で。そうして出会ったのがこの朱莉という名の女性。
なにがあったのか、どこから来たのか聞いた朱莉は、泣きわめくチビをなだめ一同を自分の集落に連れて行った。「ほかにも仲間がいる」と聞き小十郎と救援に走った。もう一班は見つけられたが他二班は見つけられなかった。「とにかく休息を」と面倒をみてもらい、そのまま住み着いた。
朱莉の集落は衰退しており、残っていたのは朱莉とふたりの妹だけだった。
このままここで朽ちるか、婿を探しに外界に出るかと話していたタイミングで同族の子供達がどっとやってきて、朱莉も妹達も喜んで受け入れた。
ちびどもの安全が確保されたので「赤栗の様子を見てくる」と小十郎が集落に戻ろうとした。が、どれだけ山を駆けても飛んでも故郷をみつけることはできなかった。朱莉の集落と交流のある種族に聞いても「そんな集落聞いたことがない」という。
戸惑い暴れる小十郎たちに、とある長老が諭し教えた。
「たまにある」「おまえたちは『境界』を越えてきたのだろう」「時間を『越えた』か、時空を『越えた』かはわからぬ」「『ここではないどこか』から『落ちて』きたのだろう」
「おまえたちの故郷がどうなったのか、ここからではうかがい知ることはできぬ」「せっかく助かった生命、大切にここで生きるのだ」「それこそがおまえたちを逃がしてくれた者達への恩返しであろう」
泣いて泣いて泣いて、あきらめた。納得した。両親は、きょうだいは、家族は仲間達は自分達を逃がして死んだのだと。もう会えないと。
だからこそ、自分達は一生懸命に生きよう。『赤栗』の『名』に恥じぬよう生きよう。そう皆で決意し、年少者にも言い聞かせた。赤ん坊改めちび達にも語り継ぎ、この明里の地で生きてきた。
他の種族の集落と同じく、この地にも周囲に結界が展開している。それは人間や他種族に見つからないようにするためのものであり、不審者が入り込んだらすぐに知らせるものでもある。
正規ルートからの訪問者であれば別の知らせが届く。今回は非正規ルートへの突然の侵入。なにが入り込んだのかと駆け付けたのが小十郎だった。
弓矢での威嚇に逃げれば良し。攻撃の意思を見せるならば戦う。そうして射た矢に久十郎が気付き、感動の再会となった。
許可を得て術で札を飛ばし、母に無事を報告。ついでに現在地を確認するために調査用の札を飛ばした。
そうして、ここが同じ次元の同じ時間軸の『世界』であること、ただし京都ではなく諏訪だということがわかった。
麻比古の故郷も暁月の故郷も久十郎の故郷も京都の山中。京都の外側をぐるりと囲む結界の中。それぞれの神社仏閣が神域を展開しているように、それぞれの種族集落が結界を展開して他種族が入ってこないようにして暮らしている。
おそらく、逃げた子供達は山中にたまに発生するという『境界の入口』に入り込んだんだろう。たまたま転移門のように離れた場所が出口になっており、ここ諏訪まで『跳んだ』んだろう。
すぐに引き返して別の一班を連れて来れたのは『境界の入口』がまだ開いていたから。しばらくして故郷に戻ろうとして戻れなかったのは『境界の入口』がもう閉じてしまったから。
小十郎達は当時「集落から出たことがなかった」と言っていた。そのために飛んで周囲を調べてもそこが何百キロも離れた場所だと気付かなかった。「ずっと東におおきな湖がある」とは聞いていたが、それは琵琶湖で、小十郎達が見つけた諏訪湖が違う湖だとは思わなかった。
伊佐治や久十郎が京都の山を探しても見つかるわけがない。諏訪にいたんだから。
色々納得し、改めて無事を喜び合った。「もしかしたら他の二班も他の場所に『跳んで』いるかも」と希望を持った久十郎達。「日本全国探し回ろう」と言い出したから「待った」をかけた。
「たまたま同じ次元の同じ時空同じ時間軸に『跳べた』からよかったが、もしかしたら違う次元や違う時間軸に『跳んで』いる可能性もある」「探すのは勝手だが、無駄足になる可能性が高いぞ」
「それもそうだ」と久十郎も小十郎も納得した。
「それよりも京都と諏訪で行き来できるようになんか考えろよ」「転移陣刻むとか」
そうしてウチの裏山にある主座様の刻まれた転移陣を利用することとし、持たされている帰還用の札を一枚使って対になる転移陣を刻んだ。実験したがうまいことウチに戻れた。戻ったときに母に事情を説明し協力を要請。何人移動できるか、物だけ移動することはできるかなどいろいろ試し、しっかりとした転移陣が確立した。これで久十郎もきょうだい達と気軽にやりとりできる。
「ありがとう」久十郎が頭を下げてきた。
「感謝してもしきれない」「まさか仲間に会えるなどと、考えたこともなかった」「大鷲族は自分が最後のひとりだと思っていた」「それが、こんな―――」
うつむき顔の上半分を手で覆い、動かなくなった久十郎に、他の連中も両親もマコもただ微笑みを向けていた。
◇ ◇ ◇
それから久十郎は単独行動が増えた。気が付いたらいなくなっている。仲間のところだろうと思うから俺達も何も言わない。
逆に時々諏訪の連中がやって来る。どうも久十郎が諏訪で仲間達や俺の両親の話をしたらしい。中学生くらいから成人のやつらが「話を聞かせて」「話を聞いて」「修行をつけて」とつきまとっている。俺にまで声をかけてくる。うるさい。面倒。が、久十郎に世話になった自覚があるから仕方なく相手をしてやっている。
そいつらによると、諏訪の連中を守り育ててきた「あかり姉ちゃん」と久十郎が「いいカンジ」らしい。
久十郎がせっせと諏訪に行っているのは生活レベルを上げるため。ホームセンターで苗や肥料を買っては諏訪の集落の畑に試し、手が回らなかった建物の補修をし、ちびどもが喜ぶメシを作っている。
これまで集落で一番年長の男は小十郎達三人だった。その小十郎達よりも年長で、なんでも知っていてなんでも出来て強くて頼りになる男に、元赤栗のやつらは「おとうさんだ!」とすっかり傾倒してしまっているらしい。
そして傾倒しているのは元赤栗のやつらだけでなく、明里の三姉妹もらしい。そりゃそうだ。久十郎ほどの男はそうはいない。
明里の三姉妹は久十郎より歳下。長女の朱莉は小十郎より少し歳上。次女三女は小十郎より歳下なので、他の連中と同じく久十郎に対して父性を見ている。が、長女はそうではないと。頼りになる久十郎に惹かれていると。
久十郎は久十郎で仲間を助けてくれた朱莉に恩義を感じている。仲間のためもあるが明里三姉妹に対する恩返しもあってせっせと面倒をみているわけだが、交流しているうちに面倒見のいい長女が気になっているように見受けられる。
「あかり姉ちゃんには『しあわせ』になってほしい」「くじゅ兄ちゃんなら申し分ない」小十郎がうれしそうにそう言っていた。
「久十郎にも『春』が来たか」ウチの連中も寺の連中もそう言って喜んでいる。が、俺は面白くない。
そりゃあ久十郎が喜んでいるのはわかる。うれしそうなのも、どこかウキウキしているのも。だが、生まれた時からずっと面倒見てもらってアメリカにまでついてきてくれてずっとそばにいてくれた久十郎を盗られたような気持ちになる。俺もう五十すぎたオッサンなのに。
「久十郎さんがうれしいのはうれしいけど、久十郎さん取られたみたいでさみしい」ある日マコが暁月にこぼしていた。
「久十郎は一番マコの面倒みてたからね」そんなマコの頭を暁月が撫でる。
「こればっかりは仕方ないわ」「マコももう母親になったんだから『久十郎離れ』しないとね」
言われたらそのとおり。わかっている。けれど、気持ちはおさまらない。
「さみしかったらヒデにくっついていなさいな」そうアドバイスされたマコがくっつきに来てくれる。マコを甘やかすふりをして俺もマコの肩を抱いた。
「さみしいね」
「さみしいな」
ふたりでしんみりとしていたら、スパンと頭を叩かれた。
「なんです情けない」「それでも子供を持つ大人ですか」ハリセンを手に仁王立ちする母に反論はできない。
「ぐずぐずしているヒマがあるのならトモくんとお散歩していらっしゃい」「裏山のコブシが咲いたか見てきて」
「咲いてたら一枝取ってきて」と命じられ、ちょうど戻って来た久十郎も一緒に裏山へ向かった。
◇ ◇ ◇
「だからなんでこんなポンポン『跳ぶ』んだよ」
思わずぼやく。ぼやかずにいられようか。
普通に山道を歩いていたのに、あっと思った次の瞬間、目の前では怪獣大決戦が行われていた。
右には大きな大きな青黒い蛇。やたらデカい一匹の後ろに何匹も同色のデカい蛇がいる。
左には大きな黒い蛇。こちらは同じくらいのデカさのが五匹、真ん中が先頭に立ち両脇が一歩ずつ下がった魚鱗の陣を取っている。
まさに一触即発。そんなところにポンと邪魔者が現れたものだから一斉にこちらに首が向いた。
「あら。ミナ。サクにメイも。あら、ロウとソウもいるの?」
「「おねえちゃん!」」「「「姐さん!」」」
すっとぼけた調子の暁月の呼びかけに、黒い蛇達が喜色を挙げた。逆に青黒い蛇達は苛立たし気ににらみつけてくる。
「おうおう。なんだおまえらは」「関係ねえヤツはすっこんでな」「人間かよ。なんで人間がこんなところに」「喰われたくなかったらすっこんでろ」
典型的な三下の台詞だな。逆におもしろいわ。その間に暁月が黒い蛇に話を聞いた。
この黒い蛇達は暁月の同族。先頭にいたのとその左隣が暁月の妹達。暁月の故郷はウチの両親達がテコ入れしていて、『ヒトならざるモノ』と呼ばれる種族のなかでも豊かな集落になっている。その噂を聞きつけたこっちの青黒蛇達が「自分達の傘下にくだれ」と言ってきた。これまでは二、三匹が使者として来て、都度叩きのめして返却していたが、今回は大人数で来たと。ひいふうみい……八匹か。面倒だがやってやれないことはないな。
俺も伊佐治達もやる気になったのに暁月に止められた。「黒蛇で対処できるレベルの問題に助太刀してもらうわけにはいかないわ」と。
「ミナ。あなた、始末できるわね?」
にっこり微笑む暁月にミナと呼ばれた先頭の黒蛇が「できます!」と目をキラキラさせ答える。
「おねえちゃんに私が立派になったところを見せてあげる!」
フンスと鼻息も荒くやる気満々に青黒蛇達へと顔を向ける黒蛇。尻尾がビタンビタンと地面をえぐる。
「はあ!? なめんじゃねぇぞ!」「てめえ! 余計な口はさむな!」
いきり立った青黒蛇の内、一匹が暁月に向かってきた。敵意を向けられた瞬間。
ギン!
暁月のひと睨み。同時に威圧が噴き出す。
それだけで青黒蛇どもは身を引いた。
「あなたの相手は私じゃないでしょう?」
やさしく諭す声音なのに青黒蛇どもはブルブルと震えひとかたまりになっていく。
「さ。ミナ。続きをどうぞ?」
「もう。おねえちゃんが威圧するから、腰抜け蛇ども戦意喪失しちゃったじゃない」
ミナの言うとおり。もう戦いどころじゃない。そうは言いながらもミナ以外の黒蛇が素早く動き、青黒蛇を取り囲んでいる。なかなか教育が行き届いているな。暁月か? それとも親父か?
「これに懲りたらもう言いがかりつけに来るんじゃないわよ」
とどめとばかりにミナが威圧を叩き込む。うむ。制圧完了。一件落着。
そう思ったのに、暁月は「ちょっとお待ちなさいな」とミナに声をかける。
「今突っ返しても時間を置いたらまた来るんじゃないの?」
そう指摘されればその可能性は高い。ミナ達黒蛇もそう思ったのだろう。互いに目配せし、代表してミナが口を開いた。
「つまり禍根を残さないよう皆殺しにすればいいのね」
「違う違う」
「ひいぃっ!」青黒蛇達の悲鳴を無視し、暁月は困ったように笑う。
「相手の要求を聞き、こちらの意見を伝え、落としどころを探って問題を解決しないと」
「そんな面倒なことしなくてもいいじゃない」
「蛇って美味いんだよな……」
久十郎、ボソッと余計なこと言うな。青黒蛇どもがさらにひと回りちいさくなったわ。
「照焼き……」「蒲焼……」ホラ。伊佐治と麻比古がヨダレ垂らしそうな顔で蛇どもを見だしたじゃないか。
定兼まで斬る気マンマンのうれしそうな顔を向けている。「捌きがいがありそう!」じゃないぞ。
そんな仲間達に暁月は困ったような顔をし、青黒蛇達に向け変化した。
デカい黒蛇姿。あれ? いつもより数倍デカくないか??
「いつもは家に収まるサイズに調整してるのよ」「今日は屋外だから、遠慮なく本来のサイズになれるわ」
気持ち良さそうに「うーん!」と伸びをするデカい黒蛇。マコがそれをポカンと見ている。マコの腕の中のトモは興味深そうにじっと見つめている。いつも思うがこいつには恐怖心というものはないのか?
「さて改めて」「黒蛇族、黒杉村の暁月よ」「普段は人間の街に住んでるの」
「今日はたまたま『跳ばされて』来ただけなんだけど、せっかくだからお話聞かせてもらえるかしら?」
そうして暁月は青黒蛇どもの話を聞き、連中の村へと出向くことになった。俺達には「先に帰ってていいわよ」と言ってくれたが、そんな敵陣にひとりで乗り込むようなことさせられない。黒蛇を連れて行かないならば尚更。
「今回は話を聞くだけ」「無駄な争いを起こしたくないから黒蛇は連れて行かない」と暁月が決めた。黒蛇達はしぶとくすがったが「村に直接関わってない自分なら交渉役にぴったり」と言い張る暁月に黒蛇達が折れた。「おねえちゃんなら負けることはないだろう」と。
俺達の同行は暁月が折れた。「マコとトモは帰りなさいな」と言ったが、マコも折れなかった。「暁月さんを必ず連れて帰る!」と意気込み聞かないもんだから暁月があきらめた。
「余計なトラブルになるといけないから」と人間形態に戻った暁月。
「さ。案内して」歩き出した暁月に「あの!」と一番デカい青黒蛇が声をかけた。「よかったら自分にお乗りください!!」
……………。
………なんだろう。この、男子中高生みたいなカンジ。蛇の顔色なんかわからないのに、人間だったら真っ赤になってるんじゃないかって伝わってくる。
「他意はありません!」「人間の歩みでは大変だと、それだけです!」「お仲間の皆様すべてお乗せできます!」
「………そう?」「なら、お言葉に甘えさせてもらうわね」
暁月が決め、にっこり微笑んだ。途端にプシューと音がしそうなくらい青黒蛇が硬直した。
……………これは。
他の黒蛇達にも青黒蛇の態度に感じるものがあったらしい。「おねえちゃん、やっぱりやめようよ」「交渉なら私達がやるよ」と口々に暁月に訴えた。
「そう?」
暁月が引く気になったのがわかったのだろう。デカい青黒蛇がまくしたてた。
「いえ! 先程おっしゃったとおり、黒蛇族が乗り込んで来たら村の連中がどう出るかわかりません!」「人間に変化できるほどの方に介入していただける機会はまずないので! この機会に、ぜひ! 是非! 来てください!」「両方の村の平和のために!!」
必死な青黒蛇に、仲間の青黒蛇も察したらしい。仕方ないなと言いたげに目配せしうなずき合った後、「是非!」「お願いします!」と暁月に頭を下げ懇願してきた。対して黒蛇達がいきり立つ。
「なにを甘えたことを!」「なめんな!」「どれだけ面の皮が厚いんだ!」
「なんだとこのやろう!」「やんのか!?」
「まあまあまあまあ」
またも一触即発になった空気に暁月が割って入る。
「わかったわ。私達がお邪魔するから。大人しくなさい」「ミナ。あなたたちも。最初からそんな喧嘩腰じゃあ交渉にもならないわよ?」
両方の蛇達に言い諭す暁月。それでもどちらの蛇もギリギリと睨み合いをやめない。正確にはデカい青黒蛇だけはただ暁月に見とれている。
……………仕方ない。
「定兼」
刀に戻った定兼を、霊力を込め一振り。大型妖魔も真っ二つにできる一閃が樹を薙ぎ倒し地面をえぐった。
両方の陣営が身を引きビビる。注目を浴びながら、告げた。
「改めて。西村秀智だ。暁月にはいつも世話になっている」「俺達が必ず暁月を守る。安心してくれ」
「このとおり。おまえら程度ならいつでもブツ切りにできる実力はある」「すこしでもこちらに危害を加えたならば即応戦する」「無礼な行いも許さない」「わかったら連れて行け」
「もう。ヒデったら。やりすぎ」暁月には叱られたが効果はてきめんだった。
大人しくなった青黒蛇達に連れられ連中の村へと向かった。