【番外編2】神宮寺桐仁の奮闘 3
夏休みが終わった。学校が始まった。
これまではお姉ちゃんは「療養に行ってる」だけで「いつか帰ってくる」と思ってた。それがもう「帰ってこない」ことになって、ぼくはすごくさびしくなった。
「さみしいときはこのウサギを抱け」お姉ちゃんを連れて行った張本人のトモさんが言った。
「竹さんの気配をしっかりと付けてもらったから」「俺も竹さんに会えなかったときは似たようなの抱いてた」
こんなカッコいいお兄さんが人形を抱いてる姿は想像できなかったけど、ウソを言ってるとは思えなかった。
だから、言われたとおりに大きなウサギを抱いて寝た。さびしくなったら抱きついた。話しかけた。そうしているうちに、さびしいのが段々と落ち着いてきた。
◇ ◇ ◇
そんなある日。
学校から帰ってリビングで宿題をしていたらトモさんが来た。
「大人で話があるから部屋で勉強してて」と母さんに言われた。けどトモさんが「別に秘密にしておく話じゃないんでしょ?」って大人に言って「いたいならキリもいてもいい」って言ってくれて、すみっこでこっそり話を聞いていた。
大人の話は農園のIT化の話だった。有名農園のIT化をしたのが「おまえの仕事って聞いたんだけど」って父さんが聞いたら「そうですよ」ってあっさり言った。
「とはいってもお手本と方向性の指示があったから。そんな難しい仕事じゃなかったですよ? ちょっと手間がかかったくらいで」
そういうトモさんに父さんが「嘘つくな!」って怒鳴った。
「おまえ今高二だろ!? 何歳のときの仕事だよ!?」
「中二の秋から」
トモさんはケロッと答える。
「ていっても、お手本もあったし、師匠が監修してくれたし」
「だからってそんな、中学生がIT化とかできるのか!?」
父さんは信じられないみたい。
「おれの知り合いでもIT化しようとして失敗したやつや断念したやつ、いっぱいいるぞ!?」
「だから、それは使い手の問題なんだって」
どこか呆れたようにトモさんは椅子の背もたれにもたれかかって腕を組んだ。
「まあ使い手が使いにくいシステム作るほうにも問題あるとは思うけど」
「でもやっぱり最後は使い手次第なんですよ」
そう言ってトモさんは父さん達から話を引き出した。『聞いた』じゃなくて『引き出した』。子供のぼくでもそれがわかった。
なんていうか、話の向け方がうまい。『話を聞いてくれる』っていう安心感というか空気感がある。まるで徳のあるお坊さんみたい。トモさん高校二年生って聞いたけど、話を聞いてる様子は落ち着いたおじいさんみたいに感じた。
帰る前に「トイレ借ります」って部屋を出たトモさんを追いかけた。トイレから出たところでトモさんをつかまえた。
「トモさん」
「キリ」
笑ったトモさんは「どうだった? 退屈だったか?」って聞いてきた。
「トモさんが聞くの上手で『すごい』って思ったよ」
正直に言ったらトモさんはちょっとびっくりしたみたいに黙った。
「………そこに気付けたか」
ニヤリと笑ったトモさん。ぼくを高評価してくれたって、なんか、わかった。
「学校でよく言われてる。『聞く姿勢が大事』って。『発表するひとの話をちゃんと聞きましょう』って」
なんかうれしくてつい余計なことを言った。でもトモさんは「良い先生についたな」って楽しそうに笑ってぼくの頭を撫でてくれた。
「『話術』っていうくらいでな。話し方、聞き方にコツがあるんだ」
「コツさえわかってたらキリでもできるぞ」
そんなことを教えてくれた。
「キリはゲーム作るの好きだろ?」
「うん」
「ゲーム作るのだって『話術』が巧みだったら有利なんだ」
「そうなの!?」
びっくり。ゲーム作るのはひとりでやることだからそんなの必要なんて考えたことなかった。
「俺、ついこの間までゲーム会社にカンヅメになってたんだけど」
「そうなの!?」
「うん」
そしてトモさんは教えてくれた。
「一本のゲーム作るのもたくさんの人間が関わってる。いくつものチームに仕事振り分けてそれぞれのベストを出させないといけない。
最終到達目標のビジョンを掲げて、そこに至るまでの工程表出して。それぞれの過程で問題がないか確認して、なにかあったら解決するよう導いて。
そういうときに伝わりやすい話し方や話を引き出す聞き方はとても有用だ」
なるほど。納得。
トモさんの話には説得力しかない。話し方もだろうけど、実際に第一線でゲーム作りをしてきたってわかる雰囲気がある。
「どうやったらそういうのできるようになる?」
なんとなく聞いてみたくなって、ちょっとためしに聞いてみた。
トモさんはちゃんと答えてくれた。
「多分、週末から俺よりもそういうのに長けたひとが来るから。なるべく一緒に話聞いて、どんなふうに話してるか、どんなふうに話を聞いてるか、観察してみたらいい」
「『観察』」
様子を見るってことだよね? それでできるようになるの?
そう思ったのはトモさんに伝わったらしい。ちゃんと教えてくれた。
「『観察』っていうのは、ただ見たり聞いたりすることじゃないぞ? どういうふうにしているのか、どんな意図で動いているのか、考えながら見たり聞いたりしないといけないぞ」
「要は分析だな」ってトモさんが言う。なんだか難しそう。
黙ってたらトモさんがさらに言った。
「それと、学校の国語をがんばってみな」
「国語?」
「案外役に立つ」
トモさんがそう言うならきっとそうなんだろう。
「先生達がどんなふうに話をしているかも参考になるかもな」って言うから「先生の話つまんないよ?」って答えた。
そしたらトモさんはニヤリと笑った。
「なんで『つまんない』のか分析してみな」
「話題が『つまんない』のか。間の取り方が悪いのか。結論出すタイミングが悪いのか。
そういうのを分析して改善策を見つけるようにしてみな」
………なるほど。
納得してたらさらにトモさんは言った。
「上手なひとは『いい教師』。上手でないひとは『反面教師』。どちらもおまえの『教師』になるよ」
◇ ◇ ◇
そうアドバイスされて、次の日から学校でいろんなひとが話すのを注意して聞いた。校長先生、担任の先生、友達。それぞれにいいところや改善したほうがいいところがあった。
土曜日にトモさんがお姉ちゃんを連れて来た。そこに一緒に来たのは結納のときにお手伝いに来てくれたお姉さんとお兄さん。
ひなさんというお姉さんがトモさんの言う『そういうのに長けたひと』だった。
大人がひなさんに話をするのを一緒に聞く。ひなさんは話をするひとの目をまっすぐに見ていた。
ぼくと話すときもちゃんと目を見てくれた。信頼できるひとは目が違うんだと思った。
「参考になれば」ってトモさんが本をプレゼントしてくれた。「これ読んで、それからまた周囲を観察してみな」
日曜日に本を読み込んで、月曜日に学校に行って観察してみた。本に書いてあったのはこういうことだって納得した。
◇ ◇ ◇
九月最後の土曜日。朝からお姉ちゃんとトモさんが来た。
「ちょっと早いけど、きりちゃん、お誕生日おめでとう」
そう言ってケーキを持ってきてくれた。
「あとでみんなで食べようね」って母さんが冷蔵庫に入れた。
「ところでキリ」
雑談が落ち着いたところでトモさんがぼくに言った。
「パソコンの勉強してみる気、あるか?」
「ある!」って答えたらトモさんはニヤリと笑った。
「じゃあキリの部屋に行こう」って、お姉ちゃんと三人で移動した。
一番最後に部屋に入ってきたトモさんは大きな箱をふたつ持っていた。
「なにそれ」
「パソコン」
「え?」
ポカンとしてたらトモさんは床に布を広げて、その上に箱の中身を出した。テレビモニタと、箱。
「タワー型のパソコン」
「は?」
ぼくが呆然としている間にトモさんはお姉ちゃんをベッドの上に座らせた。
「本読んで待っててね」ってやさしい声で言ったけど「私もトモさんのお話聞きたい」ってお姉ちゃんに言われてデレデレしていた。
そうしてお姉ちゃんに見守られながらトモさんからパソコンのことを教わった。
パソコン本体のカバーを全部外して中身を見せて「これがこれで、ここがこうで」「増設するときはここをこうして」って色々教わった。
トモさんが全部バラしてから説明してまた元通りに組み立てて「じゃあバラして戻してみろ」ってやらせてくれた。
思ってた『パソコンの勉強』とは違ったけど、こんなふうに中身を見ることなんてないからびっくりすることばっかりだったし楽しかった。
それからパソコンをぼくの机にセッティングした。トモさんがコードの種類を説明して、キーボードやマウス、モニタの取り付け方を教えてくれたあとはまたバラしてぼくにやらせた。
「これキリの勉強用に使え」って言われてびっくりした。
「俺が前に使ってたやつ。今はもっとパワーのあるマシン使ってるから、これは使わなくなったんだ」
「おさがりで悪いけど、勉強には十分だと思う」
「しっかり勉強して一人前になったら、パワーのあるニューマシンプレゼントしてやるからな」
『おさがり』って言ったって、そんな、パソコンなんて安いものじゃないでしょ。
もらってもいいのか、もらっちゃ悪いのかわからなくて「母さんに聞いていい?」って言った。
母さんも父さんもパソコン一台ポンと出してきたトモさんにびっくりしてた。「高価すぎる!」「お金払う!」「キリのおもちゃにするにはもったいない!」色々言ってたけど、結局トモさんに押し切られた。
「俺のおさがりだから」「今は使ってないマシンだから」「キリの誕生日プレゼントに受け取って」
お姉ちゃんも「トモさんが『きりちゃんのためになるもの』って考えてくれたの」って言ってくれて、それで父さんも母さんも受け取ることにした。
「ありがとう!」
やっと安心してトモさんにお礼を言った。トモさんはニヤリと笑った。
「礼を言うのは早い」
「これを使いこなすかただの置物にするかはキリ次第だ」
「今日からしっかり勉強しろよ」
そうしてまた部屋に戻った。
トモさんは「まずは基本な」って基本的なことを教えてくれた。
いろんな設定をしていく。インターネット回線につないで。Wi-Fiつないで。そのたびにそれがどういうものか説明してくれる。
ソフトも入れていく。やり方、ソフトの内容、インストールしたときのシステムの状態。メール設定もやった。トモさんのアドレスを教えてもらった。「なんかわからないことがあったら連絡しろ」って言ってくれた。
実践しながらの説明はとってもわかりやすかった。
時々お姉ちゃんがパンク寸前みたいな顔で質問してきて、トモさんはすごく丁寧に答えていた。
ぼくもわかっているつもりでわかっていなかったことを色々と教えてもらって、とっても有意義だった。
帰るとき、トモさんはぼくに宿題を置いていった。
トモさんオススメの本を「読んどけ」って渡された。
今日教えてもらったことが書いてあった。
なんか難しい本だったけど、トモさんに教わったことを思い出しながら読んだ。わからないところはトモさんに連絡したら教えてくれた。そうやって全部読んだ。
◇ ◇ ◇
「全部読んだの!? きりちゃんはすごいねぇ!」
次の土曜日。お姉ちゃんが褒めてくれた。「えらいえらい」って頭をなでてくれた。すごくうれしかった。
「じゃあ次。これな」
トモさんは次の本を持ってきていた。
説明してくれながら本を読む。実践する。
「先週の本と今日の本、来週までに三回ずつ読んどけ」
難しいところも多いけど、すごく勉強になる。
一生懸命本を読んだ。
父さんか母さんに聞いたのか、ある日兄がぼくの部屋に来た。ちょうどパソコンをいじってるときで、急にドアが開いてびっくりした。
「ずるい!」「なにおまえだけそんな高いものもらってんだよ!」兄が大騒ぎした。
「誕生日プレゼントにトモさんがおさがりくれたんだよ」って言ったけど兄は地団駄踏んで怒った。「おれにはなにもくれてない!」「えこひいきだ!」
騒ぐ兄に父さん母さんが駆けつけた。
「マキの誕生日はもう過ぎてるだろ」
「マキは結納の日しかトモくんと会ってないじゃない」
「これは『キリの勉強用に』って持ってきてくれたんだよ」
「おまえもやっぱりパソコンの勉強したいのか?」
「したいなら買ってやる」と言われて兄は「そうじゃない!」ってまた怒った。
めんどくさい兄にみんなでため息をついた。
「兄ちゃんは『えこひいき』とか言うけど、確かにトモさんはぼくに良くしてくれてるけど、それってちゃんと兄ちゃんにも聞いてるだろ?」
「部屋のことだってぼくより先に兄ちゃんにどうするか聞いてたし。パソコンのことだって勉強したいか聞いてただろ?」
実はトモさんは父さん母さんに事前にちゃんと聞いてた。
あの引っ越しの日にぼくが「ゲーム作りに興味ある」って言うのを聞いて「じゃあパソコン関係教えてやろうか」って思ってくれた。
でも「保護者に許可取らないで勝手に教えるのはマズい」って配慮してくれて、父さん母さんに話をしてくれた。
「槇範くんとキリがパソコンの勉強したいなら教えますよ」って。
兄まで名前を出したのは、兄弟の片っぽだけに話を持っていくと「不公平だ」って怒ると知ってたから。それに「ひとり教えるのもふたり教えるのも同じだから」って。
で、その日の夜ごはんのときに父さんがぼくらに聞いた。「トモが『パソコンの勉強したいなら教えてやる』って言ってるけど、どうする?」って。
兄は「なんでおれがそんなことしないといけないんだよ」って言って「やらない」って答えていた。ぼくはもちろん「やりたい!」って答えた。
で、父さんからトモさんにお願いしてくれて、最後にトモさん本人がぼくに意思確認して、ぼくはトモさんからパソコン関係を教わることになった。
トモさんはちゃんと筋を通してくれてるし、ぼくらの意思を尊重してくれてる。
押し付けることはしない。ぼくらだけでなく両親にも配慮してくれてる。
両親はぼくが「パソコンの勉強したい」なら勉強用のパソコン買うつもりだった。それをトモさんが「おさがり」「誕生日プレゼント」ってくれて、とっても恐縮してたし感謝してた。
両親もぼくもそんな高価なものもらうつもりなかった。そんなつもりで「パソコン習う」って言ったんじゃない。パソコンくれたのはあくまでもトモさんの好意。パソコン教えてくれるのもトモさんの好意。
ほんとは授業料払って習いに行くってぼくだって知ってる。両親だって知ってる。それをトモさんは「自分もそうやって育ててもらったから」ってなにも受け取らない。
「キリは恩人だから」「恩返しだと思って受けてくれよ」「キリが迷惑ならやめるからな」って。
トモさんは「恩人」というぼくだけでなく兄にもちゃんと選択権を与えている。両親だって兄にちゃんと確認している。
それを「いらない」「やらない」と選んだのは兄自身だ。
「兄ちゃんは『パソコンの勉強しない』って言ったじゃないか」
「だからトモさんはぼくにだけパソコン用意して色々教えてくれてるんだろ?」
トモさんを真似て理路整然となるように言ってやった。うまくできたかな?
両親はウンウンって納得してるけど、バカな兄はさらに怒り出した。
「パソコンもらえるなんて思わないじゃないか!」
「パソコンなくてどうやって教わるんだよ」
呆れてそう言ったら殴られた。
ぼくを殴った兄は父さんに殴られていた。
◇ ◇ ◇
次にトモさんが来たとき、お姉ちゃんがトイレに行ったときに「殴られた」ってぐちった。
「まあ予想はしてたけど」ってトモさんはぼくの頭をなでてくれた。
「俺の配慮不足だな。ごめんな」
「トモさんは悪くないよ。あの兄がバカなんだよ」
怒ってそう言ったけどトモさんは笑うだけだった。
「キリが望むなら、そっち方面も鍛えるぞ」
意味がわからなくて「え?」って聞き返したら、トモさんはどこか意地悪そうにニヤリと笑った。
「槇範くんなんか歯牙にもかけないくらい強くすることは、できる」
「ただし、それには覚悟が必要だ」
「続ける覚悟。諦めない覚悟。やり遂げる覚悟」
「どうする?」って聞かれた。
ちょっと考えたけど………覚悟が、つかない。
「………今はパソコンの勉強でいっぱいだから………そっちは、保留で」
そう答えたらトモさんは「了解」って笑った。
「覚悟が決まったらいつでも言え」
トモさんはかなり気遣いのひとなので、ぼくの愚痴のせいで母さんにフードのついた冬用の上着を一枚渡した。
「俺にはもうサイズが合わない」「よかったら槇範くんに使ってもらってください」
母さんは恐縮してたけど「槇範くんが気に入らなかったり着られなくなったらキリに」って言われて受け取った。
「トモくんから」と上着を渡された兄は上機嫌で受け取っていた。トモさんにお礼も言わないで。
◇ ◇ ◇
九月の半ばにひなさんが来たあとから、父さん達はあちこちに行っていた。いろんな農場の見学に行かせてもらっては四人で話をしている。
大人が話をした内容を母さんがまとめた紙をクリップてとめて置いていた。「ぼくも見てもいい?」って聞いたら「いいよ」って言ってくれたから時々見た。
母さんはひとの話をよく聞いてるんだって知った。聞いた話をまとめるのも上手なんだって初めて知った。
感じたことをトモさんに話したら、トモさんもお姉ちゃんも褒めてくれた。
「なにかに気付くことができるのも『才能』だ」
「キリはいい『才能』を持ってるな」
トモさんはそう言って頭を撫でてくれた。
「誰かのいいところやすごいところに気がつけるのも、それを『すごい』って認められることも、とても素晴らしいことよ」
「きりちゃんはすごいねえ」
お姉ちゃんもそう言ってうれしそうにぼくを撫でてくれた。
「せっかく気付くことができたんだから、それを本人に伝えてあげな」トモさんがそう言った。
「大人だってジジイだって、認めてもらって褒めてもらったらうれしいもんだよ」
そうアドバイスされたから、その日に母さんに言った。「母さん話まとめるの上手だね」って。
「そう?」ってそっけないふうに答えてたけど、母さんが喜んでるのが伝わってぼくもうれしくなった。
ああ。トモさんの言うとおりだな。
「すごいね」「素敵だね」って伝えたら喜んでもらえる。喜んでもらえたらぼくもうれしい。
そう気が付いて、それからはちいさなことでも気が付いたことはなるべく口に出すようにした。みんなが喜んでくれるからぼくもとってもうれしかった。
「『すごい』と思ったひとの真似をするのもいいぞ」トモさんがアドバイスしてくれた。
「真似をすることでその技術や発想を身につけることができる」
「どんな些細なことでも、おまえのココロを動かしたものはすべて尊敬に値するものだ」
「真似する価値のあるものだ」
トモさんの意見は納得しかない。早速母さんが話をまとめるのをまねしてやってみた。わかりやすくまとめるのって難しいってわかった。母さんにそう言ってぼくがまとめた紙をみせたら「よくできてるよ」と褒めてくれた。「ここをこうしたらどう?」ってアドバイスをくれた。
家でも学校でもそんなふうにして過ごした。誰がどんな話をしているかよく聞く。わかりやすい話は『なんでわかりやすいのか』、面白くない話は『なんで面白くないのか』考えながら聞く。ひとのよかったところ、素敵なところは口に出して褒める。どうやったらできるのか教えてもらう。
ぼくがやってることなんてホントにちいさなことばかりだけど、なんだかまわりがニコニコしてることが増えた気がする。
「なんだかみんながニコニコしててうれしい」って言ったらいろんなひとが「桐仁のおかげだよ」って言ってくれた。
そうかな? そうならいいな。
なんだかうれしくて、エネルギーもらった気分。
これからもがんばろうって思った。
◇ ◇ ◇
そうしてまたひなさんが来た十月の終わり。父さんはひなさんとトモさんにお仕事をお願いした。
そのときにはトモさんがいろんな勉強をさせてくれていて、アドバイスもいっぱいくれていて、ぼくの知識も増えていた。
トモさんがひなさんに言われて機材選定するのを横で見ていた。
あとでトモさんが「キリの考える機材選定してみろ」って言ってぼくにもやらせた。考えないといけないことがいっぱいあるって気が付いた。
父さん達はIT化を進めることを決めた。
機材も本気で選んだ。トモさんは学校が終わったら毎日ウチに来るようになった。
ぼくに教えてくれながらいろんなものを設置していく。電波の確認、コンセントの確認、配線の確認、あらゆる確認を一緒にさせてくれる。わからないことを聞いたらすぐに教えてくれる。
そうして知識を深めながら、我が家の変革にたずさわった。