第二百五話 休養命令と風呂
「次はなにをしますか?」
愛しいひとに甘えていたのをごまかすようにそう問いかけると、馬鹿を見る目を俺に向けていた西の姫が表情を変え、思案を巡らせた。
「――そうね……。『呪い』が解けたことはこれではっきりしたから、これからは『災禍』消滅について動きましょう」
そのとおりだな。
うなずく一同に俺も妻も一緒にうなずく。
「その前に」
と、西の姫が俺と妻に目を向けた。なんだ?
「智白。竹。
アンタ達は休んできなさい。時間停止かけるのよ」
突然の休養命令に「は?」と声がもれた。
妻も「え」「でも」とオロオロする。
そんな俺達に西の姫はさも当然のように言った。
「アンタ達が『鍵』なのよ」
それは以前から何度も言われているが。
だからといって今休むことにはつながらないだろう。
そう思うのが伝わったのか、西の姫は面倒くさそうに説明をはじめた。
「私が『管理者』になったから『災禍』消滅に関して特に問題はないとは思うけど。それでも何が起こるかわからない。
『鍵』であるアンタ達は万全の状態でいてほしいのよ」
そう説明されれば納得しかない。妻も「わかりました」と大人しく答えた。
偉そうにうなずいた西の姫は続いて晃に目を向けた。
「あと、晃も休みなさい」
「え」とうろたえる晃に西の姫が説明する。
「アンタはこれからしっかり働いてもらわないといけない。
――ひな。晃について、回復させなさい」
指名されたひなさんがなにか言うより早く西の姫はさらに命じた。
「情報整理も頼むわよ」
なるほど。
あれこれと『災禍』の記憶を視ている晃は情報過多状態だ。晃の『半身』であり同じく精神系能力者のひなさんならばそれを整理整頓し分析できるに違いない。
晃を回復させ、情報を整理させ、精神的にも霊力的にも回復させることは『半身』であるひなさんにしかできない。
ひなさんにもその必要性は理解できたのだろう。「わかりました」と了承していた。
「時間停止の結界は持ってる?」
「ございます」
「じゃあそれ使って」
あっさりと命じた西の姫。了承するひなさんにうなずきを返し、ぐるりと全員を見回した。
「他の皆も交代で休むようにしましょう。時間停止使ってしっかり休んで、万全の状態でデジタルプラネットに行くわよ」
西の姫の命令に姫達を除く全員が「ハッ」と応える。梅様と南の姫は「おっけー」「わかった」と軽く答えていた。
「とりあえずここまでの話を晴明達にしとくから。
その間に智白と竹、晃とひなは休みなさい」
そう指示した西の姫はパチンと指を鳴らした。
それだけで広々としていた部屋が元の広さに戻った。
人口密度過多の部屋にかけられていた時間停止の結界も解かれ、それぞれに行動することになった。
「じゃ。お先に」
ひょいと妻をお姫様抱っこで抱え、さっさと部屋を出る。
「トモさん!」
文句を言いたげな妻に構わず階段を駆け上がり妻の部屋に飛び込んだ。
バタン。
いつもの部屋の変わらぬ様子にホッと脱力する。
帰ってきた。無事に帰ってきた。
実感した途端にドッと疲れが出た。
「はあぁぁぁ…」
妻を抱きかかえたままズルズルと座り込んだ。
ぎゅう、と愛しい妻の身体を抱き締める。あたたかい。やわらかい。生きてる。大好き。
「生きてる」
「うん」
俺の様子に妻もなにか感じてくれたらしい。俺の背中に腕をまわし抱き締めてくれた。
「トモさん」
「ありがとう」
愛しい妻がぎゅうっと抱きついてくれる。
「ここに帰ってこれるなんて、このお部屋を出るときには思わなかった」
「『呪い』が解けるなんて、考えてもなかった」
「ぜんぶ、ぜんぶトモさんのおかげ」
「ありがとう」
ああ。ホントだね。俺も無事に帰れるなんて思わなかった。『呪い』が解けるなんて思わなかった。
『そうなったらいい』と願ってはいたけれど、そのために全力を尽くすつもりではいたけれど、本当の本当にこうして帰ってこれるなんて正直考えてなかった。目の前のことに必死で、先のことを考える余裕なんてなかった。それが。
「貴女ががんばってくれたからだよ」
「諦めないでくれて、ありがとう」
「俺のところに帰ってきてくれて、ありがとう」
浮かんだ気持ちが、言葉が、勝手に口から出ていく。
ただ妻が愛おしくて、生きてくれていることがありがたくて、ぎゅうぎゅうに抱き締めた。
そのまま唇を奪う。むさぼるようにキスを重ねた。
生きてる。そばにいてくれる。『呪い』はなくなった。『二十歳までに死ぬかも』なんて怯えなくていい。ずっと一緒にいられる。ずっとそばに。ずっと。ずっと。
愛してる。愛してる。好き。大好き。
感情が爆発して、ただただ彼女の唇をむさぼった。彼女のぬくもりを、やわらかさを味わった。
好き。好き。愛してる。愛してる。
もっとそばに。ずっとそばに。もう離れない。ずっと一緒だ。
重ねた唇から、抱き合う身体から、互いの霊力が注がれる。循環する。
俺達はひとつだった。今またひとつに戻った。
そんな想いがあふれ出し、循環していく。
俺のナカの風が彼女に注がれる。彼女のナカの水が俺に注がれる。
霊力が、風と水が、ぐるぐるぐるぐると巡りひとつに混じり溶けていく。
それを感じながら、ただただ抱き合い、ただただ唇を重ねた。
しっかりとふたりが溶けた感覚に、ようやく少し落ち着いてきた。
それでも離れがたくて甘えたくて、ちゅ、ちゅ、と唇をついばむ。
愛しい妻は嬉しそうにくすぐったそうに微笑んだ。クソかわいい。
愛しいひとのかわいい表情に愛おしさがさらにつのる。頬に、耳にとキスをするとクスクスとちいさく笑う。かわいい。
『おかえし』とばかりに彼女も俺にキスしてくれる。頬に。耳に。クソうれしい。しあわせ。マジがんばってよかった。むくわれた!
かわいいひとと再び唇を重ねる。うれしそうに俺を抱き締めてくれる愛しい妻。俺、愛されてる。しあわせ。うれしい。大好き。
ちゅ、と音を立てて唇を離す。彼女の目を見つめる。
そこにあるのは俺への愛。
俺が好きだと。俺が愛おしいと。俺といられてしあわせだと。その目が告げていた。
「好きだ」
ぎゅう。抱き締め、ささやく。
「愛してる」
「私も」
ぎゅうぎゅうとふたりで抱き合った。
それだけでしあわせで満たされる。
彼女がいる。俺の腕のなかに。もうどこにも行かない。ずっとそばに。
愛してる。愛してる。愛してる。
彼女の首筋に顔を埋める。すう、と吸い込むと彼女の香りがした。いい香り。いつもより強く香る。汗かいたのかな。大変だったもんな。
首筋にキスを落としながら彼女の香りを何度も何度も堪能する。いい香り。とろけそう。
と、はたと気付いた。
俺、――今、臭くないか?
最後に浄化をかけたのはいつだ? そうだ。高間原の蒼真様の温室で浄化をかけてからかけてない。そもそも四日風呂に入ってない。浄化はしてたが。
そうだ。最後に浄化かけてから戦闘続きだった。イヤな汗もかいた。俺、汗臭いだろ!
ハッとそんなことに気付き、そろりと彼女を抱いた腕をゆるめた。
そんな俺に気付いたのか彼女も腕をゆるめる。
そっと離れ、互いに顔を見合わせた。
「? なあに?」
物言いたげな俺に気付いた彼女が小首をかしげる。かわいい。
「………俺、汗臭いよね。ゴメン」
そう言って彼女から距離を取ろうとした。
俺の言葉にポカンとした彼女だったが、ハッとなにかに気付いた。途端、絶望を貼り付けたような顔をし、俺から離れようとした!
反射的に逃げようとする彼女を抱き止めた。
「なに? どうしたの?」
「あ、あの、その」
ジタバタもがく彼女は俺と目を合わせようとしない。
「……やっぱり俺、臭い?」
そうなのか。ショック。
抱き止めた腕をゆるめ、そっと彼女の両肩をつかんで俺から離した。
と、彼女はまたも絶望的としか言いようのない顔をした。
「ち、ちが」
ぶんぶん首を横に振る妻にうつむいてしまった顔をどうにか上げる。
「わた、私、が、」
恥ずかしそうにうつむく妻に、察した。
彼女も自分が汗臭いと思っている。
いや確かに汗の匂いはするけど。
「竹さんはいいニオイだよ?」
正直に言ったのに愛しい妻はべしょりと泣きそうな顔をする。
「竹さんの汗のニオイ、俺、好きだよ。ずっと嗅いでたいくらい」
言葉にすると変態くさいな。でもちゃんと言い聞かせないとこのひと俺なんかじゃ考えつかないようなマイナス思考に突っ走るからな。
「……イヤじゃない?」
いつものように上目遣いでいつもの台詞を口にするかわいいひと。
つい笑顔になって「イヤじゃないよ」と答える。
「迷惑じゃない?」
「ないよ」
「無理してない?」
「してないよ」
ああもう。仕方のないひとだなあ。
あんなに強く想いを告げ合ったのに、まだそんなこと言うのか。それだけ俺のこと好きなのか。
うれしくてニマニマしていたら、彼女がぶすっとして目をそらした。
照れてる! かわいい!
愛しいひとのかわいい様子に悶絶していると、もじもじしていた彼女が突然俺に抱きついてきた!
「た、竹さん!?」
どうした!? ここで抱きつくとか、理性崩壊しそうなんだけど!?
驚きながらも抱き止めると、かわいいひとは俺の首筋にぐりぐりと顔をすりつけた
「……トモさんも、いいニオイ」
ちいさな声を耳が拾う。
「トモさんのニオイ――好き。
汗の、ニオイ、も」
「―――すき」
―――!!!
ぐわあぁぁぁぁぁぁ!!
あまりのかわいさと愛おしさにナニカがプチンと切れた!
ああもう好き! 好きが過ぎる!
そんなに俺のこと好きなの!? 俺も大好きだ!
汗のニオイをいい匂いと感じる異性とは遺伝子レベルで相性がいいとか聞いたことがあるぞつまり俺と彼女は遺伝子レベルで相性がいいということださすが『半身』いや『半身』関係なく相性がいいということだろう!
そんなどうでもいいことが一気に頭を駆け巡る。
愛しいひとの告白にたまらずぎゅうっと抱き締める。スハスハと彼女の香りを堪能する。ああ。脳が溶ける。好き。好き。
全身抱き込みすべての感覚で彼女を満喫していた、そのとき。
ちゅ。
首筋に、なにかが触れた。
ちゅ。
―――キス、して、くれた―――
――――――!!!
ぷちん。
邪念を抑えていたナニカが、切れた。
これは許可が出たということじゃないかいや駄目だこれ以上進んだらあの亀に殺されるいやもう亀じゃなかったオッサンだったどちらにしても殺されるでもこれお誘いだろうもう『呪い』も解けたんだし最後までイヤ待てまだやることが時間停止かけたら関係な、い―――?
―――時間停止?
暴走していた思考が一時停止した。
ついでに邪念も一時停止した。
「―――ねぇ竹さん……」
「んー?」
ちゅ、ちゅ、と俺にキスしてくれる愛しいひとの頬にキスを落とす。うれしそうに微笑む彼女がかわいくて唇もついばむ。
「ちょっと、確認、なんだけど」
「んー?」
どこか恍惚とした表情でしあわせそうにする彼女。そんなに俺のこと好きなの。俺のキスでそんなに気持ち良くなってるの。しあわせ。俺、愛されてる。
「時間停止って、かけた?」
ぽやんとしていた彼女が、じわりじわりと表情を変えていった。とろけて細められていた目がだんだんと開いていく。赤く染まっていた頬から色が抜ける。あ。これは。
ようやく理解が脳に届いたらしい妻がパカリと口を開けた。そしてザッと血の気が引いた!
「ご、ごめ、わた」
オロオロオタオタとうろたえるから「大丈夫大丈夫」となだめる。
「まだそんなに時間経ってないから。大丈夫」
「でも、でも、」
「ゴメン。いつも黒陽が結界展開してたから、俺もうっかりしてた。ゴメン」
黒陽と三人でご挨拶行脚していた時、休憩するときには必ず時間停止の結界を展開していた。それは誰が展開していたかというと、毎回黒陽が展開していた。優秀な守り役は俺がなにも言わなくても適切に結界を展開してくれていた。そのせいで自分で時間停止かけることも彼女に時間停止を指示することも頭から抜けてたな。失敗した。
『半身』に『受け入れ』られたらポンコツが落ち着くと昔聞いたが、確かに昔ほどのポンコツ具合ではないが、彼女といると彼女のことしか考えられなくなってしまう傾向にあると自覚はしている。
もっとしっかりしなくてはならないのに。うっかりな妻をフォローし支えられる、頼りになる夫で在りたいのに。俺もまだまだだなぁ。
「貴女のことが好きすぎて、俺もうっかりしてた。ゴメン」
もう一度、愛しい妻の頬をよしよしと撫でながら謝罪する。彼女は俺の手に自分の手を重ね、瞼を閉じて甘えるように俺の手に頬ずりした。かわいい。
愛しい妻の額にキスを落とす。鼻先にも、唇にも。
そうやっていつくしんでいるうちに彼女も落ち着いたようだ。
そっと瞼を開き、たずねてきた。
「今からでも時間停止、かける?」
「そうだね……いや、ちょっと待って」
『お願い』といいかけてふと思いついた。風呂、使えないか?
俺達がこの離れの風呂を使わせてもらったのは『現実世界』の時間で一、二時間前だ。
あれからバタバタと突入準備に入ったから、まだ湯が残ってるかもしれない。それとも離れ専属の式神達がもう片付けたかな?
「ちょっと風呂入れないか聞いてみよう」
聞くならヒロか? アキさんかな?
スマホを取り出し、とりあえずヒロにメッセージを送る。
「浄化すれば」という妻の言葉をさえぎり「風呂入ったほうが疲れが取れるんじゃない?」と話していたらヒロから電話がかかってきた。回線をつなぎスピーカーモードにする。
『もしもし?』
「ああヒロ。悪い。今いいか?」
『いいよ。――もう済んだの?』
ああ。時間停止かけてしっかり寝て起きた報告だと思われてる。妻もそのことが理解できたらしい。ソワソワと落ち着かなくなった。
「――いや。ちょっと時間停止かけずに話し込んでしまって……」
『はあ!?』
今の『はあ!?』は西の姫だな。『時間停止かけろって言っただろう』『ナニ時間無駄にしてんだ』てとこか。スミマセン。
気の弱い妻がガクガクと震え出したのを片手で抱き締め片手でよしよしと背中を撫でてやる。
床に置いたスマホに向かってしゃべる。
「それより、今、風呂使えないか?」
『お風呂?』
『お『風呂!!』』
ヒロの声にかぶせるように梅様と南の姫の叫びが響いた。
『お風呂! そうよ! お風呂入りたい!』
『もう四日入ってないもんな! 入りたい!!』
『浄化はしてたけど、やっぱり湯船にしっかりつかりたいのよ!』
『言われたらすぐ入りたくなった! 晴明! ここ、風呂あるか!?』
わあわあとスマホの向こうで騒ぐのが聞こえる。
結局俺の妻と梅様、南の姫、そしてひなさんが先に離れの風呂に入ることになった。
「ちゃんと時間停止かけなさいよ」
西の姫にきつく命令され、女性四人が風呂に向かった。
彼女が風呂に行っている間にこれまでなにをしていたかヒロから話を聞く。
俺とナツがザッとこれまでの話をしていたが、改めてハルと保護者達に報告をしていたと。ちょうどきりのいいところで俺から電話があったと。
「そっちは?」と聞かれ、ごにょごにょと答える。
「……その、『大変だったね』とか『よかったね』とか、話してただけで……」
「ふーん」と相槌を打つヒロは生ぬるい顔をしている。くそう! なにもかも見抜かれてる!
と、そこに風呂に行った四人が戻ってきた。早いな。五分も経ってないぞ? 指示どおりきっちり時間停止をかけたらしい。
どなたもさっぱりと気持ちよさそうにしている。
「じゃあ俺達も風呂行ってくるから」
「待っててね」と言うと、いつものパジャマに上着を羽織った妻が「うん」と微笑む。クソかわいい。
「行くぞ」と黒髪のオッサンにに引っ張られ、晃と青い髪の少年と四人で風呂に向かった。
脱衣所に全員入ったのを確認してすぐに黒髪のオッサンが時間停止の結界を展開した。
「まったく。お前ともあろう者が。気が抜けてるんじゃないのか?」
「スミマセン」
お小言に大人しく頭を下げる。
「まだ終わってないんだぞ?」
「わかってます」
説教される俺に晃も青い髪の少年も声を立てて笑っている。くそう。
「それにしても、まさか元の身体でお風呂入れる日が来るなんて」
感慨深いといった様子で少年が服を脱ぐ。ちなみに鎧は一瞬で消えた。アイテムボックスに納めたんだろう。
黒髪のオッサンも「まったくだな」と笑いながら鎧をアイテムボックスに納め服を脱ぐ。いい身体してんな。
「五千年経ってるんだろ? 筋肉落ちたりしてないか?」
「昔のままだな。おそらくは時間停止がかかっていたんだろう」
素っ裸で腕を曲げ伸ばししたり拳を作ったりして自分の身体を確認するオッサン。パッと見外傷とかはなさそうだ。
「動かしにくいとかないか?」
「今のところは感じないが、戦闘となるとどうだろうな。
何千年もこの身体での戦闘はしてこなかったからな」
そんな話をしながら風呂場の扉をくぐる。一足先に入った晃が青い髪の少年の髪を洗ってやっていた。「気持ちいい!」と少年は大喜びだ。
「黒陽。頭洗ってやるよ」
「面白そうだな。頼む」
案外ノリのいい亀改めオッサンは大人しく座り背を向ける。シャワーを頭からかけてやると楽しそうに笑っていた。
ふたりの守り役に風呂の使い方を教え背中を流し合い、四人で湯船につかった。「ふぃ〜」「ふうぅぅ」それぞれに声がもれる。
やっぱ風呂はいいな。疲れが湯に溶けていく気がする。浄化じゃこうはいかない。
「おつかれー」
「おつかれさまでした」
少年と晃ののんきなやりとりに黒髪のオッサンが目くじらを立てる。
「まだ終わってない。『災禍』を完全に滅するまで気を抜くな」
「はぁ〜い」と適当に答える少年にオッサンは「まったく」と言いつつもちいさく笑う。俺も晃と顔を見合わせ肩をすくめた。
そんな俺達に「トモ。晃」と呼びかけ、オッサンは生真面目に頭を下げた。
「『呪い』が解けたのも。姫が救われたのも。責務が果たせそうなのも。なにもかもふたりのおかげだ。改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」
「そんな」と手を振る晃に少年も「ありがとう」と頭を下げるものだから余計に晃がオロオロする。まったく。自分がどれだけすごいことを成したのかわかってないんだよなこいつは。
「――俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう晃」
ふたりにならって俺も頭を下げた。晃がさらに動揺を見せるが構わず言葉を重ねる。
「晃のおかげで竹さんが蘇生できた。『災禍』の真名を知り得て『呪い』が解けた。
感謝してもしきれない。ありがとう晃」
「そんな!」なんて悲鳴をあげる晃。そろそろ助け舟を出さないとマズいか?
そう思い、わざとバカな話をした。
「晃がひなさんと結婚するとき、ご祝儀はずむからな」
狙いどおり晃がいっぺんに機嫌をなおした。「そんなのいらないよ」と言いながらもデレデレする。
それからは今後の話をした。
守り役達の体調についての検証や今後どうするかについてなど『災禍』を滅し一連の後始末が終わってからになった。
「細かいことやスケジュールなんかはひなにまかせとけば大丈夫」「ひなはしっかりしてるから」
相変わらずひなさんへの信頼がすごいな晃。
だが守り役達まで「たしかに」「ひなの指示に従おう」と絶大な信頼を見せている。
すごいなひなさん。霊力量はそこそこだし属性特化も特にないように感じるのに。
いつだったかハルに言われたな。『「強さ」はひとつじゃない』。
ひなさんの『強さ』に俺達みんな救われたんだな。
俺も妻に信頼されるようにがんばらないとな。
「まずは『災禍』を完全に滅すること。
最後まで油断せず、成し遂げるぞ」
四人でそう話し合い、気合を入れて風呂を出た。
次回は来週11/7投稿予定です