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第百九十四話 尋問10 『異界』にいる人間について

災禍(さいか)』と保志はこれまでに様々な実験をしてきたという。


 約三十年前、『災禍(さいか)』の『宿主』となった保志。その『願い』を叶えるためにゲームを作り霊力を集めた。

 祖父を陥れた人間を鬼に喰われる幻術で苦しめぬいて殺した。祖父の仇をすべて討ち果たした。霊力が集まった。『異界』を作り徐々に広げていった。通信環境、住環境と整えていった。


 その『異界』に一人暮らしのフリーのエンジニアを連れて行った。「社内の人間にはナイショの極秘実験に協力してほしい」と要請して。

 連れて行ったエンジニアを使って様々な実験をした。衣食住について。通信環境について。改善していくにつれ『異界』は『現実世界』にどんどん近づいていった。

 その『異界』に鬼を招くことができるようになり、鬼の滞在環境を調査実験した。


 そうやって招いた鬼に連れてきたエンジニアが遭遇することがあった。

 ほとんどは鬼につかまって喰われた。が、運よく逃げ切った者がいる。逃げ切ったエンジニアが隠れているのがコンビニだという。

『異界』運用初期からコンビニはセーフティゾーンとなっていたようだ。

 

 エンジニア以外にも『現実世界』と『異界』を行き来する実験や『現実世界』の人間を『異界』に連れてくる実験で一般市民を連れて来ている。

 ただいつものように道を歩いていたら突然鬼が現れ、連れて来られた一般市民はパニックになり逃げ惑った。やはりほとんどは鬼に喰われた。

 運よく逃げおおせた人間はわけもわからずコンビニに逃げ込み、そのまま身を潜めているという。


 幸いコンビニに食料はある。トイレもコンビニのものが使える。充電もできる。

 家に戻ることは鬼に遭遇する可能性を考えるとできない。エンジニアは転移陣で行き来していたが、その転移陣は家のパソコンにあるから『現実世界』に戻ることはできない。携帯端末で警察や消防に助けを求めてもいたずら電話と処理される。家族や友達など携帯端末に登録されている番号とは連絡がつかないように『災禍(さいか)』が設定したために電話をかけてもメッセージを送ってもつながらない。


 そうして誰にも助けてもらえず、鬼に襲われる恐怖を抱えたまま何年もコンビニで暮らしている人間がこの『異界』に八人いるという。


 市内中心部のあの塀の中にいたのだったら俺達も気付いただろうが、八人とも塀の外のコンビニにいるらしい。『災禍(さいか)』の説明に西の姫が具体的な場所を言わせた。すぐにヒロと緋炎様が式神を向かわせ、間違いなくそこに人間がいることを確認した。


「その八人も『ゲームクリア』と同時に『現実世界』に戻すことはできる?」

 西の姫の確認に「可能です」といとも簡単に『災禍(さいか)』が応える。


「その場合、今いるコンビニに現れるということですか? それはマズくないですか?」

 俺の指摘に「それもそうね」とうなずいた西の姫。


 思案する様子を見せていた西の姫は鏡を取り出し手をかざした。

「……いきなり戻すのは危険ね……。ケアが必要だわ」


 どうやらコンビニにいるという人間の様子を探ったらしい。

 そりゃそうだろうな。なんの予備知識もない、訓練もしていない人間がいきなり鬼に遭遇して、命からがら逃げだして、誰からも助けてもらえず何年もコンビニにひとりぼっちなんて、普通に考えただけでも気が狂う。


 おとがいに指をあてて少し思案し、西の姫は顔を上げ、ヒロに声をかけた。

「安倍家にまかせられない?」

「お引き受けします」

 ヒロは迷う事なく即答した。

 その反応に西の姫は満足そうにうなずいた。


 すぐに『災禍(さいか)』に向け西の姫が指示をとばす。


「じゃあ『今回のバージョンアップより前からコンビニにいる八人』は『ゲームクリア』と同時に全員同じ場所に転移させるようにしなさい」

「了解しました」


 やはりあっさりと受け入れる『災禍(さいか)』。保志はなんか騒いでジタバタしようとしているが完全無視されている。


「どこに転移させますか?」

災禍(さいか)』の質問に西の姫は黙ってヒロに目を向けた。

 西の姫に視線を向けられたヒロがアイテムボックスから地図を出し「ここがいいと思います」と指を差す。西の姫は「じゃあここで」と雑な指示を『災禍(さいか)』に出した。


 そんな雑な指示でも問題ないらしい。『災禍(さいか)』は目を伏せ、少しして「設定完了しました」と報告してきた。



 これまでに転移させられた人間の全部が喰われたりコンビニに逃げ込んだのかと思ったが、西の姫が『災禍(さいか)』に詳しい説明をさせたところによると、どうもそれだけではないらしい。

 連れて来た一般市民の一部は『現実世界』そのままの『異界』に転移させられたことに気付かずそこが『異界』であることに気付かず自分の家に戻り日常を過ごして寝た。

 そんな人間は眠ったままあの『霊力水』に沈めたという。


 俺がチラッと見ただけでもかなりの人骨があった。一体何人沈めたのかと思ったが、具体的な数字を西の姫は求めなかった。

 ただヒロを呼びよせ、なんかコソコソ打ち合わせをした。さらには晃を呼びよせ三人でコソコソする。その間『災禍(さいか)』は大人しくじっと立って待機していた。簀巻きの保志はそんな三人をいぶかしげににらみつけていた。



「『オズ』」

 話し合いを終えた三人が円陣を解き、西の姫が再び『災禍(さいか)』に命じた。

「アンタ達がこの『異界』を作ってから現在までに『異界(ここ)』に連れて来た人間の情報をすべてこの男に『視』せなさい」


 ああ。なるほど。晃の『記憶再生』で『災禍(さいか)』の記憶を『視て』、あとでヒロに『視』せてヒロの『絶対記憶』で覚えさせるんだな。それで行方不明者リストと照合させるんだな。

 それなら確かに確実で、そして今のこの話し合いの時間を奪われなくて済むな。

 ていうか、晃とヒロが大活躍だな。


 そんなことを考えている間に晃は『災禍(さいか)』の手を取り、目を閉じた。

 一呼吸ののちに瞼を開けた晃は明らかに疲弊していた。

災禍(さいか)』の手を離し、西の姫に向けて青い顔でうなずいた。

 そんな晃に西の姫は満足そうにうなずきを返した。

 すぐにナツが晃のそばに寄り、ペットボトルを差し出した。

 受け取った晃がぐびぐびと飲んでいるのを構わず西の姫は『災禍(さいか)』に向け話しかけた。



「今回のバージョンアップで連れて来たプレイヤーが二百人。私達蒼真の『界渡り』で来たのが六人。『災禍(アンタ)』と保志。四階にいるエンジニアが七人。実験で連れて来て各地のコンビニに隠れてるのが八人。それと鬼が五十九体。

 今この『異界』にいる生命体はこれですべて?」


 西の姫の確認に「そのとおりです」と『災禍(さいか)』は首肯する。


「この『異界』から『現実世界』に戻る方法だけど」


 西の姫の言葉に「はい」と応える『災禍(さいか)』。


「鬼は全部討伐するから関係ないとして」


 簡単に言ってくれるなオイ。

 その討伐をするのは俺達だぞ?


「アンタと保志はデジタルプラネット六階に設置した『扉』で戻る。

 二百人のプレイヤーと四階にいる七人のエンジニア、それとコンビニにいる八人は『ゲームクリア』と同時に転移陣を発動させてそれぞれ指定の場所に転移させる。

 私達は蒼真の『界渡り』で戻る。

 これで合ってる?」


 西の姫の確認に「合っています」と答える『災禍(さいか)』。

 その答えに西の姫はうなずき、おとがいに指をあてた。


「確認すべき、指示すべきは大体したかしら? 他になにかある?」


 問われ全員が考えを巡らせる。南の姫に椅子にされている保志だけが「ムー! ムムー!」と文句を言っているが全員無視している。


「そういえば」ヒロのつぶやきに「なに?」と西の姫が先をうながす。


「四階のエンジニアのひとたちが『元いた場所』って、どこですか?」


 ヒロの質問に西の姫は『災禍(さいか)』に向け「どこ?」とたずねる。

「三名は自宅、二名は公園、二名はデジタルプラネットビルのトイレです」


 その答えにヒロはなにかを思い出すように視線をさまよわせていた。が、すぐに西の姫に進言した。


「エンジニアがいつから『異界(ここ)』にいるのか、まだ晃の『視た』ものを確認していないのでわかりませんが、自宅はすでに別の住人がいる可能性があります」


 その指摘に「確かにね」と西の姫もうなずく。


「四階にいる七名もまとめて安倍家に転移させてはどうでしょうか」

「そうしましょう。 ――さっきのコンビニにいる八人と同じ場所でいいかしら?」

「いえ。別がいいと思います。コンビニのひと達はケアが必要でしょうから……」


 ヒロはそう言い再び地図を出す。

「ここの二階だったら今は無人のはずです。ここでどうですか?」

 ヒロが細かく指定し、西の姫が改めて『災禍(さいか)』に命じた。

 そうしてコンビニにいた八人はいつもの安倍家の離れの武道場へ、四階にいたエンジニア七人は離れの二階の四人部屋に転移させることになった。



「転移についてはそれでいいけど、いきなりなんの説明もなしに人間を送り込んだら晴明に怒られないかしら?」


 西の姫がちっとも困っていない様子でつぶやいた。そんな西の姫にヒロが苦笑する。


「『ぼくがここを指定した』と言ってくださったら菊様は怒られませんよ」


「あらそう?」と軽く応える西の姫。

 そもそもハルが姫達を叱ることはないだろうに。せいぜい頭を抱えるか俺達に八つ当たりするかだろう。


「晴明に怒られるのも心配だけど、いきなり転移させられたひとたちが暴れだしたり騒ぎ出したりしないか心配よね」

「それは………そうですねえ………」


 そんな話をしている西の姫とヒロを見つめていた愛しい妻がハッとしたのがわかった。続いて何か言いたげにしているのも。


「? どうかした? 竹さん」


 そっと声をかけるともじもじとする。かわいい。

 そんな(あるじ)に守り役が「ああ、確かに」とうなずいた。


「? なに?」

 肩の守り役に問いかける。と、うっかり亀はぺろりと答えた。


「その七名と八名は現在どこにいるかわかっているのだろう?

 式神に術を付与してそれぞれにつけておいたらどうだ?」


「術? 付与?」


 抱いている妻がコクコクとうなずいている。どうやら彼女の案らしい。優秀な守り役が彼女の思考を読んで教えてくれているようだ。


「付与するのは『時間停止』か『強制睡眠』。

 発動条件を『転移陣発動時』としておく。

 そうすれば『現実世界』に転移したときには対象者の意識はない状態だ。騒ぐことも暴れることもないと思うぞ」


 至って簡単なことのように言うが。

「そんな式神、誰が作れるんだよ」

 そうツッコんだら愛しい妻がぴょっと背筋を伸ばした。


「あの、私、作れます!」

「私も作れるぞ」


 なんでそんな簡単に『作れる』とか言えるんだ。この非常識人どもめ。


 俺達のやりとりに他の面々も注目してきた。

 そんな全員に向け黒陽が説明する。


「時間の止まった状態または眠った状態で転移させておいて、解呪は我々が『現実世界』に戻って晴明に説明して、落ち着いてからすればいいだろう」


「そうすれば晴明に怒られることはないのではないですか?」と言われ、西の姫は喜んだ。


「すぐに作れる?」

「はい!」


 ぴょこんと俺の腕から飛び降りた妻に続き肩の守り役もぴょんと飛び降りる。

 そうしてふたりで地べたに座りこみあーだこーだと話を始めてしまった。


 こうなるとこのふたりは完成するまで動かない。仕方ない。見守ろう。

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