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久木陽奈の暗躍 103 話し合いと今後の方針決定

 ここに至るまでの竹さんの事情をお話し、アキさんが改めて皆様に問いかけられた。


「竹ちゃんのご両親へ、どのように対応致しましょうか」


「『どう』とは?」

 そうおっしゃったのは梅様。アキさんは皆様に向けて補足説明をされる。


「これまでは竹ちゃんは『災禍(さいか)』との戦いで生命を落とすと思われていました。仮に戦いで生き残ったとしても二十歳を迎えられず亡くなると思われていました」


「ですので、竹ちゃんのご両親にお見舞いに来ていただくのは竹ちゃんが本当に亡くなるまでの間だけ。竹ちゃんが亡くなったら本物のご遺体は緋炎様が燃やされるから、竹ちゃんの姿をしたあの式神の機能を停止してご遺体としてご家族のもとにお返しする予定でした」


 いつか竹さんが今生の生を終えたとき。

 そのとき竹さんの遺体は周囲に影響を与えないよう緋炎様が灰の一欠片も残らないよう燃やされる。

 超がつく高霊力保持者であり『黒の姫』である竹さんだから、その亡骸を喰らおうとするモノ取り込もうとするモノがたくさんいる。

 そうさせないためにも竹さんの遺体は毎回緋炎様が燃やしておられる。もちろん他の姫様も同様。


 そうするとご存知だったから保護者の皆様も主座様も竹さんの死亡を『保留』とされた。この安倍家の離れで「意識不明状態」を維持することにされた。


「ですが、『災禍(さいか)』との戦いは終わりました。しかも『呪い』も解けました。

 竹ちゃんは二十歳までに死ぬことはなくなりました」


「となると、竹ちゃんのご両親に対し、どのように対応したらいいでしょうか」


 竹さんがこの離れに来たときには『保留』で問題なかったけど、まさかの『災禍(さいか)』滅亡後も竹さんは生き残れた。まさかまさかの『呪い』が解けた。

 それはそれで喜ばしいことなんだけど、「じゃあ今後どうする?」という問題が発生してしまった。


「当初の予定どおり竹ちゃんは死んだことにして式神をご遺体としてお渡しするか。それとも元気になった竹ちゃんに会わせるか。会わせるならば今後どうするか。ご家族のもとにお返しするのか、『北の姫』として安倍家にとどまっていただきご家族とは疎遠にするか」

「どう対応するのがよろしいでしょうか」


 実は今回の報告会の前に私達はアキさんから相談されていた。

 保護者の皆様と主座様ヒロさん、そして私とコウでの夕食の席で。

 その席でコウと千明様が「ご実家には帰さないほうがいい」「トモくんと一緒に暮らしたらいいじゃない」と発言した。私も同感。

 とはいえ前前世の記憶を取り戻してしまった今の私には親の気持ちも理解できる。保護者の皆様もヒロさんの経験があるから余計に竹さんのご両親に対して同情的だ。だからこそ決断できない。彼らから愛娘を取り上げる決断を。


 普通に考えたら竹さんは一般家庭に置いておけない。あんな高霊力を持った高能力者、どう考えてもトラブルの元だ。竹さんを利用しようとするモノ、その身を奪おうとするモノ、ありとあらゆるモノが――ヒトだけではなく妖魔から神仏などのヒトならざるモノまで――竹さんを狙う。どれだけ本人や守り役様が結界を張ろうと守護や運気上昇を駆けようとも守り切れるとはとても思えない。本人も、家族も、近所のひとも親類縁者も。


 覚醒前の竹さんはかけられていた封印と守り役様のおかげで一般人でも下のレベルの霊力になっていた。それでも守り役様はそんな幼い(あるじ)と自分に隠形をかけていた。古くからの知り合いやヒトならざるモノに気付かれないように。さらにはご家族と周辺一帯に守護の術もかけ、運気上昇も定期的にかけていた。そうやって守られていたおかげで竹さんはなにも知らずなにも気にすることなくごくごく一般的で平和な幼少期を過ごすことができた。


 でも完全覚醒した今は話が違う。

 どれだけ本人と守り役様が隠形をかけても、どれだけ結界を展開しても、わかるヒトにはわかる存在に成ってしまった。

 さらには今回竹さんは『災禍(オズ)』に対抗するために京都中の神社仏閣や『(ヌシ)』様のところにご挨拶にうかがった。そうしてその存在をヒトならざるモノに周知してしまう結果となった。


 とても一般家庭には置いておけない存在となってしまった。


「別にいいじゃない。竹の家族には最初の予定通り竹が『死んだ』と伝えて、竹はトモと暮らせば。

 これまでだってもっと子供の頃に家を出てたんだし。トモなら責任取って竹と結婚して養うでしょ?

 それで竹もトモもしあわせでしょ?

 なんか問題ある?」


 さっぱりとおっしゃる梅様。ぐるりと全員を見回され、アキさんのところで目を止められた。

『どうよ』とおっしゃりたげな視線にアキさんは困ったように眉をさげられた。


「………問題は、確かにないんですが………」


 言い淀むアキさんの思念が『視える』。竹さんのご両親の気持ちを思いやるアキさんの気持ちが。

 ううむ。他のお三方も竹さんのご両親が気にかかりますか。主座様は……。

《私は姫宮のご希望に従います》

 ですか。

《ただ、姫宮がご実家に生活拠点を置かれるのはやめたほうがいいと思います》

 ですよねえ。


「そもそもなんで安倍家に身柄を移したときに死んだことにしなかったのよ」


 梅様がすぐさまそのことを指摘された。

「竹はいつもそうしてるじゃない」と。


「姫宮は今回も『死んだことにしてくれ』と望まれたのですが」



 この安倍家の離れで目覚め完全覚醒した竹さんが一番に望んだのが「死んだことにしてくれ」ということだった。

「もうあの家に戻るわけにはいかない」「どうせ数年のうちに死ぬのだから」と。


 そこに『待った』をかけたのがアキさん。

「『どうせ数年のうちに死ぬ』というならば、今すぐに死んだことにしなくてもいいじゃないか」と言い、式神に竹さんの姿を取らせ寝させておくことを提案した。



「大事な子供が『原因不明で突然亡くなる』よりは『闘病の末亡くなる』ほうがまだご遺族は納得できるのではないかと思いまして」



 主座様から色々と事情をうかがっていたアキさんも竹さんが長くてあと五年しか生きられないことは理解していた。

災禍(さいか)』と『宿主』が特定できれば竹さんは戦いに臨み生命を落とすことも。

 だからこそ「今すぐでなくてもいいじゃないか」と説得した。


 竹さんを死んだことにしておくほうが面倒は少ない。神宮寺家と無関係にしておくことで神宮寺家を守ることにもつながる。見舞いに来させることは情報漏洩にもなりうる。アキさんの負担もかかる。 

 それでも。

 同じ親としての気持ちが、余命宣告されたヒロさんの保護者としての経験が、アキさんを動かした。


 そんなアキさんの気持ちを他の保護者の皆様も主座様も理解し同意してくださった。

 そうして主座様守り役様菊様と相談し、竹さんは『霊力過多症で眠り続けている』――詳しく言うと『霊力過多で暴走状態になり満足に動かせない肉体から「魂」が抜け出ている状態』であるとし、『霊力が肉体に馴染み「魂」が肉体に戻ってこない限り目覚めない』とご両親に説明された。



 そんな説明を主座様から聞かされた梅様は「まあ理屈はわかるけどね」と理解を示された。


「とはいえ、そこまで竹の両親に気を遣うことないんじゃない? 竹がしあわせならそれでいいじゃない」

「まあ、そうなのですが」


 きっぱりさっぱり言い切る梅様に対し主座様は煮えきらない困ったご様子。ちらりとこちらに視線を向けられた。

 ……かしこまりました。私が話の主導権を引き継ぎます。


 そっと目を伏せてひとつ息をつき、顔を上げ皆様の注目を集めた。


「当初は竹さんは数年の内には亡くなると思われていたので、皆様の対応に問題はありませんでした。

 菊様もそう判断されたのですよね?」


 私の確認に「まあね」とお認めになられる菊様。

 そう。竹さんのご両親への対応についてはちゃんと菊様の承認を得ておられる。そこは主座様も保護者の皆様もぬかりはない。


「しかし現在は状況が変わりました」

「竹さんはこれからも生きられる」


 念押しする私に菊様が首肯くださる。間違いないようだ。よかった。

 では。と守り役様に顔を向ける。

 

「黒陽様に確認したいのですが」

 うなずく守り役様にたずねる。


「竹さんが今後どのように過ごすのがいいとお考えですか?」


「トモと共に暮らせばいいと思っている」


 即答なさる守り役様。そうですよね。ずっとそう『願って』こられましたものね。

「そうですか」と応える私に、守り役様は独り言のような調子で語りだした。


「姫はこれまでずっと罪を背負って生きてきた」

「だが『災禍(さいか)』を滅するという責務を果たせた」

「トモやひなが言い聞かせてくれたおかげで前向きになっている。これまで抱えてきた罪を『赦された』と思っている」

「今ならば姫はトモと『しあわせ』に過ごせると私は思っている」


「なるほど」


 納得です。

 では肝心の質問です。


「今生のご家族はどうされますか?」


「どうもしない」

「姫があの家に帰ることはない」


 きっぱりと断言される守り役様。他の姫様方も守り役様方も『まあそうだよね』と納得のご様子。梅様も《ほらご覧なさい》とドヤッておられる。


 それでもいいと言えばいいんですけどね。『欲』が出ちゃったんです私達。

 竹さんに『普通のしあわせ』を。『のびのびと暮らせる日常』を。って。


『どこかで今生の家族や知人に会うかも』なんて心配することなく。隠形を取ることなく堂々と好きなように好きな場所に行けたらと思っちゃったんです。

 たとえ二度と帰らないとしても。二度と会うことはないとしても。

『死んだ人間』でなく『お嫁に行ってしあわせに暮らしてる人間』として生きたらいいと願っちゃったんです。



「……ちなみにですが」


 そんな内心を隠して別の質問をする。


「菊様は今後どのようにお過ごしになられるご予定ですか?」


 突然変わった話題にも菊様は動じることなく「別に今までどおりよ」と軽くお答えくださった。

 

「猫かぶって良家のお嬢様して。適当に学校行って。適当にどっか嫁に行くんじゃない?」

「もう『災禍(さいか)』は滅びたから責務もないし。『白の女王』と言ったって国はないし。

 これまでのぶんを取り返すくらいにのんびりするわ」


「神代の家を出ずに、ということですか?」との確認にも「まあそうね」と軽くお答えくださる。


「出てもいいけど、それはそれで面倒くさいじゃない」

「まあそうですね」


 菊様は今生も名家のお嬢様ですものね。嫁入り以外で家を出るのは大変そうですよね。

 はい。では次。


「梅様は」

 私の問いかけに梅様もあっさりとお答えくださった。


「私も今までどおり。今の学校卒業して、看護系の学校行って、看護師になるわ」

「薬作りは趣味で蒼真とやることにして、仕事は看護師になりたいの」


 これまでの五千年、たくさんのひとを救ってこられた梅様だけど、当然救えなかった生命もある。戦争や災害、疫病などを経験してこられた梅様は記憶のないときでも「ひとりでも救いたい」と常に考えておられた。もちろん医療従事者の一族に生まれ落ちた影響もあるけれど「いつも胸の奥に『生命を救いたい』という想いがあった」とのこと。だからこそ大学を卒業しなければ従事できない医師や薬剤師ではなく、比較的短期間で従事できる看護師を目指していると説明される。


「その場合、ご家族とはこれまでどおりのお付き合いですよね?」


 私の問いかけに梅様は一瞬ポカンとされた。けれどすぐに質問の奥にある意図にお気づきになり眉を寄せられた。

 しばしの無言のあと、そっと目を逸らされた梅様。

「……………そうね」と絞り出すようにおっしゃつた。


「蘭様は」

「オレも家族と別れる予定はないなあ」


 梅様の態度に苦笑を浮かべながらもさっぱりと蘭様がお答えくださる。

 と、梅様が大きく息を吐き出された。


「……………アンタの言いたいことはわかった」


 お顔をしかめ腕を組み、梅様はまっすぐに私に視線を向けられた。


「確かに竹だけ『家族と別れろ』というのはフェアじゃないわ」


 きっぱりとおっしゃる梅様は事前にお伺いしていたとおりのさっぱりとした潔い公平な方のようだ。

「だとするとどうするのがいいかしらね」と頭を切り替えお考えくださる。


 そこに黒陽様が生真面目に言葉をはさまれた。

「気にされることはございません」

「我が姫にとっては家族は『家族』ではありません」

「姫は今生の家族と交流するよりも『半身』のそばにいられることを望みます」


「まあそうでしょうね」と梅様もご納得のご様子。とはいえどうするのがいいですかね。

 私達も竹さんが今生のご家族とはもう関わらないであろうことも、トモさんと暮らしたいであろうことも予想してるんですよ。でもそうするには竹さんのご家族をどうにかしないといけないんですよ。


 うーむ、と考え、ひとまず考えられるだけの対応を紙に書き出す。うん。まあこんなもんかな?


「現時点で考えられる対応は」

 皆様に書いたメモをお見せし、指差しながら読み上げる。


「一。ご両親には当初の計画どおり竹さんは死んだと伝え、式神をご遺体として引き渡す。竹さんはトモさんと暮らす」

「二。竹さんは元気になったと明かし、ご両親に会わせる。その後ご実家に帰し、トモさんとは恋人または婚約者として数年お付き合いののち結婚し家を出る」

「三。二と同じく、竹さんは元気になったと明かし、ご両親に会わせる。ただしその後はご実家に帰らせずトモさんとの同居を認めさせ、ご家族とは離れて暮らす」

「四。ご両親に竹さんのことを――異世界から『落ちた』姫であること、五千年転生を繰り返していることなどを正直に全部明かし、 一般家庭に置いておくことはできないと説明する。で、竹さんはトモさんと暮らす」

「五。ご両親をはじめとする竹さんに関わったひとすべての記憶を消し、『神宮寺竹』の存在自体を消す。そのうえで竹さんはトモさんと暮らす」


「――と、こんなところでしょうか」


 フローチャートにしたメモに皆様それぞれに検討してくださる。「他にもなにか対応策がありますかね?」とたずねてみたが、どなたも「ないでしょう」とおっしゃる。


「一番簡単なのは『一』の『死んだことにする』よね」

「でも街とかでばったり会ったらどうする? あのうっかりに咄嗟にごまかすとかしらを切るとかできるかしら」

「竹は基本引きこもりだから会うことないんじゃない?」

「ですが、あの方、信じられないくらいの不運属性持ちですよ」

「「「あー」」」


 即納得されるじゃないですか。どんだけ不運実績積み上げてきてんですか。


「『五』の『関係者の記憶消去』も悪くないわよね」

「卒業アルバムとかはどうすんのよ」

「記憶消去と同時に認識阻害かけたら認識できなくなるんじゃない?」

「でも結構手間よね」

「まあね」

 菊様でも大変ですか。うーん。


「となると、『二』『三』『四』か」

「姫を生家に帰すのは賛成できません」

「そうね。竹を帰すのは家族や周囲の人間に危険が及ぶでしょうね」


 やいのやいのと意見を出し合う。


「竹さんがいることで考えられる危険はどんなものがあると予測されますか?」


 質問すると、まあ出てくるわ出てくるわ。これまでのやらかしからトラブルまでどんどんと出てくる。姫様方守り役様方による長い人生経験に基づいた予測も、晴臣さんタカさんによる現代社会の裏事情から考えられる予測も次々と湧き出てくる。それ現代の一般人にはとても耐えられませんよ。竹さんにはとても聞かせられません。


「……………やっぱり竹様死んだことにしたほうがいいんじゃない?」

「そうすれば少なくとも今挙げられた危険の一部は防ぐことができますね」


 うーむ。やっぱりそれがいいですかね。ちょっとリスクが高すぎますよね。

 そうするなら竹さんの姿を変えて戸籍も変えて…と考えていたら、黙って腕を組んで天をあおいでいたタカさんがゆっくりと身体を戻し、挙手した。

 主座様が視線で発言の許可を出され、全員がタカさんに注目した。


「………()えてわかるようにする、という手もありますよね」


「どういうこと?」との梅様の質問にタカさんは淡々と答えた。


「言わば『罠』です」


 その言葉にハッとする。なるほど。そうきましたか。


「竹ちゃんの家族や周囲に探りを入れてくるヤツというのは、竹ちゃんが目的でしょう。ということは逆に言えば、竹ちゃんを狙うヤツを捕まえられるということ」


 タカさんの説明に梅様が「ゴキ◯リホ◯ホイ的な」とまとめられる。わかりやすいたとえですね梅様。タカさんは「撒き餌くらいで」と苦笑している。


「どれだけのモノが竹ちゃんを狙っているかは表面上はわかりません。でも、餌をぶらさげていたら――それも簡単に手を出しやすそうな餌ならば、ちょっとつついてみようかな~というヤツは出てくるんじゃないですか?」


 タカさんの説明にどなたもが「なるほど」と感心しておられる。私も納得。十分あり得ますね。


「ご家族とかお知り合いとかにはなんかセンサーみたいなの取り付けといて、干渉があったらすぐにこちらサイドにわかるようにしておいて。もちろん土地や家屋にもセンサー取り付けといて侵入者にはマーキングして追跡できるようにして。

 で、あとはこちらが追い詰めて排除すれば」


「いいかも」

「数件繰り返せばちょっかいかけるモノはいなくなるでしょうね」

「わかりやすく派手に排除すればね」


 姫様方と守り役様方には具体的な計画が浮かんでおられるようだ。これならいけそう。


「どっちみちトモと竹ちゃんは結婚するでしょ?」

 タカさんがさらに言う。


「『北の姫』の伴侶がトモだということは知られるでしょう」


 多分もう知られてるでしょうね。安倍家の能力者さんには本拠地(ベース)準備のときに明かしましたし。あちこちご挨拶に行ってもらってるときに見かけたひともいるでしょうし。


「トモはあれで有名人です。トモを育てた祖父母が有名な能力者でしたのであちこちから注目されていますし、おふたりが出かけるときに同行することもありましたし」

「だからトモサイドからも干渉があると考えられます」


 それは確かにそうですね。見落としてました。


「竹ちゃんを死んだことにして神宮寺の籍からぬいて別戸籍を作って結婚するにしても。籍を入れず事実婚とするにしても。竹ちゃんを狙うモノがトモを切り口にすることは考えられない話じゃない」


 確かに。十分あり得ます。


「でもトモはそんなに簡単に攻略できる相手じゃない」


「そこにもっと簡単な、セキュリティなんて知らない一般家庭があれば、竹ちゃんを狙うモノはみんなそっちに流れるんじゃないですかね?」


「―――悪くないわね」


 ニヤリと菊様が笑みを浮かべられる。ああ。これはなんか悪いこと思いつかれましたね。守り役様が困った顔をしておられます。


「対人間だけじゃない。ヒトならざるモノもたくさん罠にかかるでしょうね」

「低級霊から神レベルまでよりどりみどりですねきっと」


 菊様の予測に緋炎様も楽しそうに同意される。


「竹を目立たせておけば私達への干渉もなくなるわねきっと」

「確かにね」

「竹が狙いやすいとなったら馬鹿が竹に集中するでしょ」

「で、ひっかかった馬鹿を叩けば私達は安全。と。――アラ。いいんじゃない?」


 菊様梅様がきゃっきゃと話を進められる。それつまり竹さんをおとりにするってことですよね。竹さんの守り役様が苦虫を噛み潰したようお顔をしておられますよ。無視ですか放置ですかそうですかいつものことですか。



 そうして竹さん本人の意思をまるっと無視し、今後の方針が決められた。


 竹さんの今生のご両親に竹さんへの面会許可は出す。当の竹さんはまだ熱が高いから元気になるまでは式神のほうに会わせる。


 頃合いをみてトモさんのことをご両親に説明する。その説明は次のとおり。


『魂』が抜け出ている状態だった竹さんと出会ったのが主座様直属の能力者であるトモさん。彼は『魂』だけの存在になっていた竹さんに惹かれ、想いを交わし愛し合い、彼女の霊力が肉体に馴染むよう協力してきた。彼のために竹さんもがんばり、肉体に戻り目覚めた。

 目覚めた竹さんは高霊力で安定し、結界や封印に特化した存在になった。それはつまりあちこちから狙われる存在になったということ。周囲に危険が及ぶので一般家庭では暮らせない。今後は引き続き安倍家で暮らし、安倍家の能力者として活動してもらいたい。その竹さんの護衛としてトモさんを置く。主座様直属になるほど優秀なトモさんならば竹さんのそばにいても自衛できるし竹さんも守れる。

 ふたりは愛し合っていて、もうお互い夫婦のつもりでいる。年齢の問題で今すぐ入籍はできないが、結婚を前提に一緒に暮らしたいと言っている。

 トモさんという『夫』がいるならば竹さんを狙うモノはトモさんを狙う。であれば竹さんと暮さない神宮寺家や周囲が狙われることは少ないと思われる。その状態ならば年に一、二度程度ならばご両親が竹さんに会うことは可能である――。


 これなら話の筋も通ってるし、竹さんとトモさんは一緒に暮らせる。嫁に行った娘と神宮寺家のご両親が連絡を取ることも時折会うこともできる。竹さんも常に姿を変えたり隠形を取ることもしなくてよくなる。


 ついでに言うならば竹さんをエサに姫様方にちょっかいをかけようとする有象無象をあぶり出して始末できる。

 この『罠』に関して、霊的な『罠』や術式関係は菊様を中心に白露様緋炎様黒陽様が仕掛けられる。情報管理関係はタカさんが。『災禍(オズ)』が仕掛けていた官公庁をはじめとしたインフラ全般とコンビニへのシステム介入の影響がないかチェックするためのシステムをちょっといじったら「どこにもバレずにできる」とのこと。どっちの『罠』も私には意味がわかりません。わかるひとがうまく運用してください。



「ついでだから」と菊様が今後の姫様方の立ち位置についての見解の一致を図られた。


 『災禍(オズ)』のことで神様方にご協力いただいた御礼を「継続して行わないといけない」と菊様がおっしゃる。主座様も同意見。

 で、この『継続して行う御礼』を「竹にやらせる」と菊様がお決めになられた。


 竹さんは今回の件であちこちにご挨拶にうかがっている。つまりは『竹さんが協力依頼をした』という認識になっている。

 だからこそ「竹が挨拶に行くべき」と菊様はおっしゃる。まあそうかもしれませんが。


 トモさんが一緒に暮らして常に竹さんの体調と生活を管理するならば竹さんも無理することなく継続的に御礼を続けることができるだろう。神様方の無茶振りもトモさんならば跳ね除けられる。守り役様はお付き合いが長すぎて多少の無理は聞いておしまいになるけれど、トモさんは『半身』である愛する妻が第一のひと。格上の存在だろうが神様だろうが突っぱねるに違いない。ウチのわんこならやる。だから間違いない。


 神様方相手だけでなく、神様方以外のヒトならざるモノやヒトに対しても「竹に対応させよう」と菊様がおっしゃった。

 先のご挨拶行脚で竹さん――『黒の姫』の存在があちこちに知られた。神社仏閣関係者や『守護者』の中にはお仕えしている神様方から「あれが『黒の姫』だ」「無礼な態度を取るな」と聞かされているひともいる。

 京都は歴史のある街で長く続いた古い家がたくさん残っている。そういう家の中には『姫』を支援してくれていた家もある。『姫と守り役』について伝えられている家も。

 そういう家にも「今までありがとう」「無事責務を果たせました」と一言御礼を言ったほうがいいと菊様がおっしゃる。それを竹さんにやらせようと。


 そうやって竹さんを前面に押し出し、他の御三方はどうされるのか。

「私は表舞台には出ない」

「私だってイヤよ」

「えー! オレもヤだ! 表なんか出たくない!」


 ……………。


 ………確かに『姫』が全員揃ったのは四百五十年前が最後で、それも安倍家以外には伝わっていないみたいですけどね。

 だから『姫と守り役』について知っていても、その『姫と守り役』が複数いることはあまり知られていない。だから竹さんと黒陽様が王族モードでご挨拶したらそれでどこも納得するだろう。


「まあ神々がなにか申し付けてこられたら聞かないといけないけどね。それはこれまでどおり私が窓口になるわ」


「それが『白』の役目だから」と菊様がおっしゃる。

 そうして必要があれば他の姫様方や主座様に協力依頼を出すと。


「あとは基本一般人のフリをしとくわ。下手に能力者だとか『姫』だとか知られたらロクなことがない」


 まあおっしゃるとおりですね。

 ということで、こちらの点でも竹さんが矢面に立つことが本人不在で満場一致で決定した。


 その竹さんの守り役様はご自分の姫と他の姫様方の性格をよくご存知なので、不満そうにしながらも最終的には受け入れておられた。

 まああの生真面目なお人好しの竹さんがこの話聞いたなら「やります!」「がんばります!」って喜びそうですよね。トモさんがそばについていれば無理させることないてしょうし。

 では対外的なあれこれは竹さんにお願いしましょう。


 そう言いながらも姫様方は「晴明には協力する」とお約束なさった。「これまで世話になってきたからね」と。守り役様方も同様。


「では皆様は『極秘の私の直属』という扱いでいかがでしょうか?」

 そうすればいざというときの言い訳にもなるし基本的には隠れていてもおかしくない。


 その説明に姫様方も守り役様方もお喜びになられた。

「いいじゃない! それでいきましょう!」


 ということで姫様と守り役様は全員『安倍家の主座様直属』の身分となられた。



 あれもこれもと話を重ね、ひとまずの方針が決まったところで会議はお開きになった。

 どれもこれもいい感じにまとまりそう。これも神様方のご加護のおかげだろう。ありがたやありがたや。私も御礼に伺いますね。




 翌日。日曜日。アキさんが竹さんのご両親に連絡を入れるとご両親は喜ばれた。「すぐ行きます!」と突撃してきそうなご両親をなんとか説得し翌日月曜日の午後の面会を約束した。


 そうして迎えた月曜日。

 今日のところは竹さんの姿の式神に会わせるだけで詳しい話はまた後日にしようと打ち合わせていた。


 なのに。



 やらかしてしまった。

 ウチの阿呆が。

次回からはトモ視点でお送りします

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