表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
438/574

閑話 はるかかなたのひとつ星ー保志カナタと私ー 8(三上視点)

「皆さんにこれまでのことをお話したのは、今後問い合わせなどがある可能性があるからです」


 そう言って目黒さんの息子さんは説明をはじめた。


「先程お話した『二百人が異界に連れて行かれた』件。これは警察も消防も行政も把握しています」

「主座様の『先見』で概要を知った我々安倍家が関係省庁に通達していました」

「そして実際に七月十七日午前零時を皮切りに『ひとが消えた』と通報が相次ぎました」

「消えた二百人はそれぞれのいた場所に帰還しました。全員無事です。――ただ、『異界(あちら)』はかなり過酷な状況だったらしく、PTSDになる可能性のあるひとが多く出ました。そういうひとは安倍家の能力者が『異界(あちら)』での記憶を消しました。が、通達していた関係省庁の関係者をはじめとして『覚えていたい』と希望するひとも多くおられまして。そういう方は記憶を消す処置をしておりません」

「ただし『制約』はかけています」

「『異界(バーチャルキョート)』でなにがあったかを口にしない。書かない。情報開示にあたる行動の一切を禁止する。

 情報開示に当たる行動をしようとしたその瞬間、『異界』であったすべての記憶は消える――というものです」

「とはいえ、それでは報告等に支障が出ますので、安倍家をはじめとした関係各所への報告時及び同じ『異界』に連れて行かれた二百人の間ではやりとりができるとしています」

「『制約』をかけているとはいえ、情報というものはどこからどう流出するかわかりません。

 連れて行かれた当人が話せなくても、『消えた』と知っているひとは相当数いるはずです。――その場に居合わせたひとについてはそれなりの処置をしておりますが、オンライン上で一緒だったひとに対しては対処できていません。

 ですので、どのような形かはわかりかねますが、『プレイヤーが消えた』ことに対してデジタルプラネットに問い合わせなり追及なりが来る可能性があります」

「その場合、安倍家に――ぼくにご連絡いただきたいのです」

「わざわざ接触してくるというのは、何らかの根拠あってのことでしょう。そのまま放置しておくとなにが起こるかわかりません。ですので、そういった接触があればぼくにご連絡いただき、安倍家で対処させていただきたいと思います」


 私にはよくわからない説明も、佐藤くんと芦原くんには納得のものだったらしい。佐藤くんが「承知しました」と答えるのに合わせて芦原くんもうなずいた。


「また皆さんにも『制約』をかけさせていただければと思います」


 新たな提案にハテナマークを浮かべていると目黒さんの息子さんが説明してくれた。


「『話さない』のと『話せない』のとでは、皆さんの負担が違いますから」

「連れて行かれたプレイヤーにかけたのは『今回の関係者以外に情報開示に当たる行動をしようとしたその瞬間「異界」であったすべての記憶は消える』という『制約』ですが、皆さんに対しては『今この場にいるメンバー以外に情報開示に当たる行動ができない』という『制約』をかけさせていただければと存じます」

「そうすれば、うっかり口にすることはありません。誰かに誘導尋問を受けても口を割ることは不可能です」


 ………『誘導尋問』………?


「なにかあれば『安倍家に制約をかけられていて話せない』と言っていただいて結構です。

 それで理解できる方ならばそれで納得されるでしょうし、理解できない方はこちらで対応致します」


 ………つまり?

 今話を聞いたことで、私達かなり危険な立場になったってこと………?


 タラリと冷や汗が背筋を伝う。

 なにも言えない私達に目黒さんは気の毒そうに苦笑を浮かべていた。


「………『最初から我々になにも知らせない』という選択肢もありましたよね」


 そう言う佐藤くんに「そうですね」と目黒さんの息子さんはあっさりと認める。


「もちろん、なにもお知らせせず当家で処理することも可能でした」

「ただ、黙っていてもあなた方ならばいつか齟齬(そご)に気が付いたでしょう。問い合わせに対応し、警察や行政からカマをかけられているうちに不審を抱いたでしょう。

 そうして真実にたどり着いたとき。

『何故最初から説明しなかったのか』と安倍家に対して不信感を抱かれると判断しました。――違いますか?」


 それは……そうかも。


「遅かれ早かれ知られる情報ならば、先に開示して誠意をお見せしてご協力いただくほうが良いと判断しました。――もちろん情報開示にあたり主座様の許可は得ております」


 納得の説明に黙っていたら、佐藤くんが口を開いた。


「安倍家の要求はなんですか」

「我が社に――我々にどのような対応をお望みですか」


 佐藤くんの言葉に緊張が走る私達に対し、目黒さんの息子さんはにっこり微笑み余裕を見せていた。


「まずひとつめ」

「『バーチャルキョート』に桜吹雪が出現したと同時に実際に桜吹雪に似たひょうが降ってきた件。

 こちらはデジタルプラネットも保志社長も無関係、まったくの偶然としてください」

「もちろん『悪しきモノ』も安倍家も『姫』様方も無関係。

『よくある自然現象』で『偶然桜の花びらにみえただけ』です。

『バーチャルキョート』の桜吹雪と同時におこったのはあくまで『偶然』。その姿勢を貫いてください」


 うなずく私達に「続いてふたつめ」と目黒さんの息子さんは続ける。


「『バーチャルキョート』をプレイしていたプレイヤーが消えた件。

 過去にあった行方不明者の件。

 こちらもデジタルプラネットも社長も無関係を貫いてください」

「なにか問い合わせやかまかけがあれば『そういう問い合わせが他にも来ていることは事実ですが当社は一切無関係です』と突っぱねてください」

「そのうえでぼくにご報告いただければ、あとはこちらで対応します」

「下手に『安倍家に口止めされている』とか『安倍家にまかせている』とか口をすべらせると厄介なことになると予想されますので、その点はお気をつけください」

「もちろん必要だと判断されたら安倍家のことを明かしていただいて結構です」


 ……………。


 ニコニコ微笑む青年に、佐藤くんが「……わかりました」と絞り出す。私もどうにかうなずいた。


「みっつめ」

「今回のシステム崩壊は『謎のサイバー攻撃』が原因としてください。『悪しきモノ』も保志社長も『関与はない』ことを徹底してください」

「これまでにも御社及び『バーチャルキョート』へのサイバー攻撃はあったそうです。――父が保志社長から聞きました」

「バージョンアップを見届け、注連縄切りの桜吹雪の成功を見届けた保志社長は安堵からか急性心筋梗塞を起こし亡くなった。

 そのためにこれまで彼によって防がれていたサイバー攻撃を防ぎきれず、今回のシステム崩壊を引き起こした。

 ――社内社外ともにこのようにご説明ください」


 目を向けられた野村くんが「わかりました」と答えた。

 同時に保志の急性心筋梗塞の原因を知らされて納得した。


 さっき説明された。『悪しきモノ』が忍ばせたシステムを壊せなかった保志が『それなら利用されないように壊してしまおう』と、システム全体を崩壊させたと。目黒さんがいれば修復は可能だと信じて実行した、と。

 きっと短時間で崩壊システムを作り上げたことで心臓に負担がかかったんだ。やりきったところに桜吹雪がうまくいって達成感で気が抜けちゃったんだ。だから心筋梗塞なんて起こしちゃったんだ。だからあんな穏やかな顔してたんだ。だから私にあんな電話かけてきたんだ。


『ありがとう』なんて。保志らしくない。

『好きにしろ』なんて。保志らしい。


 えらそうな保志が浮かんでまた目頭が熱くなる。 

 それをグッとこらえていたら目黒さんの息子さんの声が続いた。


「よっつめ」

「今回の一連の事件に関して問い合わせや脅迫その他がデジタルプラネット及び皆さん個人にあった場合、速やかにぼくにご連絡ください」


 うなずく私に目黒さんの息子さんは微笑み、佐藤くんに顔を向けた。


「連絡は佐藤さんがこの名刺に吹き込んでください」


 ………『吹き込む』て、ナニ??

 私には意味がわからない言葉も佐藤くんには理解できるらしい。「わかりました」と答えていた。


「もしくは父に伝言いただくか、ですね。父はしばらくこちらにご協力しますので」

 その言葉に私達の注目を浴びた目黒さんは力強くうなずいた。


「貴方の連絡先はお教えいただけないのですか?」

 佐藤くんの質問に目黒さんの息子さんは困ったように苦笑を浮かべた。

「ぼくの電話番号やアドレスは、ご存知ないほうが安全かと」


 ……………それは、どういう……………。


「目黒さんはいいんですか」との佐藤くんのツッコミに目黒さんの息子さんはケロッと答える。


「父が『目黒弘明(ぼく)の父』だということは広く知られていますが、同時に父は『安倍家とは無関係』と認識されています。なので、父の連絡先を知っていることで執拗な嘆願やら脅迫やらが起こる可能性は低いと思われます」


 ……………つまり、この青年の連絡先を知った場合そんなことが起こる可能性がある、ということ……………。


「………それ、目黒さんは大丈夫なんですか?」

 気遣う目を目黒さんに向ける芦原くんに答えたのは目黒さんの息子さん。

 にっこりと、あっけらかんと答えた。


「父にはこれでもあちこちから強力な守護がかけられていますので」


 ……………。


 ……………『守護』が『かけられている』……………。


 意味がわからなくて黙っていたら目黒さんは左腕を出してきた。袖を引き左手首の時計を佐藤くんと芦原くんに見せる。ふたりにはなんか理解できるらしく「これは」「なるほど」なんて言ってる。

「これだけじゃないんですけど、まあ、お見せできるのはひとまずこんなところで」なんて目黒さんの言葉にも「わかりました」と納得している。

 よくわからないけど、佐藤くんに丸投げすればいいことはわかった。


 私達が納得を見せたところで目黒さんの息子さんが話を続ける。


「いつつめ」

「『バーチャルキョート』というゲームに『人間を連れて行くことができた』ということは誰にも明かさないでください。

 合わせて、今ぼくがご説明したお話のすべては誰にも明かさないでください」


「むっつめ。

 ぼくが安倍家の者であること。ぼくの身内――両親及び『目黒』関係者がぼくを通じて『安倍』と接触できるということを内密にしていただきたい」


「最後に。

 いつつめとむっつめの『お願い』のために『制約』をかけさせていただきたい」

「『制約』の内容は『今この場にいるメンバー以外に今聞いた話に関する情報開示に当たる行動ができない』というもの。これに反する行動をとろうとした場合、行動が制限されます。具体的には、話そうとしたら声が出せなくなる、書こうとしたら腕が動かなくなります」

「情報開示に当たる行動はできなくなりますが、『安倍家に制約をかけられていて話せない』と言っていただくのは構いません」


「安倍家からは以上です」

 にっこりと微笑む目黒さんの息子さん。


「……つまり、我々はあくまでも『知らぬ存ぜぬ』。詳細は『深入りするな』ということですね」


 佐藤くんの問いかけに「おっしゃるとおりです」と答える目黒さんの息子さん。

 佐藤くんがチラリとこちらに目を向けてきた。判断を(ゆだ)ねられているとわかった。


 与えられたカードを検討する。正直意味がわからない。それでも判断しなくちゃ。そのために疑問は全部潰さなきゃ。

 そう考えて、わからないことをたずねてみた。


「………その、『制約』? というのは、どのようにするのですか?

『制約』を受けることで私達の身に問題が現れることはないですか?」


 そうたずねると目黒さんの息子さんは「当然のご心配ですね」と微笑んだ。


「『制約』をかけるのは安倍家の能力者が行います。痛みもなにもありません。また記憶障害や体調不良を起こすこともありません」


「同意いただけるならば、今この場に能力者を呼びます。そしてすぐに皆さんに『制約』をかけさせていただきます」


「………お断りした場合はどうなりますか?」

「監視のための式神をつけさせていただきます」


 さらっと即答された。


「………『式神』? って、なんですか?」

「こちらです」


 そう言って目黒さんの息子さんが取り出したのは人の形をした一枚の紙。夏越祭のときに神社に置いてあるのと同じに見える。

 その紙をピッと飛ばした目黒さんの息子さん。ヒラリと舞った紙は落ちることなく宙に浮き、私達の目の高さでピタリと止まった。


 え? なんでこの紙浮いたままなの?

 どうやってこっち向いて止まってるの??


「この式神に術式を付与して皆さんにつけます」


『術式』?『付与』? そんな、ゲームみたいな。

 え? ホントに??

 ホントにこんなこと、あるの??


 さっきの佐藤くんの姿がパッと浮かんだ。なにもないところから突然現れた水の塊。そこに閉じ込められて溺れる寸前だった佐藤くん。水びたしになったのに次の瞬間には綺麗さっぱり乾いてて――。


 ―――ゾワリ。

 鳥肌が、立った。


 ひとの形をした浮かぶ紙へと向けていた視線を目黒さんの息子さんへと移動する。

 きっと私の顔色は悪くなっているはずなのに、目黒さんの息子さんはニコニコと穏やかに微笑んでいる。

 その穏やかさに―――ゾッと、した。


「もちろん皆さんにも他のひとにも視えません。

 ですが、今回のことを皆さん以外の人間がいるところで口にしようとされたとき。誰かにポロッともらしそうになったとき。うっかりなにかに書き記そうとしたとき。そのときには即座にそれ相応の対処を取らせていただきます」


 穏やかな表情で、やさしい声色で説明されているから問題なさそうに聞こえるけれど、内容をよくよく確認するとかなり恐ろしいことを言ってるわよね?『それ相応の対処』って、絶対物騒な手段でしょう。


 ―――これ、は、ヤバい。


 反論できない。異論は許されない。

 関わろうとしてはいけない。言われたことを言われたことだけやるべきだ。追求も、要望も、持ってはいけない。


『安倍家』なんておとぎ話だと思ってた。よくある都市伝説だと。それっぽいけど現実にはない話だと。

 でも、これまでの彼の説明と自分自身の体験した事柄が『現実だ』と突きつけてくる。選択を間違えれば『生命はない』と。


 ガクガク震える手を膝の上でぎゅっと握り合わせる。

 震えるな。止まれ。そう思うけれど震えは止まらない。

 目黒さんの息子さんはただ穏やかに微笑んでいる。私の回答を待っている。


「――私は構いません」

 なにも言えない私にしびれを切らしたのだろう。佐藤くんが目黒さんの息子さんにそう告げた。

 続けて芦原くんと野村くんも「構いません」と答える。そうなったら私もそう言うしか道は残っていない。どのみち拒否するほうがマズいことになりそうだとは理解しているし。


  全員の同意を受けた目黒さんの息子さんは「ありがとうございます」とにっこり微笑んだ。穏やかな雰囲気なのに、誠実そうに見えるのに、なんだろう。狸に化かされてるんじゃないかって気がしてくる。


「では皆さんの同意をいただいたことですし、これから『制約』をかける術を執り行ってもよろしいでしょうか」


 目黒さんの息子さんの問いかけに『どうする?』とお互いに視線を交わす。

「別にいいんじゃないですか?」と佐藤くんが言うのを皮切りに「そうだな」「うん」とふたりもうなずく。私も別にいつでもいい。むしろ厄介事のニオイのすることはさっさと終わらせるに限る。


 そんな私達の様子を確認した目黒さんの息子さんが「ありがとうございます」と微笑む。


「では早速。担当の能力者を呼びますね」


「はい」と同意したら目黒さんの息子さんはソファから立ち上がった。

 手を伸ばし、先程出したような大きな水塊を出現させた。

 驚く私達の前で水塊が二メートルくらいの直径の円になる。鏡みたいだと思ったそのとき、不意に水がパチンと消えた。


 そこにひとがふたり立っていた。多分男性と女性。年齢とかはわからない。

 ふたりとも着物に赤い袴で巫女さんみたいな服装。頭から薄い布を被り、さらに顔になんか模様が描かれた紙をつけている。

 よく見ようとすればするほどぼんやりとしてくる、不思議な存在だった。


 目黒さんの息子さんが「皆さんこちらへ」と誘導し、不思議なふたりの前に横並びに立たされた。

 私と野村くんはただただ何が起こるのかと疑問に思い緊張しているだけだけど、佐藤くんと芦原くんは私達とは違う緊張感を感じているみたい。なんていうか、ビビッてるというか、恐がっているというか。


「では、お願いします」

 目黒さんの息子さんが巫女さんみたいな二人に会釈をする。謎の男女も会釈を返し、改めて私達に向き直った。


 謎の男女は私達に向かって深々とお辞儀をした。

 揃ったお辞儀に一気に空気が変わる。厳粛な雰囲気に包まれ、背筋が伸びる。

 腰から九十度の拝礼に私達も同じように拝礼を返す。

 先方が頭を上げたから私達も頭を上げたら「頭を下げて」と目黒さんの息子さんがこそりと指示してきた。

 ちらりと目だけで見ると目黒さんの息子さんも目黒さんも軽く頭を下げたまま。あわてて同じようにする。


 パン。パン。

 不思議な男女が柏手を打つ。そのままちいさな声でなにかぶつぶつ唱えている。祝詞かな?

 そうしてまたパンパンと柏手を打つふたり。深く拝礼するのに合わせて目黒さんの息子さんと目黒さんも深々と拝礼したからあわてて合わせる。

 と、ふたりはどこからか鈴を取り出した。神社の巫女さんが使う、三段に連なった大きめの鈴。持ち手のおしりから五色の布が伸びている。

 シャシャシャシャシャシャシャ。

 ふたりが鈴を鳴らす。不思議なことに鈴から光の粒があふれ出した。

 あふれた光の粒はあたりにただよう。私達の周りにも。すごく気になったけどみんながじっとしているから頭を下げたままじっとしていた。


 シャン!

 清らかな一音を立て、鈴は動きを止めた。

 と、不思議なふたりが私の前に並び立った。


「頭をお上げください」

 男性の声にうながされ、ゆっくりと頭を上げる。

 私より背の高い男性がじっとこちらを見ていた。

 おかしな模様の描かれた紙で顔を隠しているはずなのに、なんでかそうわかった。


「あなたのお名前は」

 やさしく問われ、「三上香織(かおる)です」と正直に答えた。


「『三上(ミカミ) 香織(カオル)』」


 呼ばれた、瞬間。


 バシッ!

 ナニカに、縛られた。


 身動きが取れない。指一本動かない。目の前の男性から目を離せない。

 顔もわからない男性はその腕を伸ばし、私の額に人差し指と中指を揃えて当てた。


「『三上(ミカミ) 香織(カオル)』へ『制約』を課す」

「『あなたは今後一切、今この場にいるメンバー以外に先程聞いた話に関する情報開示に当たる行動ができない』」

「『これに反する行動をとろうとした場合、行動が制限される』」

「『行動制限が発動した場合、情報開示に当たる行動をやめる意思を示した時点で行動制限が解除される』」

「『その後は間違いなく情報開示に当たる行動をやめなければならない』」


 不思議な声にどこかが縛られていく。なんでかそう感じた。

 なにも言えず、何も考えられず、ただ見えないその目に縛られていく。


 そっとその指が私の額から離れてもまだ身動きがとれない。息をしているのかもあやしい私に不思議なふたりは揃ってお辞儀をした。

 お辞儀を返さなきゃ。そう頭の片隅では思うのに身体が動かない。まばたきすらできない私にふたりが困ったように微笑んだ。なんでかわかった。


 そのままふたりは隣にずれ、野村くんにも同じことをした。芦原くんにも佐藤くんにも同じことをし、最後に最初の位置に戻った。

 身動きがとれない私達に深々と拝礼したふたりが外側の手に持った鈴をシャラシャラと鳴り響かせる。また光の粒がキラキラとこぼれるのを綺麗だなとぼんやりと見ていた。


 気が付いたら不思議なふたりはいなくなっていた。

「今日お話ししたいことは以上です。おつかれさまでした」

「皆さんご自宅に帰られて休んでください」

 目黒さんの息子さんにそう言われ、労わるようにエレベーターに乗せられた。そうして目黒さんの息子さんの言葉に操られるように自宅に帰り、ベッドに倒れこんだ。

ちょっとストックができたので、しばらく二日に一回投稿してみます。

次回は明後日7/18です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ