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久木陽奈の暗躍 94 ちびっこ、異界へ

 あらかたの報告と相談が終わった。

 官公庁や神社仏閣など関係各所への対応の指針ができた。カナタさんの今後についても意見が固まった。あとは『災禍(さいか)』滅亡に向けて邁進(まいしん)するのみだ。


 最後に菊様にだけ『お願い』をした。

 右手で私の手を握ったコウの差し出した左手を取っていただき、思念でお伝えした。

 菊様はただ「わかった」とだけおっしゃった。

 あとは菊様におまかせだ。

 コウとふたり「よろしくお願いします」と頭を下げた。




 ひとまず『ボス鬼』が『現実世界』に出現する可能性はなくなった。次にナニカが起こるとすれば長刀鉾の注連縄切りのあと。『災禍(さいか)』が菊様の命令どおり、これまでためたエネルギーを開放するとき。


 開放された高エネルギーを受け取った『悪しきモノ』が活発になったり、悪霊や下級霊のレベルが上がったりする可能性がある。

 その場合に備えて安倍家の実働部隊や各地の守護者、能力者を配備しておく必要がある。


 現在の厳戒態勢を解除し、次の襲撃に備えて休むよう指示を出すことにした。

 とはいえ全員が全員休んでは万が一のときに対応できないから最低限の人数の警戒は続けさせる。そのへんの指示も出し、随時報告も義務付けた。


 封印されたモノが開放される危険性については「まずない」と主座様も菊様も判断された。

 竹さんがこれまでに京都中の結界や封印を生真面目にコツコツと確認して、弱いところは補強したり再展開している。だから「大丈夫だろう」と。納得です。


 同じ理由で京都の外側の結界も「問題ないだろう」となった。南の朱雀様が復活されたあとも竹さんが何度も何度も霊力を注いで強度を上げている。特にここ数日は「なにかしなきゃ」と気を揉んでやたらめったらに笛を吹いてはあちこちの結界の強度を上げていた。気が弱くてマイナス思考で臆病な生真面目姫の行動がここにきて役に立った。


 まあそれだけの結界が展開されていると知ったから『災禍(あのこ)』も「『現実世界』に鬼を呼ぶ門を出現できる」と判断したんだけど。そこは置いとこう。


 ひとまずやるべきことは関係各所への連絡。

『ボス鬼』出現はなくなったこと。差し当たり今夜『大きな災い』が起こる可能性はなくなったこと。次になにか起こるとすれば午前九時半前後。それに備えて今夜は警戒態勢を解除し休息を取ること。そして夜が明けてから再び警戒態勢を取ること。


 主座様と晴臣さんは安倍本家へ。これまでの報告を受け、今後の指示を出す。

 タカさんはこのままここで『バーチャルキョート』や官公庁のシステムの見張り。アキさんと千明様は手分けしてあちこちに連絡をしてもらう。

 菊様と紅白美女は分担されたご挨拶へ。時間停止かけて打ち合わせしてたからそこまでの時間的ロスはないけれど、なにせ数が多い。急ぎ目で回ってもらうことになるだろう。

 ヒロさんはコウと一緒に各種リスト作り。今回『異界』に連れて行かれたひと。その詳細。これまでに『異界』に連れて行かれたひと。それが済んだら山に転移させた遺品のラベリングとリストを作らなきゃ。


 それぞれのやることを確認しあい、時間停止の結界は解除された。早速主座様と晴臣さん、菊様と紅白美女がお出かけになった。



 千明様とアキさんが関係各所への連絡をはじめられた。

 電話連絡しかできないところは電話。けど基本的にはメールやショートメッセージで連絡が済む。文章をコピペして次々に送信。一斉送信にすれば楽チンだけど、メールアドレスからどこに連絡したかがバレるのは「よくない」ということになったので、一件一件アドレスやら電話番号やらで送信してもらう。それで納得してくれればオーケー。折り返しの問い合わせが来たらまた対応。

 そっちはおふたりにおまかせして私達は私達の用事をしよう。


 今回『異界(バーチャルキョート)』に連れて行かれた二百人に関しては菊様が作られたボードで明らかになった。ヒロさんにはまずこの二百人のリストを作ってもらう。

 梅様蘭様とトモさんナツさんもリストアップされるけど仕方ない。『姫』とか『主座様直属』とか書かなければ問題ないだろう。そもそも作ったリストは安倍家以外に出す予定ないし。


 警察やらがリストを欲しがる可能性はあるけれど、その情報を得たからといってどうこうなるかといえば別にどうにもならない。危険思想があるわけでもなし。基本「夢だ」と思わせるようにしたし。実戦を経験したことにより暴力的になる可能性のあるひとやPTSDになりそうなひとは問答無用で記憶を完全消去するように菊様がされたし。それ以外のひとも一部は本人の希望で記憶を消したし。

 そのへん説明して「なんのために必要なんだ」と突っぱねればそれ以上しつこく要求することはないだろう。


 ヒロさんとどういうリストにするか相談。住所氏名年齢職業は当然。それに加えて『異界(バーチャルキョート)』での職業、どこでどうしていたかといった情報も入れる。菊様の作ったボードをもとにトモさん達がああだこうだ言ってたことを書類にまとめるべく話し合いをした。


 どうにかそれっぽい書類を作る目処(めど)が立ったところでヒロさんにはそちらに取り掛かってもらう。

 その間に私はカナタさんがこれまでに殺したひとのリスト作りをする。


 最初はコウの『視た』記憶をヒロさんに直接『視せ』てリストアップしてもらうつもりだったけど、あんまりにも悲惨な最後を何百と『視せ』たら「ヒロが()たない」とコウがストップをかけた。


 それもそうだ。

 それでなくてもヒロさんはやさしくて穏やか。協調性や親和性が高い。だから他人の痛みを自分の痛みとして受け取ってしまう。

 それはヒロさんの長所であり弱点でもある。


 そんなヒロさんになんの罪もない一般人が無惨に殺される場面を何百も『視せる』――しかも彼は『絶対記憶』の特殊能力持ち――。

 絶対にヒロさんのココロはこわれる。


 ということで私がリストアップしていくことにした。

 これでもアラフォー改めアラ還まで生きた記憶がありますからね。どっちの人生でもヲタクでしたので古今東西のあらゆる文献でグロ耐性もありますよ。精神系能力者は割り切りが大事。なんもかんも生真面目に受け取ってたら()ちませんて。


 コウの『記憶再生』で情報を『再生』してもらい、わかる限りの日付や住所氏名年齢職業をパソコンに入力していく。おかげさまで私の分析能力も上がったからヒロさんが入力しているのと同じ速さでタカタカと入力していけた。


 とはいえ、なんにも感じないかと言われればそんなことはなくて。

 当然疲弊する。そりゃもうクッタクタに疲弊する。

 コウとふたり、数人入力してはお茶を飲み。また数人入力してはおやつを食べる。おかげでおなかタポタポになった。




 ヒロさんのリスト作りが終わり、私のほうも半分過ぎたとき。

 部屋の隅に寝させていたちびっこがゴソゴソと動き出した。


「あ」「起きた」

 部屋にいるのは連絡役の千明様とアキさん、パソコン担当のタカさん、リスト作成中のヒロさんと私とコウ。そして千明様とアキさんとちびっこそれぞれの護衛の守り狐。

 

 ムクリと身体を起こしたふたりは寝ぼけながらもあたりを見回した。


《ここどこ》

《おへやじゃない》


 あ。

 ヤバい。


 瞬時に察した。


 ちびっこを寝させていたこの部屋には何度も何度も時間停止をかけた。話し合いに必要なことだったとはいえ、この部屋ではかなりの時間が経過した。

 ちびっこの体内時計はキチンと機能していたようだ。いつもの睡眠時間が取れたから今目を覚ましたと。


「サチ。ユキ。おはよ」

「おはようふたりとも」

 すぐさま千明様とアキさんが駆け寄り、ふたりを抱き上げる。

「よく寝た?」「ブローチつけようか」

 おふたりに色々声をかけられてもちびっこは不機嫌をつのらせていく。


《おそとまっくら》

《おとうさんもおにいちゃんもいそがしそう》

《なんで》

《おなかすいた》


 どんどん険しくなるちびっこの顔。ヒロさんがあわてて抱っこを交代する。

「おはようふたりとも。おなかへった?」

 両腕にひとりずつ抱き上げ、霊力を循環させるヒロさん。大好きなおにいちゃんに抱き上げられたちびっこはヒロさんにしがみつき、ぐずりだした。


「おなかへった」

「ここどこ」

「北山の離れだよ」

「なんで」

「おうちじゃないの」

「かえる」

「かえる」


 チラリと母親達に目を()ったヒロさん。進捗(しんちょく)をたずねられていると瞬時に察したアキさんがリストを差し出された。そちらを確認し、ヒロさんはうなずいた。


「うん。帰ろうね。ゴメンねふたりとも」

「すぐにごはんにするわね。パンとおにぎり、どっちがいい?」


 アキさんの言葉にちびっこの思考が朝食に向いた。

「……………サチ、ぱんがいい」

「ゆきも」

「パンね。じゃあ、パン食べにおうちに帰りましょう」

 そうしてアキさんがサチちゃんを、千明様がユキくんを受け取り、離脱された。ヒロさんの指示で守り狐様も全員同行。


「連絡はほとんど終わってる。残りはぼく、やるよ」

 ヒロさんの言葉に「そうだな。頼む」とタカさんも了承した。


 そんなおふたりを見ていたコウがハッとした。


「………そうだ」


 伝わってくるのは私の知らないひと達。

 なに? 誰?


 私が口を開くより早くコウが私に聞いてきた。


「放出される高霊力、宗主様のところにも届けられないかな」

「『宗主様』?」


 聞き返すと「白楽様」と答える。ああ。このひとが白楽様なの。で? こっちのひとが側役の白杉様。こっちは『赤』のお師匠様。なるほど。今コウから伝わって『視え』てるのは『白楽様の高間原(たかまがはら)』のひと達なのね。


『白楽様の高間原(たかまがはら)』の事情は報告書で読んだ。

 その『異界』の『(かなめ)』になっておられるのは白露様の孫にあたる白楽様。高霊力保持者であり研究の一環で不老不死に近い身体になったお方。

 不老不死に近いとはいえ『不老』でも『不死』でもない白楽様。そろそろいつ亡くなってもおかしくない年齢に近づいてきたために休眠を取りながら『世界』を支えておられる。


 今回トモさんが修業に行かせていただいたときに「宗主様が亡くなられた場合『世界』は、そこに暮らす人々はどうなるのか」と問題提起をしてきた。これだから頭の良い人間は。簡単に余計なことに気付くんだから。


 トモさんが余計な一石を投じたためにあちこちで議論がなされているけれど、今は『災禍(さいか)』を優先しないといけないから『白楽様の高間原(あちら)』のことは放置されている。


「で? なんでまた急にそんなこと言い出したのよアンタは」


 問いかけるとわんこは素直に答えた。


「サチちゃんとユキくん、時間停止の結界のせいで体内時計が実際の時間と狂っちゃっただろ? どうにか調整したほうがいいよね」


 わんこの意見に「まあ、そうね」と同意する。タカさんもヒロさんもうなずいた。


 おかげさまで伊勢のときの記憶を取り戻した私達には子育ての記憶もある。そのせいで余計にちびっこのことが気にかかるわんこが続ける。


「それに今起きたばっかりだから、しばらくはお昼寝もしないだろ。ふたりだけで遊んでてもらうにしても、誰かお世話するひとをつけないと心配だよね」


「リンとレンがついてるから大丈夫じゃないか?」


 一乗寺ではいつも守り狐様が遊び相手を兼ねてお世話をしているとタカさんが言う。けどコウは「『災禍(さいか)』の件が落ち着くまでは油断しないほうがいい」と言う。


 それは確かにそう。

 あの双子は高霊力保持者。まだ子供で弱っちい高霊力保持者はいつ悪いヤツに狙われて喰われるかわからない。そのための守り狐様だけど、これからの状況次第では守り狐様では太刀打ちできない状況になる可能性がある。

 竹さんの守護石もあるけれど、あのふたりはなるべく主座様の結界から出さないほうがいいだろう。

 御池のご自宅にも結界は展開されているけれど、あそこよりもこの離れのこの部屋の結界のほうが強い。できればちびっこふたりはこの部屋で寝させときたい。


「強制睡眠でもかけてもらってここで寝させとく?」

「そんなの可哀想だよ」


 私の提案にわんこは顔をしかめる。ダメか。

「で?」

 案があるらしいわんこに話の先をうながす。

 わんこはひとつうなずいて話を続けた。


「ふたりにどう過ごしてもらったらいいかなぁって考えてたら、宗主様の高間原(とこ)のこと思い出した」


 ああ。いつものヤツか。


 コウは昔からこんなことがある。普段は思いつかないようなことを突然ひらめく。おそらくは天啓とか神託とか言われてるヤツだと私は思っている。『火継の子』であるコウを通して神様方が進む道を示してくださっているのだと。


「宗主様の高間原(とこ)は『異界』だろ? あそこなら悪いヤツは行けない」


「なるほど」と納得する私からヒロさんに顔を向け、コウは続ける。


「宗主様のところなら霊力吹き出しても問題ないし」

「自然いっぱいでたくさん遊べるし」

「同じくらいの年齢(とし)で同じくらいの霊力量の子が何人もいただろ? 一緒に遊んでもらえないかな」

「ヒロのきょうだいだったら受け入れてもらえると思うんだけど」


「確かに」とヒロさんも納得を見せる。

「そんなにいいとこなのか」ってタカさんも賛成みたい。


「おれ達が修業したときみたいに時間調整して帰ってきたら、ふたりの体内時計もいいようになると思うんだけど」


「なるほどね」「確かに」


 話を聞く限りちびっこが安全に全力で遊べそうだ。


「で、ふたりを連れて行くなら蒼真様かハルになるだろ?」

「時間調整するならそうなるよね」


『白楽様の高間原(たかまがはら)』は『異界』なので、そう簡単には行けない。承認を得た者が正規の道順(ルート)を通る必要がある。

『異界』に行ける者のなかでも時間調整ができるひとは限られている。蒼真様と主座様はできる。他の守り役様や姫様は行き来はできるけど時間調整は「したことがない」から「できるかわからない」とのことだった。


「せっかくハルか蒼真様がふたりを連れて行くなら、ついでに宗主様や皆様と相談して、放出される高霊力を受け取れるようにできないかなー、って思うんだけど」


「どうかな?」と首をかしげるあざとかわいいわんこ。


「そしたら宗主様の高間原(ところ)の問題解決のための一助になるんじゃないかと思うんだけど」


「確かに」


 ヒロさんには納得の説明だったようだ。

「高霊力を受け取れさえすれば、あとは『むこう』のひと達がどうにかしそうだよね」と苦笑を浮かべている。

「ちょっとハルに相談してみよう」と早速式神を飛ばした。


 ヒロさんからの相談を受けられた主座様は、すぐに菊様に連絡を取られたらしい。

 ほどなく菊様と白露様が戻ってこられた。主座様も。


「いいこと考えたわね晃。お手柄よ」


 菊様はコウの案に賛成のようだ。

 白露様から連絡がいって緋炎様も戻って来られた。話し合いの結果コウの案は採用された。

「どうすれば『異界』にまで高霊力を届けられるかしら」「陣とか準備が必要よね」

 色々意見は出たけれど、なにはともあれ「白楽と相談しよう」と出かけることになった。


 白楽様のところに向かわれるのは白露様と菊様と主座様。緋炎様はご挨拶を続行。白露様と菊様の担当分はまだ残ってるけど「竹にやらせましょう」と菊様が決めてしまわれた。


 止める間もなく緋炎様が式神を飛ばされた。私達にも向こうの声が聞こえるようにしてくれたので竹さんトモさんの反応がわかった。

 トモさんはすぐさま「は!?」と噛みついてきたけれど、当の竹さんが素直に「わかりました」と了承した。それでトモさんもしぶしぶ矛を収めた。それでも「これ以上増やさないでくださいよ!」と釘を差してきた。


 ご挨拶は竹さんにまかせとけば大丈夫だろう。くっついているトモさんが彼女に無理をさせるわけがない。スケジュールも竹さんの体調管理もトモさんが万事うまいこと取り計らうだろうからあっちは放っといて大丈夫。


「ちびっこのお守りはふたりの担当守り狐様にお願いすればいい?」


 主座様も菊様白露様も白楽様と今後の打ち合わせがある。ちびっこに構っている時間はないだろう。ならばちびっこは守り狐様と勝手に遊ばせればいいかと考えていたら「それじゃあ楽しめない」とコウが不満を顔に出す。


「おれ、ついていこうか?」なんて言い出す。

「アンタはやることがあるでしょうが」

「じゃあぼくが」

「ヒロさんこそやることあるでしょ」


 そんな私達のやり取りに主座様がため息を落とされた。


「――ナツと佑輝はどうなってる? 補給作りはまだかかるか?」


「確認します」とすぐさまヒロさんがナツさんに電話をかける。電話に出たナツさんによると竹さんと黒陽様が出してくれた水はほとんどペットボトルに移し終え、いつでも配付できる状態。おにぎりも着々と作り、今は最後の土鍋ごはんをおにぎりにしているところだという。


「じゃあそれが終わったらナツと佑輝に次の任務を頼みたい」


 そうして主座様がナツさんと佑輝さんをちびっこのお世話係に任命された。

「自分達の水とおにぎりもちゃんと補充しろよ」と主座様に指示され、おふたりもそれぞれのアイテムボックスに水とおにぎりを補充した。


 姫様方と守り役様達、トモさんヒロさんコウの分の補給物資を確保。残りはヒロさんが安倍本家へ持って行くことになった。


異界(バーチャルキョート)』に連れて行かれた安倍家のひとは召集礼状を受け取ってすぐに安倍本家へと向かった。さっきまで主座様が晴臣さんと一緒に報告を受けていた。四日間で水もおにぎりも消費したそのひと達に補給し、烏丸御池の本拠地(ベース)に設置した食料庫の在庫も確認しないといけない。

 今夜の襲撃は無くなったけど、夜が明けて山鉾巡行が始まったら何が起こるかわからないのだから。


 

「サチとユキの子守をしろ」と命じられたナツさんと佑輝さんは「できるかな」と不安がっておられた。

 ちびっこが生まれてすぐはものすごく手がかかる時期だったことと霊玉守護者(たまもり)達もまだ中学生だったこともあり毎週末お世話をしていたけれど、中学を卒業したらナツさんは就職で、佑輝さんは部活で、それぞれに忙しくなってちびっこと会うことは年に数回になった。

 そんな自分達がちびっこのお世話ができるかと心配されていたおふたり。プライベートでも幼児に接することはないから余計に不安がっておられた。


 でもヒロさんに「ナツと佑輝だよ」と説明された当のちびっこがおふたりをちゃんと覚えていて理解して「なっちゃ!」「ゆーきちゃ!」「だっこちて!」と突撃した。そんなかわいい攻撃におふたりともあっさりと陥落。それぞれ抱き上げ「元気だったか?」「重くなったな」なんて目尻を下げていた。


「サチ。ユキ。これから特別な場所に連れて行ってやる」

 大好きなおにいちゃんである主座様にそう言われ、ちびっこは大喜び。

「とくべちゅ!?」

「どこ!?」

「どこかは秘密だ。でもナツと佑輝が一緒に遊んでくれるぞ」

「「ホント!?」」


 キラキラした眼差しを向けられたナツさんと佑輝さんはデレデレとうなずいた。


「わあぁい!」

「なっちゃ! ゆーきちゃ! あしょぼ!」

「なにちてあしょぶ!?」


 テンション上がりまくりのちびっこを「落ち着け」と主座様がたしなめている間に白露様がちびっこと守り狐様の立ち入り許可を白楽様からいただいた。


 発案者のコウがナツさん佑輝さんにどこでどんなふうに遊ぶかアドバイスをする。「あそことか」「こことか」の説明におふたりも「なるほど」と納得し、安心したみたい。

「あそこのあの子とか遊んでくれないかな」との意見には「その子もう大きくなってるぞ」とナツさんからツッコミが入りコウが驚いていた。


 コウが『白楽様の高間原(ところ)』に行ったときはヒロさんと佑輝さんの三人で三年半を過ごした。ナツさんだけは仕事の都合でお休みが取れなくて別日になった。つまり『白楽様の高間原(あちら)』はコウ達がいなくなってからナツさんが修業した期間――少なくとも三年半――は経過している。そりゃコウが知ってるちいさい子は成長してるわ。

「まあ誰か声かけてみるよ」とナツさんが請け負ってくれた。


 そうしてちびっこはおでかけ準備をし、ナツさん佑輝さんにそれぞれ抱っこしてもらって皆様とお出かけした。

「お世話になるから」とアキさんがご自宅にストックしておられた菓子折りや調味料セットや缶詰やらを主座様にことづけられた。


「時間がないからありあわせのものしかないけど」

「失礼かしら」とオロオロするアキさん。

「いやぁ……。どれも爆弾じゃないかなぁ……」とヒロさんが遠い目でつぶやいておられた。


 そうですか。ペットボトルも缶詰も絶対興味持たれますか。マヨネーズとケチャップはトモさんが作って普及してたけどドレッシングはまだないですか。なんだか一波乱ありそうですね。まあ私は関係ないのでいいです。あとは菊様に丸投げということで!


「「いってきまーしゅ!」」と元気いっぱいのちびっこ一行を「いってらっしゃい」と手を振って送り出した。

ヒロは知りませんが、ドレッシングはナツが普及させました。和洋中様々な種類ができています

缶詰もナツの説明で研究中です


次回は3/19(火)投稿予定です

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