【番外編9】西村秀智と『静原の呪い』3
眼鏡をはずし裸眼になった彼と目が合った途端、『とらわれた』。
三十歳以上歳下の同性に。
まさに『呪い』。
俺は『静原の呪い』にとらわれてしまった。
目を合わせたまま固まる俺に、目の前の青年は首をかしげた。
ウチの連中も異変を感じたらしい。「ヒデ?」「どうした?」と声をかけてきた。
声をかけられていると理解はしている。が、まったく動けない。目の前の青年にとらわれて、彼の一挙手一投足に全神経が集中している。
キラキラした瞳。眼鏡越しではわからなかった。その虹彩。煌めく星のよう。
キョトンとした表情は年齢よりも幼く見える。可愛らしい。愛らしい。
鼻も耳も眉も唇も、なにもかもが愛おしくて胸が痛い。
なにより、その霊力。
認識阻害の眼鏡がなくなったからだろう。彼の霊力がはっきりと感じられるようになった。
あたたかで爽やかな霊力。一般人にしてはそこそこの霊力量があるとわかる。量もだが、質が素晴らしい。清浄で清廉で、彼の人間性がそのまま現れたような清々しさ。
ああ。駄目だ。
これは、駄目だ。
堕ちた。
とらわれた。
もう彼を知らない自分には戻れない。この歓びを知ったら戻れない。こんな歓びがあったとは。こんな『しあわせ』があったとは!
自分が同性愛者だとは知らなかった。誰か嘘だと言ってくれ! いや、性別なんて関係ない。彼が彼で在ることが重要であって、性別なんてものは関係ない。男でも女でも、人間でも妖でも、若くても年老いていても関係ない。
このひとがいればいい。このひとがいればそれだけでいい。
とらわれた。俺の唯一。やっと逢えた。もう手放せない。
理性と感情が渦を巻く。『ナニ考えてる』『落ち着け』『冷静になれ』理性が叫ぶが感情に押し負かされる。
かわいい。愛おしい。離したくない。離れたくない。俺の唯一。俺の『半身』。そんなことしか頭に浮かばない。
「ヒデ!」
スパン! 頭を殴られ、ハッとした。え? 俺、どうした??
見ると正面に座る青年は青い顔で固まっている。いや、ちいさくなってガクガク震えている。
なにが彼をこわがらせているのかと思い、ようやく気付いた。ウチの連中が俺の後ろから威圧をかけまくっている!
「おい、よせ」
あわてて止めたが連中は止まらない。さらに強い威圧をかける。「ひっ」と叫ぶ青年に、思わず立ち上がり威圧からかばった。
「なにしてんだ」
「ヒデこそなにしてる」伊佐治が唸る。
「お前、目が合った途端におかしくなったんだぞ」
「『魅了』かもしれない」
「そいつは危険だ」
「今すぐ追い出せ」
口々に言う連中に、ついに青年はガタガタと震え出した。膝を縮め頭を抱えソファの上で丸くなり「ごめんなさい」「ごめんなさい」と繰り返す。
その怯えように、自然に取る姿勢に、幼い頃からこうしていたんだと察せられ、胸が締め付けられた。
気が付いたら丸まる彼に覆いかぶさるように抱きしめていた。
「大丈夫だよ」「ごめんね」そう言いながら背中を、頭をなでていた。
抱きしめるだけでひとつに戻る感覚。脳髄がしびれる。愛おしい。守りたい。大切にしたい。そんなことばかりが浮かんで、ぎゅうっと抱き締めた。
「ヒデ!」
責めるように声を上げ威圧を向ける連中に、ギッと威圧を返す。『俺の唯一になにすんだ』と。『文句あるなら戦うぞ』と。
俺が本気だと伝わったらしい。連中は怯んだ。
《ちょっと待ってろ》《こっちが優先》口の動きでそう伝えればスゴスゴと引いてくれた。
「こわかったね」「ごめんね」「もう大丈夫だよ」ささやきながら霊力を注ぐ。不思議なくらいすんなりと受け入れられた。
回復法のひとつに『霊力を注ぐ』というのがある。単純な霊力不足だったらそれで解消する。が、霊力にも相性というものがあって、すんなりと受け入れられることもあればなかなか受け入れられないことも、反発することもある。
これまでに何人もに霊力を注いだことのある俺だが、ここまですんなり受け入れられたのは初めてだ。しかも循環するように彼の霊力が伝わってくる。
ひとつになる。俺達はひとつだった。やっと逢えた。やっと戻った。
そんな思いにとらわれる。愛しくて、愛おしくて、ますます大切にしたくなる。
しばらく抱き締めて霊力を循環させているうちに彼は落ち着いた。ふ、とチカラが抜けたのがわかった。様子をうかがうと目を閉じていた。―――眠っている。
少し口を開いてあどけなく眠る姿に、言いようのない充足感を感じる。かわいい。愛おしい。閉じた瞼からこぼれた涙を指でぬぐってやる。そっと頬を撫で頭を撫で、髪を梳く。
隣に座ってただ彼の髪を梳く俺に「―――オイ」と声がかかった。
「説明しろ」
「なにがあった」
「コイツは何だ」
代表して伊佐治が問いかけてくる。誰も彼も威圧を向け、ピリピリしている。
「この子は」
髪を梳き撫でながら、眠る彼を見つめたままポツリと答えた。
「親父にとっての母さん」
「俺の唯一」
「―――は?」「え??」
それまでの威圧をどこかに置き忘れ、ポカンとする面々に顔を向け、告げた。
「俺、『とらわれた』」
「『静原の呪い』に、かかった」
◇ ◇ ◇
大絶叫を上げる連中を「起きるだろうが!」と殴り飛ばし、彼の周囲に防音結界を展開。これで騒がしくしても寝られるだろう。
「え。なに。ヒデが玄治みたいなことしてる」
「あんな一瞬で『とらわれる』もんなのか」
「壮年でも『とらわれる』のか」
ザワザワと言う連中を放置して上掛けを持ってくる。ソファに横になる彼にかけ、ポンポンと叩く。少し表情がやわらいだ。気がする。
こいつらは俺が生まれる前からの付き合いで、若いときの親父と母さんを知っている。親父の実家の静原家に伝わる『静原の呪い』のことも、そのためにふたりが結ばれたことも。
だからあんな簡単な説明で一応は納得してくれた。
「『魅了』じゃないのか?」「精神干渉じゃないのか?」問いかけに「違う」と断言する。
「ただ『とらわれた』」「理屈じゃない。魂が『このひとだ』と言う」そう説明すれば「玄治と同じこと言ってる!」と連中は驚いていた。
「要は『番』だろ」
「良かったわねヒデ!『番』に逢えて!」
「『番』って大抵同年代になるって聞くけどな?」
「あれじゃないか? ホラさっき言ってた『自衛できるだけの能力が発現する前に喰われてたんじゃないか』って話。ヒデと同年代で生まれたけど幼いときに喰われて死んで、転生してきたんじゃないか?」
「成程それなら計算も合うな」
「けど雄同士じゃあ子は望めないなあ」
「いや『番』に逢えただけでも僥倖だよ」
「え??」
「「「『え?』?」」」
疑問を浮かべたのは暁月。蛇の妖魔で、今は人間の女の姿を取っている。その暁月が長い黒髪を揺らし首をかしげた。
「この子、女の子でしょ?」
「「「え??」」」
俺を含めた男達は首をかしげる。女の子? この子が?
「いやだって一人称『ボク』だったぞ?」
「女性の一人称が『ワシ』とか『オイ』とかだった地域や時代だってあったわ」
「声も低めで……」
「まだ女性の範囲内だったわ?」
「見た目が……」
「だから、その『見た目』をよく見てごらんなさいよ」
そう言われ、改めて青年の顔を見る。………あれ? こんなにやわらかな顔つきだったか? 眼鏡ないからか?
―――眼鏡?
―――!
「―――ああ!」「そうか!」俺以外も気が付いた。
「認識阻害の眼鏡の効果で男に見えていたと、そういうことか!」
「多分ね」と暁月が言う。
「けど私は最初から女の子に見えていたわ」「もしかしたらパッと見た印象とか深層心理とかが性別を判断させるのかもしれない」「今の時代に『ボク』と呼称されたら『男の子だ』と思うひとのほうが多いから」「それでも男の子と女の子だったら、女の子のほうが狙われやすいのは事実」「だから、わざと男の子に見えるよう認識阻害をかけていた可能性もあると思うわ」
「そのへんは道具屋さんに聞かないとわかんないけれど」と暁月は話をまとめた。納得しかない。
マットから「男」と聞かされていた俺。俺が「連れて帰る」ならば「男だろう」と無意識に考えたウチの男連中。その『思い込み』がこの子を「男」と見せていたんだろう。
暁月が惑わされなかったのは多分蛇だからだな。
蛇はニオイに敏感だ。蛇の妖である暁月もニオイにはうるさい。それで女の子だと判断したんだろう。
「とはいえ一応確認しときましょ」と暁月が彼――いや、彼女? にかけていた上掛けをはがし、止める間もなく股間を触る。
「ついてない。女の子」
「うぉい!!!」
セクハラに怒りを向けているのは俺だけ。他の連中は「雌だ!」「子供ができる!」と大喜び。
「阿呆か! こんな子供に手を出すとか、犯罪だろう!」思わず叫んだが連中は「関係ない!」と聞かない。
「昔はこのくらいの年齢の差だって普通にあった!」
「『静原の呪い』にかかったんだろ?『とらわれた』んだろ? ならいいじゃないか」
「玄治と同じだとしたら、おまえもう離れられないぞ」
口々に好き勝手なことを言われる。
「本人の意思を無視するな!」と怒鳴れば「それもそうか」とようやく止まった。
「じゃあ明日からがんばれよ」
「堕とせ! 嫁になってもらえ!」
「もちろん私達も協力するわ! まかせて!」
「協力!? なにすればいい!?」
「まずはおいしいごはんで胃袋をつかんで。私達に慣れさせて。そうだ。霊力操作の訓練してあげなさいよヒデ。自衛にもなるだろうし、ふたりの距離が縮むわよ!」
「おお! それはいい考えだ!」
やいやい言われ、頭を抱えた。
◇ ◇ ◇
彼女をどこで寝させようか相談し、結局はそのままソファで寝させることにした。アメリカンサイズのソファは十分ベッドとして使える。
明日からはどうしようかと話し合い、物置にしている部屋をひとつ開けて彼女の部屋にすることを決めた。明日は大掃除だ。ベッドも買ってこないと。
妖達にも最初は個室を用意していた。そのためにこの広々としたマンションを契約した。が、結局はそれぞれの居心地のいい場所に巣を作り寝床を作り休んでいる。外の樹の上とか。部屋の隅っことか。
結果的に余った部屋には研究室から持ち帰ったガラクタや読み漁った本や論文を押し込んでいる。三十年分の地層を崩せば一部屋くらい作れるだろう。
そこまで決めて今日は解散とした。明日から忙しくなるぞ。
シャワーを済ませて自室に戻る通り道。ソファで眠る彼女が目に入った。
そっとしゃがみ、目の高さを合わせる。すうすうと穏やかな寝息を立てている。寝顔からは落ち着いているように見受けられる。よかった。
「たとえ『番』でも裏付けはとるべきだ」大鷲の妖の久十郎が言った。
「本人が語ったことが本当なのかどうか。背後関係はないのか。眼鏡をもらったのは道具屋と言っていたが本当か。他のモノとの関りはないか。念には念を入れて調べなければ、安心できない」
「ヒデの『番』を疑っているわけではない。警戒はしているがな」「ただ、本人も知らぬところで危険の糸をつかんでいる可能性とてある」
「『番』を守るためにも、おまえと我らを守るためにも、調査は必要だ」
久十郎の言葉はいちいちそのとおりで、普段ならば俺が言っていただろうことだった。
それが理解できるから急かされるままに義弟に電話をし、調査依頼を出した。『静原の呪い』のことは言わず「ちょっと縁があって面倒をみることになった」とだけ伝えた。結果が出るまでに数日かかるだろう。
そっと頬に触れてみる。やわらかな感触は男ではないと伝えてくる。
マットが「食が細い」と言っていたが、男と思っていたのが女性だったならばそりゃ食えないわ。しかもマットもマットの奥さんもアメリカンサイズの食事が『普通』とくれば、一般的な日本人女性の食事量は心配になるレベルだろう。なんか色々納得した。
身体が細っこいのも当然だ。女性なんだから。よく今までバレなかったな。本人も意識的に男と思わせるようにしていたのか?
また明日から色々聞いてみないとな。そう考えながら彼女の頬を撫でた。
幼い表情。張りのある肌は若さを主張する。
―――若いなあ―――。
撫でながら、思う。
―――俺が手を出しちゃ、駄目だ。
こんなオジサンではこのひとに釣り合わない。そもそも恋愛対象になり得ない。
年齢が違いすぎる。それは伴って価値観が違いすぎる。必要とするものも、生きる速度も違う。
彼女は『これから』を生きるひとだ。これから色々な人間に出会って、色々な体験をして、経験を重ねて成長していくひとだ。
かたや俺は人生折り返し地点。これからは老いていくことを考える世代。新しいことにチャレンジするよりも、これまで築き上げてきたものをまとめ集大成としていくことを考えなければいけない世代。
俺に付き合わせるわけにはいかない。
彼女の進む道を邪魔するわけにはいかない。
「『番』だ!」と連中は喜んでくれたが、実際『とらわれた』あの瞬間は魂が揺さぶられココロが浮き立ったが、シャワーを浴びて冷静になったら―――とても、『男女として結ばれる』なんて、できない。
このひとには『これから』がある。光り輝く未来がある。恋するならば同じ年頃の男とするのが当たり前で健全だ。俺の出る幕なんてない。
―――あと三十年、遅く生まれていたら―――
―――あと三十年、彼女が早く生まれてくれていたら―――
『たられば』なんて意味がない。いつもそう言ってきた。なのにそんな言葉が胸に浮かぶ。
同世代だったならば。もっと早く逢えていたならば。
日本刀の付喪神の定兼がさっき言っていた。「幼いときに喰われて死んで、転生してきたんじゃないか」その話は妙に納得できるもので、だとしたら俺は前世のこのひとをみすみす死なせてしまったということで。
鬱々とした考えに陥っていることにハッと気づき、首を振る。考えるな。考えてもどうにもならないことは考えるな。親父に、母さんに、じいちゃんに言われてきただろう。「目の前のことをそのまま受け入れろ」「『たられば』など所詮仮定の話」「起きた現実を受け止めろ」「受け入れ受け止め、対処しろ」
そうだ。昔のことは考えるな。それこそ精神系能力者で『視る』ことに長けた母さんならいざしらず、俺にはこのひとがどんな経緯でここにいるのか知る手段はない。
『落人』でも捨て子でも、なんらかの理由で両親を喪ったのだとしても、このひとが生きてここに――おれのそばにいる、それだけが事実であり重要なことだ。
このひとがどう生きどう暮らすのがこのひとにとっての『しあわせ』か。
俺が考えるべきは、それだけだ。
そこに『俺』を介入させてはいけない。
当然だ。こんな三十歳も年齢の離れた男など、恋愛対象になり得ない。良くて保護者。もしくは親しい知り合い。悪ければ「自分を性的対象として見る変質者」扱いになって毛嫌いされる。それは嫌だ!
―――こうして触れているだけで満たされる感覚がする。霊力が循環するのがわかる。魂が震えている。
きっと若かったならば襲い掛かってむさぼりついているだろう。けれど幸か不幸か五十のオッサンになってしまった。そんな欲も情熱も今はもう無い。
ただただこのひとの『しあわせ』を祈るのみ。彼女が健やかであるように。つらい思いをしないように。明るい道を笑顔で歩めるように。
そのための障害があるならば俺が取り除く。彼女に気取られないように。先回りして、暗躍して、彼女の進む道を平らに均す。
きっとそれが俺の役割。
そのために今、出逢った。
このひとはきっとこれからの世の中を支える人材なのだろう。その進むべき道を違うことなく進めるように俺という守護者を配したのだろう。
過去の神仏などと関わった経験が、『視る』ことに長けた母親がいることが、俺にそう思わせる。
きっと同年代だったならば、もっと若かったならば、愛欲に負けて溺れていた。そう理解できる。それほど魂が相手を求める。魂が震えるのがわかる。
けれど五十一歳ともなると若いときの色欲は落ち着いてくる。俺は元々そっち方面は淡白だったからなおさら。
だから、このひとに抱く想いに色欲はない。ただ『しあわせ』にしたい。明るく正しい道を、希望にあふれた道を進んで欲しい。
それだけ。ただ、それだけ。
庇護欲とも違う。保護欲とも独占欲とも違う。
ただ、このひとの『しあわせ』を願う。
きっとそれが『今の俺』の愛情なんだろう。親父が母さんに向けるものから熱を取ったカタチなんだろう。
出逢えた。とらわれた。
それだけでいい。それ以上を望むのは強欲というものだ。
彼女の進む道の邪魔になるものはすべて俺が取り除く。それがたとえ俺自身でも。
大切なことはこのひとの『しあわせ』だけ。このひとが『しあわせ』に生きられることだけ。そのためならば万難を排する。
真っ暗な部屋の中。規則正しい寝息を聞きながら、俺はひとり決意を固めた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
いつもどおりに修行をこなしたあと、連中に昨夜固めた決意を語った。
「おまえはそれでいいのかよぅ……」
情けない声で言う伊佐治に「いいよ」と笑う。
「年齢の差を考えろよ」「親子じゃないか」「そんな相手とどうこうなろうなんて、考えるほうが間違ってるだろ」
「そんなことない」「『番』じゃないか」「百年二百年差があるヤツらだっているじゃないか」
「それは妖の世界の話だろ」「あの子は人間だよ」「俺もな」
「ヒトの世界で生きてる人間なんだから。ヒトの世界の理で生きなければ」「そうだろ?」
「妖には妖の理があるように、人間には人間の理がある」
そこまで言えば長く生きてきた連中は口をつぐんだ。
「―――俺は、死ぬまであの子を守る」
俺の宣誓に連中は黙り込んだ。
「出逢ったから。もう離せないから。俺のすべてで、あの子を守る」
「あの子の行く先が『しあわせ』であるように。あの子の進む道が明るいものであるように。
俺の全力で、あの子を守る」
黙ったまま、気まずげに、物言いたげにする連中に、ちょっと笑いかけた。
「お前達と同じだよ」
「お前達だってずっと俺を守ってくれてきたじゃないか」
「こんな異国にまでついてきてくれて。昔馴染みとわかれて、右も左もわからない場所で導いてくれてきたじゃないか」
「同じだよ」
これまで五十一年、ずっとそばにいてくれた。ガキの頃から導いてくれた。守ってくれて、共に戦ってくれた。この国についてきてくれたことがどれほど心強かったことか。そばにいてくれたことがどれほどありがたかったことか。
俺が折れなかったのはこいつらのおかげ。ここまで歩いてこれたのはこいつらが支えてくれてきたおかげ。
ずっとそばにいてくれた。
ずっと守ってくれていた。
そのおかげで、今の俺は在る。
「ありがとな」
感謝を込めてそう告げた。
そっぽを向くヤツ。ボロボロ涙を落とすヤツ。拳を握り込むヤツ。色々。色々。
「お前達が俺にくれたものを、そのままあの子に渡す」
「お前達がくれたたくさんのものを、あの子にそのまま注ぐ」
「それだけだ」
「なにもおかしなことじゃないだろ?」
ニヤリと笑う俺に、連中はなにも言わなかった。
「そういうわけで。俺はあの子を全力で守る。―――協力してくれ」
そう言って立ち上がり、キチンと頭を下げた。
「わかったよ」「仕方ないな」などと言いながら五人とも了承してくれた。
あやかし達の感覚を説明すると
長年飼ってたオス猫がメスの子猫を連れて帰った
オス猫がメス猫をめっちゃ気に入ってる! これは子猫が期待できる!
ウチの子の子供、欲しい!
という感覚です
あやかし達は人間と比べて長命なので、あやかし達にとってヒデは人間から見た飼い猫のような感覚です
次回は6/3(火)投稿予定です