表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
474/572

【番外編1】神宮寺祥太郎の嘆き 14

 月曜日に安倍家で話し合いをし「トモの両親が帰国したら顔合わせと結納をする」ことを決めた。

「細かいスケジュールや進行はまかせてほしい」と言われていたので連絡を待っていた。


 水曜日に神野の家に挨拶に行った帰り、トモに「両親が明日帰国する」と聞いた。

「明日竹さんを両親に会わせる」というトモに「スケジュールが決まったら早目に連絡くれ」と頼んだ。



   ◇ ◇ ◇



 翌日。木曜日。

 目黒くんのお手伝いは土曜日までとなることが決まった。


「夏休み中お手伝いするつもりだったのに、すみません」

 申し訳なさそうに目黒くんが頭を下げる。


 なんでも急に問題が発生したらしく、そちらに対応するよう主座様命令がくだったという。

「一番大変なときに助けてもらったよ」「ウチはもう大丈夫だから」「今までありがとう」そう感謝すれば「良い経験をさせていただきました。ありがとうございます。最後までがんばらせてください」と丁寧に頭を下げてくれた。

 どこまでも気持ちのいい青年に「がんばってね」とエールを送った。



   ◇ ◇ ◇



 目黒くんを送って娘に会いにいくと、出迎えてくれたのは黒陽だった。

 娘は「疲れて寝ている」という。

 午前中にトモのご両親と初対面したのがうまくいかなかったのかと心配していたらトモが顔を出した。


「どうだった?」と聞けば「まあ予想通りです」とため息を落とす。


 トモのご両親は市内のホテルに滞在しているという。

 トモの祖父母――父親の両親が健在のときはそちらに帰っていたが、祖父母が亡くなり、トモもこの安倍家の離れに詰めている現状「自分達で衣食住を整えるのはめんどくさい」と父親がホテル滞在を決めた。


「例のお寺の叔父さんのところは?」

「寺は今の時期、多忙を極めています」

「『こき使われたくない』と親父が逃げやがりました」


「この盆時期によくホテル取れたな。事前に予約してたのか?」

「大手ホテルはセレブが突然やってきたときに対応できるようにと特別室をいくつか空けています」

「そういうところなら警備もしっかりしていますしね」


 ……………。


「………なに? ご両親、セレブなのか?」

 たずねれば「聞いてませんか?」とトモが説明する。


「ただの研究者ですよ」

「『ただの研究者』がどうして高いホテルに飛び込みで泊まれたり警備の心配したりするんだよ」

 そうツッコめばトモが説明してくれた。


「親父は物理学、お袋は数学の研究者です」

「まあそれなりに成果をあげてます」

「親父もですが、どちらかというとお袋があちこちから狙われてまして」

「デジタルシステム全盛の今の世の中、数学は案外有用なんですよ」

「で、お袋をさらおうとするやつが定期的に湧くそうです」


「なので、お袋は常に護衛がついてます」

「正確には護衛兼助手兼世話役ですね」

「お袋、生活能力皆無らしいんで」


「本人は『やってみたらできるかもしれない』と言っているそうです。が、親父がやらせません」

「正直そんな時間ないらしんで」


 なんだかとんでもないひとのようだ。

「写真とかないのか」と聞いたらどこかの研究所のホームページを出してきた。英語ばっかりでなに書いてあるか全然わからない。

「これです」と見せられた写真の男はウチの親父と同年代に見えた。

 逆に母親だと示された写真は高校生か大学生にしか見えなかった。


「言ったでしょう? 親父が『静原の呪い』に『とらわれた』って」

「歳の差にもかかわらず結ばれたらしいです」


「何歳?」と聞けば「親父が七十、お袋が三十八です」と言う。

一歳(いっこ)下!?」「うそ!?」

 トモの母親はおれ達と同年代だった。どう見ても二十歳くらいにしかみえない。

 そして父親はウチの親父よりも歳上だった。とてもそんなふうに見えない。

「え。七十歳って……古希!?」「見えない!」

 せいぜい六十歳くらいだろう。

「ていうか………三十二歳差………?」

 一体どんな夫婦なのかと呆然としていたら、トモが「信じられないでしょう?」と苦笑で言った。


「それが『静原の呪い』です」




 そんなとんでもないご両親に娘は会いに行った。

 場所はご両親が泊まっているホテルの部屋。応接室完備の部屋だったので問題なかったと。なんだそれ。ドラマとかで観たセレブルームじゃないか。


 ガッチガチの娘はトモと黒陽と三人でトモのご両親に対面した。

 ザッと話を聞いていたというご両親は娘を大歓迎。特に母親が娘を気に入りあれこれと構い倒したらしい。

 で、気を張っていた娘は帰宅した途端ダウンしたと。


「熱はないんで。ちょっと寝たら大丈夫だと思います」

 トモがあっさりと言う。こいつが言うならそうなんだろう。

 なんだかんだすっかりこいつを信用するようになってしまったなあと自分でおかしく思いながら黒陽をチラリと見る。黒陽もウンウンとうなずいている。なら間違いないだろう。


「で、両親の時間もぎ取りました」


 来週の水曜日が大安だから「この日に結納したいね」と明子さん達と話していたというトモがご両親の時間をもぎ取ったと。

「アキさんには報告済です」

「夕方あたり詳細スケジュールの連絡があると思います」


 それまでにご両親に挨拶しなくていいかたずねたが「顔合わせと結納の時間を確保するのにスケジュールを詰めたので、ちょっと無理ですね」と言われた。

「本来はじーさんばーさんの法要のために帰国したんですけど、『帰国するならついでに』ってあっちこっちから声がかかったらしくて。けっこうタイトなスケジュールで帰国してました」


 今日帰国直後に会いに行ったのも、長距離移動直後は体調を崩すかもしれないからと休養に充てていた時間しか空きがなかったからだという。大変そうだな。

「そちらよりはウチのほうが動けるだろうから、そちらの予定に合わせるよ」と言えば「ありがとうございます」とトモが笑った。

 めずらしく素直な笑顔だった。



   ◇ ◇ ◇



 トモの言うとおり、夕方明子さんから連絡が来た。

 来週の水曜日の午前中に我が家で結納、移動して昼食を食べて解散と決まった。


 翌日離れにうかがえば明子さんと安倍弁護士が資料を揃えて待っていてくれた。

 トモと娘と黒陽と一緒に結納の流れや会食マナーを頭に詰め込む。必要なもののリストを作ってもらい、当日までにやるべきこともリストアップしてもらった。


 服装についても指定してもらった。おれ達は「結婚式に出席するような格好で」と言われた。礼服着れるか確認しないと。

 上の息子は制服、下の息子は白いシャツと黒のズボンでいいだろうと。

 娘は安倍家で支度をしてから連れて行くと明子さんが張り切って言う。

「お仕事の都合をつけるのが大変でしょうが、よろしくお願いします」と言われ「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げた。


 帰ってからは大騒動だった。

「襖と障子を貼り替えたほうが」と親父が言い出した。「それなら畳も」と母まで言い出す。「掛け軸は」「風鎮は」と大騒ぎ。

 妻も「お出しするお茶は」「茶器は」と右往左往する。


 仕事のスタッフにも事情を説明し、どうにか時間をやりくりして都合をつけられた。

「よかったね祥太郎さん」そう言祝(ことほ)いでくれながらも「よく竹ちゃん手放す気になったね」と驚かれた。

「相手の男が離さないんだ」と渋面で告げれば「それ大丈夫?」と心配された。



   ◇ ◇ ◇



 そうして迎えた当日。

 指定された時間にやって来たのはひさきさんと黒髪の青年、それと見知らぬ美女ふたりだった。

 背の高いふたりの美女はどちらも艷やかな黒髪をキチンと結い、黒いスーツを着ている。ひさきさんも黒髪の青年も黒スーツ。

「このたびはおめでとうございます」との挨拶に「ありがとうございます」と答えた。


 そのまま四人はテキパキと我が家の間取りを確認し、動線や備品の確認をした。それから床の間を整え、おれ達をリビングへと連れて行った。

 リビングでトモ達を待っている間にお互いの服装の最終チェックをする。忘れ物はないか、おかしなところはないか確認。大人はオロオロしているのにふたりの息子はどうでもよさそうにだらけていた。



 やがてインターホンが鳴った。『来た!』と声を出さず飛び上がる。

 黒髪の青年が玄関に出てくれて、一同を案内してくれているのが伝わってきた。床の間に結納品を並べに行くと聞いている。

 耳をそばだてていると「失礼します」とひさきさんの声がかかった。

「お嬢様をお連れしました」


 娘は安倍家で支度をしてから我が家に戻ってきた。

 結納はそれぞれの家で行動するので、トモ家族と一緒に来た娘だけをこちらに連れてくると聞いていた。

「どうぞ」と妻が返事を返す。扉が開くと、そこには。


「まあ………!」

「おお………!」


 まるで花が咲いたような、華やかな振袖姿の娘が立っていた。

 長い髪は現代風に結われ大きな飾りをつけている。

 賀茂茄子のような濃紺の地色の振袖には桜が咲き誇り、金色の袋帯にも桜が舞っていた。

 今生のふたりの出逢いをイメージさせる着物に、なんだか鼻がツンとした。

 凛と立つ娘はずいぶんと歳上のようで、それこそ成人式みたいだった。

 軽く化粧もしてもらっているらしく、いつもはかわいい娘が綺麗な娘になっていた。


「竹……! すごく素敵よ」

 妻が思わずといったように娘に寄り添い声をかける。

「ありがとう」と微笑む娘はとてもしあわせそうだ。

「元気になったのね」母も「綺麗よ」と娘を褒める。父はすでに泣いていた。

「まさか……。まさか竹ちゃんのこんな姿が見られるなんて……!」

 グズグズ言いながらタオルに顔を埋める父。やめてくれつられるから。

 目頭を押さえてどうにか泣くのをこらえていたらひさきさんが「よかったらお写真撮りましょうか」と声をかけてくれた。


「いいんですか!?」

「数枚ならすぐですから」


 そう勧められ、家族で写真を撮ってもらった。

 家族全員での写真、娘とおれ達夫婦の三人、娘と両親三人の写真、娘だけの写真。

 娘だけの写真を撮るときにはおれ達もそれぞれスマホで撮った。めちゃめちゃ綺麗な娘に満足した。



 そんなことをしていたら黒髪の青年が呼びに来た。

 うながされるままに部屋に向かうと、すでにトモと両親が座っていた。

 チラリと床の間を見ると結納品はバッチリ飾られていた。


 トモはスーツで決めていた。髪もセットしているらしく、いつもよりもさらに大人っぽく見える。

 トモの隣に座る初老の男が父親、その隣の若いお嬢さんが母親。頭では理解していても本人を前にすると『ホントに??』と混乱してしまう。

 それでもどうにか指示された場所に座る。仲人を引き受けてくれた安倍弁護士と明子さんが入場し、結納の儀式が始まった。




 安倍弁護士がつつがなく儀式を進めてくれ、無事に結納が済んだ。おれが言わないといけない口上とかあったから緊張した。無事終わってよかった。安心した。


 ホッとしたのはおれだけじゃなかった。トモも娘も心底安心したように微笑みあっていた。

 続いて婚約証書にサインをし、記念撮影をした。

 それから待たせておいた両親と息子達を招き入れ、安倍弁護士が紹介してくれた。


「本来ならば先に顔合わせをすべきところを、私共の都合でこのような形になり申し訳ありません」

 トモの父親が頭を下げてくれた。


「竹さんのような素晴らしいお嬢さんと結ばれ、息子はしあわせ者です」

「今後ともどうぞよろしくお願いします」


 笑みを浮かべそう言う姿は余裕のある大人のもので、男のおれが見てもダンディーだと憧れを抱いた。

「せっかくだから」と両家の家族全員で写真を撮った。トモと娘のふたりでの写真も撮った。ふたりが本当にしあわせそうで、こちらまでうれしくなった。




 食事会場に移動しようと玄関を出たら、近所のひとやスタッフが待ち構えていた。

 今日の日を迎えるために仕事の都合をつけたり色々準備をしてきた。その過程で結納のことがあちこちに知れ渡ってしまった。


「神宮寺さんおめでとう」「竹ちゃんは?」あちこちから声がかかる。

 娘が昨年末に倒れてから眠り続けていたことをここに来ているひとはみんな知っている。心配もしてくれていた。だからこそ「一目だけでも顔を見たい」と時間を作って会いに来てくれたらしい。


「ええと、今から――」と説明しようとした、そのとき。

 周囲の目が一点に向かったのがわかった。


 あれだけ騒いでいたのが嘘のように音が消えた。

 誰もが呆然とどこかを見つめていた。

 なにを見ているのかと振り向いて、納得した。


 娘が立っていた。

 スーツ姿のイケメンに支えられて。


 華やかな振袖姿の娘に寄り添うスーツの男。

 見つめ合うその姿は『お似合い』としか言葉がない。

 草履を履くのに支えていた娘を男はひょいと抱き上げた。

 自分の片腕に座らせ振袖の袖を整え、ようやく玄関から出てきた。


「お待たせしました」

「なんで抱いてんだ」

 ツッコミを入れたらふたりにキョトンとされた。


「振袖が汚れたらまずいでしょう」

「って、トモさんが」

 つまり娘は丸め込まれたんだな。


「まあいい。――竹。皆さんずっと眠っていたおまえの心配をしてくださってたんだ。ご挨拶しなさい」

 そううながせば生真面目な娘はキリッと表情を引き締めた。

「おろして」とトモに頼み、どうにかキチンと立った。


「皆様。ご心配をおかけしました」

「このとおり元気になりました」

 ペコリと美しいお辞儀をし、にっこりと微笑む娘は親の贔屓目抜きにしても綺麗だった。

 唖然としたままの周囲に小首をかしげた娘が次の言葉を発するより早く、トモが娘の肩を抱いた。


「本日竹さんの婚約者となりました西村です」

「これまでの竹さんへのお気遣いに感謝致します」

「今後は私が竹さんを守っていきます。どうぞご安心ください」

「本日はお集まりいただき、ありがとうございました」


『これで終わり』そうブチ切るように挨拶をしたトモは娘と一緒に頭を下げた。

 そうしてヒョイと娘を抱き「行きましょう」とさっさと車に向かった。

 料亭が手配してくれていたマイクロバスにさっさと乗り込むトモ。もちろん娘を抱いたまま。器用だなあいつ。

 呆れていたらそのトモに「親父さん」「行くよ」と声をかけられた。


「すみません。行かないといけないので」

「話はまたあとでゆっくりと」

「じゃあ、行ってきます」

 そう断りを入れ、妻と大急ぎで車に乗り込んだ。




 その後料亭で食事をいただいた。ウチの野菜を納入している店だった。自分の作った野菜がこんな料理になるなんて。めちゃめちゃ美味かった。小学生の息子にも配慮された食事に感銘を受けた。


 安倍弁護士と明子さんが間に入ってくれ、なごやかな雰囲気で食事は進んだ。

 両親が『サト先生』の話をするとトモのご両親は喜んだ。「あのふたりのやりそうなことだ」「ご縁があったんですね!」と一気に親しみが深くなった。

 トモの母親のマコさん――こう呼んでくれと懇願された――マコさんが娘の隣にべったりくっつくのを反対隣のトモが嫌そうな顔でにらんでいた。

 トモの父親の秀智(ひでさと)さんは息子達に気を遣ってくれ「今学校でなに勉強してるの?」から始まって面白い話をいくつも聞かせてくれた。

「これ多分ウチの野菜」と教えるとマコさんは大袈裟なくらい驚いた。


 これまでのこと。これからのこと。たくさんのことを話し、食事会はお開きになった。



   ◇ ◇ ◇



 帰宅するのを待ち構えていたかのように近所のひとがやって来た。

 車から降りたところをつかまって「竹ちゃんは!?」と聞かれた。

「療養先に帰った」と言うと「なんで!?」「元気になったんじゃないの!?」と口々に言われた。


 一部のひとには『嫉妬深く重苦しい愛情を娘に注ぎまくっている婚約者が反対していて家に連れて帰れない』という話が伝わっていたらしく「あれが例の婚約者!?」「あれは確かに離しそうにないわ」と納得された。


 だが元気になった娘に皆喜んでくれたし「すごく綺麗になった」と褒めてくれた。

 振袖姿と化粧のせいもあるかもしれないが「恋して綺麗になったんだ」と多くのひとが言っていた。


 それはそうかもしれない。娘は『あいつ』といるときには表情が全然違うから。

 今日もすごく綺麗だった。『あいつ』しか目に入ってなかった。『あいつ』も娘しか目に入ってなかった。あのふたりを見ていると『比翼連理』とはこういうことかといつも思わされる。


「それにしても」

 また口々に声があがる。

「祥太郎さん、よく竹ちゃんの婚約を認めたね」

「あんなにかわいがってたのに」

「まだ十五歳だろ?『早い』とか反対しなかったの?」

「高校どうするの?」


「高校は『行かさない』って、ト……婿が」


『トモ』と言うのもおかしいかと思い、言葉を探して『婿』と言った。口に出した途端『本当に竹は嫁に行くんだ』と実感した。さびしさを感じたが、同時にあの頼もしい男がおれの息子になるのだと突然理解した。

 理解したらうれしくなった。『あいつ』がおれの息子に。なんだかうれしく、誇らしい。

 それに娘を『嫁に出して家族が減る』のではなく『息子が増える』んだと実感したらさびしいのが少しやわらいだ気がする。


「そのお婿さん、大丈夫なの?」口々に心配してくれる。まあ普通そうだよな。

「娘の体調がまだ戻ってないんだ」「少し無理をしたらすぐ熱を出して」「だから高校は『無理だろう』ってことになった」


 執着心と束縛で行かさないわけではないとわかってもらえただろうか? いや、そういう面がないとは言えないけど。


「婿さんのお知り合いが大学の先生で、そのひとのお手伝いを自宅ですることになった」と妻が説明する。「在宅でできる仕事で、体調のいいときにやればいいって言ってくださって」


 先日トモの知り合いという大学の先生に挨拶に行った。なんでもふたりが出逢うきっかけになった先生だとかで、娘が「ご恩返しを!」と張り切っている。

 あの夢を観たから娘が古文書を読めることはわかる。だから「山詰みの古文書を読むボランティア」と聞いて「いいじゃないか」と賛成した。娘は元々本を読むのが好きだし。自宅でできるとトモがいうし。

 しかしあの倉庫を見せられたときは気が遠くなった。資源ごみ置場だろうあれ。なのに娘は「がんばります!」と闘志を燃やしていた。


 そんな話をし、とにかく婿が娘にベタ惚れになっている話をし、娘も婿が好きだと説明した。


「確かにまだ十五歳で、嫁に出すのは早いと思うけど」

「ふたりがホントにお似合いだから、早く一緒にさせてやりたかったんだ」

「娘の『しあわせ』が一番だから」

「おれ達はあの娘の『親』だから」


 なんだかしんみりしてしまったおれと妻に周囲が「がんはれ」とエールをくれた。



 きっと大丈夫。娘は大丈夫。

『あいつ』が『しあわせ』にしてくれる。『あいつ』と『しあわせ』になれる。

 これまでずっと苦しんできた娘の『しあわせ』を祈り、空を見上げた。


 抜けるような青空は少しにじんで見えた。

竹の振袖。白地に桜柄、黒地に竹柄、赤地に松竹梅など悩みましたが、賀茂茄子農家のご実家へ敬意を表する意味で茄子紺色にしました。祥太郎(父)はそれが茄子の色みたいだなーとは思いましたがあえてこの色を選んだのだとは気付いていません。母と祖母はちゃんと配慮に気が付いて安倍家に深く感謝しています。

桜柄はたまたま。明子が茄子紺の着物を数枚見せたときに竹とトモが桜柄を気に入ったのでこのお着物になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ