【番外編2】神宮寺桐仁の奮闘 7
暴力シーンがあります
苦手な方はお気をつけください
六年生になった。
双子は年中さんになった。
相変わらずぼくら三人は黒陽さんに修行をつけてもらっている。
毎日のランニングは障害物を避けながら走るパルクールランニングになった。あまり人目につかないようにって言われたからパルクールな動きは山に入ってやってる。
腕立て伏せも腹筋もかなりできるようになった。縄跳びも学年で一番になった。
「そろそろ次の段階にいこう」って黒陽さんが決めた。
ゴールデンウィークはまた毎日修行をした。今度は兄がいないからと「きりちゃん泊まって!」って双子が誘ってくれて、お言葉に甘えて泊めてもらった。
お姉ちゃんがトモさん達と暮らしてるおうちの一部屋を貸してくれた。久しぶりにお姉ちゃんと一緒にいられてうれしい。
今年のゴールデンウィークは「襲撃者の力を利用した護身術」の訓練。
しゃがんで相手の視界から消えて脛を蹴るとか。伸ばしてきた腕を取って投げ飛ばすとか。
「相手の力を利用して戦うんだ」「あくまでも『自分の身を守るための術』だ。自分から戦いにいくのはまた別だ」そう言って黒陽さんはいろんなことを教えてくれた。
時々トモさんや目黒くんが相手してくれた。「身体の構造を学べ」って座学もした。受け身も身についてきた。今年も充実のゴールデンウィークだった。
◇ ◇ ◇
ゴールデンウイークが終わって、運動会も終わってしばらくしたある日。
中学三年生になった兄が進路調査票を両親に出した。
兄は「ウチを継ぐ」から「高校はどこでもいい」って言った。けど両親は「ちゃんと考えろ」って言った。
「無理にウチを継ぐことはない」「おまえが本当にやりたいことがあるならばやりたいことをやればいい」「野球がしたいなら野球の強い高校を目指せばいい」
ぼくの両親はぼくたちのことをちゃんと考えてくれてるって、その言葉と態度でわかった。家業を押し付けることもできるのに、ぼくたちの希望を優先させようと思ってくれてる。ありがたいなあって思ってたら兄は「なんだよ!」って怒り出した。
「おれはもう『いらない』ってことかよ!」
なんでそうなるんだよ。
なんか兄は勝手に「ないがしろにされてる」とか思い込んでるみたい。意味わかんない。
「試合の応援も来てくれないし!」仕方ないだろうウチは仕事があるんたから。
「姉ちゃんのことばっかり!」それは二年前までだろう。今はトモさんに丸投げじゃないか。
「仕事場だっていつの間にか勝手に変わってるし!」それは兄には関係ないだろう。ていうか、あの変革期の騒動に気付いてなかったのか? そっちのほうが問題だと思うけど。
呆れてなにも言えないのを兄は「図星をさされたからなにも言えないのか!」とか言い出した。なにからツッコめばいいのかわからない。
「あのねえまきちゃん……」母さんが絞り出すように口を開いた。けどそれより早く父さんがキレた。
「ここまで馬鹿だとは思わなかった」
「どこまで自分勝手なんだおまえは」
ガッと椅子から立つ父さんが殴りかかりそうだったからあわてて止めた。
「離せキリ」って言われても離したら殴り合いになるだろ。
「ちょっと落ち着いて」母さんとふたりで父さんをなだめてたら兄はぼくに矛先を向けてきた。
「弱っちいグズのくせに、口出しするな!」
殴りかかってきた兄の腕をパッと取って背負投げで床にたたきつける。そのままくるっと兄の向きを変えてうつ伏せにして、腕を背中に固めた状態で拘束した。
最近の修行は実戦形式が多くて、向かってこられたら考えるより早く身体が動くようになっちゃってるんだよね。
ぼくらは「ちいさな子供が大人の襲撃者に対抗する修行」をしてるから、相手の力を利用してとか人体の仕組みを理解したうえでの動きとかを教わってる。だから兄程度は簡単に制圧できる。
けど兄にはショックだったみたい。ぼくが強くなってるって知らなかったんだな。毎日修行してるのも知らないだろうし。
「痛い痛い痛い!」って大袈裟にわめくから「暴れない?」って確認して拘束を解いた。
途端に兄は火がついたみたいに大泣きして暴れだした。ちいさな子供が癇癪起こしてるみたいな様子に、両親もおじいちゃんおばあちゃんも「放っとこう」って仕事に行った。
ぼくも兄にかまってる時間ないからさっさと自分の部屋に戻った。やることたくさんあるんだよ。
◇ ◇ ◇
しばらく兄は機嫌悪く黙っていた。食事は食べるけど家族と口をきかない。挨拶もしないし声をかけても返事もしない。「思春期だから」って大人はみんな「そのうち落ち着く」と静観の構え。
七月に入って野球部の最後の大会が始まった。
兄が「応援に来てくれない」って言ったからと母さんが時間をやりくりして応援に行った。差し入れもした。二回戦で負けて兄は野球部を引退した。
ウチのメインは賀茂茄子。だから夏は忙しい。
引退して時間がある兄に「収穫の手伝いしてくれるか?」っておじいちゃんが声をかけた。「受験勉強があるから無理には言えないけど」って。
ふてくされてた兄はそれでも「やる」って言った。
朝早く。ぼくも変革に関わってからなんだかんだと現場のお手伝いもしてる。この日も出荷のお手伝いをしていた。
収穫を終えた兄が「おまえなにしてんだよ!」ってイチャモンつけてきた。ウザ。
「見ればわかるだろ。伝票入力して出荷手続きしてんだよ」
パートのおばちゃん達が「きりちゃんがいつもしてくれてるのよ」って説明してくれたけどバカな兄は理解できない。
「いいから仕事してよ。茄子が傷む」
「ここに置いて」と指示したら、兄は不機嫌丸出しで乱暴に茄子のかごをを叩きつけた!
「槇範!」
すかさずおじいちゃんの叱責が飛ぶ。「野菜を粗末に扱うな!」
おじいちゃん、いつもはやさしいけど仕事には人一倍厳しいんだよね。
やさしいおじいちゃんしか知らなかった兄は唖然としている。パートのおばちゃん達は「あーあ」って感じで笑ってる。新しく来たアルバイトさんがやらかすたびにおじいちゃんこうなるから、ベテラン揃いのおばちゃん達には見慣れた光景だ。
おじいちゃんにガチで怒られて兄は黙っている。「返事は!」ってキツく怒鳴られて「はい」ってちいさなちいさな声を出して、そのままどこかに出て行った。
◇ ◇ ◇
「姉ちゃんが悪いんだ」
お盆の挨拶にトモさんと姉ちゃんが来た。
仏壇にお参りしてリビングで雑談してたら、突然兄が来てそんなことを言った。
全員がポカンとする中、トモさんの気配がビリッて変わった。ヤバい。戦闘態勢に入っちゃった。
トモさんはお姉ちゃんが一番。お姉ちゃんを悪く言うひとがいたら「抹殺する」って普段から言ってる。そんなトモさんに今の兄は爆弾だ。あわてて部屋から連れ出そうとしたけど、暴れながらも兄は叫んだ。
「姉ちゃんが具合悪いって言い出してからなんもかんもおかしくなったんだ!」「姉ちゃんが悪いんだ!」
「ちょっと黙って」って言ってもしゃべりだして興奮してる兄は聞かない。
「姉ちゃんのせいでおれはずっと我慢してたんだ!」
「黙れって」
だいたい兄がいつ我慢してたんだよ。いつでも自分勝手にやりたいことをやってたじゃないか。
父さん母さんが立つより早くトモさんが来た。
ガッと兄の口を片手でふさいで「黙れ」ってにらみつけた。
トモさん。威圧出てるよ。魔王みたいだよ? あとその調子だと兄のあご砕けるよ?
ガクブルになった兄をポイッと投げ捨てたトモさんはすぐにお姉ちゃんのところに戻った。顔色が悪くなって固まってるお姉ちゃんをひょいっと抱き上げ、簡単な挨拶を残して立ち去った。
その後は大人達が寄ってたかって兄に大説教をくらわせた。
「自分がうまくいかないのをひとのせいにするな」「自分の怠慢を棚に上げて」「変わるチャンスがあったのにそれを捨てたのは自分だろう」「傲慢」
「思春期だから」と目こぼししていたあれやこれやを大人達はぶつけた。「もう黙っていられない」と。
「ここで矯正しないと槇範はクズ以下になる」
言外に「おまえはクズだ」と言われて兄は怒った。けどぼくに制圧されて身動きとれないからいつもみたいに癇癪おこして暴れるとかできない。
結果、押さえつけられて説教され続けた。
兄から出てくるのは自分勝手な言い訳ばかりで、こんなヤツが兄なのかとがっかりした。ホントどこで間違ったんだろ?
その日の夜。
ちょっと遅い時間にトモさんが来た。
「槇範シメます」
大人に宣言した。
『質問も反論も受け付けない』って書いてあるこわすぎる笑顔に大人達はなにも言えずただうなずいた。
「キリも来い」って命令されてしぶしぶついて行った。
バン!
「な、なんムグ」
兄の部屋の扉を開けるなり兄の口に猿轡をかませ、あっという間に荒縄で縛り上げた。すごい。一秒も経ってないよね!?
「今度教えてやるからな」ってのんきに言ったトモさんは乱暴に兄を縛った縄をつかんだ。
「キリ」
差し出された腕に抱っこされたら、トモさんは窓から飛び出した。
ぼくはよくやってもらってるからもう慣れっこになったけど、縛られて不安定な状態で高速移動させられる兄はなんか泣き叫んでた。
そうして連れて行かれたのはいつものお姉ちゃんの家の道場。もう十時近いのに双子がいた。黒陽さんも。
ダン!
乱暴に兄を叩きつけたトモさん。
「おまえは罪を犯した」
「自分勝手な理屈で俺の妻を傷つけた」
いやもう大魔王ってこんな感じなんだろうね。
兄に向けられてるトモさんの威圧が周囲に溢れ出てて、体感温度が五度くらい下がってる気がするよ。
「まずはどちらが上かを骨の髄まで理解させる。そのために威圧は有用だ」
「物理的な立ち位置で上下関係を理解させるのも効果的だ。だからああやって対象者を転がして、自分は上から見下ろしているんだ」
黒陽さんが淡々と説明する。え? なに? 授業なのコレ?
はあ。今教わってる護身術の先の授業。襲ってきた相手に目的や依頼者を尋問する手順やコツを実践で見せると。
「ああなったトモは止まらないから。ならばせめておまえたちの学びに活かそうと考えたんだ」
合理的というかなんというか。
話をしている間にトモさんが兄の拘束を解いた。途端に逃げ出す兄。けれど次の瞬間には足首から鮮血が噴き出した!
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「逃げる機会をわざと与えておいてから逃走手段を奪う。上げて落とすことで絶望感を与えるわけだ」
「右足の腱を斬った。これで走って逃げることはできなくなった」
黒陽さんはあくまでも淡々と解説してくれる。双子は「なるほどー」ってうなずきながら聞いている。
倒れている兄の足元は赤い血溜まりが広がっている。錆びた鉄のようなにおいが鼻を突く。うう。気持ち悪い。
「これ、幼稚園児や小学生に見せるには衝撃強くないですか?」
「耐性訓練も兼ねている」
黒陽さんはあっさりと答える。そうですか。
「倫理観崩壊しますよ」
実の兄が血みどろで倒れてるのは、実の兄が百パー悪いと理解していても加害者が尊敬する義兄であっても気分のいいものじゃない。
それに幼児に暴力シーンを見せて余所で真似たら問題じゃないかな。
「そこはこれから教育していく」
「正しいこと、正しくないこと。やるべきこと、やってはいけないこと。そういう知識と倫理観を学ぶこともこれからのおまえたちには必要だ」
「今回のことはいいきっかけになった」と黒陽さんはのんきに話す。
「差し当たり今日はトモの実技の見学だ」
そう言った黒陽さんは双子に話しかけた。
「トモは槇範のために叱っているんだ。槇範がこれ以上駄目にならないように。
槇範はすっかり穢れ、堕落してしまっている。その穢れを清め根性を叩き直すためにはかなりきつい仕置が必要だ」
「ちょうどいいからおまえたちのために尋問の実演を兼ねて槇範を教育し直すことにした」
「滅多にない機会だ。しっかりと学ぶように」
「「はい!」」
「槇範の傷はあとで私が治す。だから心配しなくていい」
ぼくらもこれまでの修行中に、木から落っこちたりお互いのタイミングミスったりで大怪我することがあった。骨折れたり、ざっくり切ったり。それを黒陽さんがすぐに『治癒術』っていうので治してくれた。
だから兄がどれだけ痛めつけられても大丈夫だと黒陽さんは言うけど………本当に大丈夫かなあ??
ああなったトモさんを止める勇気はぼくにはないから静観するしかないんだけど。
「いざとなったら私が止める」
黒陽さんがそう言ってくれるなら、いいか。
そう話している間にトモさんはもう片方の足の腱を斬った。のたうち回って泣き叫ぶ兄の頭をつかみ、しゃがんだトモさんは自分の目の高さに兄の頭を持ち上げ、何事か話しかけている。
「たいていのモノは絶対的な暴力を振るってきた相手に恐怖する。その相手に至近距離から見据えられたら、魂レベルで恐怖が染み込む」
兄は目に見えてガクブルしてる。血みどろでわかんないけど、もしかして失禁してる?
そんな兄にトモさんはにっこりと微笑んだ。見えるぼくも恐怖で震えた。
「いかめしい表情や脅しよりも笑顔のほうが恐怖を与えられることがある」
「こちらが余裕を見せるほど相手は追い詰められていくものだ」
それからもトモさんは兄を文字通りなぶった。猫がオモチャで遊ぶように。わざと逃がしておいて足を折るとか。指を一本ずつ潰すとか。
そのたびに黒陽さんが解説を入れる。兄の阿鼻叫喚を前にして、こちらは淡々とした座学の雰囲気で、なんかもう感覚おかしくなる。
トモさんは痛めつけながら兄に絶望を与えた。いかに自分がダメな存在か。どれだけ周囲に守られていたか。淡々と骨を折り指を潰し淡々と言い聞かせられて、おごりたかぶっていた兄は死んだ。
残ったのは卑屈なくらいに謙虚になった兄。そこからは黒陽さんが兄に言い聞かせた。これからがんばれば取り返せること。なまけることなく実直に体力作りや勉強をすること。周囲に感謝すること。
「おまえがいい気になったりなまけたりしたら、すぐにトモが仕置に行くぞ」
その一声に兄は「ひいぃぃぃっ!!」と悲鳴を上げ「いい気になりません! なまけません! がんばります!」と土下座で誓った。
かくしてぼくらは尋問について学び人体について理解を深め、兄は傲慢な怠け者から謙虚な努力家へと変貌を遂げた。
両親も祖父母も兄には手を焼いていたから、あまりの変わりようにトモさんにとっても感謝していた。
「よく言い聞かせられたな」と言われたトモさんは「言葉を尽くしただけですよ」とシレッとしていた。ぼくはそっと顔をそむけることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
その後もぼくは黒陽さんに修行をつけてもらっている。パソコンの勉強もトモさんに指導されながら続けている。英語は事務のふたりと毎日使っているし、朝晩のトレーニングもがんばっている。
中学は地元の学校でなく、公立の中高一貫校に進学した。自宅からそこまで遠くなくてよかった。
受験して入ってきた生徒ばかりだからみんなすごく優秀で、先生達もそんな生徒の応援をしてくれる。設備も整ってるし、やりたいことをどんどんやれてすごく楽しい。
兄は農業系の大学への進学を見据えて、近くの高校に入学した。
あの日トモさんにシメられてからひとが変わった兄は、真面目に勉強をしトレーニングを続け農園の手伝いもしている。部活はやっぱり野球部に入った。勉強と手伝いと部活のどれもがんばっている。
ぼくを理不尽に怒ることもなくなった。謙虚になった兄とは最初ギクシャクしてたけど、最近ようやくお互いの距離感がつかめてきた気がする。
農園は変わらず伝統野菜を中心にあちこちから高評価をいただいている。事務のふたりがうまいことやってくれて、これまでだったら廃棄品になるはずの野菜の活用とか海外からの注文にも対応してる。
「自分達も助けてもらったから」と、あちこちからの見学依頼にも対応している。父も祖父も忙しそうだけど、それ以上にやりがいに燃えている。
そんな毎日を過ごしているうちにお姉ちゃんは『西村 竹』になり、両家の家族だけでお祝いをした。
お姉ちゃんがすごくうれしそうでしあわせそうで、ぼくもうれしかった。
お姉ちゃんは中学三年間ずっと具合が悪かった。そのせいで「根暗」とか「地味」とかのイメージが強くついてしまった。
けど結納で姿を現してから周囲の評価が変わった。
背の高いイケメンにわかりやすく溺愛されてしあわせそうな笑顔のお姉ちゃんを見たひとは「この娘こんなにかわいかったのか」と驚いた。さらにトモさんの噂を耳にし「そんな優秀な男が虜になるほど魅力的な娘だったのか」とさらに驚いた。
近所ではたまーに現れるお姉ちゃんとトモさんのことを「お姫様と王子様」って言ってるひともいるらしい。
そんな「お姫様と王子様」の結婚式はお姉ちゃんが二十歳になったひと月後、ふたりが初めて出逢った日に行われた。
枝垂れ桜に囲まれた会場に現れたお姉ちゃんはまさしく『お姫様』だった。綺麗すぎて言葉が出なかった。
トモさんもすごくかっこよかった。『王子様』というよりは『王様』ってかんじなのに、お姉ちゃんを目にした途端デレッデレの甘々になった。
ふたりが並んで寄り添う姿はお似合いで、ふたりはようやく結ばれたんだなってなんでか感じた。
お姉ちゃんはもう大丈夫。お姉ちゃんは『しあわせ』になった。
幼いあの頃。お姉ちゃんがどんどん弱っていって毎日不安だった。
いつかいなくなりそうで「どこにもいかないで」とすがった。
お姉ちゃんがいなくなったときには泣いた。かなしくてさみしくて泣いた。
どこにもいってほしくなかった。ずっとぼくのそばにいてほしかった。
でも。
お姉ちゃんは『しあわせ』になった。
尊敬する義兄がお姉ちゃんを『しあわせ』にしてくれた。
トモさんならばこれからもずっとお姉ちゃんを『しあわせ』にしてくれる。
だからもう大丈夫。お姉ちゃんはウチから出ても大丈夫。
大好きなお姉ちゃんと尊敬する義兄が笑顔で出口へ向かって歩く。ふたりとも満面の笑顔。周囲もみんな笑顔。泣いてるひとも泣きながら笑ってる。
満開の枝垂れ桜に包まれたふたりにぼくらは花びらをまく。祝福を込めて。
お姉ちゃんにすがりついていた幼稚園児の頃にはこんな未来があるなんて考えたこともなかった。
ぼくがこんな男になっていることも。
黒陽さんは言った。「地味でも。地道でも。単調でつまらなくても。退屈で飽き飽きしても。積み重ねれば、ふたりのようになれる」
まだまだトモさんにも晃さんにも及ばないけれど。ぼくもずいぶん成長した。
これからもぼくはがんばる。
大好きなお姉ちゃんに褒めてもらいたいから。
尊敬する義兄に少しでも近づきたいから。
ぼくの奮闘はまだまだ続く。
以上、竹の下の弟のお話でした
次回ひな視点をはさんで、【番外編3】は竹の上の弟のお話をお送りします
引き続きお付き合いよろしくお願いします