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第二百三十一話 めでたしめでたし

 結論として。

 ひなさんの策はハマった。


 精神系能力者の晃により『紹介ムービー』を夢として『視た』竹さんのご両親は竹さんの過去を知り俺のことを知り、俺達ふたりの仲を認めてくれることとなった。


 どうにかデジタルプラネットから解放された俺がご両親と対面したのは離れのリビングダイニング。竹さんとふたり並んで席につき挨拶と自己紹介をした俺に父親は憔悴(しょうすい)しきった様子で「娘をよろしくお願いします」と頭を下げ、俺達のお付き合いと同居を認めた。


 両親と――特に父親と絶縁宣言をしていた竹さんだったが、俺とひなさんアキさんが話をしてきたことで態度が軟化していた。その場で俺達が間に入り親子の仲を取り持ち、そこに父親が安倍家と俺に対し謝罪したことでふてくされながらも絶縁宣言を取り消した。

 さらに話を詰めて近々結納をして婚約することを決めた。

 それでようやく彼女が落ち着いた。




 デジタルプラネットからは解放されたが仕事はまだ受けている。それは夜にやるとして、日中はこれからの生活のために彼女と黒陽と共に忙しく動いた。



 竹さんに逢うきっかけになった教授に連絡を取り、竹さんと引き合わせた。

 教授も他のじーさんばーさんもすぐに竹さんを気に入り、孫のようにかわいがってくれるようになった。

 山と積んだ謎の文書類を黒陽とふたりで嬉々として読み解いていく姿に、その正確性と速さに「即戦力がふたりも!」と教授達が大喜びした。


 竹さんは九月から百万遍の研究室にボランティアとして参加することになった。護衛兼守り役の黒陽も一緒。


 竹さんが仕事しやすいようにと教授から色々話を聞いてシステムを組んだ。文書を撮影したタブレット画面に直接書き込めるようにし、その手書き文字を別エリアに自動でテキストに変換するようにした。古文書の文字を現代文字に置き換えただけの画面、現代語訳した画面とレイヤー操作もわかりやすくし、さらにはキーワードを自動生成するようにした。そのキーワードで検索できるようにした。リストアップやピックアップもこれで簡単になるだろう。


 竹さんと黒陽に使わせて使い心地を検討。他のじーさんばーさんからの評判もよかった。

 誰より教授が大喜びだった。

「これなら高齢のボランティアさんも研究室(ここ)に来なくても自宅でできるよ」と説明したら泣いて喜ばれた。ここ数年外出が難しくなったことを理由にボランティアを辞めるひとが続けて出たらしい。「辞めたボランティアさんにもう一度声をかけてみる」と教授は張り切った。


 竹さんが使うからとボランティアさんに貸与するタブレットの購入手続きも教授に代わって行い、竹さんが自宅で作業できるようにするために他のボランティアさん達への使い方指導も行う。希望者には自宅に行って通信環境まで整えてやった。ちょっと面倒だったが竹さんが喜ぶからがんばった。


「学生にでも文書の写真撮らせて、こーやってこーやってアップして、これをこうしたら指定したボランティアさんに届くから。で、解読終了したらここで受け取って」

 教授にも使い方を教えながらやってみせる。できたデータの活用方法。論文への転用の仕方。


 そうやって教授とボランティアさん達がシステムを使いこなし、愛しい妻がもりもりと解読を進めていった結果、歴史を変えるレベルの新発見が相次ぎ教授は一躍有名人になった。

 俺が作ったシステムは他大学でも採用され、数年後には世界中の研究者でデータ共有できるようにまで発展していった。

 そんなことはつゆ知らず、俺の愛しい妻は送られてくる文書を我が家で受け取り、のほほんと解読をして過ごした。




災禍(さいか)』消滅後から体調を崩していた竹さんだったが、在宅勤務になった俺がそばにいられるようになったことでみるみる回復していき、盆前には完全に元気になった。


 じーさんばーさんの法要で帰国した親父とお袋に竹さんを紹介し結婚することを伝えた。お袋が竹さんをめちゃめちゃ気に入ってしまい引きはがすのが大変だった。

 その両親を連れて竹さんの今生の家族のところに行き、結納をした。食事会の席で改めて同居することを報告し、結婚についても話し合った。


 これで俺達は正式に『婚約者』となった。

 竹さんがめちゃめちゃ喜んでくれた。俺もものすごくうれしかった。

 ココロのどこかにあった焦りのようなものが落ち着いた気がする。そう言ったら愛しい妻も「私も」とうれしそうにしてくれたから愛おしくてかわいくてますます好きが増した。



 じーさんばーさんの法要に竹さんも同行してもらったら顔も知らなかったおじさんの孫娘が「トモくんと結婚するのは自分だ」とか世迷い言を言い出した。抹殺してやろうと思ったら愛しい妻が「トモさんの妻は私です」「絶対に、誰にもゆずりません」と恥ずかしがりながらも懸命に主張してくれて、どれだけ俺を愛してくれてるのか見せつけられてヤキモチ妬いてくれるのが嬉しくて(もだ)えた。


 鳴滝の俺の家はじーさんが茶道家のばーさんのために建てた家で、茶会やらお稽古やらに使えるようになっている。ばーさんの跡を継いだおばさんがこれまでも使っていたが「今後も使わせてほしい」と改めて言ってきたので「ならいっそのこと」とおばさんに権利を譲渡することにした。

 俺は竹さんと守り役達と安倍家の離れに暮らすことにし、急遽引っ越しとなった。

「そんなに急いで引っ越さなくても」と引き止められたが、一日も早く妻との生活を安定させたいと決行した。


 そうして鳴滝の元自宅はおじさんおばさん夫婦の隠居屋敷兼茶道の稽古場となった。

 俺達は安倍家の離れに落ち着いたが、生活しているうちに色々な話が出たり環境が変わったりして「やっぱりふたりの家が欲しい」という気持ちになった。

 彼女が二十歳になるときか俺が大学を卒業する頃を目標に、離れの近くにふたりの新居を建てるつもりであちこちの住宅展示場を見学に行くようになった。 



 新学期から俺は高校に復学し、竹さんは百万遍の研究室に通う生活となった。しばらく通いで古文書解読をしていたが、俺の組んだシステムに慣れ在宅でもできるようになると我が家となった安倍家の離れで古文書を読み解くという生活で落ち着いた。時々研究室に行く以外は基本我が家に引きこもっている妻。それでものびのびと楽しそうに過ごしている。


 黒陽はもちろん竹さんの守り役としてそばに居て護衛件手伝いをしていた。が、秋にヒロのところの双子が幼稚園探しを始めたのをきっかけに双子の教育係件護衛もするようになった。竹さんが引きこもって文書解読に(いそ)しんでいる間は双子のところに行く形。おかげで高霊力保持者の双子はめきめきと実力をつけていき、幼稚園入園時にはそこらの能力者以上の実力者になってしまった。

 黒陽の指導で霊力操作も身に着け、幼児にありがちな霊力暴走もほとんど起こすことはなくなり、のびのびと幼稚園生活を満喫していた。



 神々や『(ヌシ)』達のところへのご挨拶は定期的に行っている。『災禍(さいか)』を滅し『呪い』が解け、彼女が生き延びられた恩を忘れることはできない。毎回アイスやホカホカの肉まんなど、通常の献上品では献上できない品を持って行き喜ばれている。


 蒼真様にも会うたひに甘味を献上している。初めて宗主様の高間原(ところ)から連れて帰ってもらったときの『誓約』を忘れず献上する俺に蒼真様は「もういいのに〜」と言いながらも嬉しそうに受け取ってくれる。



『白』の女王である菊様が時々神々からの依頼を受けては俺達に対応するよう命じてきやがる。そのせいであちこちの仕事に駆り出された。

 他にも『災禍(さいか)』が話していた京都の退治しきれていなかった『悪しきモノ』の退治だったり、安倍家からの依頼だったりを受けては処理していった。


 なんだかんだと姫達とも親しくなり、守り役達とは変わらず良い関係を続け、一緒に修行したり遊んだりして年月を重ねた。



 そうして彼女の十八歳の誕生日。

 俺達は籍を入れ、法的にも夫婦になった。

『西村 竹』と書かれた書類に彼女がしあわせそうに微笑むから心臓止まるかと思った。


 両家の両親はそのまま結婚式をしたがったが「ホントに二十歳過ぎても生きていられるかわからない」と彼女が抵抗した。それで正式な結婚式は二十歳の誕生日を迎えたあと、ふたりが今生初めて出逢った日にすることにした。


 あの決戦前に『目黒』でひらいてもらった結婚式のカメラマンが熱心に誘ってくれて、俺達はモデルとして何度も結婚式やら披露宴やらをしている。和装洋装あらゆる衣装を着、ホテルから神社仏閣、庭園からレストランまでありとあらゆるパターンの結婚式披露宴を体験していた。だから入籍さえ済ませたら結婚式にはそこまでこだわりがなかった。

 が、彼女の両親と俺のお袋が「結婚式は絶対出席する!」と譲らなかった。モデルの仕事のときは両親役に本物の両親使えなかったからな。主に両親の安全面で。


 そうして用事を片付けながら準備を重ね、ようやく本物の結婚式の日を迎えた。


 会場は決戦前にも結婚式をした『目黒』の広場。

 どこかの神社仏閣にお願いしようとしたら神々の間で大喧嘩になりかけて断念。そりゃそうだ。『(いと)()』の結婚式なんて誰でも取り仕切りたいに決まっている。


 ウチの愛しい妻が目の前で「ありがとうございます」と満面の笑顔を向けてくれる可能性にどなたもが期待に胸膨らませ「我こそは!」と名乗りを上げてくださり、結果大戦争一歩手前にまでなった。

 神々は菊様がガツンとやってくださった。同じく浮足立っていた神社仏閣関係者はハルが()めてくれた。

 ホテルや庭園やレストランも「『黒の姫』の結婚式」の噂に「我こそは!」と猛アピールと猛プレゼンをしてきた。こっちも戦争になりそうだったので一律お断り。

 残った選択肢は『目黒』しかなかった。



 初めて出逢ったときを再現し、枝垂れ桜を会場中に配置。もちろん造花。限りなく本物に近いものを作ってもらった。

 装花もテーブルクロスもなにもかも千明さんが張り切って準備してくれ、夢のような結婚式場が完成した。


 あちこちで戦争が勃発しそうなので式は人前式とし、立会人代表はオミさんとアキさんが引き受けてくれた。

 衣装の話に姫と守り役達が盛り上がってしまい「高間原(たかまがはら)風でいこう!」となってしまった。

 白露様と緋炎様がデザインし、千明さんの知り合いに依頼。オーダーメイドで作ってもらった。


 手の込んだ揃いの衣装は参列者からも好評だった。竹さんもすごく喜んだが黒陽が大号泣して大変だった。

 ナツが中心になって作ってくれた料理に舌鼓を打ち、たくさんのひとから祝福をもらった。しあわせいっぱいの妻に俺もしあわせいっぱいになった。両家の両親への感謝の手紙を読み花束を渡した。竹さんの親父さんと俺のお袋が号泣した。


 最後に、全員の前で感謝を込めて挨拶をした。


「俺達がここまで来られたのは皆様のご尽力のおかげです」「感謝しております」

「『二十歳まで生きられない』と思っていた私が、今こうして皆様にご挨拶できるのも皆様のおかげです」「本当にありがとうございます」

「これからも夫婦ふたり共に歩んでまいります」

「どうぞ私達をこれからもよろしくお願いいたします」


 揃って深々とお辞儀をすれば、万雷の拍手が返ってきた。頭を上げて見回せば誰も彼もが涙を浮かべ笑顔を浮かべている。心の底から祝福してくれる周囲に、改めて感謝を抱いた。



 隣に目を向ければ愛しい妻。

 枝垂れ桜に囲まれ、しあわせいっぱいの表情で俺を見つめている。


 あのとき、あの枝垂れ桜の下で今生の俺は貴女に出逢った。

 あの瞬間、俺は貴女に『とらわれた』。

 俺の『半身』。俺の唯一。ただひとりの、俺の愛しいひと。


 あのときはなにひとつできなかった。ただ見つめるしかできなくて、鼓動も呼吸も乱れて名前ひとつ聞けなかった。

 それが。


 愛しい妻の右手をそっと取る。互いの左手薬指には揃いの指輪。互いの涙から錬成した夫婦の証。


「竹さん」

「はい」


「俺の妻で、いてください」

「はい」


 颯々(さつさつ)とした風が枝垂れ桜を揺らす中、俺の恋はこうして成就した。




 生真面目な彼女にとらわれた俺は、愛しい妻に愛されて、ずっとずっとしあわせに暮らしましたとさ。


 めでたしめでたし。

あと二話で本編完結です!

よろしくお願いします!

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