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久木陽奈の暗躍 96 来訪者

 浄化も済ませて遺品や遺骨をヒロさんが安倍本家へ持って行くのを見送った。もう疲れた。霊力も精神力もからっぽ。ごはん食べて寝たい。

 抱き上げて運んでくれるコウにぐったりともたれ身を任せる。もう好きにしてくれ。私は疲れた。


「もーちょっとがんばってヒナ。ごはん食べてお風呂入って寝よ」


 やさしいわんこがやさしい言葉をかけてくれる。私のわんこやさしい。好き。


 精神系能力者同士の私達だからこれだけくっついていたら考えていることはそのまま伝わってしまう。こんな無防備な状態なら尚更。

 私が疲れ果ててるのもコウが大好きなのも伝わってわんこは大喜びになっている。私の世話ができることは滅多にないからね。ええ。文字通り雛鳥になりますよ。


 安倍家の離れに戻りタカさん達に一言挨拶をして二階のリビングダイニングへ。コウの膝に乗せられナツさんに作ってもらったおにぎりを手ずから食べる。お茶も飲ませてもらう。それでどうにか動けるようになった。


 お風呂をいただいて再びコウと寝る。時間停止の結界を展開して、ひたすらに寝た。

 なんか食べて寝てばっかりじゃない? いや、気にしたら負けだ。とにかく回復しなきゃ。



 気の済むまで寝倒してどうにか回復した。おなかへった。

 ホント無茶させるわよね。今の私の霊力量であんな浄化させるなんて。


 阿呆に文句を言おうとして、ふと気がついた。

 あのレベルの浄化ができたなら、もしかして他の術もできる―――?

 てことは、もしかしてアレができたら―――。


 ―――イケる―――?


「ヒナ?」

 頭のナカで策を構築していく私にコウが気がついた。ちょうどいい。ちょっと話を聞いてもらおう。


 私の策にコウは「さすがヒナ」と褒め(たた)えてくれた。

「イケると思う?」とたずねたら「思う」とのこと。ならイケるか。


「じゃあ、やってみよう」


 チャンスは一回。タイミングが重要。やってみないとわからないけれど、ダメモトで挑戦してみよう。

 成功させるためにはなにが必要か、術をどう展開するか、コウの補助をどう受けるかなど、話し合いを重ねた。

 うまくいくかわからないけれど、できることは全部やってみよう。


 私達は『救う』と決めたのだから。

 私は『日の巫女』なのだから。

 愛すべきお人好しの『半身』なのだから。




 ブラウスとスラックスに着替えて部屋を出る。コウは変わらず安倍家の戦闘服。

 リビングダイニングでごはんを食べてたら「たらいまー!」とハイテンションなちびっこの声が玄関から聞こえた。『白楽様の高間原(たかまがはら)』に行っていた一行が帰ってこられたようだ。

 出迎えに降りると、いつの間にかアキさんも晴臣さんも本家から戻っておられた。タカさん千明様も出迎えに出てこられ、結果的に全員で一行を出迎えた。


 すぐさま千明様とアキさんに飛びつくちびっこ。「たのちかった!」「あのね! あのね!」と大きな身振り手振りをまじえてのおしゃべりがはじまってしまい微笑ましい。


 けど、帰ってきたのはちびっこと守り狐様、そしてナツさん佑輝さんだけ。主座様と菊様、白露様の姿が見えない。

 どういうことかと思っていたらコウが「ハル達は?」と聞いてくれた。


 ナツさん佑輝さんの説明によると、今回放出される高霊力を受け取るための陣を設置しているらしい。『白楽様の高間原(ところ)』にも大規模な陣を展開してきて、そこに流し込むためには『こちら』にもそれなりの陣を展開し『白楽様の高間原(ところ)』と結びつけなければならないという。そのために技術者とその護衛、そして白楽様の名代の方が来られているとおふたりが言う。


「夕ご飯食べた?」のアキさんの質問に「まだ」と答えたのはナツさん。主座様も菊様もまだとのこと。

「じゃあお食事にしましょう」

 アキさんの言葉に「わあぁい!」とちびっこが喜ぶ。私達はいただいたので大丈夫です。それより皆さんもお食事どうぞ。で、ちょっと寝てきてください。ええ。今のうちに。


 そうして保護者の皆様とちびっこ一行は二階へ。ちびっこはすっかりナツさん佑輝さんに懐いたらしい。おふたりにアキさんの作られたごはんを食べさせてもらい、お風呂も入れてもらった。寝支度を整えてそれぞれに抱っこされてすぐ、スコンと眠りに落ちた。

「寝たよ」と私達のいる神棚の部屋にちびっこを連れて来たおふたり。ちびっこは布団に寝させても起きることなくぐーすかと眠っている。


「楽しかったんだね」思わず笑顔になるコウにおふたりがどんな様子だったのかを話してくれる。そりゃ当分起きませんね。いいことです。おつかれさまでした。


「おふたりも寝てください」

 そう話していたら玄関が賑やかになった。

 ちびっこを守り狐様達にお願いして出てみると、主座様が菊様と白露様、ご挨拶を終え合流された緋炎様だけでなく数名の男性をご案内しておられた。


「晃!」

「おお! 晃!」

「久しいな!」


 男性達はみんな着物に袴の装い。髪の色や目の色は様々だけど、どなたもが高霊力をお持ちなのがわかる。

 ああそう。この方々が『白楽様の高間原(たかまがはら)』の皆様。

 コウも「お久しぶりです」「はい。元気でした」とうれしそう。

 と、おひとりがコウのそばにいた私に気が付かれた。


「もしかして……彼女か?」

「はい!」と満面の笑顔でうなずくわんこがズイと私を見せびらかすように押し出す。


「おれのヒナです!」


 なんだその紹介の仕方は。

「コラ」とたしなめても阿呆は「えへへ」とうれしそうにするばかり。


「ヒナを紹介できて、うれしい」なんて素直に言われたらこれ以上叱れないじゃないの。もう。


 仕方ない。この阿呆は阿呆だから。

 改めて姿勢を正し、きちんとお辞儀をした。


「お初にお目にかかります。久木陽菜と申します。先日はコウが大変お世話になり、ありがとうございました」


「はじめまして」「こちらこそ晃には世話になって」と皆様気さくに応えてくださる。

 そんなやりとりに菊様が呆れておられる。《早くごはん食べたいんだけど》と思念が飛んできた。スミマセン今すぐに。


「皆様お食事は?」の質問に「まだよ」とお答えくださったのは緋炎様。

 チラリとナツさんに目を遣るとうなずいてくださる。ナツさんがごはん作ってくださると。頼もしいですね。


 私達のやり取りに主座様も、いちばん後ろにおられたヒロさんもうなずかれた。

「しばしお待ちくださいませ。上の様子を確認してまいります」


 そうして皆様のお相手はコウと佑輝さんにお願いし、ナツさんヒロさんと共に二階へ。賑やかになった階下にお察しになった保護者の皆様が食事を終え片付けをされているところだった。


 アキさんに来訪人数を報告し、テーブルセッティング。ナツさんは早速料理に取り掛かってくれた。

 そちらは皆様にお願いし、私は一階へ。念の為佑輝さんにちびっこの護衛についてもらい、他の皆様を二階のリビングダイニングへとご案内した。


 生活様式の違う家屋に『白楽様の高間原(たかまがはら)』から来られた皆様は興味津々のようであちこちキョロキョロと見回しておられた。テーブルはともかく椅子はほぼ使わないとのことで、収まり悪くお座りになられた。


 そうしてどうにか落ち着いたところで互いに自己紹介。代表は白楽様の身辺の世話役兼護衛役の白杉様。コウ達とも親しくしてくださっていた方。そうですか。三役内のジャンケンで勝って代表の座を射止めましたか。楽しそうでなによりです。

 陣を展開するための技術者の方が五名。皆様の体調不良に備えて医療従事者の方が二名。護衛件お手伝いの方が二名。総勢十名が今回派遣された方々。東西南北の村からバランス良く選出されたようだ。


『白楽様の高間原(たかまがはら)』から『こちら』に来るにはふたつの方法がある。ひとつは転移。もうひとつは決まった道順を歩いて。

 今回は時間経過を最小限にするために主座様の転移で移動してこられた。おかげで『白楽様の高間原(ところ)』で丸一日過ごして来られた皆様だったけれど『こちら』の時間で数十分で戻ってこられた。


 ちびっこをナツさん達にまかせて先に帰らせた皆様はすぐに霊力を集めて『白楽様の高間原(ところ)』に送る陣の設置に取り掛かった。霊力の流れを確認し、方角や地形を確認し、ああだこうだと議論を重ね、無事設置完了したとのこと。

 実験として紅白美女が霊力を放出したところ、うまいこと起動回収できたらしい。

 あとは本番でやってみるしかない。実際やってみて問題が起きたら対処。そう話をしてこの離れにいらっしゃった。


 皆様『こちら』に来られてすぐに竹さんの『霊力補充クリップ』を使用され、作業の合間に竹さんの水を飲まれた。そのおかげか、今のところ大きな霊力酔いの症状は出ていない。とはいえヒロさん佑輝さんも発症したのは時間が経ってからだったし、油断は禁物。

 実際皆様も「こんなに周囲の霊力量が違うなんて」と驚いておられたそうだし。


 それもあってだろう。ナツさんが用意したごはんは竹さんの水を使って作られたものだった。ごはんに味噌汁、キャベツと豚肉のさっぱり煮。賀茂茄子の揚げ浸し。アキさんが突き出しに出された生野菜のサラダと冷奴を召し上がっておられる間にどんどんと料理を作っていくナツさん。菊様達も加わった総勢十五名のお食事を手際よく作っていく様は流石はプロの料理人。余裕すら感じる。


 ちなみにこの離れのテーブルでは『白楽様の高間原(たかまがはら)』からの十名の皆様がお食事を楽しんでおられる。コウと私が配膳とお世話をし、ナツさんはひたすらに料理を作り続けている。

 菊様と紅白美女、主座様とヒロさんは御池に移動された。姫様と守り役様がご一緒では『白楽様の高間原(たかまがはら)』からの皆様が休まらないとのご配慮だ。


 菊様達はアキさんと晴臣さんがおもてなししておられる。アキさんが料理と配膳をし、晴臣さんが御池と離れを行き来してはアキさんの料理を北山に、ナツさんの料理を御池に運んでくださっている。


 晴臣さんは『霊力なし』なためにこれまでは転移陣の刻まれた扉を使うことはできなかった。けれど竹さんの作った『晴臣さん専用・霊力をためられるブレスレット』のおかげでブレスレットを着用している間だけは一般人より多めの霊力を持てるようになられた。

 ブレスレットを受け取ってから色々と実験を重ね、今ではブレスレットを一日つけっぱなしにしていたら転移陣が使えるまでになられた。


 神様方からうかがった『裏話』から察するに、晴臣さんは元々かなり大きな『(うつわ)』を持っておられる。それを使えるように訓練すれば今後もいろんなことができるようになるだろう。

「今はまだ使いっ走りにしか役立ってないけどね」なんて苦笑される晴臣さん。でも料理を運んでもらえるの、すごく助かります。ありがとうございます。


 ええ。ヒロさんが大食らいですからね。ただでさえ量がいりますよね。『白楽様の高間原(たかまがはら)』の皆様も初めて味わう料理にテンション上がって箸が止まりませんしね。霊力補充のために召し上がっておられるというのもあるかもですが。


 そうやって両方のリビングでそれぞれにお食事を楽しまれた皆様。菊様と紅白美女は浄化だけをお使いになり先程お休みになられた四人部屋へと向かわれた。

 『白楽様の高間原(たかまがはら)』の皆様は離れの大きなお風呂へご案内。時間停止のかけられる主座様とヒロさんがご一緒され、お風呂の使い方をお教えしながら入浴を済まされた。


 そうですか。お風呂でも大騒ぎでしたか。楽しそうでなによりです。


 『白楽様の高間原(たかまがはら)』の皆様は転移陣を使って一乗寺の『目黒』の研修棟へご案内。武道場に『異界(バーチャルキョート)』の生き残りを寝させている現在、十人もの人間に提供できる場所は『目黒』しかなかった。安倍本家やその周辺は今、非常事態でバタバタしてるし。ホテルや旅館は祇園祭で空室なんて無いし。


『白楽様の高間原(たかまがはら)』からの皆様が来られた時点で私が指示を出し、タカさんと千明様に一乗寺に戻ってもらった。そうして受け入れ体制を整えてもらい、皆様をご案内した。


 学生の合宿を想定した棟の二階の広い部屋にお布団を敷いてくださっていた。皆様お布団のやわらかさやマットレスに感動し興味津々になっておられる。いや寝てくださいよ。お疲れでしょ? 研究はまた後日ゆっくりしてください。ハイハイ。電気消しますよ。だから電気に食いつかないで! いいから寝ろ!


 全員霊力補充クリップと竹さんの水を枕元に準備して、問答無用で電気を消し扉を閉めた。

 それでもわあわあと騒いでいる声が聞こえる。テンション高いな。まあ無理もないか。


 具合が悪くなるひとが出る可能性があるからと時間停止の結界は展開しないことにした。けどこのぶんじゃ睡眠時間足りなくならない?


「大丈夫じゃない? 『むこう』では二、三日寝ないで修行とかよくあったし」


 とんだワーカーホリックどもだな。

 じゃあもういい。放置だ。


 主座様とヒロさん、保護者の皆様は御池のご自宅のご自分達のお部屋でおやすみになられた。御池のおうち全部に時間停止を主座様がかけられたので、私達が『目黒』から戻ったときにはもう皆様しっかりと眠って休息を取られたあとだった。


 料理を終え片付けも終えたナツさんとちびっこの護衛をしてもらっていた佑輝さんにも空き部屋を使って休んでもらう。コウがもらってるのと同じ時間停止の込められた結界石を主座様からもらっていた。だからすぐに部屋から出てこられた。時間停止の結界、便利。

 使いすぎるとカナタさんのようにあっという間に老人になってしまうけど、今はしょうがない。とにかく時間がない。

 本来ならば休むことなく働き続けるか、準備や各種手配をあきらめて休養を優先するかになる。それがどちらもできるのはこの時間停止の結界のおかげ。


 とにかく万全に。術も、人員配置も、体調も。

 たったひとつの油断でなにもかもひっくり返るなんてことがないように。

 最後の最後まで諦めない。油断しない。全力を尽くす。

 改めて決意を固め、暗躍に励むのだった。

次回は4/2(火)投稿予定です

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