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第百九十二話 尋問8  新たなミッションについて

 保志のたくらみのほぼすべてを『災禍(さいか)』はペラペラとしゃべった。

 バラされた保志は南の姫に取り押さえられた状態で俺達を憎々しげににらみつけている。


 そんな視線に気付いているだろうに完全無視を決め込み西の姫はさらに『災禍(さいか)』に問いかけた。


「アンタが京都中に張り巡らせた陣を破棄することはできる?」

「可能です」

「この『異界』と『異界に張り巡らせた陣』も破棄できる?」

「可能です」


 その答えに保志は「ムー!!」と血相を変え暴れ、西の姫は満足そうにうなずいた。


「その陣を破棄したあとはどうなるの? 今貯めているエネルギーはどうなるの?」


 確かに。

 あれだけの術を構成するエネルギーとなると相当量になるはずだ。

 それが破棄されて自然に消滅するのならいいが、どこかに影響を与えるという可能性がないわけはないだろう。


 そう思ったが『災禍(さいか)』はあっさり「問題ありません」と答えた。


「これまでの京都に不足していたエネルギーを補充する形になると考えます」

「神仏にも『主』にも土地にも十分に運用エネルギーが行き渡ると思われます」


 その答えに西の姫はニンマリと笑みを浮かべた。


「それなら、アンタが『大いなる存在』の影響があると考えていた問題は解決するわね」


 余裕たっぷりの西の姫に『災禍(さいか)』のほうが「そうでしょうか」なんてたずねている。

「フフン」と偉そうに笑い、西の姫は説明を始めた。


「京都を囲む結界内に『現実世界』と『異界』に巡らせた陣に使っていた、または使う予定だったエネルギーが充満する。それはこれまで不足していたエネルギーを補充できるということよね」


 西の姫の確認に「そのように推測されます」と『災禍(さいか)』が答える。

 うなずいた西の姫は続ける。


「今回の件で京都中の結界は竹が点検して補強した。『悪しきモノ』でもなんでも、私達がいれば討伐も封印も思うがまま。

 アンタが考えていた『大いなる存在』の狙いであろう『京都消滅』なんてしなくても、京都は理想的な状態にできるでしょうよ」


 西の姫の説明に『災禍(さいか)』も納得の色を見せた。「その予測は正しいと判断します」なんて言っている。


「あとは………そうねぇ」

 つぶやきながら考える様子を見せる西の姫。腕を組み指ををおとがいに当てた。



 記憶を『視て』わかっていることでも質問するのには理由がある。


 ひとつは、本人の口から説明させるため。

 無意識下で覚えていることを覚醒時に忘れていたり、無意識下で考えていることと覚醒時の考えが違うことは多々あるという。

 その確認のため、そして本人の口から話させることで後で『なんで知ってるんだ』と言われないようにするために本人の口から説明させることは重要なのだそうだ。


 もうひとつは、『視えなかった』情報を得るため。

 精神系能力者だったばーさんによると、無意識下での『記憶』はこちらの知りたい情報がすべて『視える』わけではないという。

 膨大な情報が流れる中から『視る』のはなかなか大変らしい。

 メシを食うとかテレビを見るといった日常的なことや本人が重要視していないことは『視えない』ことが多い。

 こちらの知りたい情報がそんな情報にまぎれていることもあるらしい。

 会話を重ねることで誘導し、知りたい情報を引き出したり、思いもよらない情報や考えを引き出すこともあるという。


 ここまでの会話で西の姫が事前にわかっていることでも質問し確認してきたのはこれらの理由から。

 そして西の姫は『まだ会話が必要』と判断しているらしい。新たな話の切り口を探しているように見えた。



 その西の姫がなにか思いついたらしい。パッと顔を上げ『災禍(さいか)』を見つめた。


「アンタ達はどうやってこの『異界』に出入りしてるの? 転移陣?」

 西の姫の質問に「いいえ」と『災禍(さいか)』はあっさり答える。


「『現実世界』と『異界』を行き来するための『扉』を設置しています。そこから出入りしています」

「『現実世界』の『扉』はどこにあるの?」

「デジタルプラネット本社ビル六階、社長室の壁です」

「『異界』の『扉』は?」

「以前は同じ場所に設置していましたが破壊されたので、現在はデジタルプラネット本社ビル六階、保志叶多の寝室の壁に設置しています」


 質問にぽんぽん答えていく『災禍(さいか)』。

 佑輝のあの一撃はやはり『扉』を壊していたらしい。そして俺が保志の寝室で感じた『扉』が新たに設置した『現実世界』への『扉』。

 あのままあの『扉』に突入していたらここには来られなかったな。危ないところだった。


「この場所は何なの? ここも『異界』でしょ?」

 その質問にも『災禍(さいか)』はあっさりと答える。


「ここは保志叶多のプライベートスペースでありリラクゼーションスペースです」

「かつて保志叶多が暮らしていた篠原家を再現しました」


「なんでここにいたのよ」


 俺達の突入に気付いてここに逃げ込んだのだと俺は思っていたのだが、違うのか?

 内心の驚きは隠し『災禍(さいか)』に目を向ける。

災禍(さいか)』はやはりあっさりと答えた。


「『バーチャルキョート(あちら)』の社長室が破壊され、同時にパソコンも破壊されました。四階のパソコンも使用不可能な状態でした。新たなミッションを発令するためこの『異界』のパソコンを使用する必要がありました」


 なるほどな。

 というか、『異界』のなかの『異界』からでもパソコン使えるんだな。どんな環境だよ。


「その『ミッション』は何?」

「『出現する鬼をすべて倒せ』です」」

「そのために鬼を多数呼び寄せました」


 ミッション? そんなもん出てたか?

 確認しようとスマホを取り出すために愛しい妻をお姫様抱っこから片腕での縦抱っこに抱きかえる。

 片手でスマホを取り出し操作。『バーチャルキョート』を起動させると、なるほど。『災禍(さいか)』の言う通りの新たなミッションが発令されていた。

 坂本さん達は式神で門を見張っていたのだろう。それでミッション発令前に連絡してくれ、すぐさま突入になったから俺達はミッション発令に気付かなかったようだ。


 ナツも梅様も南の姫もスマホを見ながら「ホントだ」「いつの間に」とつぶやいている。

 つまり、プレイヤーとして連れて来られた人間にはミッションが届いているということ。

 数体は討伐できているらしい。ランキングも載っている。


 ヒロが同じようにスマホを取り出し操作し、俺達に見せてくれた。そこには通常の『バーチャルキョート』の光景が映し出されている。

 予想どおり蒼真様に連れて来てもらった面々のスマホにはミッションは届かないらしい。


 俺もスマホの画面を見せる。俺とヒロ、両方のスマホ画面を確認した西の姫は『わかった』というようにうなずいた。 



「あの、トモさん」

 スマホを収める俺に愛しい妻が声をかけてきた。


「なに?」

 ちいさな声で問いかけると、愛しい妻は顔を赤くしてちいさく言った。


「降ろして?」

「え?」

「あの、もう、降ろして?」

「なんで?」


 素で問いかける俺に彼女は「な、なんで、って」とオロオロする。


「だって、あの、……みんな、いる、し」

「だから?」

「! ―――その、あの……………恥ずか、しい、から………」


 どうやらうっかりなひとがようやく俺に抱かれていることに気付いてしまったらしい。もう少しうっかりしておけばいいのに。


 赤くなってうつむいてモジモジ言うのかわいすぎ!! 

 あまりの愛らしさにぎゅうっと抱き締める。


「だ! だから! 降ろして!」

 ジタバタしようとしているらしいが俺が両足をしっかりと抱いているから全然身動き取れていない。肩をペチペチ叩かれるがちっとも痛くない。


「いや、今更でしょ?」

 そう教えたら愛しい妻はガチンと固まった。パカリと口が開いたと思ったら見る見る赤くなっていった。


 ギギギ、と音がしそうなくらいぎこちなく周囲をうかがう妻。みんな『災禍(さいか)』に意識を向けているから俺達のやり取りは見て見ぬふりをしてくれている。

 それでも愛しいうっかり者はずっと俺に抱かれていたことに気付いてしまったらしい。

「あ、あ、あうぅぅぅ」と両手で顔をおおいうつむいてしまった。


 突入のときからずっと抱いてるのに。困ったひとだ。なんで今更そんなこと気にするんだか。


「なにが起こるかわからないから。このまま貴女を抱かせといて」

 そっとささやくが「でも」「でも」なんてグズグズする。

 そんな彼女に肩の守り役がため息をついた。


「姫。トモの言うことも一理あります。イザというときにすぐに移動できるよう、また姫がすぐに笛を吹けるよう、このままでいましょう」


 それでようやくうっかりなひとは笛のことを思い出したらしい。

『忘れてた!』とわかりやすく顔に出し、パッと笛を取り出した。


「『災禍(さいか)』があやしい動きをすればすぐに保留にしていた結界を再稼働。いいですね?」


 守り役の指示に「はい」と生真面目にうなずく妻。


「トモ。姫をしっかりと支えておけよ」

 わざとそう指示する守り役に「言われるまでもない」と返す。


 それでようやく恥ずかしがり屋の生真面目が俺に抱かれることに納得した。

「ごめんなさい」「お願いします」と情けない表情(かお)で言うからかわいくてたまらない!


「大丈夫だよ」

「油断せずに、がんばろうね」

 そっとささやくと彼女がふわりと微笑んだ。


 その笑顔に、こんなときなのに、またしても胸を貫かれた。

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