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久木陽奈の暗躍 98 デジタルプラネットへ

 それからも慌ただしく過ごした。


 竹さんが菊様と白露様の分のご挨拶を押し付けられたと知った黒陽様が「姫の手助けに行く」と言い出した。気持ちはわかるけれど「申し訳ないですが」と前置きして黒陽様には水やアイテム作りをお願いした。


 竹さんはトモさんがついてるから大丈夫。それよりも水が足りなくなりそうなんですよ。ええ。さっき出してもらったのはもう配ってしまいました。料理用は全部使ったそうです。そうなんです。『白楽様の高間原(たかまがはら)』の皆さんの分が至急いるんです。

 それと注連縄切りのときの霊力開放の前にですね。京都中に展開してる陣に水を流したらって案が出てまして。はい。元々は例の『霊力水』を流し込む予定だったでしょ? その代わりに黒陽様の水を流し込んだら、陣を補強したうえで命令を均一に届けられるんじゃないかって。うまくいけば注連縄切りより前にふたつの『世界』を繋げられるんじゃないかと。はい。『白楽様の高間原(ところ)』に届ける関係でそういう案が。イエ私じゃ詳しいことはわかりません。白露様が技術者の方に聞いてください。


 そうして黒陽様が白露様をつかまえてあれこれ聞き出し、最終的に水作りとアイテム作りに協力してくださることになった。ありがとうございます。


 梅様と蒼真様には薬作りを依頼。特に霊力回復薬が必要になりそうです。はい。『白楽様の高間原(ところ)』のひと達の分が。

 できれば『白楽様の高間原(ところ)』のひと達の体調確認もお願いします。


 他にも要りそうな薬をおふたりが用意してくださることになった。ありがとうございます。よろしくお願いします。


 菊様白露様は『白楽様の高間原(ところ)』へ霊力を送る陣についての手配の続きを行われた。黒陽様に水を出させ、他にも必要なアイテムを用意し配置。ぶっつけ本番になるけれど、準備だけは万全に成るように動かれた。


 蘭様は緋炎様主座様と共に注連縄切り前の人員配置について打ち合わせ。

 さっきの炎の龍で低低級は片付いたけれど低級以上は鳴りを潜めているわけで、高霊力の放出でなにが起こるかわからない。現状の戦力、計画されている配置、確認されている妖魔達の情報。そんなものを確認しながら戦略を立ててくださった。


 ナツさんには引き続き料理をお願いした。

 姫様達も守り役様達もこれだけバタバタしたらまたおなかすくだろう。注連縄切りの前にもう一度食事が必要だ。

 アキさんやヒロさんが別件に手を取られる以上、食事を用意できるのはナツさんだけ。ついでに言うならばナツさんの料理は美味しいからモチベーションアップには最良。

 ということでナツさんには料理に取り掛かってもらう。助手として佑輝さんを連れて行かれた。


 タカさん千明様はあちこちのシステム監視を続行してもらっている。晴臣さんとアキさんは安倍本家を介してあちこちとやりとりをしてもらい現状把握に努めてもらう。ヒロさんもそちらへ。

 私とコウはそうやって動く皆様からもたらされる情報を確認していく。()れはないか。見落としはないか。足りないものはないか。


 たったひとつの見落としでこれまで積み重ねてきたことが無になるなんてこと、『災禍(さいか)』が関わる限り十分に有り得る。だからこそ念には念を入れて。決して気を抜かないように。油断しないように。最後の最後まで常に最善を模索して。


 私とコウにかけられた神様方からの『強運』はほとんど使ってしまった。それでも『火継の子』と呼ばれるほど神々から愛されているコウならばなにかあれば気が付く。はず。それを期待して、表向きは戦略を立てる私の護衛として一緒に報告を確認してもらう。私の出す指示を確認してもらう。コウも私がなにを期待しているのかわかっているから緊張の面持ちで集中してくれている。負担かけて申し訳ないけれど、コウにしか頼めない。逆に言えばコウがいて見守ってくれているから私は迷わず指示を出せる。


「ヒナ」


 コウがコップを差し出してくれる。飲みやすいようにわざわざ水をペットボトルからコップに入れ替えてくれた。私のわんこ、やさしい。気が()く。


「ありがと」

 受け取り、一口飲む。美味しい。思わず一気に飲み干した。


「ひとりで背負わなくていいよヒナ」

「おれもいるから」


 やさしいわんこがおかわりを注ぎながらそんなことを言ってくれる。ウチのわんこ、やさしい。好き。


「大丈夫。みんながいるから」

「うん」

「絶対上手くいくよ」


 自信満々な笑顔に、つられて笑みが浮かんだ。ついでに肩の力も抜けた。

 ああ。私、相当力が入ってたのね。

 そんなことをようやく自覚した。

 ラジオ体操みたいに腕を広げて深呼吸。深く、深く。そうして肩をぐるんぐるん回し、ついでだからと軽くストレッチもした。


「―――よし。もうひとがんばり」

「うん」

「頼むわね。コウ」

「うん」


 自然に重なった手をぎゅっと握り、気合を入れ直した。




 それぞれがそれぞれの為すべきことに取り組んでいるうちにもうすぐ夜明け。


 あと数時間。

 あと数時間ですべてが決まる。


 プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも必死で情報を確認していった。


 チラリと時計を見て、ふと気が付いた。

 そうだ。そろそろ皆さんにごはん食べてもらわなきゃ。姫様方も守り役様方もご挨拶からずっと動き続けておられる。時間停止かけて交代で休んでもらわなきゃ。


 私の思念を受け取ったわんこが「そうだね」とスマホを取り出した。

「細かいことはヒロにまかせよう。ヒナもちょっと休んだほうがいい」

 そうね。これからが本番だもんね。


 そうしてヒロさんと打ち合わせ。そろそろ休んでた能力者さん達も安倍家のひと達も動き出した。あ。デジタル部門も動き出した? じゃあタカさんが今やってる見張りはそっちに任せていいですか? タカさん引き継ぎお願いします。で、タカさんと千明様は抜けてください。ええ。ごはん食べて休んできてください。これから突入ですから。タカさんも行くでしょ? 顔洗ってヒゲ剃ってきてください。


 晴臣さん達も戻ってこられたので報告を聞いてタカさん達と一緒に休んでもらおう。主座様、時間停止お願いします。

 私達は皆様が抜けた間の情報収集を請け負おうと思ってたのに菊様から「ひなも来い」と命じられてしまった。


 結局竹さんトモさんを除いた全員が二階のリビングダイニングに集まり、時間停止をかけた中でごはん食べながら報告し合った。

 食事が終わったら空き部屋に時間停止かけて交代で寝る。「しっかり寝た」という方も「お昼寝程度」という方もおられたが、とにかく全員食事も睡眠も取って体調を万全にした。


 もちろん睡眠のあとは食事。

 守り役様から話を聞いた梅様が「『ナツのオムレツ』食べたい!」とリクエストされ、トーストとウインナー、生野菜サラダとオムレツという朝食が提供された。

 めっっっちゃ美味しい。なにこの完璧な朝食。しあわせすぎてパワー充電される。

 オニオンスープまで出てきた! これも最高ですナツさん!

「黒陽様の水で作ったからね」

 いやいやそれだけじゃないでしょ絶対! 美味しい! 美味しすぎる! 元気出た!


『目黒』で休んでいた『白楽様の高間原(たかまがはら)』からの十人にも同じメニューが提供された。

 私達の食事が終わったタイミングでタカさんが皆様を連れて来てくれた。

 もちろん皆様大絶賛。「また来てウチの連中に料理教えてくれ!」と頼まれナツさんが快諾していた。



 食事を終えたひとから持ち場に移動した。

『白楽様の高間原(たかまがはら)』の皆様は主座様とともに設置した陣へ。これから最終調整に入る。


 黒陽様に水を出してもらって『異界(バーチャルキョート)』と『現実世界』それぞれの陣に流し込み術のかかりを良くする計画を立てている。『白楽様の高間原(たかまがはら)』へ霊力を送る陣にも同じ黒陽様の水を浸透させることで親和性を上げ、より効率よく霊力を集めようとしている。

 そのために黒陽様に水を出してもらい、菊様白露様に陣へと流し込んでもらう。

 うまくいくかはやってみないとわからない。それでもこれだけ検討して協議して設置したものだからうまくいく確率は高い。


 安倍家のひと達も他家の能力者さん達も活動を開始した。神社仏閣では朝のお勤めが行われ、地元民をはじめとした参拝客が出入りしている。


 動き出す街。動き出す人々。

 いよいよ。いよいよクライマックスが近づいてきた。



「戻りました」

 声に顔を向けるとトモさんが立っていた。腕にぐったりとした竹さんを抱いたまま。

 ご挨拶の数が多かったから竹さんの体力も霊力も使い果たしてしまったらしい。それでも全部回れるよう()たせたのはさすがトモさんといったところか。


「おつかれさまでした」

 ねぎらいに竹さんがへらりと笑みを浮かべる。トモさんは眉をしかめへの字口のまま。結果的に竹さんに無理をさせたことにお怒りだ。


「担当箇所は全部まわりました。取り立てて問題はありませんでした」


《報告はこれで十分だろ》

《早く休ませろ》


 口から出る言葉と思念とが一致してませんよ。

 まあ無理もない。


「こちらからいくつか報告がありますが、それはまたあとで。

 ひとまずおふたりはお風呂入ってごはん食べて寝てください。お風呂はいつでも入れますしごはんはナツさんが用意してくれてます。

 菊様や主座様には私から報告しときます」


 私の言葉に竹さんが反応を示すより早く「よろしく」「じゃ」とトモさんは姿を消した。


 あのふたりは放っといて大丈夫。念の為トモさんにちゃんと時間停止かけて寝るように連絡しとこう。

 それにしてもあのおふたり『炎の龍』のこと聞いてこなかったわね?『神域』にでも入るところだったのかしら。相変わらず間が悪いんだかいいんだかわかんないひとね。




「そろそろ集まってください」と皆様に集合をかける。戻ってこられた方から報告を聞きホワイトボードに書き込む。うん。あっちもこっちもどうにかなりそう。


 最後に竹さんとトモさんとナツさんが戻ってきた。ごはんもちゃんと食べて体力霊力も問題ないとのこと。


「竹さん」

 声をかけると生真面目姫が生真面目に返事をする。緊張から顔がこわばっている。


「おふたりが『鍵』ですからね。よろしくお願いしますね」

 そう言うと生真面目姫は珍しく凛々しい顔をして力強くうなずいた。

 横のトモさんは黙っていたけれど《余計なプレッシャーかけんな》とこちらをにらんできた。まったく過保護なんだから。


 への字口の若造をまるっと無視して生真面目姫の目をまっすぐに見つめた。生真面目姫は生真面目に私の視線を受け止めた。


「最後の最後まで油断しない」

「はい」

「最後の最後まで諦めない」

「はい」


 彼女のナカに宿った『太陽』が彼女を励ましている。トモさんの『風』が彼女を鼓舞している。

 これなら大丈夫。イザというときに迷いや弱気が出ることはないだろう。


 生真面目姫に両手を差し出すと、彼女は意図を察してくれて同じように両手を出してきた。その手をしっかりと握る。私のナカの『光』を注ぐ。彼女もしっかりと握り返してくれた。


「がんばりましょう」

「はい!」


 グッとふたりで気合を入れて手を離した。



 時間はもうすぐ七時。

「じゃあ、行きましょう」

 私の呼びかけに皆様うなずき集まってこられた。

 蒼真様が全員まとめて転移させることになっている。

 と、私とタカさんが並び立つことに竹さんが気が付いた。


「ひなさん?」


《あれ? なんで?》

《ひなさんここにいたら一緒に転移しちゃうのに》


 ………いつものようにうっかりしておけばいいものを……。


 トモさんは《やっぱり行くのか》と納得しているのに竹さんだけが頭にハテナマークを浮かべている。

 ……仕方ない。ちゃんと説明するか。


「私とタカさんも同行しますよ」

「え」


 他の姫様も守り役様も当然のような顔をして私とタカさんの同行を認めているのに、生真面目姫だけは難色を示した。


「なんで」

「カナタの説得したいから」

 ペロッと簡単なことのようにタカさんが答える。


「おれが『タカさん連れてくる』ってカナタさんと約束したから」

 ウチのわんこの説明に生真面目姫は「そういえば」と納得した。けど私については納得できないらしく、珍しく眉をひそめて不機嫌そうな顔を向けてきた。


「タカさんはともかく、ひなさんは関係ないですよね」


 私を心配してくれているのが伝わってくる。

 でも敢えて傷ついた顔を作ると、うっかり姫は《しまった》と息を飲んだ。


《言い方が悪かった!!》

《ひなさんを傷つけちゃった!?》

《なんで私はいつもこうなんだろう》


 おっと。マイナス思考がでてきそうだ。早く前向きにしなきゃ。


「竹さん達の責務に私は関係ないのはわかってます」

「けど、コウが心配なんです」

「少しでも近くにいたいんです」

「コウが『異界(バーチャルキョート)』に行ったあと、私、すごく心配で心配で居ても立ってもいられなかったんです」

「だから『次は絶対についていく!』って決めたんです」

「邪魔なのはわかってます。それでも、コウのそばにいさせてください」

「コウのそばにいたいんです」


 畳み掛ける私の言葉に竹さんはしぶしぶながらも「……わかりました……」と納得した。

《チョロい》《チョロい》あちこちから思念を感じた。私も同感。このお姫様、チョロい。

 まあ同じ『半身持ち』として『半身』のそばにいたいという気持ちを理解しているからだろうけど。


《せめてひなさんが危ない目に遭わないように守護結界を二重にかけとこう》


 ん?


 伝わってきた生真面目姫の思念に一瞬虚を突かれた。

 あっと思ったときには竹さんが私の手をぎゅっと握っていて、瞬時にナニカに包まれたのがわかった。


 え?


「ひなさん」

 珍しく強い眼差しを向けてきた生真面目姫。

 いつも首からかけている『竹さんのお守り』にも竹さんの霊力が注がれていく!


「『あぶない』と思ったらお守りに『守って!』ってお願いしてください」


 イヤイヤ貴女ナニとんでもないことあっさりとしでかしてんの!? 守護の術(そんなモン)かけられるなら全員にかけなさいよ!

 驚愕のあまりなにも言えず口をハクハクさせていたらわんこが隣に立った。


「大丈夫だよ竹さん。おれのアイテムボックスに竹さんが作ってくれた薄衣入れてる。お水も回復薬も持ってる。イザとなったら使わせてもらうね」


 わんこの言葉と笑顔にようやく竹さんも安心した。

「お願いします」と言いながら「晃さんもあぶないこと、しないでくださいね」と念押しする。

「うん。大丈夫」「おれ達は見守らせてもらうね」とわんこになだめられようやく竹さんが私の手を離した。


 すかさずトモさんが彼女の肩を抱き「大丈夫だよ」なんて甘い声でささやいている。そんなトモさんに向ける竹さんの顔はほにゃりとゆるんでいる。甘々ですね。バカップルですね。時と場所を選びましょうね。ホラ。菊様がご立腹ですよ。

「気が済んだ? 行くわよ」と声をかけられあわてて蒼真様のそばに移動した。



「行くよ」と言われ、咄嗟にコウの腕にしがみついた。ぐらりと立ちくらみのような感覚に襲われ反射的に瞼をぎゅっと閉じる。目を開けたらもうデジタルプラネット六階の社長室だった。

 霊力少ないからこのレベルの転移をすると目眩(めまい)がする。すぐにコウが支えてくれてペットボトルを出してくれた。タカさんはヒロさんが支えている。

 急いで水を飲む。そうしてコウにうながされるまま足を動かした。


 ようやく足を止めたそこは見事な庭園が目の前に広がる座敷だった。

 そこにふたりの人物がいた。


《―――『宿主』保志 叶多―――》


 実際に目にするのは初めてだ。

 思っていた以上に年齢を感じる。早速構い倒すタカさんに対し、機嫌悪そうに、それでもうれしそうに照れくさそうにしている。


 そしてもうひとり。

 高校生男子の姿をした、それが『オズ』。


 異世界の『神』に成るために開発された機械。何百億年も『世界』を渡り数多の『願い』を叶えてきた存在。

 以前竹さんの記憶で『視た』ときのような圧は感じない。きっちり抑え込んでいる。それでもその独特の気配はわかる。


 菊様とやりとりするのを離れて見守る。やるべきこと。今後の手順。問題なさそう。

『オズ』の様子からも『管理者』である菊様の命令には絶対服従するのが見て取れる。


 と、『オズ』がこちらに目を向けた。

 目が合ったと知覚するより早く周囲が止まった。


 ―――精神干渉!


 油断した! 菊様の管理下にあるから攻撃してくることはないと無意識に警戒を解いた!

 己の未熟に(ほぞ)を噛む。ああ。竹さんがかけてくれた二重の守護結界も『オズ』には負けるのか。


《いえ。その守護結界は『害意あるものをはじくもの』です。今回の干渉には害意がないためはじかれることはありませんでした》


 頭の中に言葉が届く。これは―――。


《―――『オズ』?》

《はい》


 なんで? なにが起こってるの?

 合ったままの目に疑問を浮かべる私に『オズ』は淡々と問いかけてきた。


《『北の姫』からそれほどの守護を受ける、あなたは何者ですか?》

ちょびっとストックができたので、しばらく火・金の週2回投稿にしてみようと思います

次回は4/12(金)18時投稿予定です

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