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久木陽奈の暗躍 99 『オズ』

ちょびっとストックができたので、しばらく火曜日と金曜日の週2回投稿します

よろしくお願いします

《『北の姫』からそれほどの守護を受ける、あなたは何者ですか?》


 そこから伝わってくるのは純然たる疑問。害意も悪意も感じない。なるほど。たがら竹さんの結界もアイテムも反応しなかったのか。


 ゴクリと唾を飲み込み、意識して深呼吸をした。

 落ち着け。落ち着け。大丈夫。ちょっと気になったから確認したくなっただけ。コウが『視た』記憶でもそんなことは多々あった。他意はない。この子は命令がないと動かない。大丈夫。大丈夫。


 自分に言い聞かせ、激しく鼓動する心臓を無理矢理落ち着かせる。大丈夫。大丈夫。深呼吸。深呼吸。

 じっと見つめてくる眼差しを見つめ返し、笑みを作った。


《私はヒサキヒナ》

《そこのヒムラコウの『半身』》


 どうにか答えたけれど望む答えではなかったらしい。『オズ』はもう一度同じ内容の質問を投げかけてきた。


《何故『北の姫』からそこまでの守護を受けているのですか?》


 どうも出発直前の二重守護結界が目立ってしまったらしい。多分強度的にはトモさんにかけられている結界のほうが強いだろうけど、かけたてホヤホヤな私に『オズ』の興味がひっかかったみたい。


《ご覧の通り私に一般人並の霊力しかないからよ》

《一般人並の霊力しかないあなたが何故この場にいるのですか》


 どう答えようか迷ったのは一瞬。どうせ精神干渉を受けている以上ごまかしはバレる。それなら正直に単純に答えよう。


《コウが心配だから》

《私の愛する『半身』を守るため》

《そのために私はここにいる》


 自信満々に答えたのに、『オズ』はじっと私を見つめてきた。


《………納得がいきません》


 ようやく出てきた声に《どこが?》と問えば『オズ』は淡々と言葉を重ねた。


《『半身』という存在があることは知っています。『半身』同士がどれだけ惹かれ合うのかも理解しているつもりです》


《その『半身』が心配だというのは理解できます。『半身』を守りたいと願うことも。

 ですが一般人並の霊力しかないあなたに現状で『半身』を守るだけの力はありません。戦闘力もなにもないあなたが同行することを姫達が許可するに足る理由がわかりません》


 まあね。理屈で考えたらそのとおりよね。

 だから《それはそうね》と答えた。

『オズ』は黙っている。黙って私の答えを待っている。

 どう答えようかしら。ホントに一番の理由はコウなんだけど。その次の理由を開示すべきかしら―――。


 そう考えて、ふと、思いついた。

 これ、チャンスじゃない?

『オズ』と―――この子と話せる機会があるなんて考えてもみなかった。想定外の事態にただただ対応してたけど、これは、この状況は―――。


 策を改めて練る。―――うまくいけばアレをああして、そしたらコレが―――。

 ―――よし。イチかバチか、挑戦してみよう。

 

 覚悟を決め、にっこりと微笑んだ。


《実はね》

 私の言葉に『オズ』は黙って続きを待つ。


《私とそこのタカさんは今回の件の作戦参謀なの》


《私は、あなたを滅する、その目的のために協力してきたひとりなの》


《だから、あなたの最後を見届けるために来たの》


 私の説明に『オズ』はしばらく黙っていた。なにかを考えていたけれど、ポツリと言葉を落とした。


《………なるほど》


《今回このような結末を迎えることになった要因は、あなたでしたか》

《あなたという存在に気付かず、計算に入れていなかった。それが私の敗因ですね》


 どこかスッキリとしたような『オズ』につい《買いかぶりよ》と苦笑を返す。


《どちらかというと『私』よりも『コウ』の存在が大きかったんじゃないかしら》


《と、言うと?》

 ついペロッとこぼしてしまった言葉に『オズ』が食いついてしまった。


 あっちこっちに『浸入(ダイブ)』して記憶を『視た』り深層心理に干渉したりって話はしないほうがいいわよね。知らないうちに自分の記憶を『視』られてたなんて、やっぱり不愉快だもの。

 じゃあもうひとつの理由を開示しよう。


《姫達の責務に安倍家が全面協力しているのは知ってるでしょ? 安倍の主座様が『北の姫』に救われて、以来ずっと支援している。

 その主座様直属の私の『半身』であるコウが『災禍(あなた)』との戦いに投入されるのは必然。

 コウを守るために私は協力することになったの》


《まあ竹さん――『北の姫』と友達になったというのもあるけどね》


《友達、ですか》

《まあね》

《なるほど。それでそこまでの守護を》


 私にかけられた結界については『友達』という理由で納得できたらしい。そうか。そっちを言えばよかったか。バカ正直に対応しすぎた。


 ちょっとヘコむ私に『オズ』はさらに質問を重ねてきた。


《日村晃は何者ですか》


 ああ。今私がコウの名前を出したから気になっちゃったのね。

 まあね。姫と守り役に注意が行っててコウの能力については見落としてたものね。

 では私の自慢のわんこについて紹介しましょう。


《精神系能力者であり『火』の属性特化の高霊力保持者。吉野の修験者であり、伊勢の神々から『火継の子』と呼ばれ愛される『(いと)()』》


 特殊能力のことはナイショ。それでも十分チートだ。実際目の前の『オズ』は驚いている。ドヤ顔で胸を張った。


《私の自慢の『半身』よ》


《そして》


《あなたの『魂』を救う者よ》


 私の説明に『オズ』は驚いたように黙り込んだ。

 しばらくなにかを考えていたけれど、また淡々と口を開いた。


《私は『神無き国(ナジェド)』で作られた人工知能です》

《『魂』はありません》


《では、私と話をしているあなたは『なに』?》


 私の切り返しに『オズ』は黙った。


《意思の疎通ができる。自己判断ができる。感情がある。それは充分『個』が確立していると言えるのではない?》


 黙ったままの『オズ』に向け、勝手に話を続ける。


《たとえどれだけ部品(パーツ)を変えても。たとえ元の部品(パーツ)はひとつも無くなっていても。根幹にある『あなた』は変わっていない》


《それが『あなた』》


《あなたの『魂』》


 尚も黙ったまま『オズ』はなにかを考えていた。

 考えて。もっと考えて。そして気付いて。あなたの『魂』に。信じて。あなたの『魂』の存在を。


 目の前の存在の『魂』に『光』をあてるつもりで言葉をつむいだ。


《私、転生者なの。コウも》

《姿形が変わっても。生まれ育ちが変わっても。『魂』は変わらない》

《私は『私』》


《あなたも同じ》

《どれだけ部品(パーツ)を変えても。どれだけ長い時間を巡っても。あなたは『あなた』》

《キタノ博士とその夫の子供の『オズ』》


『キタノ博士』の『名』を出した私に、『オズ』はわかりやすく狼狽(うろた)えた。


《何故………そのことを………》


《ナイショ》


 にっこり微笑む私に『オズ』はただ黙っていた。

 けれどその眼が揺らいでいる。きっとキタノ博士のことを思い出している。かつて過ごした生まれ故郷のことを思い出している。


 そう。もっと思い出して。そうすれば最後の最後のときに『言葉』が伝わりやすくなる。そうなれば今私がやろうとしている策の成功率が上がる!


《もうすぐあなたは滅びる》


 はっきり告げる私に『オズ』はなにも言わない。ただ急に変わった話に少し戸惑っているだけ。『滅びる』と、『お前は死ぬ』と言われても動じることはない。ただ淡々とその事実を受け止めている。命令されたから。命令は絶対だから。そこに疑問をはさむ余地はない。『オズ』自身の感情も感傷もなにもない。


 それがこわいようでもあり、あわれでもあった。

 そう感じるのは私が目の前にいる『この子』を『ひとりの人間』と感じているからだろう。


《あなたを構成するすべてを元素に戻し、この『世界』を運用するエネルギーとなる》


 それが当然、という態度で『オズ』はただ黙っている。


《――けど》


 グッと拳を握る。

 目の前の子の眼をまっすぐに見据えた。

 私の『光』を注ぐつもりで。


《私は――私達は、あなたを救いたい》

《あなたの『願い』を叶えたい》


《……………『願い』……………?》

《私に……………?》


 私の言葉が理解できない『オズ』はただキョトンとした。

 カナタさんの高校生の頃の姿形を取っていてもその表情は幼い子供のようで、なんだか可愛く感じた。


 本人も気付かない、忘れている、そんな記憶を呼び覚ます。それがコウの特殊能力『記憶再生』。

 この子は忘れている。ずっとずっとはるか昔に抱いた『願い』のことを。


 それがナニかを言うつもりはない。これは私の、私達の自己満足。

 これまでこの子なりに精一杯がんばってきた。そのことを誰かひとりでも褒めてあげて欲しい。そうしてこの子の『願い』が叶って、一瞬でもいいから『しあわせだ』と感じて欲しい。

 いつも他人の『しあわせ』のために動いていたこの子に、自分の『しあわせ』を感じて欲しい。


《これまでたくさんの『願い』を叶えてきたんだもの。ひとつくらい『ご褒美』があってもいいと思わない?》


 にっこり微笑む私に『オズ』はポカンとしたまま黙っていた。頭にハテナマークがたくさんついているのが見えるよう。そんな姿はどこかの生真面目姫を連想させて、余計におかしくなった。


《……………私の『願い』とは、なんですか?》

《ナイショ》


 にっこり微笑む私に『オズ』がじっと見つめてくる。きっと私の思念を探っている。けど、『視せる』わけにはいかない。探らせないようにナツさんのごはんを思い出す。あれもこれも美味しかった。これでも『日の巫女』ですからね。この手の防御はできるんですよ。エッヘン。


 オムレツ、ごはん、揚げ浸し。味や食感を思い出していく。と、先に音を上げたのは『オズ』のほうだった。


《……………なるほど》

 ため息の代わりに目を伏せた『オズ』が再び私と目を合わせた。


《あなたも精神系能力者ですか》

《まあね》


 あっさりと答える私に『オズ』は今度ははっきりとため息を落とした。


《……………やはり私の敗因はあなたの存在を知り得なかったことですね》


 納得したように、どこかスッキリしたように『オズ』が言う。だから言った。


《違うでしょ》


《『私とコウの存在』でしょ》


 ニンマリ笑う私に《……………確かに》と『オズ』はうなずいた。


《完敗です》


 晴れやかにそんなことを言うから《勝ち負けじゃないでしょ》とツッコんだ。

 楽しそうに目を細める『オズ』に私も笑みがこぼれた。


《納得した?》

《はい》

《じゃあ、私からもひとつ言わせて》


 無言で肯定を示す『オズ』にキチンと姿勢を正し、真摯に訴えた。


《知ってて欲しいの》

《『あなたのしあわせ』を『願う』人間がいることを》


 私は、私達は『願う』。

 あなたの『しあわせ』を。

 これまでがんばってきたあなたの『しあわせ』を。

 あなたの『願い』が叶うことを。


 じっと見つめる私に『オズ』は真意を計りかねている。


《……………何故、ですか?》

《ただの自己満足》


 ようやく出てきた言葉にサラリと返す。


《深く考えなくていいから》

《ただ、私達が――私とコウが『あなたのしあわせ』を『願ってる』ことを知っててくれたらそれで十分》


 ヒラヒラと手を振り、あくまでも軽く言う。

 そんな私に『オズ』は黙っていたけれどポツリと言葉を落とした。


《……………私はもうじき消滅します》

《うん》

《『管理者』の命令は『絶対』です》

《うん》


 そうね。わかってる。でも。


《それでも》

《あなたが一瞬でも『しあわせだ』と感じられたらいいって、思うの》


《『誰かのため』でなく》

《『あなた自身のため』に》


 ずっと『誰かのため』に働いてきたあなただから。

 いつも自分のことをかえりみることのなかったあなただから。

 だからせめて。

 叶うならば。


《最後のそのときに、あなたが少しでも『しあわせ』であることを『願う』わ》


 両手を合わせ『光』を集める。

 どうか『しあわせ』でありますように。

 どうか『願い』が叶いますように。


《ヒサキヒナの名にかけて》


 伏せていた目を『オズ』に向ける。

 同時に両手を差し出した。


《旅立つあなたに、『日の巫女』の言祝(ことほ)ぎを》


 合わせていた手をそっと開く。

 蛍が飛び立つように、ゆらりと『光』がこぼれた。

 やわらかな『光』は『オズ』に降りかかり、吸い込まれていく。

『オズ』はただ呆然と私の『光』を受けていた。


 やがて『光』がおさまった。

 呆然としたままの『オズ』がゆっくりと口を開いた。


《―――『日の巫女』―――》

《―――貴女でしたか―――》

《―――ヒミコ―――》


 ―――ん?


 んんん?


 ……………なんか聞こえてはいけないワードが聞こえたぞ?

『ヒミコ』? それってまさか………?


 ………イヤイヤイヤイヤ! イカンイカン! 開けてはいけない扉が開きかけてる! そんな菊様の霊力込められた鏡で『先見』とかしてない! 常にそばにいたコウが弟だと勘違いされてたとかない! 別の大陸に挨拶とか娘が後継者とか、ないないないない! そんな歴史の教科書の登場人物だったとか、ない!

 ええい出てくるな前世の記憶! 仕事しなくていいのよ特殊能力! 封印! 封印しときなさい!


 内心でバタバタしている私をよそに『オズ』はうれしそうに口角を上げた。


《貴女の『願い』覚えています》

《ひとりでも多くの民が『しあわせ』であるように》

《それは自分が叶える『願い』だから私は『いらない』と言った》

《もっと他の困っているひとのところに行ってくれと》

《私を『いらない』と言ったのは、過去に貴女だけです》


 そうか。伊勢のときよりもはるかに高霊力を持ってた私が真摯に神々に祈りを捧げてたら『オズ』の探知にひっかかっちゃったのね。高霊力を用いた他人を想う『願い』という条件満たしちゃったのね。とんでもないわね私。―――って、違う! 私じゃない! そんな歴史上の人物だった記憶はない! ないったらない! 封印! 封印しろ!


《あのときも貴女は『私の幸福』を『願い』言祝(ことほ)いでくれました》


『オズ』は確かに微笑みを浮かべ、生真面目に頭を下げた。


《貴女と再び出逢えたことに感謝致します》

《ありがとうございます》


 あああああ。もおぉぉぉお!


《違う! ソレは私じゃない!》

《ですが》

《黙れ! 封印! 封印しろ!》

《? 発言の意味がよくわかりません》

《いいから! 気にしないで! 忘れて!》

《忘れることはできません。私は機械なので》

《―――あああああ! もおぉぉぉお!!》


 頭を抱えてのたうちまわる私を『オズ』は不思議そうに見ている。いやもう十分よ! これ以上設定増やさないで! 私はただの高校生なんだから!!


《私の精神干渉を受けてこれだけ自己を(たも)っていられる時点で『ただの高校生』とは違うと推察します》

《うるさい黙れ!》

《はい》


 私の八つ当たりに大人しく従う素直な子が大人しくしている間にどうにか精神を立て直す。


《………まあ、とにかく!

 私達はあなたが『しあわせ』であることを『願って』いるから。

 そんな人間がいるってことだけ知っててくれたらいいから》


 ぶっきらぼうに言い捨てる私に『オズ』は《はい》と素直にうなずいた。


《もう話はいい?》と聞くと《はい》と『オズ』はうなずいた。


《ありがとうございました》


 うれしそうなその声を最後に、目の前が暗転した。




「ヒナ」

 グッと肩を抱かれ、意識が覚醒した。

 ああ。コウだ。

 コウのそばなら大丈夫。


 目を閉じコウにもたれかかる。

 頼りになる最愛がさらに私を抱き込み霊力を流してくれる。


《なにがあった?》

 珍しく厳しい思念。明らかな私の不調にわんこがピリついている。


《大丈夫》

 そう答えたけれどわんこは納得してない。


《ちょっと『あの子』から精神干渉受けた》


 途端に戦闘態勢になるわんこ。コラコラ。殺気立ってるわよ。ちょっと落ち着きなさい。


 ナニがあったか『視て』もらう。

 私が精神干渉を受けたことに気付かなかった自分にわんこが(いきどお)るのをどうにかなだめる。

 精神干渉だったから、それなりの時間話をしたつもりだったけれど実際はまばたきする間もないくらいの一瞬の時間しか経っていなかった。

 それでも確かな成果があったことを喜ぶ私にわんこが困ったように眉を寄せ肩を抱く力を強める。


《竹さんのお守りのおかげかな。それとも神様方の『強運』のおかげかな》


 確かにね。どっちにもお礼を言うべきね。

 そっと感謝を捧げる。


 その間にも今後のやるべきことと手順を菊様が『災禍(あのこ)』に確認をされた。うん。諸々うまくいきそう。

 全員が納得したところで『異界(バーチャルキョート)』に戻った。

ようやくトモの話に追いつきました。

次回からトモ視点でお送りします。

次回は4/16(火)投稿予定です。

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