【番外編1】神宮寺祥太郎の嘆き 4
春が過ぎ、夏になった。
祇園祭はじまりのニュースに「もう七月か」と驚いた。
竹が目黒くんに連れ帰ってもらったのが昨年の十二月。あれからもう半年以上経った。
竹はまだ目覚めない。
いつ目覚めるのかもわからない。
どれだけ苦しくても、どれだけ先が見えなくても、収穫時期は来る。
賀茂茄子の最盛期に突入した。
毎年この時期は臨時のスタッフにも入ってもらって大忙しになる。
そんな話をポロリと明子さんにした。
明子さんとはすっかり親しくなっていた。
◇ ◇ ◇
日曜日の朝。
今日も早く仕事を片付けて娘のところに行こうと起き上がった。
と、スマホにメッセージが入っていた。
明子さんだった。
『突然なことで申し訳ないのですが、急用が出来てしまい、私の時間が取れなくなりました』
『本日を含め、しばらくの間、お嬢様の面会をご遠慮いただけると助かります』
意味がわからず、カッとなった。妻にメッセージを見せ、早朝なのにも関わらず電話をかけた。
通話に出た明子さんに「どういうことですか!?」と怒鳴ると「すみません!」と向こうも焦ったような声で叫んだ。これまでの落ち着いた様子とは違う、接したことのないくらいの焦った様子に『なにかあった』と嫌でも思わされた。
『実は、祇園祭の関係で急に忙しくなりまして……』
その言葉にストンと納得した。ウチも今めちゃくちゃ忙しい。少しでも新鮮なものを、少しでも品質の良いものをと取引先から求められて一日に何回も収穫配達している。
『昨夜急に「今日中」の仕事を言いつけられまして、離れまで出向くことができないんです』
『お嬢様のお世話は私の信頼できる女性をつけます。ご安心ください。――が、外部の方をお招きするには一定以上の権限がないとできなくて……』
新たな世話係にはその『権限』がないという。
そういえば明子さんは『主座様』の――『安倍家』トップの母親だった。いつも接してくれているときは全然偉そうでないしむしろ親しげだからすっかり忘れていたが、あのひと偉いひとだった。
そんなひとなら祇園祭で接待とかあるだろう。
今日から宵山期間。三連休でもあるし、他府県からの来客もあるだろう。そのせいでウチも忙しいんだし。
『こちらの都合で申し訳ないのですが、落ち着くまでしばらく来訪をご遠慮いただけると助かります』
『お迎えできるようになったら連絡しますので』
そう言われ、納得しなければならないと頭では理解している。それでも。
「………『しばらく』とは………どのくらいの期間ですか」
『………ちょっと、見通しが立たないのですが………』と言いつつ明子さんは『二十日前後にはどうにかなるといいなと思います』と答えを出した。
それから数日、必死で働いた。
竹のところに行けない分、時間的余裕ができたはずなのに忙しい。例年だったら「忙しくてありがたい」「ウチの野菜が求められているってことだ」と喜んでいたのに、今年はただただ苛立たしく気分が落ち着かない。
「そんなにトゲトゲしていたら野菜がまずくなる」
親父に叱られた。
親父はいつも言っている。「野菜はひとの気持ちを栄養にする」「作り手の愛情がうまい野菜の栄養」「うまい野菜を送り出そうと思ったら作り手がひとつひとつ愛情を注いでやらないといけない」
その意見はおれも同感で、いつも臨時バイトさんにそう指導していた。取材でも言っていた。「鋏ひとつ入れるときにも愛情をもって」
なのに今のおれはバチンバチンと乱暴に摘み取り乱暴にカゴに入れていた。これでは「味が落ちた」とクレームを入れられても文句言えない。
「竹ちゃんが心配なのはわかるが、仕事に集中しろ」「集中できないなら現場に出るな」
無口でどちらかといえば穏やかな父にそこまで言わせてしまったことがまた情けなかった。
そこからは心を入れ替え、集中して仕事に打ち込んだ。
神野の伯父からはこっそりと母に連絡があった。
なんでも十七日に『ナニカが起こる』らしく、安倍家が中心になって動いているらしい。京都中の『能力者』総動員であたる案件とかで、伯父も親戚一同も忙しいと。万が一のときは母にも「手伝いに来て欲しい」とのことだった。
それで明子さんが『忙しくなった』のかと納得した。
具体的にナニが起こるのかは教えてもらえなかったが「安倍家から特別なアイテムが下賜された」「我らはお仕えする皆様とこの地を守るのみ」と、なんかやたらやる気に満ちあふれ鼻息荒い声が電話のスピーカーから聞こえた。
◇ ◇ ◇
そうして迎えた十七日。
おれは畑で収穫に追われていた。
目標量まで収穫を終え、出荷場へ移動していたそのとき。
ひらりと。
空からなにかが落ちてきた。
なんだろうと手で受け止める。見るとそこには桜の花びらがあった。
「桜―――?」
なんで真夏に桜が?
疑問に思いあちこち探してみたがどこにも花びらを飛ばしたであろう木はない。
呆然としているおれに気付いたスタッフがひとり、またひとりと外に出てきて同じように花びらに驚いていた。
手にした花びらは雪のように消えた。
念の為に作物に影響がないか確認したが、露地物のどれも問題なかった。
昼のニュースで「雹が降った」と言っていた。珍しい体験ができたとみんなで喜んだ。
◇ ◇ ◇
山鉾巡行が終わっても明子さんからの連絡がない。
おれが子供の頃と違って今は山鉾巡行が『前祭』と『後祭』の二回行われる。
祇園祭のクライマックスはやっぱり山鉾巡行で、その日に合わせて観光客が押し寄せる。だから『後祭』が終わっていない現在、まだ明子さんは忙しいのかもしれない。明日から『後祭』の宵山期間だから来客もあるだろう。
だが、伯父によると『十七日にナニカが起こる』と言われていた件は「片付いた」らしい。今は「後始末が残っている程度」だと。
それなら明子さんの時間が取れるんじゃないだろうか。明子さんの時間が取れないならばせめて娘の様子をたずねるくらいはいいんじゃないだろうか。
それに今日が指定された二十日だ。『二十日にどうにかなる』と明子さんは言っていた。
「『二十日前後』に『は』どうにか『なるといいな』とおっしゃってたわよ」妻のツッコミは聞こえないフリで無視しておこう。
とにかく先方が指定した日にちになったのだから問い合わせをしてもいいだろう。
妻と相談して、おそるおそるメッセージを送った。
『娘の状態はどうでしょうか』
『まだお伺いしてはいけませんでしょうか』
いつ既読がつくかとイライラハラハラしながら待っていた。スマホをにらみつけただ待っていた。
どのくらい経ったのか。既読がついた!
が、そこから返信が来ない。やはりイライラハラハラしながら待ち続けていたら、電話がかかってきた。
『お久しぶりです』という明子さんの声は落ち着いているように感じた。
「あの、」
『娘は』とこちらが聞くより早く明子さんが『お嬢様は大丈夫です』『専任からも「問題なし」と報告がきています』と教えてくれた。
それだけでホッとして力が抜けた。
『実はちょっとまだバタバタしておりまして』
明子さんが申し訳なさそうに言うのに「はい」としか答えられない。
『またご連絡させてください』と言われ、文句を言いたくても言える立場にないことは理解していたから「………お待ちしております」とだけ言って電話を切った。
◇ ◇ ◇
翌日。日曜日。
明子さんから連絡がきた。
『どうにか時間とれそうです』との声に「すぐに行きます!」と食いついた。
が『今日は都合が悪いので明日のいつもの時間にお願いします』と言われ、じりじりしながらその日は過ごした。
◇ ◇ ◇
月曜日。
大急ぎで仕事を終わらせ、妻とふたり車を走らせた。
すっかり通い慣れた山道を進み、見慣れた建物に到着した。
「お久しぶりです」
明子さんはわざわざ外で出迎えてくれた。
「さあさ。どうぞ」といつものように招き入れてくれる。こちらもいつものように手土産の野菜を渡す。
「こちらの都合で面会できなくてすみません」と言う明子さんに「いえ」「お世話になっているのはこちらなので」と返す。
「先にお嬢様のお顔をご覧になりますか」と聞かれたので「はい!」と答えた。
「どうぞ」といつものように廊下を進んでいると、手前の扉がガチャリと開いた。
扉を開けたのは見たことのない黒髪の青年だった。
片手に食器の乗ったトレイを持ち、部屋の中に顔を向けている青年はおれ達に気付いていない。
誰だと不審に感じたそのとき。青年が部屋の中に向けて声をかけた。
「竹さん、またね」
……………。
……………『竹さん』?
つまり?
娘はこの部屋にいるのか???
黒髪の青年がおれ達の視線に気付いた。部屋の中に向けていた笑顔のままこちらを向き―――目をまんまるにして固まった。
明らかに『ヤバい!』という顔。
明子さんの背中からは表情が読めない。が、明子さんも一言もしゃべらない。
今まで娘が寝かされていた部屋はこの奥の部屋だ。なんで部屋を移動しているんだ?
「………娘は、こちらの部屋に?」
疑問に思いながらも青年に問いかけると「はい!」と大きな返事をし、扉を大きく開けてくれた。
『とうぞ!』ということだと判断し部屋の中をのぞいた。
部屋の中には娘と同年代の娘さんと、おれ達より少し上くらいの男がいた。
どちらも目をまんまるにして固まっている。
そういえばと思い出した。明子さんが忙しくなったから娘には『信頼できる女性をつける』と言っていた。なるほど。この娘さんがウチの娘の世話をしてくれていたのか。部屋を移動したのもそのためかと納得した。
黒髪の壮年の男はもしかしたらこの娘さんの護衛とか世話係かもしれない。なんとなくそう感じた。
そのまま部屋の中に入り、ようやく娘の姿を目にすることができた。
娘は。
穏やかに眠っていると思っていた娘は。
―――高熱に、苦しんでいた。
「―――竹!」
妻が娘に駆け寄った。
目を閉じ眉を寄せ、苦しそうに息を吐いている。額には冷却シート。頭の下には氷枕。首に布が巻かれているのは保冷剤かなにかで冷やしているのだろう。
「竹」「竹」
妻が娘にすがり、頬を撫で手を握った。
「こんな、こんな―――!」
ベッドの横で膝をつく妻の横におれも立ち、娘の頬に触れた。―――熱い。
「いつから、こんな、」
誰にともなく問えば「十七日の昼からです」と娘さんが答えた。
「なんで教えてくれなかったんですか!」
明子さんに向け叫んだ。
「教えてくれたらよかったじゃないか!」
「お言葉ですが」
ピシャリとおれの言葉を封じる若い娘の声。目を向けると娘さんが凛々しい表情でおれ達を見つめていた。
「明子様に『問題なし』と報告し、ご両親へは『報告不要』と進言したのは私です」
「責めるならば私を責めてください」
「………君は………」
「お嬢様のお世話をしております。『ヒサキ』と申します」
にっこりと微笑む娘さんに視線で説明を求める。
娘さんは淡々とおれ達に説明をした。
「お嬢様は十七日の昼に急に発熱され、それが現在まで続いています」
「安倍家のなかでも特別に優秀な、主座様直属の薬師をお嬢様につけ、解熱剤などを投薬しています」
「同時にこちらの主座様直属のベテランがお嬢様に霊力を送ることで体内の霊力の流れを整えようとしています」
「しばらくはこれで様子をみるようにと、主座様からのご指示です」
淡々と事務的に告げられ、段々と落ち着いてきた。
『主座様直属』が何人もいることに驚いたが、そんな『直属』を何人もつけてくれていることに驚いた。きっと目黒くんが尽力してくれたんだろう。ありがたい。
「神宮寺家にご報告さしあげなかったのは、無駄なご心配をおかけすることはないとの判断からです」
「お嬢様が発熱された時、明子様は多忙を極めておられました。明子様だけでなく、皆様をお招きできる権限を持つ方はすべて『とある件』にかかりきりで、面会のためのお時間を捻出することは不可能でした」
『とある件』という単語に、思い当たることがあった。
伯父が言っていた。『十七日にナニカが起こる』『京都中の「能力者」総動員であたる案件』『安倍家が中心となって動いている』
それで面会できなかったんだと、本当に『多忙を極めていた』というくらい忙しかったんだと納得した。
そんな多忙のなかでも娘にひとを付けてくれていたことにようやく思い当たった。
「面会できないのであれば、一時的な発熱をいちいちご報告する必要はないと、私が判断致しました」
「ご報告すればご家族は必ずご心痛に苛まれると理解しておりましたので」
………それは………そうだが………。
「この発熱は十七日に降った雹の影響だとわかっています」
断言する娘さんに「ひょう?」と間抜けに聞き返す。
「一般には公開されていませんが、あの雹は極微量の霊力を固めたものです」
ニュースでは『この季節にはよくあること』と言っていた。おれも手に取ったがすぐに消えたし特になにも感じなかった。
本当かわからなくて明子さんを、黒髪の青年を、壮年の男を見る。三人共目が合うとうなずいた。
「先程申し上げました『とある件』により、京都中に極微量の霊力を固めた雹が大量に降りました」
「そのために京都中の霊力の流れに影響が出てしまい、それがお嬢様にも影響を与えてしまったようです」
「体内の霊力が暴れている状態です」
「そのための発熱だろうというのが、専任薬師と主座様の見解です」
「故に、外部の霊力が落ち着けば自然とお嬢様の霊力も落ち着くと予想されています」
淡々と事務的に説明し、ひさきさんは口を閉じた。
沈黙が広がる中、娘の息遣いだけが聞こえる。
聞いた話を必死に咀嚼する。雹が降ったことで京都の霊力に影響が出た。そのせいで娘にも影響が出た。体内の霊力が暴れている。それは―――。
「―――それは―――」
妻が口を開いた。声が震えていた。
「以前うかがった『魂』が出かけていることに、影響は―――」
「ありません」
断言し、ひさきさんは続けた。
「現在お嬢様の『魂』は肉体に戻っています」
「だからこそ肉体に影響が出て発熱しているのです」
『魂』が戻っている? いつの間に?
そんなことは聞いていないぞ!?
「……………それは……………」
おれが文句を言うより早く妻が口を開いた。
「良くなっているのですか? それとも………悪く、なっているのですか……?」
ひさきさんは答えない。
ただ「ご本人次第です」と言った。
「これまでに明子様がご説明しておられると思いますが」
「お嬢様の体内の霊力が身体に馴染むかどうか、そこが問題となっています」
「こればかりはご本人次第ですので、私共では明言しかねます」
それは最初から聞かされていた。だから眠り続けていると。霊力が馴染まないかぎり目覚めないだろうと。だが。
今までにない高熱に苦しむ姿に不安が募る。
『覚悟だけはしておいたほうがいい』いつか誰かに言われた言葉が具体性を持って迫ってくる。
そんな。まさか。だが。
心配で心配で、枕元にすがりついて「竹」「竹」と娘の名を呼ぶことしかできなかった。
「……もっと早く来ていれば……!」
思わずもれた言葉に「関係ありません」とひさきさんがぴしゃりと返す。
「お父様がそばにおられても、お母様が声をかけられても、お嬢様自身の霊力が安定しない限り容体は変わりません」
「だからおふたりがご自分を責める必要はありません」と淡々と言う。
キツい言いようなのにおれ達を案じてくれていると何故かわかった。
「私達になにかできることはないですか」妻が言った。
「なにもできなくても、せめて側で看病させてください」「泊まらせてください」と明子さんに訴えた。
「ウチは構いませんが、お仕事は大丈夫ですか」
明子さんの確認に、妻が俺に顔を向けた。
「構いません」と言いたい。
だが、現実問題、妻がいなかったらとても時間内に出荷できるとは思えない。だが。だが。
苦悩する俺を見かねたのか、ひさきさんが言った。
「本当に危険だと判断したら、すぐにご連絡します」
「先程ご説明したとおり、この熱も一時的なものだと思います」
「ひとまず今日はお帰りになって、また明後日、お仕事が落ち着いてから来られてはいかがでしょう」
また明後日。
その間に娘がいなくなったら。
不安に目の前が暗くなっていく。やるべきこと、やらなければならないことが頭の中に浮かんでは消えていく。娘の生まれたとき、幼いとき、少し大きくなったとき、様々な姿が浮かんでは消えていく。
ぐちゃぐちゃでわけがわからない。なにをすべきか。どうすべきか。
「あなたは」
妻がひさきさんに問いかけた。
「あなたは、今の娘は『危険ではない』とおっしゃるの?」
「はい」
「こんなに熱が高いのに……?」
「解熱剤と回復薬を投与しています。発熱はそこまで問題ではないと判断しています」
「じゃあ、なにが問題……?」
「霊力が馴染むか否か、です」
ひさきさんは淡々と、だがきっぱりと答える。
「逆にこの発熱は良い傾向だと私は判断しています」
「これまでは『魂』が肉体から離れていたためにただ眠り続けておられました。それが『魂』が肉体に戻ったことで、これまで多すぎて馴染まず沈められていた霊力が肉体に循環しはじめています」
「十七日の雹の影響で刺激されたためもありますが、『魂』が肉体に戻ったことによる反応が大きいと私は判断しています」
「このままうまく霊力が馴染むかどうかは正直わかりません。が、熱を下げるためにこちらの方を主座様がお遣わしくださいました」
「主座様の直属のなかでも霊力操作では右に出る者はいないほどの実力者の方です」
「こちらの方が尽力くださることになりましたので、うまくいけば熱が下がると同時に霊力過多も落ち着くのではないかと愚考致します」
ひさきさんの説明に、壮年の男に目を向ける。
褒められて恥ずかしいのか、男は居住まいが悪そうに口をゆがめていた。
おれと妻がすがるように見つめていたからだろう。男は「ゴホン」とわざとらしい咳払いをした。
「………こちらのひ……ゴホン、こちらのお嬢様は、私と同属性のようだ。うまくいくかは結果が出るまでわからないが、全力を尽くすと誓おう」
その言葉を信じたい。だが。だが。
動揺するおれ達に誰かがそっと寄り添ってくれた。誰かと顔を向ける。明子さんだった。
「主座様の『先見』でも『問題なし』と出ています。お嬢様はきっと大丈夫です」
明子さんはそう微笑み、力強くうなずいた。
その笑顔に励まされ、どうにか「お願いします」と頭を下げて帰宅した。
帰宅して両親に娘が高熱を出していることを伝えた。また明後日面会に行くことも。
そうして休む間もなく仕事にかかる。忙しくしていないと泣き叫びそう。
なんでウチの娘が。なんであんないい子が。
これまでに何百回何千回と繰り返した問いかけをまた何度も繰り返す。
あんな高熱、どれだけ苦しいだろうか。『魂』が肉体に戻った反応だとも言っていた。そういえばいつ『魂』が戻ったんだ。なんで『戻った』とわかるんだ。
疑問が浮かぶが、それもすぐに不安に消される。
どうか娘が元気になりますように。どうか娘が目覚めますように。
何度も何度も繰り返した祈りを今日もまた繰り返した。