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第二百二十九話 ご両親への説明

 何事もなかったかのように「じゃあまたな」と転移しようとする黒陽をつかまえ「ふざけんな」「邪魔しやがって」と文句をぶつけたら「文句はタカに言え」と言う。

 それもそうだと納得しタカさんを連れてこさせた。


 転移酔いでフラフラのタカさんにブチ切れた勢いのまま詰め寄り「もう十分働いただろう」「いい加減解放しろ」と迫った。

 すったもんだの結果、改めてタスクをリストアップ。機密性の高いもの、マシンパワーのいるものの中からどうしても俺でないと無理なタスクをピックアップ。それ以外の、自宅からでも問題ないものは後回し。『ホワイトナイツ』に振れるものは振ってもらう。

 そうやって妥協点を話し合い、どうにか目処をつけた。


 それからはひたすらに仕事に邁進。デジタルプラネットのエンジニアは三交代制で働いている。『ホワイトナイツ』も無理のない勤務体制で協力してくれている。そうやって二十四時間フル稼働であれこれに取り組んでいるひと達と共同でやるタスクを片付け俺の作ったシステムをおろし問題が出たら洗い出し。

 とにかく早く帰りたい。彼女のそばにいたい。とはいえ焦ってミスが発生したら却って時間がかかる。ミスのないよう、トラブルのないよう確実に。


 そうやってがむしゃらに取り組み、今夜もどうにか自由時間をむしり取った。

 いつものように黒陽に連絡し転移で連れて帰ってもらう。風呂に突っ込まれ飯をいただく。


 竹さんはあのあと熱を出し一日寝込んでいたと黒陽が話す。記憶が戻った反動だろうな。眠ることで記憶を馴染ませているんだろう。

「昨年末からの完全覚醒のときよりは短くて済むと思うのだが」

 いつ目覚めるか、いつ熱が下がるか「今の時点ではわからない」と守り役が顔をしかめる。

 それでも「お前と姫に指輪を返せてよかった」「肩の荷が下りた心地だ」と黒陽は微笑んだ。


 いつものように彼女の部屋に帰る。昨日までと違い彼女は赤い顔でハアハアと苦しそうにしていた。

 せっかく熱が下がってきてたのに。

「………ゴメンね」

 そっと頬を撫でる。熱い。首筋に手を添える。やはり熱い。抱き締めてキスしまくっても起きない。それでもそばにいられることがうれしくて構いまくっているうちに俺も寝てしまった。



 翌日も彼女の熱は下がらない。必死で仕事を片付け時間を確保したが、くっついていられるのは二時間程度。だから霊力を循環させてもなかなか回復しない。明日はもっと早く仕事を片付けなくては。


 そう決意し必死に取り組み、この日はなんとか四時間確保。すぐさま黒陽に連絡を取る。

「早いな」と言う黒陽に「いいから早く迎えに来てくれ」とせっつき転移で離れに戻る。

 いつものように大急ぎで風呂を済ませリビングに戻ると、アキさんとひなさんと晃がいた。


「おかえりなさいトモくん。さあさ。ごはんを召し上がれ」


 雰囲気からただの報連相ではなさそう。今日は誰がやらかしたのかと思いながら手を合わせ箸をつける。


「今回やらかしたのは」

 やっぱりやらかし報告か。頭痛をこらえるように顔をしかめ、ひなさんが告げた。


「竹さんです」




 記憶の封印が解けたことにより高熱を出し寝込んでいた俺の愛しい妻。一日一、二時間程度でも俺がくっついていた効果があったからか、取り戻した記憶量がそこまで多くなかったからか、三日目の今朝、ようやく目が覚めた。熱も微熱にまで下がっていて「よかった」と守り役も薬師も喜んだ。


 桃を食い薬を飲んだ彼女は守り役から事の経緯を聞いた。智明のこと、青羽のこと、自分のこと。記憶の封印を施した経緯とその結果。今回封印が解けた要因。

 話を聞いた俺の妻は、守り役がどれだけ自分のことを考え、愛し慈しんでくれていたのか実感した。

「ありがとう。ありがとう黒陽」と、泣きながら何度も何度も感謝を伝えたという。


 泣き疲れたのか話の内容と量に疲れたのか、彼女はまた眠った。

 次に目覚めたときは昼時で、丁度ひなさんと晃が黒陽の昼飯を持ってきた。


 目覚めた妻にひなさんと晃は喜び、大急ぎで彼女の昼飯も準備。彼女は卵たっぷりおかゆ、黒陽とひなさんと晃は普通の昼飯を食いながらあれやこれやと話をしていた。これまで話し合った内容について。彼女の両親について。竹さん本人は今後どうしたいかについて。


「竹さんの意思確認ができました」とひなさんが言う。やはり彼女は「トモさんと暮らしたい」「高校は行かなくていいなら行きたくない」と言ったと。

「なので、そのように動きます」と言うひなさんに「よろしくお願いします」と頭を下げる。


 で。

 そんな話をしているところに来客があった。

 彼女の今生の両親だった。



 ノックの音に晃が立ち上がり扉を薄く開けた。

 アキさんが言葉を発するより早く父親が部屋になだれ込んだ。どうもまた高熱を出した娘に心配がつのっていたらしい。それが理解できたから晃も無理に止めなかったと。いやそこは()めろよ。


 久しぶりに起きている娘に父親は号泣。抱き締めてオンオン泣き「今すぐ帰ろう」と叫んだ。が、これに当の竹さんが反応。

「帰りません」ときっぱり宣言された父親は激昂。

「お前はウチの娘だ」「家に帰るんだ」と怒鳴りつけたが竹さんは「帰らない」の一点張り。安倍家への文句や不信など無礼発言を口にする父親に怒る竹さんにさらに父親が怒り心頭。ついに「あのトモとかいう男に脅されてるのか」と叫んだ。


 俺の名を出され、俺を侮辱され、彼女は――キレた。

「いやあ……。竹さんもやっぱり『半身持ち』でしたねぇ……」

 しみじみと語るひなさんは疲れ果てたようにため息を落とした。晃とアキさんは苦笑を浮かべている。どういうことかとチラリと守り役に目を向けたがそっと逸らされた。


 父親が勢いのままに俺への暴言を撒き散らすのを竹さんは黙って聞いていた。

 が、父親が乱れた息を整えるのに言葉をおさめたそのとき。

「……………言いたいことは、それで全部ですか」


「『王族モード』が発動してました」

「すごい威圧だったよ」

 かなりの威圧訓練を受け修羅場もくぐっている晃ですらビビってひなさんをかばうしかできなかったという。そんなにか。俺、愛されてる!


 そんな威圧を真正面からぶつけられた父親は当然フリーズ。そこに妻は淡々と言葉をぶつけたという。


「あなたは私の『父』ではありません」

「あなたは私の『家族』ではありません」

「私の家族は『あのひと』です」

「『あのひと』と黒陽だけが私の家族です」


 そうして怒りにブチキレた彼女は、言ってしまった。


「私は高間原(たかまがはら)の北、紫黒(しこく)の『黒の一族』の娘です!」

「何度生まれ変わっても! 誰から生まれ落ちても!

 私が『私』である限り、私の『家族』は黒陽と『あのひと』だけです!!」



「……………言っちゃったか……………」

「言っちゃいました……………」


 疲れ果てた表情のひなさんと目が合う。どちらからともなく「はあぁぁぁ………」とため息が落ちた。


 チラリと守り役に目を向け「止められなかったのかよ」と聞けば「止める間もなかった」と申し訳なさそうに言う。


 そこからさらに竹さんは普段の穏やかさをかなぐり捨てて父親に暴言を連発。

「発言が『呪い』になりそうだと気付いたのであわてて()めました」

 そんなにか。

「ありがとうございます」とひなさんに頭を下げたが「もっと早く止められたらよかったんですけど」「スミマセン」と逆に謝罪された。


「で、竹さんは?」

「また熱が上がって、あれからずっと寝てるわ」


 アキさんの説明に『やっぱりか』とため息が落ちる。


 ひなさんにストップをかけられた俺の妻は(たかぶ)る感情のままひなさんに泣きついた。わんわん泣く竹さんの負担を考えたひなさんが黒陽に指示を出し眠りの術をかけさせた。

 そうしてベッドに倒れ込み強制退場となった竹さん。その様子をご両親は呆然と見ていたという。


「かなりショックを受けておられました」

 精神系能力者のひなさんなのでご両親の心痛が伝わってきたと。


「このまま放置はできないと判断し、主座様と菊様に高間原(たかまがはら)についてと転生についての情報開示の許可を得て、黒陽様からご両親に話をしていただきました」

「主座様と晴臣さんとヒロさんも同席くださいました」

「これまでにしてきた説明の補足という形が取れていたと判断します」



 曰く。


 竹さんは五千年前にこの『世界』に『落ちて』来た異世界の姫である。その異世界が『高間原(たかまがはら)』で、彼女の生まれ育った場所が『紫黒(しこく)』である。

 彼女はその頃からの記憶をずっと持ち続けている転生者。とある『悪しきモノ』により『呪い』を刻まれたために何度も生まれ何度も死んでいる。


 彼女にかけられた『呪い』とは。

『二十歳までしか生きられない』で『記憶を持ったまま転生する』。

 だから彼女は長生きできない。だから彼女は忘れることができない。彼女は前世の記憶を持ち続け、若くして死ぬ運命を持って生まれ変わり続けた。


 その竹さんの守り役が黒い亀の黒陽。これまでの五千年、ずっとそばにいて彼女を守り続けた。

 そうして今生。神宮寺家に生まれ落ちた竹さんを母胎に宿ったときから守っていた。


『悪しきモノ』から『呪い』を受けている竹さんの周囲ではなにかと不幸が重なったりトラブルが起きたりということが多かった。それは黒陽でも防ぎきれなかった。そのために彼女は結界や封印、お守り作りなどの能力を磨き鍛えていった。『身近なひとを守りたい』と願って、生真面目に。


 それでも不幸は降りかかる。そのために彼女は生まれ変わるたびに幼いうちに生家を出るようになった。自分は死んだと思わせて。


 そんな彼女に運命の出逢いがあったのがおよそ千二百年前。

『半身』と呼ばれる、特別な結び付きを持つ男に出逢った。


 それは彼女達が元々生きていた『世界』に伝わっていた伝説。

「夫婦は元々ひとつの(カタマリ)だった」

「ひとつの(カタマリ)に陽と陰――つまり、男と女、二つの(タマシイ)が宿ったが、半分に分かれた。

 だから、失った半分を求める。

 そして再び出会えた二人は、お互いを『半身』と呼ぶ」


 死の淵にいた彼女を偶然助けたのが『半身』の男だった。

 ふたりは結ばれ夫婦となったが死に別れた。

 それから何度も何度も生まれ変わった彼女が、四百年前、再び『半身』と出逢った。

 生まれ変わった『半身』と。


 そのときも結ばれ夫婦となったけれど、彼女には『呪い』をかけた『悪しきモノ』を封じるという責務があった。丁度『悪しきモノ』を見つけ追い詰め――彼女は、生命を落とした。


 次に生まれ変わったときには『半身』は死んでいた。『半身』のいない『世界』に彼女は『半身』を探しはじめた。


 千二百年前に別れたときは気付かなかった。もう逢えないと思っていた。だからこそ『半身』との思い出を支えに生きていた。

 だが、また逢えた。生まれ変わった『半身』に。ならば。

 ならばまた逢えるのではないか。

 彼女はそう、気付いてしまった。


 そうして彼女は生まれ変わるたびに『半身』を探すようになった。だが『生まれ変わる』というのはそう簡単なものではないらしい。探しても探しても見つからないことに彼女は疲弊していき、ついに壊れる寸前にまでなった。


 そこで守り役の黒陽が彼女の記憶を封じた。『半身』の記憶を。

 その影響で『呪い』が変質したらしく、彼女はそれまでの記憶と霊力を封じた状態で生まれ落ちるようになった。

 だが『呪い』の影響は強く、思春期になると記憶と霊力を取り戻し、生家を出て責務に邁進し二十歳を迎えることなく亡くなった。


 今生もまた彼女は記憶も霊力も封じた状態で生まれ落ちた。それが思春期を迎え霊力が増えた。と同時に封じていた記憶が徐々に解け、彼女は記憶と霊力を取り戻していった。


 増える霊力に身体がついていかず、昔の壮絶な記憶が食欲と気力を奪う。そのうちに霊力過多症を発症。暴走状態になり満足に動かせない肉体から『魂』が抜け出してしまった。


 安倍家で肉体を保護され、彼女は『魂』になって彷徨(さまよ)った。

 目的はふたつ。

『悪しきモノ』を見つけ封じる。

『半身』を見つける。


 とはいえ、『半身』の記憶は封じられたまま。なので『半身』に関しては無意識状態――睡眠時に探し歩いていた。


 黒陽を(とも)に街を彷徨った。起きているときも、眠っているときも。そうして偶然出逢ったのが『半身』であるトモ。


 トモは主座様直属の能力者。

『半身』だと彼もすぐに理解し、彼女を求めた。

 彼女は『魂が抜け出た状態』で『霊力が肉体に馴染み「魂」が肉体に戻ってこない限り目覚めない』ということは主座様に教えられた。

「彼女のために」と彼は薬を探した。霊力過多症を抑える薬を。

 鬼と戦い死にかけたり、『異界』に行って修行したりと色々あったが、彼の奮闘の甲斐あって彼女の『魂』は肉体に定着した。

 が、間の悪いことに彼女の追っていた『悪しきモノ』が京都を狙って動いた。彼女と黒陽は『悪しきモノ』との戦いに向かう。トモも当然のように同行し、彼女に協力した。

 彼女と黒陽だけだったら彼女はまた死んでいた。それをトモが諦めることなく彼女の生命をつなぎ、救った。


 そのおかげで『悪しきモノ』をついに討伐できた彼女。なんと『呪い』も解けた。

 何度も死の淵に落ちかけ、苦労して苦労してようやく大願を成就させた彼女。『呪い』解呪の反動と戦いの疲れから高熱を出し寝込んだ。その彼女が望む『これから』は『彼と共に生きること』。


 ずっと支えてくれた。ずっと助けてくれた。『半身』という結び付きだけでなく、共に苦難を乗り越えたふたりには強い絆が生まれていた。『呪い』が解けた彼女はもう『二十歳までに死ぬ』ことはなくなった。ならば。


 ふたりで生きたい。共に過ごしたい。離れたくない。

 彼女は、彼は、そう願っている。


 実際問題として、完全覚醒した彼女を一般家庭に置いておくのは非常に危険だと言える。

 完全覚醒前は黒陽が家族をはじめとした彼女の周囲を守っていた。何重もの守護結界やら運気上昇やらをかけた。竹さん自身が無意識にかけている結界だけでなく黒陽も生まれ落ちたときから彼女に結界を展開し、完全覚醒前は一般人よりは多めの霊力を一般人でも低めと認識されるようにしていた。だからこれまでに彼女の生家やその周囲に彼女を狙うモノは寄り付かなかった。


 だがこれからはそうはいかない。

 完全覚醒した彼女は黒陽よりもチカラが強くなったのでこれまでのように黒陽が抑えることはできなくなった。彼女自身が霊力その他を抑えるようにしているが、今回の戦いで彼女の存在があちこちに知られてしまった。ゆえに彼女を取り込もうとしたり狙うモノが家族に危害を加えてくることは必定。そうなれば、どれだけ彼女が優秀な結界師であっても守り切ることはできない。


 その点トモなら問題ない。彼は元々主座様の直属になれるほどの能力者。今回彼女のためにと修行に励み経験を重ね、彼女に並び立てるほどのチカラを得た。彼女を狙うモノから自分自身も、彼女も守り切るだけの実力がある。

 ふたりが望んでいることでもあるし、夫婦として暮らすようにしたい―――。




 リビングダイニングに移動し、出された熱いコーヒーが冷めても口をつけることなく、ご両親は呆然と話を聞いた。

 どうやら彼女が生まれる前からそれっぽいことを聞いていたらしく、話の所々に納得を見せていた。


 同居している彼女の父方の祖母は上賀茂の社家出身の元神職。その家には『黒い亀を連れた姫』の話が語り継がれていた。

 幼い彼女が「こくよう」という見えない存在について語るのを見て「この子は」と気付き、両親に言い聞かせていたという。


 彼女の母親の実家にも『黒い亀を連れた姫』の話が伝わっていた。

 彼女の母親の実家は京都の一部で『藤家(とうけ)』と呼ばれる家の分家の分家。千三百年前の王の近衛を祖とする、藤原の一族の中でも霊力に優れ代々王家守護を任せられた武官の家。それが『藤家』。


『藤原』の人間が増え分家を繰り返すうちに『佐藤』『加藤』『伊藤』など名字が変わっていった。

 名字を変えても王家守護の任は変わらず受け継がれており、それまでどおり『藤原』でまとめるのはわかりにくいとなった頃に『藤家』と呼ばれるようになった。


 そんな、分家の分家とはいえ『藤家』に関わりのある家で育った母親にとって黒陽の話は納得できるものだった。

「これまでの竹さんの態度にも納得しておられました」とひなさん。

 どうもあの遠慮しい、記憶が封じられているときでも他人行儀に礼儀正しく家族と接していたらしい。気ぃ使いだからなあのひと。

 さぞや肩身狭く窮屈(きゅうくつ)に暮らしていたんだろうと簡単に想像できた。


 だから母親は話を飲み込み理解した。だが父親は理解できない。納得できない。「『父』じゃない」「『家族』じゃない」と愛娘から拒絶されたことが衝撃的すぎてなにも受け入れられない。


 ……………気持ちは理解できる。俺だって愛しい妻に真正面からそんなこと言われたら自分の首を()っ切る自信がある。


 あのひと生真面目が過ぎるからか対人スキルが底辺だからか『遠回しに言う』とか『オブラートに包む』とかいうのができないんだよな。で、ズバッ、ズバッ、と正論ぶつける。言われたほうは当然ショック受けたり怒り狂ったりする。そんな相手に彼女もショックを受けて傷つけたことに傷つくんだ。面倒くさいひとだなあ。


「どうもご両親、今生だけでなく高間原(たかまがはら)のときからずっと『竹さんのご両親』だったようです」

「は?」


 突然のひなさんの発言に(きょ)をつかれる。アキさんも黒陽も驚きを隠せずにポカンとしていた。


「ど、どういうことだ?」

 震える声でたずねる黒陽に気の毒そうな目を向けたひなさんが答える。


「竹さんのご両親は高間原(たかまがはら)で『黒の王』とその妻だった方です」

「は!?」

「その後も生まれ変わっては結ばれ、竹さんの親となっておられます」

「は、はあぁぁぁ!!?」


 愕然とする黒陽。

「なんでひなさんがそんなこと知ってるの」とツッコめば「………ちょっと、裏話を暴露したい集団とご縁がありまして………」と(にご)された。

 菊様か『(ヌシ)』達あたりか? まさか神々と直接交流できるとか………さすがにそんなわけないか。


 それにしても。その話が本当ならば黒陽は従弟だった男の生まれ変わりと身近に接していたことになる。これまで気付かなかったのかよ。


「『黒の王』として亡くなるときに神々に『願い』をかけておられました。

 その『願い』とは『これから何度も生まれ変わる娘の親として生まれ変わること』

 その対価として、お持ちになっていた霊力のほとんど全部を献上しておられます。

 それで黒陽様にはわからなかったのではないかと推察します」

「奥様は『半身』の『願い』に引っ張られる形ですね。

『半身』として同時期に転生し結ばれ、結果竹さんの母親になる」


 だからどこでそんな話聞いてきたんだよ。ていうか、竹さんの両親も『半身』なのか?


「転生を重ねるたびに霊力は減り、お父様は今では『霊力なし』です」

「お父様には転生前の記憶はありません。毎回前世の記憶は消去されて転生しておられます。

 ですが、記憶はなくとも、魂には刻まれています。娘を喪った哀しみと苦しみが」

「だからこそ、過保護が過ぎるほど娘を溺愛し、手放すことに恐怖を感じておられるようです」


 納得しかない説明に内心(うな)っていたらひなさんが視線を向けてきた。


「今のトモさんならわかるんじゃないですか?」


 その目の奥の光に思考が照らされる。『ごまかすな』『考えろ』と指摘される。


「竹さんと何度も死に別れた記憶のあるトモさんなら、再び出逢えた竹さんを『離したくない』という気持ちが、わかるんじゃないですか?」


「……………」


 ………悔しいくらいに、痛いくらいに、理解できる………。


「……………わかります」


 絞り出せばひなさんはうなずいた。

 くそう。そんなこと言われたら潰せないじゃないか。彼女が敵認定する存在なら潰してしまおうと思ったのに。そうすればふたり穏やかに暮らせると思ったのに。


 じゃあどうすればいいんだよ。説得? できるのか? 仮に俺が逆の立場だったとしたら絶対に受け入れない。竹さんを手放すなんてできない。どれだけ納得できる理由を並べられても、どれだけ彼女自身が望んだとしても、手放すなんてできない。


 ならば彼女を家に返す? で、俺も同居する?

 できなくはないだろうが、彼女はきっと肩身狭く暮らすだろう。遠慮して、気を使って、『守らなければ』『災厄を招かないようにしなければ』と毎日気を張って生きることになるだろう。そんなの可哀想だ。

 俺と黒陽だけなら自己防衛できるから彼女ものびのび暮らせる。田舎にひっこめば近所を気にすることもない。それじゃ駄目なのか? 父親の手の届くところにいないといけないのか?


 ぐぬうぅぅ、と唸っていたら。

「なので」

 ひなさんが話を続けた。


「ひとつ、ご提案があります」

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