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【番外編9】西村秀智と『静原の呪い』8

「ゆうべは困らせてごめんなさい」

 朝食に姿を現した彼女は、俺を視界に入れるなり頭を下げてきた。

 どう反応したものか困ったが、昨夜から続けている保護者の顔をどうにか取り繕って「大丈夫だよ」と答えた。


 そこではたと気が付いた。彼女の好意を拒絶するということは、彼女が俺と顔を合わせにくくなるということでは?

 そう気が付いたら次々に可能性が浮かんだ。

 顔を合わせにくくなる→居辛くなる→ウチを出ていく。


 ……………。


 ―――!!!


 出ていく!? ウチを!? ダメだ! そんなことさせられない!

 同居して朝晩ハグしているから俺の気配がついて低級妖魔から守れてるのに、別居となったら『護り』が弱くなる! そうなったら、こんな善良な魂を持った匂い立つような女性、あっという間に喰われてしまう!

 それ以前に彼女に会えない生活なんて耐えられない! たとえ触れられなくても、男女として想いを交わすことはできなくても、そばにいたい。顔を見たい。話をしたい。護りたい。


 ああ。あれほど『駄目だ』と理解したのに、彼女のためにと俺自身が拒絶することを選んだというのに、彼女がいなくなる可能性に気付いただけでこの(てい)たらく。情けない。これも『静原の呪い』のせいか。そうに違いない。『呪い』だからこんな情けないことになるんだ。


 引き留めるか!? だが気まずいのを我慢させるのもかわいそうだ。彼女にはのびのびと暮らしてもらいたい。ウチを出るとしたらどこに行く? マットの家に戻るか? 可能性は高いな。いや他人に迷惑をかけるのを嫌がる彼女ならば大学の寮に入るかも。女子寮なら安心か? いや学生ばかりだからバカがいないとも限らない。やはり防犯面からも精神的な安全からもウチにいるのが一番だ。だがなんて論破しよう。


 一瞬でそんなことを考えていた俺に対し、彼女は下げていた頭を上げた。

 どこかさっぱりとした、それでも昨夜とは違う、成長したとわかる表情で俺をまっすぐに見つめてきた。


 その表情だけで、昨夜の俺の判断は間違っていなかったと確信した。

 彼女はまだまだ成長する。まだ若い彼女はこれからもっと成長する。経験を重ね、様々なことを体験し、伸びていく。それを俺が邪魔するわけにはいかない。俺が彼女の愛を受け入れることは彼女の可能性を潰すことと同義だ。


「けどヒデさんが好きなのは本当だから」


 きっぱりと宣言する。その潔さに、強さに、眩しさに、またしても胸が鷲掴みにされる。ああ好きだと惹かれる。同時に『若さ』を感じ、憧憬のようなものも感じた。


「ボク、ヒデさんのこと『男のひと』として好きだけど」

「これからもそばにいてもいい?」

「このおうちにいてもいい?」


 どこか甘えるように、うかがうようにたずねてくる彼女が愛おしく、同時に「出ていく」と言われなかったことにホッとした。


「もちろんだよ」


 答える俺に彼女は花が開くように笑った。ああ。なんて魅力的な。


「きみは俺の家族だ」

「なにも遠慮することない」

「これからもここで暮らせばいい」


 どうにか大人の矜持をかき集め、保護者(づら)をかぶってそう答えた。

「うん」と答えた彼女は悲壮感もなにもなく、いっそあっけないくらいに軽やかだった。


 ウチに来たばかりの頃は借りてきた猫のようだった。居場所を探し、いつ追い出されるかとおびえていた。弱々しくていつかつぶれてしまうのではと心配していた。

 それが今ではこんなに堂々としている。内側から輝いているよう。若さと希望に満ちている。「ここにいたい」と自分の希望を言えるようになった。それは子供ならば誰にでも与えられてしかるべき権利で、これまで彼女が得ることのできなかったもの。俺達のところでようやく彼女が『満たされた』と理解できて、俺が彼女のために役に立てたという事実を示されたようで、歓喜に震えた。


「きみは『これから』のひとだ」

「なにも心配することはない」

「きみの望むままに生きればいい」


 頭を撫でる俺に、彼女はうれしそうに、しあわせそうに目を細めた。

 これまでどおりのやりとりができることに心底ホッとした。






 あとから考えたら、このときすでに『予兆』はあったんだ。

 それに気付かなかった俺はやはり馬鹿だったんだ。



   ◇ ◇ ◇



 クリスマスイブの夜に彼女から『異性』として愛の告白をされた。

 俺はそれを受け入れなかった。



 どれだけ俺が彼女を愛していても。彼女がどれだけ俺を愛してくれても。

 現実には三十歳以上という年齢差がある。

「そんなの関係ない」と言い切ることは簡単だ。強行することだってきっとできる。だがそれをした場合、彼女の未来は閉ざされる。才能ある数学者としての未来が。


 それはそれで『しあわせ』だろう。ただの『俺の妻』として生き、共に過ごす人生。きっと彼女は不満なんて言わない。中学卒業と同時に就職する未来だってあった彼女は『俺の妻』となることを喜んでくれるだろう。俺と暮らすことを『しあわせだ』と言ってくれるだろう。


 だが俺は知っている。二十代に訪れる様々な可能性を。

 ひととの出会い。やりがいのある役割との出会い。それらからもたらされる可能性。自分を活かす喜び。

 そんななにもかもを捨てさせる? そんな選択、俺にはできなかった。


 ただでさえ彼女は数学者としての才能がある。あのマットが私財を投じて保護するほどの才能が。それを捨てさせるのは、同じ研究者として許せることではなかった。


 彼女が研究者としての道を進むとき「三十歳も歳上の男と付き合っている」または「三十歳も歳上の男が夫」というのは醜聞にしかならない。絶対に罵詈雑言が彼女を傷つける。彼女の進むべき明るい道を閉ざす。


 どう考えても、どんな可能性を模索しても、俺を選ぶことは彼女にとって悪手にしかならなかった。


 それならば、俺のすべきことはただひとつ。

 彼女が差し出してくれる手を、受け入れないこと。


『異性』として愛せなくても『保護者』『守護者』としてならば愛してもいい。そばにいてもいい。そう自分を納得させた。

 彼女のために。彼女を護るために。

 たとえ彼女を傷つけることになっても。俺がどれだけ苦しむことになっても。



 幸い彼女は翌朝には気持ちの整理を終え、これまでどおりの態度で接してくれた。ウチを出ることもなく、これからも同居を続けることになり、一件落着と俺は胸をなでおろした。

 ウチの連中も余計なことを言うこともなく普段通りに接してくれ、あの告白自体が「都合の良い夢だったのかな」というくらいこれまでどおりの日常を過ごした。

 例年通り実家から贈られた餅を食い、年越しそばを食いおせちと雑煮を食い、また餅を食って冬季休暇が終わった。

 彼女も楽しそうにうれしそうに過ごしていて、これでよかったんだと安堵した。



   ◇ ◇ ◇



 冬期休暇が明けてすぐ。

 かわいい子の態度がまた変わった。


 あれだけ後追い行動をしてくっついてきてくれていたのに、今度は全然相手にしてくれなくなった。

 朝晩のハグはさせてくれるものの、それ以外は会わないし、話しかけても「今忙しいから!」と逃げてしまう。なにかあったのかと毎日護衛としてついているウチの連中に聞いてみたところ、難問に取り組んでいることがわかった。


 マットの研究室に入り浸り、ああでもないこうでもないと議論を重ねていると。論文書いたり片っ端から数式解いたり、聞くだけでもなかなかに忙しそう。そういえばもうすぐ二年生が終わる。その試験勉強もあって、彼女は本当に忙しいようだ。


 それでもウチの家事はちゃんとやっている。「お仕事だから」と手を抜かない。

 彼女がウチに来てすぐ。お小遣いを渡そうとしたが固辞されたのでウチの家事バイトを提案した。英語力を鍛えるための買い物の手伝い。掃除と食後の後片付け。「このくらいなら負担にならないだろう」と思ってのことだったが、あのときとは状況が変わった。

「忙しいなら、負担になるなら、やめさせるか?」

 そう提案したらウチの連中全員に反対された。


「それはマコの居場所を奪う行為だ」「本人が『無理』と言ってくるならいざ知らず、こちらから『辞めろ』というのは『クビ』ということ」「マコの性格上、仕事もないのにここに居座ることはしないだろう」

 そう説明されたらそのとおりとしか思えなくて、なにも言わずそのまま家事をお願いした。


 ただ食事は三食ちゃんと食べること、夜はちゃんと寝ることを条件につけた。

「きみががんばってることは知ってる」「がんばってるきみを応援してる」「ただ、何事も身体が資本だ」「どれだけ忙しくても、どれだけ勉強が大変でも、食事と睡眠は必ずとるように」


 こんこんと言い聞かせればかわいい子は「わかりました」と納得してくれた。

 付き合いの長い連中は「どの口が言うんだか」「若いときのあれこれ、言っちゃうか」などと言っていたが「余計なこと言うな」と釘を差しておいた。



   ◇ ◇ ◇



 初夏になり二年生が終わり、夏季休暇に入った。彼女は昨年同様マットのバイトを受けた。毎日忙しくしているうちに休暇が終わり、彼女は三年生になった。

 大学の勉強はレベルアップし、かなり大変そう。連中の誰かを毎日連れているので夜に報告を聞く。それによるとがんばって勉強しているのがわかる。それはそれでいいことなんだが、彼女が目標に邁進(まいしん)しすぎて俺は相手にしてもらえない。さみしい。


 朝晩のハグだけじゃ足りない。もっと構い倒したい。一緒に食事したり(はなし)したりくっついたりくっついたりくっついたりしたい。

 なのに食事時間もズレている。以前は俺に合わせてくれていたのに。朝食はおにぎり作って大学で食べるとか、夕食もマットと食べてきたりとか。


 

「それが普通の『家族』の距離じゃないのか?」

 耐えきれなくなって連中にぼやいたら、伊佐治にそう返された。


「俺達は(あやかし)だから『人間の家族』を理解しているわけでも多く知っているわけでもないが」麻比古も言う。

「テレビや知り合いの話から察するに、以前のおまえとマコのようにベタベタするのは幼児期だけだと思うぞ」


「以前はマコが幼児みたいな精神状態だったから『アリ』だったけど」暁月も言う。「今はもうマコは『大人の女性』よ」「『父親』にベタベタするなんて、ないんじゃない?」


「一般的に人間には『思春期』というものがあるだろう」久十郎も言う。

「マコは今その『思春期』もしくは『思春期』を過ぎたところだろう」

「となると、同年代との交流に重きを置いたり、家族以外に興味を向けるのは、健全な成長の証と言えるんじゃないか?」


ヒデ(おまえ)がそれを望んだんだろ」定兼が痛いところを突いてくる。

「『(オトコ)』としてでなく『家族』として接すると、おまえが決めたんだろ」「決めたからには文句言わずにやり遂げろ」「それができないなら撤回するんだな」


 どいつもこいつも(あやかし)のくせに理路整然と語りやがって。

 ぐうの音も出ない俺は黙って現状に甘んじることしかできなかった。



 が。



「マコ」

 ある日ついに我慢の限界が来た。季節は秋になっていた。『おやすみのハグ』のときに問い詰めた。


「俺のこと、嫌になった?」


「なんで?」キョトンとして逆に問いかける様子に嘘はなさそう。


「避けられてるのかなって」

「避けてないよ?」

「………忙しいのか?」

「うん」


 ケロリと答える様子に他意はないとわかる。この子は素直な子だから考えてることが顔に出る。

 俺のほうが顔に不満が出ていたらしい。彼女は困ったように微笑み、教えてくれた。


「今、がんばってることがあって」「もうすぐひとつめの結果が出るハズなんだ」「いい結果になればうれしいけど、ダメな可能性のほうか高くて」「だからもうちょっと忙しい」


 ………元退魔師だから、嘘を言う人間はわかる。だからこそ正直に言ってくれているとわかる。


「………『がんばってること』って、なに」

「ナイショ」

「………なんで『ナイショ』?」

「マット先生と約束してるから」

「………研究関係?」

「ナイショ」

「………昨日帰りが遅かったのは?」

「アンナさんの授業の日だったから」


『アンナさん』というのはマットの上の息子の婚約者。マット繋がりで仲良くなり、日本の漫画やアニメが好きな彼女のためにウチのかわいい子が翻訳したり日本語を教えたりしている。ちゃんと向こうがバイト代を出してくれているし、マコにとっていい経験になると思うので俺としても()めていない。少し歳上の同性と接すること自体がウチのかわいい子にとって必要なことだと、得難いご縁だと理解している。が、大学の勉強だけでなくアンナにまで時間を取られるから俺との時間がなくなっている事実に苛立ちが募るのも事実。


 自分で自分が制御できない。理性では理解しているのに、感情が『嫌だ』と叫ぶ。もっと一緒にいたい。もっと抱きしめたい。触れて、息吹を体温を感じていたい。俺のそばで囲っていたい。


 昨年末に告白されたときに決めたのに。『家族でいる』と。それが彼女のためだと。覚悟したのに。護ると決めたのに。たとえ彼女に俺でない男ができても認めようと思ったのに。

 あれからまだ一年も経っていないのに。相手は女性なのに。

 嫉妬に胸が焦げる。苦しさに胸をかきむしる。自分の未熟に頭を抱える。


 毎朝の修行で身体を動かしても発散されない。研究も上の空になっている自覚がある。情けなくてふがいなくて、そんな自分が腹立たしくなる。


「行ってきます!」とウチを出発する彼女は日々輝きを増している。若さ由来の眩しさと瑞々しさ。未来ある人間が持つ輝き。それを目にすれば「俺の選択は間違っていなかった」と思える。なのに会えない時間が重なるにつれ負の感情が湧き上がる。俺がいないこの瞬間にも彼女は他の男と肩を並べているのか。俺が目にできないこの瞬間にも彼女をその目に映している男がいるのか。そんなドス黒い感情と考えが浮かび、なにもかも滅ぼしてしまいたくなる。


「自分で決めたんだろ」

 そんなときに限ってウチの連中がツッコミを入れてくる。

「覚悟してたんだろ」「わかってたんだろ」「それでも決めたのはおまえだろ」


 覚悟してたよ。でもこんなにつらいとは知らなかったんだ。

 わかってたはずだったよ。でもこんなに苦しいとはわかってなかったんだ。

 グズグズと泣き言を吐き出す俺に、連中は呆れたようにため息を落とした。

 そうして「どうする」と問いかけてくる。


「『保護者』やめるか」「マコを受け入れるか」

 甘言にすがりつきたくなる。が。


「―――やめない」


「ここで俺が信念を放り投げたら、マコの手を取ったら」

「マコの未来が閉ざされる」

「マコには『これから』がある」

「それを護るのも、俺の使命」

「俺は、マコを護るモノ」

「あの子の『守護者』」

「どんなモノからも、俺自身からも、彼女を―――護る」


 言葉にすることでぐらついていた信念が定まった。改めて覚悟を固める。

 彼女のために。彼女を護るために。

 そのために俺はいる。

 忘れるな。痛みも苦しみも甘んじて受け入れろ。彼女の『しあわせ』のために。


「『受け入れる』ならマコを受け入れろよ」

「楽になるぞ」

「みんなが『しあわせ』になるぞ」

「マコだって『しあわせ』だぞ」

「ついでに子も作って」


 甘い甘い誘惑に必死であらがう。


「いつまで保つかな」

「賭けるか?」

 外野の言葉は無視。ただ彼女の『しあわせ』だけを考えろ。


 そうやって時々泣き言を言いながら日々を重ねていった。



   ◇ ◇ ◇



 そうしているうちに俺の誕生日が来た。五十三歳になった。昨年同様お祝いをしてくれた。

 翌月はマコの誕生日。二十一歳になった。昨年と比べより大人びた。年ごとどころか日ごとに綺麗になっていく。俺はいつまでそばにいられるだろうか。




 年末恒例の研究所のクリスマスパーティーに、今年も全員で着物で参加。彼女はこの一年で交友関係が広がったようで、あちこちから声をかけられている。ウチのかわいい子だったのに。さみしさを感じたが、明るく笑う彼女に『これでいいんだ』と自分を納得させた。


 彼女は『これから』のひと。明るい未来があるひと。俺が縛り付けていい存在じゃない。俺が邪魔するわけにはいかない。

 綺麗になった彼女はこれからどんどん羽ばたく。広い世界に向けて飛び立つ。俺が足枷になってはいけない。彼女は彼女の道を征かなければならない。

 俺に求められているのは『守護者』としての役割のみ。彼女を支え護り導く。それ以上を望んではならない。


 俺はいい大人で。人生の先が見え始めた年齢。

 彼女は大人に足を踏み入れたばかりで。まだまだ未熟で『これから』のひと。

 そんな俺達では、男女として結ばれることなど決してあってはならない。


 わかってる。理解している。

 それでも。


 彼女に他の男が近寄るだけで腹の奥の熾火が揺れる。彼女が他の男に笑いかけるだけで目の奥が熱くなる。

 その女性(ひと)は俺のものだと、彼女は俺の唯一だと叫びたくなる。

 頭では理解しているのに感情はままならない。

 まさに『呪い』。『静原の呪い』は業が深い。


 なんてことない顔を作りやってくるひとと適当に会話を交わしながら、感情を抑えるために拳を握っていた。帰って見たら血がにじんでいた。この年齢になって未だ感情制御ができないなんて。親父に知られたら再修行だ。自分で自分を情けなく想いながら風呂に入った。



   ◇ ◇ ◇



 あと数日で冬季休暇に入るというある日。

「ちょっと帰国する」突然ウチの連中が言い出した。


 ひとりふたりが帰国することはこれまでに何度もあったが、今回は五人そろって帰国するという。

 めずらしさよりも異常さを感じ「なにかあったのか」と聞いた。そしたら。


「噂しか聞いたことのなかった妖刀が見つかったって!」と定兼。

「五十年物の酒樽を開けるって」と伊佐治。

「長の代替わりをすると連絡が」と麻比古。

「調味料が切れそう」と久十郎。

「サトが南座の顔見世のチケット取れたって!」と暁月。


 それぞれに納得の理由を挙げる。五人全員が帰国となるといつもなら「ヒデも帰国しようぜ」と言われ「じゃあ俺も帰るか」となるのに「俺達だけで帰るよ」と言われる。


「ヒデは帰国しても用事ないだろ」

「マコがあれこれあって帰国できないんだから、おまえは居残りな」

 そう言われてしまった。


「マコとふたりきりになるじゃないか」思わず言えば「べつにいいだろ」と返される。


「『家族』なんだろ?」

「なら問題ないじゃないか」


「……………」


 ……………絶対なんかたくらんでる。それを隠す気もないらしく、連中はニマニマと嫌らしい笑みを浮かべている。


「冬季休暇が終わる前には戻ってくるよ」軽く言いおき、連中は「お土産楽しみにしてろよ!」と帰国の途についた。



   ◇ ◇ ◇



 連中がいなくなると途端に家が広々とした。

 作り置きをたくさん作ってくれていたのでマコとふたりでそれを食い、他愛もないことを話しながら日々を過ごした。


 帰国した連中と入れ違いになるように実家から餅が届いた。お礼の電話をかけたら丁度連中が実家にたどり着いたところで、わいわいと大騒ぎになった。


「マコは元気か?」「ちゃんとメシ食えよ」相変わらずの子供扱いに苦笑しつつ電話を切った。

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