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久木陽菜の暗躍 102 報告と新たな問題

 土曜日の夜。もう深夜と言っていい時間に集まったのは竹さんを除く姫様方と四人の守り役様、主座様とヒロさん、保護者の皆様、そして私とコウ。

 これまでの報告会は御池のリビングで行っていたけれど、さすがにこの人数はムリとなり北山の離れのリビングダイニングでの会議となった。


災禍(オズ)』消滅から四日目。あちこちバタバタしていたのも少し落ち着きを見せてきた。今日はそれぞれの対応していたことに関する報告を主な目的として集まった。


 まずは姫様方の健康状態について。特に梅様蘭様は覚醒直後から動き回りストレスにさらされまくっていたから心配されていたけれど、熱が下がってからは問題なくお過ごしとのこと。

「こまめに休憩取れたからね」と梅様。「休憩がなかったら今頃危なかったかもね」とカラリとお笑いになる。やめてくださいよ。医学薬学に精通された方の言葉は冗談に聞こえないですよ。


 守り役様も皆様「問題ない」とのこと。人間の身体にも慣れてこられたそうで、調査や護衛の合間に少しずつ体術や剣術、術や霊力操作なんかを試しては勘を取り戻そうとされているとのことだった。

 これまでの獣の姿も「問題なく取れる」そうで、今は両方の姿をスムーズに取れるよう訓練中だと教えてくださった。


 なんか色々想定したり考えたりされているようだ。さすがです。今度ゆっくりお話しましょう。


 次に主座様からの現状報告。あの霊力の花びらが降り注いで今日が四日目。京都の結界の状態。妖魔や神仏、『(ヌシ)』様方の状況についてご報告された。現在までのところどこも大きな問題は発生していない。神様方は十八日の夜に菊様が鏡でつなげてご挨拶した時点で『問題なし』『むしろ絶好調!』と判明していたけれど、改めて今日確認し問題なしとなった。


 妖魔に関しては昨日までに出てきたモノは討伐済。出てきてないモノに関しても「さし当たり放置でいいでしょう」と主座様が判断された。

 まあこれだけの戦力があればいつでもどうにでもできますものね。納得です。


 続いてヒロさんが各省庁の動きについて報告。どこも問題なく処理が進んでいる。

 一部「姫様と守り役様に会わせろ」と言っている輩がいることも報告された。これについては菊様が「会うわけないでしょ」と一刀両断。主座様に「黙らせときなさい」とお命じになられた。


 持ち帰った遺品や遺骨について。召喚者二百人のその後について。転移させた生き残りについて。ヒロさんがキビキビと報告をしていく。

 その流れでデジタルプラネットについての報告に移った。


 まずはタカさんからあの日『バーチャルキョート』に何が起こったか改めて説明。続いて現在の復旧状況、予想される完了時期、復旧後のゲーム内容について報告された。

 私からは三上さんの状況、会社内部の様子、コウと隠形でこっそり参加したカナタさんの通夜葬儀の様子などをご報告。デジタルプラネットの幹部四人にかけた『制約』についてももちろんご報告した。


 次に晴臣さんが安倍家の状況をご報告。もうしばらくは警戒態勢をとること。あちこちの『守護者』に面談して様子を確認していること。『守護者』や能力者、社寺関係や官公庁などあちこちから問い合わせが来ていること。


『ボス鬼』が出ないことは徹底できた。霊力の塊である桜の花びら型の(ひょう)についても説明済。蒼真様がこの離れから『異界(バーチャルキョート)』に向かわれたのを目撃したひとが案外多くいて、その問い合わせもあった。

 それについては「以前『落ちて』こられた子供の龍が天に帰られた」との説明で納得された。行きは皆様隠形とるの忘れてたけど、途中と最後に『現実世界(こちら)』に戻ってこられたときは黒陽様がちゃんと隠形かけてくださったので能力者達は気付かなかった。

 そんな話をお互いにし、続けて白楽様の高間原(たかまがはら)の話をし、烏丸御池の本拠地(ベース)の話をした。


 他にも細々したことを報告しあい、最後に竹さんの話になった。

 まだ熱が下がらないこと。今日は梅様も上級の術をかけてくださったけど期待した効果はなかったこと。差し当たり今すぐ生命の危険があるわけではないけれど、これ以上高熱が続くようならば「トモをつけないといけない」と梅様がおっしゃる。

「術も薬も効かないとなると、『半身』でないと回復は難しいだろう」と。


 そのトモさんは「まだ離れさせられない」とタカさんがうなる。「もう数日すれば数時間なら時間が作れると思う」と。


 現在トモさんはほぼ寝ていないらしい。キリのいいところで机に突っ伏して気絶するように眠るだけで、たいてい十分、よく寝られて三十分程度しか寝ていないと。

 せめて寝るときだけでも時間停止がかけられたらいいんだけど、ここまでトモさんが時間停止を多用してきていることが判明したので主座様が没収された。


「あいつは利用できるものはなんでも利用する」「このまま時間停止の結界石を持たせてたら、あっという間にあいつだけジジイになる」

 主座様のご意見には納得しかない。

 ということでトモさんはデジタルプラネットでパソコンにかじりつき、倒れるように短時間睡眠を取っている。


 そういうタカさんも似たような状況らしい。

「今が勝負だから」「この山を乗り越えたら少しは休める。………ハズ」と苦笑を浮かべておられる。

 そっちのことは私にも他の皆様にもわからない。タカさんにおまかせだ。

「無理しないでね」とコウに言われたタカさんは困ったように微笑んだ。


「トモが使えないなら、投薬と霊力補充でどうにか保たせるしかないね」

 蒼真様の言葉に梅様も「そうね」とうなずかれる。

 そして梅様により、竹さんと同属性の黒陽様とヒロさんが引き続き霊力補充するよう命じられた。


 竹さんが事前に作っていた竹さんの霊力が込められた霊力石はもう全部使い果たしてしまった。なので現在は同属性の黒陽様がせっせと霊力補充をしている。これにヒロさんも協力していたけれど、改めて梅様からの命令がくだされた。

 つまりはそれだけギリギリなんですね。

「トモの仕事が終わるのが先か、竹様が危険な状態に(おちい)るのが先か、見極めないとだね」

 蒼真様、コワイこと言わないでくださいよ。


 と、アキさんがそろりと主座様に視線で発言の許可を求められた。うなずくことで発言の許可を出された主座様に目礼を返したアキさん。全員が注目する中、「あのう」とアキさんが切り出された。


「その竹ちゃんのことで、実はご相談が」



 アキさんの相談とは、竹さんの今生のご家族――主にご両親のことだった。



 竹さんは四百年前に『半身』――前世のトモさん――と死に別れた。それから何度も何度も生まれ変わるたびに『半身』を探し求め疲弊していき、見かねた守り役様の主導により『半身』の記憶を封じている。その影響で、これまでの記憶と高霊力も封じられた状態で生まれ落ち幼少期を過ごすこととなった。

 思春期を迎えれば覚醒し、記憶と霊力を取り戻す。それで十分責務は果たせていたので、記憶の封印から今世まで術式はそのままになっている。


 梅様蘭様も同じく記憶の封印が施されているけれど、おふたりは一気に覚醒し記憶と霊力を取り戻す。その方法は「竹はとても耐えられない」と判断され、竹さんの覚醒はゆるやかに記憶と霊力を取り戻すものになっている。


 そうして今生の小学生高学年から徐々に記憶と霊力を取り戻してきた竹さん。つらい記憶にココロをむしばまれ眠れなくなった。食事も取れなくなり体力がなくなり、増える霊力に対応しきれなくなった。

 そんな娘にご両親もご家族も心配し、あちこちの医療機関を受診し検査を受けさせた。薬を飲ませ「いい」と言われるものを端から試した。食事療法、民間療法、神頼みまで、ありとあらゆるものを試した。

 それでも竹さんは弱っていく。食事はまともに取れなくなり、一日のほとんどを寝て過ごすようになった。


 そうして昨年末、帰宅途中に倒れた。

 偶然居合わせたヒロさんがご自宅に運び、それからずっと眠り続けた竹さん。

 お祖母様の伝手で安倍家に助力を求め、出向いたヒロさんと晴臣さんが竹さんをこの離れに運び込んだ。


 竹さんがこの安倍家の離れに来てからご両親は二日に一度のペースで顔を見に来られている。ホントは毎日来たいと希望されたけどアキさんが交渉して二日に一度で収まった。


 もちろん面会を拒否することもできたけれど、同じ親として子を想う彼らの気持ちが痛いほど理解できたアキさんにはそれを拒否できなかった。

 面会を拒否することで安倍家への不信感を抱かれる可能性が高かったというのもある。そうなった場合、ご両親――特にお父様は断固として竹さんを自宅に連れ帰り「家から出さなかっただろう」と守り役様が断言される。


 それは相当な過保護のニオイがしますね。

「あの父親は過保護だから」

 過保護な守り役様がおっしゃるなんて相当ですね。


 ともかく、眠り続ける娘に面会していたご両親。竹さん覚醒後は竹さんの姿をした式神をベッドに寝かせてご両親に会わせていた。


 京都はひとの縁が複雑に絡み合っている街なので、覚醒してあちこちウロウロする竹さんを知り合いが目する可能性があった。もちろん竹さんは普段から自己防衛の結界を展開しているし、過保護な守り役様が認識阻害をかけて極力人目につかないように対策しておられた。でも竹さんは稀に見るアンラッキー値の高いひと。意図しないところでなにがあるかわからない。

 だから万が一知り合いに目撃されたときの対策として、竹さん覚醒後ご両親にはこんな説明をしていた。


「お嬢様は現在『魂』がお出掛けしている状態です」

「『魂』が肉体に戻っていないから眠り続けている」

「その『魂』が今どこにいるのか、なにをしているのかは主座様でもわからない」

「もし見つけても、戻そうとして戻るようなものではない」

「お嬢様自身が納得して身体に戻らないと『魂』が定着しない」

「なにかを探しているのか、やるべきことをやろうとしているのか、それはわからない」

「本人が目的を果たし、満足すれば戻ってくる可能性が高い」


 その説明にお父様は激昂されたけれど、お母様はなにか思い当たるフシがあったようで納得された。

 そうしてお父様を丸め込……説得された。


 そして実際神宮寺家に「竹ちゃんらしき娘さんを見かけた」という報告があちこちから入っている。お母様がアキさんに教えてくれたそうだ。

 最近は「竹ちゃんに似た()が背の高いハンサムとデートしていた」という目撃情報がいくつも入っているそうで、お父様が怒り心頭になっておられるらしい。


 竹さんは覚醒前と覚醒後では霊力の質も量も変わっている。外見もトモさんがそばにつくようになってからはアキさん千明様が意識して大学生に見えるような服を用意しておられたから覚醒前とは印象が違う。はず。

 なので基本的には今の竹さんと神宮寺家の娘をイコールでつなげられるひとは少ないはずなんだけど、どうも念の為に展開した認識阻害が悪い方に作用して変えたはずの外見や雰囲気をゆがめてしまい、遠目でちらっと見かけたひとに「あれ? あの子って」と思わせてしまったらしい。


 注視されると認識阻害は効かなくなる。そうして神宮寺家に報告がいく。

 ………なんていうか………予想どおりというか………アンラッキー値の高いひとねぇ……。


 竹さんのお母様から「こんな目撃情報が」と相談されたアキさんはしれっとして「楽しそうにしてたんですかね?」「『魂』たけの状態でもお嬢様がしあわせならいいですね」「その男性に『実際に逢いたい』と願ったら、肉体に戻ってくるかもしれませんね」なんて話をしたという。さすがですアキさん。


 そんなかんじでご両親が二日に一度この離れに来るようになって半年。いつ目覚めるか、早く目覚めてと祈り続けてこられた。

 けど来訪予定日だった先週の日曜日、あの結婚式の準備のためにアキさんの時間が取れなかった。

 ついでだからと「祇園祭の関係で急に忙しくなった」「お迎えできるようになったら連絡するのでしばらくご遠慮ください」と断った。


 鉾町ではない安倍家だけど、実際わけのわからない現象が自分の娘にふりかかり『京都の霊的なあれこれを安倍家が扱っている』という話を現実味をもって感じていたご両親は『祇園祭関係』との言い訳に納得した。


 実際鉾町とはなんの関係もない彼女のご両親も祇園祭関係で毎年この時期は多忙を極めているという。

 彼女の今生のご実家は農家さん。お父様は有名料亭や有名料理人が惚れ込んでいる野菜を作る人物と紹介されている。祇園祭で料亭や各店舗や名家などに来客が増えるこの時期、そんなひとが作る野菜を求められ出荷が増えるそうだ。


 そうして忙しくしていたご両親だけど、娘に関してなんの連絡もないことに心配を募らせて、ついに今日アキさんに連絡が来た。

「娘の状態はどうでしょうか」「まだお伺いしてはいけませんでしょうか」


 さすがのアキさんもここ数日のドタバタに竹さんのご両親のことは頭からすっかり抜け落ちていた。

「ちょっとまだバタバタしておりまして」「またご連絡させてください」と一旦電話を切った。


 そして今夜の報告に至る。

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