第二百二話 ゲームクリア
優秀な守り役のお叱りにようやく気合を入れ直した。
ふと見ると姫達も守り役達も驚愕を浮かべて俺達を見つめていた。
なんだ?
なにをそんなに驚くことがある?
霊玉守護者の仲間達は呆れたような生ぬるい視線を俺に向けている。くそう。色々バレバレかよ。情けない。下手に言い訳すると墓穴を掘りそうだ。放っとこう。
姫達の視線は俺ではなく俺の腕の中の妻に向けられていた。
どうも妻の態度に驚いているらしい。
俺にベッタベタに甘える妻に。
「まさか竹様が……」
「さすがは『半身』……」
白露様や蒼真様がポツリとつぶやくのから察するに、俺の妻が誰かにこんなに甘えることはこれまで皆無だったのだろう。このひと生真面目な頑固者だからな。
つまり。
それだけ俺が『特別』ということ。
―――!!
ぐわあぁぁぁ! 嬉しい!!
ああもう! もう! 好きだ!!
「オイ」
「スミマセン」
すかさず優秀な守り役が絞めてくる。
腕の中の妻がそんな俺達にキョトンとした。
かわいい。
「気を抜くなと「スミマセン」
イカンイカン。妻の可愛らしさに頭のネジが飛んでしまう。守り役の言うとおり気を引き締めなくては。
深呼吸をして精神統一。
愛する妻とこれからもずっと一緒にいるために。今ここで気合を入れねば。
よし。気合入った。
「鬼は俺とナツと南の姫で殲滅します。皆さんはどうされますか?」
西の姫に質問する。信じられないものを見るかのような目を妻に向けていた西の姫がハッとして表情を変えた。
そのまま少し考え、梅様に顔を向けた。
「梅はどうする? 鬼との戦闘に参加する?」
梅様も召喚されたプレイヤーだからと声をかけたらしい。が、当の梅様は顔をしかめ「イヤよ」ときっぱりと言った。
「物理でしか攻撃できないんでしょ?
術も勾玉も使えないなら、私、できることないわ」
『異界』では高霊力を用いた術も技も使えない。その条件下では回復役の梅様には鬼と戦うチカラはないようだ。
「私は離れたところからのんびり見物させてもらうわ。――そうだ。蒼真、乗せてよ」
主の提案にちいさな青い龍がビョッと伸びる。嬉しそうな態度に梅様も笑顔になる。
「蒼真に乗って上から蘭達が戦うの見てるわ。危なくなったり必要になったら回復かけたげる」
離れた場所であれば物理戦闘力の少ない梅様でも安全だと。近くにいれば俺達に万が一があってもすぐにサポートできると。
高霊力を必要とする術や技が使えないだけで『バーチャルキョート』の技は使えるもんな。
梅様も南の姫も知らないが、おふたりとも俺達が事前にこっそりとシステムに介入して『バーチャルキョート』のレベルを上げた。
梅様のレベルは回復役としてはカンスト間近となっていた。おそらくはこの四日でカンストしたに違いない。
「蒼真に乗って、文字通り高みの見物させてもらうわ。いい? 蒼真」
主のお願いに守り役は「もちろんだよ!」と喜色を浮かべる。ここの主従も仲が良いんだな。
そんな東の主従に西の姫がつぶやいた。
「それ、いいわね」
なんのことかと思ったら「蒼真」と西の姫が声をかける。
目を向けた蒼真様に西の姫はにっこりと微笑んだ。
「私達も乗せて。来た時みたいに」
「はい」と快く了承した蒼真様に西の姫が満足そうに微笑む。
ぐるりと全員を見回し、南の姫のところで視線を止めた。
「鬼の殲滅は蘭と智白とナツで行いなさい。
他は全員蒼真に乗って、上から見物しましょ」
その提案にそれぞれが反応する。
「まかせろ!」と南の姫はやる気をみなぎらせる。ナツもうなずいた。守り役達も了承を示す。
が、腕の中の妻は物言いたげに眉を寄せた。『見物』という言葉が引っかかったみたいだ。
やはり俺が心配らしい。このひとマイナス思考の心配性だからな。
だからもう一度「大丈夫だよ」と笑いかけた。
妻は心配そうに眉を下げながらも弱々しく微笑み、うなずいた。
クソかわいい。
キスしようとしたが、それより早く妻がハッとして西の姫に顔を向けた。
「みんなが乗ったら蒼真、重いですよね」
「大丈夫だよー」と蒼真様は軽く請け負ってくれる。が、姫が三人にヒロ達三人、それに守り役三人となると確かにかなりの重量になる。大丈夫か?
そういえば『異界』にどうやって来たんだ? さっきの西の姫の口ぶりだと蒼真様に全員乗ってきたのか? なら大丈夫か?
そう思うのに、生真面目な妻は生真面目に言った。
「蒼真の負担になります。私、黒陽とどこかで待ってます」
遠慮しぃの妻らしい意見だ。が。
「来た時も全員乗せたでしょ? 大丈夫だよー」
蒼真様に言われキョトンとする妻。来た時のこと覚えてないのか?
「お前が突然消えて我を失ってたからな」
コソリと黒陽が教えてくれる。
え。我を失うほど心配してくれたのか?
そんなに俺のこと心配してくれたの!?
俺、愛されてる!!
ジインと妻の愛情を噛み締めていたら西の姫が妻をにらみつけてきた。
「蒼真が『大丈夫』って言ってるでしょうが。大丈夫よ」
「で、でも」
「でももクソもない。一緒に乗りなさい」
キツく命令され、気の弱い妻がオロオロする。
蒼真様を見、西の姫を見、手にした笛を握り締めて動揺する妻。ああもう。仕方のないひとだなあ。
そんな仕方のないひとに西の姫はため息をついた。
「別行動したらトラブル起きたときに面倒なのよ。大人しく一緒に行動しなさい」
「それに『界渡り』するときに全員一緒にいたほうが都合がいいでしょ」
納得しかない説明に妻は丸めこまれそうになっている。それでも『はい』と言わない妻に、西の姫はさらに言った。
「蒼真に乗って見物したら智白を近くから見られるわよ」
「イザというときには竹が守れるわよ」
その説明に、妻の顔つきが変わった。
黙ってなにか葛藤していたが、グッと上げた顔を蒼真様に向けた。
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
蒼真様の軽ーい答えに、ようやく妻は同行することを決めた。
「じゃあ、ご一緒させてもらいます」「蒼真、お願いします」と生真面目に頭を下げお願いする妻。
言われた蒼真様は「いいよ!」と快諾してくれた。
やれやれ。生真面目で遠慮しぃのひとがいると大変だ。
こっそりとそう考えていたら、その生真面目で遠慮しぃのひとがじっと俺を見つめてきた。
「トモさんがあぶなくなったら私が守るからね」
必死にすがるようにそんなこと言ってくれるなんて! クソかわいい! 俺、愛されてる! ああ! 好き!
テンション爆上がりになるのをどうにか隠し「ウン」と答える。
「そのときはお願いね」
ちゅ。と頬にキスをする。
唇で一瞬触れただけなのに愛しい妻はびっくりしたように頬を押さえ赤くなった。
クッソかわいい。
「オイ」
「スミマセン」
すかさず優秀な守り役が絞めてくる。仕方ないだろ!? こんなにかわいいんだから!
「護衛失「スミマセン集中します」
あわてて気合を入れ直す。
腕の中の愛しいひとは俺達のやりとりに気付くことなくまた顔を隠してしまった。かわいい。
俺が妻にデレデレしている間に西の姫が話を進める。
「鬼の殲滅が完了したら『バーチャルキョート』の『ゲームクリア』になって、アンタ達プレイヤーは元いた場所に自動的に戻るでしょ?
それを見届けたら私達も来た『道』を通って『現実世界』に戻りましょう。頼むわね。蒼真」
「はい!」
「『界渡り』で『現実世界』に戻り、守り役達がヒトの姿になったら――『呪い』が解けたと確認できたら、またここに戻りましょう。
そのときはデジタルプラネットの六階の『扉』から移動しましょ。『オズ』、『承認』は問題ない?」
「問題ありません」
「『現実世界』に戻って『呪い』が解けたとわかったら、プレイヤーの状況確認をする必要がありますね」
「そうね。一番にそれをしとかないと後々面倒なことになるわね」
「戻ったプレイヤーの記憶調整やらなんやら、やらないといけないことがたくさんあるわね」
ため息雑じりにボヤいた西の姫が「ヒロ。晃。頼むわよ」と命じている。
そんな周囲のやりとりに、ふと気がついた。
「その間こいつらはどうするんですか?」
俺は鬼の殲滅に行くメンバーだけがここを離れ、殲滅後『現実世界』に戻ると思っていた。妻や守り役が俺の戦闘を見るのはここで式神などを使って見るつもりでいた。
それが蒼真様に乗ってすぐ上空から見ることになり、俺達の転移後すぐに『現実世界』に戻るというならば、再度『異界』に戻るまでの間こいつらを放置することになる。それはいいのか? またなんかやらかすんじゃないのか?
俺の質問に西の姫は少し考え、指示を出した。
「『オズ』」
「はい」
「アンタはそこの元宿主と一緒にここで、この部屋で待ってなさい」
「承知しました」
「ここで?」
この、『異界』のさらに『異界』で?
つい疑問よりも責める色合いが濃くなった俺の声に西の姫が説明する。
「下手に『異界』や『現実世界』に居させるよりも、隔離された『異界』に居たほうが影響が少ないでしょ」
「それは……確かに」
『異界』にいさせて余計な指示を出されても困る。
現実世界に一緒に連れて戻るとしてもさらにミッションを出されて妨害される可能性もある。
この『異界』である篠原家のどこかにパソコンがあるようなことをさっき話していた気がするが、それこそ動ける範囲を『この部屋』とさっき指定していた。パソコンの無い状態では新たなミッションの発令はできないだろう。
西の姫が念には念を入れ、重ねて命令する。
「私達が『界渡り』で『現実世界』に戻り、守り役達がヒトの姿になったら――『呪い』が解けたと確認できたら、もろもろ片付けてまたここに戻る。それまでアンタと元宿主はこのままこの部屋で待機していなさい」
「いいわね」と西の姫は『災禍』と保志に告げた。
『災禍』は素直に「はい」と答えたが保志はぶすぅっとした顔をして黙っている。
そんな保志に晃が「カナタさん」と声をかけた。
「タカさんを連れてくるから。それまでここで待ってて。ちょっと休んでて」
にっこりと微笑む晃に保志はふてくされたような顔ではあるがうなずいた。
そんなジジイに晃はにこにことうれしそうにし、西の姫は「フン」とばかりにため息を落とした。
「梅。蘭。『現実世界』に戻ったらすぐに晴明のところに行きなさい。場所はわかるわね?」
西の姫の指示に「多分大丈夫」とおふたりとも軽く応えた。
おふたりとも過去に何度もハルとやりとりをしてきたらしい。西の姫が時々式神を寄越していたのと同じことがおふたりともできるという。
ハルと連絡を取り位置情報を入手できれば、あとはいつも妻や黒陽がやっている転移でハルのところに行けるようだ。
安倍家の周囲はハルの結界があるが、姫達も守り役達もハルの承認を受けているのでハルの結界はどんなレベルのものでもフリーパスで通過できると説明される。
それなら今生一度も行ったことのないあの離れにも問題なく行けるだろう。安心だ。
「鬼の討伐を見届けたら私達は蒼真の『界渡り』で神泉苑から『現実世界』に戻る。晴明のところで合流しましょう」
西の姫の指示に「おっけー」と軽く答えるおふたり。
気楽すぎないか? これから鬼と戦うんだぞ? 余裕だな。
「蘭様が本気で戦えば、高レベルの鬼でも問題ない」
俺の思考を読んだらしい頭上の守り役が説明してくれる。
本拠地に来た直後に姫達と守り役達で情報交換が行われた。俺は寝ていたから知らない。俺が寝ている間に目覚めた妻とその護衛をしていた黒陽は途中からその話し合いに参加した。
それによると、南の姫はこの四日、霊力も戦闘力も抑えて戦っていたという。
梅様も南の姫も『異界』に召喚された直後に現れた保志が手にしていた水晶玉を目にした途端、それが『災禍』だとわかった。
その衝撃で覚醒したおふたり。
覚醒し前世の記憶が戻ったからこそ『安倍家が本拠地を用意している』というアナウンスを「都合が良すぎる」「そもそもどうやって『異界』に『本拠地』を準備できるのか」「罠じゃないか」と疑った。
それもそうだな。
これまでの五千年、何度も『災禍』に煮え湯を飲まされたいたら警戒して当然だな。
新風館が鬼に襲われ、多くの怪我人が出た。
その怪我人を放っておけず手助けしていたときにおふたりは合流。そのままコンビニに本拠地を設営し周囲をまとめ上げ四日を過ごした。
その間何度も戦闘に出なくてはならない場面があった。
高霊力の術や技が使えないことは最初にすぐにわかった。『バーチャルキョート』で使われているものならば使えることもすぐにわかった。
戦闘経験豊富でセンスもある南の姫はすぐに順応して充分に戦えるようになった。
そんな南の姫に梅様が制限をかけた。
「蒼真も緋炎もいないのはおかしい」
「私達の存在が『災禍』にバレるのはマズい」
「事情がわかるまで、なるべく抑えて戦え」
その意見に納得した南の姫は、できるだけ霊力を抑え、高間原からずっと愛用している『降魔の剣』を敢えて使わず、『バーチャルキョート』で使われている範囲だけで戦った。
それでも中ボスレベルを撃退できる強さだった。
そんな南の姫が制限を解除し、心の赴くまま暴れたい放題暴れたら「すぐに殲滅できるだろう」と黒陽が断言する。
おそらくはこれまでどおり高霊力は使えないだろうが、戦闘センスの塊である南の姫ならば「関係ない」と。
つまり、アレか?
俺が妻にカッコいいところを見せたいならば、南の姫よりも早く鬼を倒さないといけないのか?
油断してたらあの細っこいにーちやんにしか見えないひとに全部かっさらわれるのか?
「蘭様ならばおひとりで十分殲滅できる」
「だからこそ名乗りを上げられたのだ」
黒陽の説明に俺だけでなく霊玉守護者全員が唖然とした。
当の南の姫は「まかせろ!」と得意げにしている。
………ヤバい。
必死でやらないと、いいところ全部このひとにかっさらわれる。
俺のナカの『紫吹』が焦っているのがわかる。『負けるもんか!』『今度こそ自分が活躍する!』とやる気をみなぎらせている。
そうだな。相棒。
俺達もいいところ見せないとな。
「負けませんよ」
南の姫に向け、わざとニヤリと笑いかけた俺に南の姫は楽しそうに笑った。
そうして『災禍』と保志をその場に残し、来た時と同じように全員が繋がって『扉』をくぐった。
元の角部屋に戻りガラス張りの壁から外を見ると周囲を鬼に囲まれていた。
『災禍』が展開している結界に阻まれているようで、侵入しようとなにもない空間を叩いているのが見えた。
俺達が突入するときに佑輝が結界を斬ったが、おそらく自動修復されたな。
『災禍』が『異界』にいたならば俺達の侵入にも結界を斬られたことも気付いていなかっただろう。それなのに鬼が侵入できていないということは、あの結界に自動修復機能がついていたに違いない。あのなんでもアリなヤツならそのくらい簡単だろう。
「おー。いるいる」と南の姫は楽しそうだ。
「じゃ、ま。早速やるか!」
そう言うが早いか南の姫はパンと両手を打ち合わせた。そのままズワリと両手を広げると、掌と掌の間に炎が生まれた。
一本の筋のようだった炎はやがて一振りの刀になった。
炎を凝縮させたような、浅い緋色を帯びた刀身。
赤い柄をグッと握り、南の姫はニッと笑った。
「行くぞ。『浅緋』」
刀が嬉しそうに呼応する。
南の姫が見事な刀さばきでガラス張りの壁に一閃した。
たったそれだけでガラス張りの壁は砕け散った!
「先行くぞ!」
言うが早いか南の姫はバッと外に飛び出した! すぐに緋炎様が後を追う!
『災禍』の結界も斬った!? マジか!? 佑輝の『絶対切断』並の一撃なんて俺でも無理だぞ!?
トンデモナイことをしでかした男にしか見えない姫は『バーチャルキョート』の剣士の装備で鬼の集団に突っ込んで行った。中空で剣士最強技を仕掛けたらしい。ずっと下でエフェクトが光り、鬼がひしめき合っていた一角に穴ができた。
「さ。私達は見物しましょ」
のんきな西の姫の言葉にようやくやるべきことを思い出した。急がないと南の姫が全部もっていってしまう!
ずっと抱いていた愛しい妻をそっと下ろす。
俺の目の前に立つ妻は心配そうな目をじっと俺に向けている。
俺の胸にすがってくれるのかわいい。
「行ってくるね」
そう言っても彼女は何も言わない。俺のことが心配で心配で声も出ないらしい。俺、愛されてる!
「見ててね」
コツンと額を合わせる。
「またあとでね」
ニヤリと笑うと、ようやく妻のこわばりがゆるんだ。
ぎこちないながらも微笑みを浮かべ「うん」とうなずく妻。かわいすぎる。愛おしすぎる。俺の妻、天使。
「早くしないと蘭様が全部倒すぞ」
守り役の声にハッとする。そうだ。急がねば。
見るといつの間にか蒼真様がでっかくなっていた。
その背に俺達とナツを除いた全員がすでに乗っていた。
あわてて妻を抱き上げ、蒼真様の背に乗せる。梅様と西の姫の間。黒陽は妻の肩に乗った。白露様は子猫になって西の姫の肩にいた。
「気をつけてね」
心配そうな妻に「うん」と返す。
「行ってくるね」
愛しい妻は今度は「うん」と返してくれた。
「じゃ。行くよー」
全員を乗せた蒼真様がのんきな掛け声とともにふよりと浮き上がった。どんくさい妻が落っこちそうになったがあわてて前の梅様にしがみつき事無きを得た。
妻が心配でハラハラする俺の前で大きな青い龍が何人も乗せて外に出る。どうやら大丈夫そうだ。
ホッとして、意識を切り替える。
「―――よし。頼むぞ。『紫吹』」
『まかせろ!』
パン。
左の手のひらに拳にした右手を合わせる。
そのまま広げると、見事な刀が出現した。
『降魔の剣』『紫吹』。
しっかりと柄を握りナツに目を向けると、ナツも『バーチャルキョート』の装備品である刀を握っていた。
「行こ」
にっこりと笑って拳を突き出してくるナツに拳を合わせる。
佑輝が「いいなぁ…」とつぶやいていたが無視しておいた。
南の姫を追うように俺とナツも壊れた壁から飛び降りた。
着地前に『紫吹』を一閃。すると俺が想定していた以上の鬼を一撃で倒せた。
どうも『紫吹』が俺の能力を底上げしてくれているらしい。『紫吹』自身のチカラもありそうだ。
なんにしても、おもしろいくらい簡単に鬼を倒すことができる。数が多いのも気にならないくらいサクサクと倒せる。
「すごいな『紫吹』!」
思わず叫ぶと手の中の『紫吹』が誇らしげなのが伝わってきた。
時々中ボスレベルの鬼もいたが昔のように苦戦することはなかった。
あっという間にビルの周囲にいた鬼の殲滅が完了した。
風を使って全体を確認。まだ残ってるな。
鬼のいる場所を南の姫とナツに伝え、三人で駆ける。遭遇した鬼は早い者勝ちで倒していく。すぐに京都市内中心部まで戻った。
市内中心部を囲む塀を飛び越え、中へ。
残してきた連中が鬼と戦っていた。
かなり苦戦していたが俺と南の姫が左右に散り、競って倒していった。ナツが戦っていた連中のフォローをしたり指示を出したりしてくれていたので俺は戦闘に集中できた。
俺達が戦っている間、大きな龍が常に頭上にいた。
愛しい妻がずっと観てくれているのが伝わって、かなり張り切ってしまった。
最後の一体を南の姫が仕留めた。
途端。
パララパッパラー
スマホから間抜けな音が響いた。
「『ミッション』『出現した鬼を倒せ』」
「すべての鬼が倒されたことを確認しました」
「今回討伐数第一位――嵐」
「ああクソ。負けたか」
ついそうこぼしてしまった。
南の姫は「へっへーん」とドヤ顔だ。
あれだけ戦ったのに息も乱していない。俺とナツは息が荒いのに。俺もまだまだということか。
俺達の邪魔をしないように控えていた連中が「わあぁぁぁ!」と叫びながら出てきた。
「トモざあぁぁぁん!」安倍家の浅野さんが泣きながら抱きつこうとするのをヒラリとかわす。
「なんで避けるんですか!?」
「妻以外に抱きつかれる趣味はない」
「ひどい!」
ナツは他の実働部隊や一般人チームの連中と抱き合いもみくちゃにされている。南の姫も俺の知らない連中に囲まれてかわるがわるハグしている。
「これにてすべての『ミッション』が完了しました」
「これをもちまして『バーチャルキョート』ゲームクリアを宣言します」
どわあぁぁぁぁ!
歓声が波になり周囲を包んだ。
誰もが喜びに涙している。この四日、大変だったもんな。
「このまま死ぬまで『異界』から出られないんじゃないか」なんて声も聞こえてた。
「いつまで戦えばいいのか」なんて弱音も聞こえてた。
それが開放され、誰もが歓喜で叫んでいた。
と。
目の前の人間の周囲にぽわぽわした光が浮かんだ。
見ると全員に光が灯っている。
光は俺にも南の姫にも灯っていた。見上げると頭上の龍の上にも同じような光がある。
光に完全に包まれた人間がシュンと姿を消した。
ひとりまたひとりと光に包まれて姿を消す。
ああ。『現実世界』に戻ったんだな。
そう考えたと同時に俺も光に包まれた。
次回は10月17日投稿予定です