表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
371/572

第百八十七話 尋問3 『呪い』の解呪について

 俺に抱かれた妻は両手で顔をおおい「ううう」とうなっている。かわいい。

「こっちは気にしないでください。話、進めてください」

 西の姫に声をかけるとうなずきが返ってきた。

 そうして西の姫は再び『災禍(さいか)』と対峙した。


「誰でも『不老不死』にしたり『記憶を持ったまま転生』させられるの?」

「『誰でも』はできません」


 質問に『災禍(さいか)』はサラリと答える。


「転生のための術式を展開するエネルギーもしくは不老不死を保つための体内細胞の老化停止等の術式を定着させ展開するだけのエネルギーを持ったものでないとできません」


 なるほど。そういえば宗主様が作った術式も宗主様以外は「霊力量が足りなくて使えない」と言っていたもんな。


「私達以前にも『不老不死』や『記憶を持ったままの転生』を叶えているの?」

「はい」

「発願者がそのように『願った』から?」

「はい」

「その『願い』を破棄することもできる?」

「はい」


 あっさりとした返事に西の姫はただ黙った。

 じっと『災禍(さいか)』を見つめていたが、念押しするようにもう一度同じ質問を重ねた。


「『願い』の破棄は可能なのね」

「はい」

「つまり、アンタのかけた術式は解呪できる」

「はい」


「私達の『呪い』も破棄することはできる?」

「可能です」


 ―――!

 つまり、竹さんにかけられた『呪い』を解くことができる――!

 期待にテンションが上がる! 守り役達も梅様と南の姫も表面上は冷静に見せているがテンション高くなっているのがわかる。

 俺の愛しいひとは顔から手を離し、のろりと『災禍(さいか)』に顔を向けた。


 そんな中、西の姫は変わらない様子で再び『災禍(さいか)』に問いかけた。


「『今すぐ破棄しろ』と命じたら、破棄できる?」

「今すぐは不可能です」

「何故?」


災禍(さいか)』は淡々と答えた。


「『異世界』に『渡る』ことが発動条件のひとつになっていました。ゆえに、今すぐに『魂に刻まれた術式』を解除することは可能ですが、現段階での『呪い』の破棄は不可能です」


 俺の腕の中の妻はその言葉に明らかに落胆した。が、俺はその言い方が引っかかった。


「―――『現段階』でなければ?」


 どうもこいつは言葉足らずだ。聞かれたことにしか答えない。その先にまだ話があっても聞かれなければ答えない。

『現段階で』というからには『現段階でなければ』があるに違いない。


 西の姫も俺と同意見だったらしい。チラリと俺に目を向けてすぐに『災禍(さいか)』に問いかけた。


「もっと詳しく説明しなさい」

「わかりました」

 あっさりと『災禍(さいか)』は了承し、続けた。


「今回この『バーチャルキョート』という『異界』から『現実世界』に戻ることも『異世界』に『渡る』ことと同条件にあたります。

 転移陣によりこちらに来た『東の姫』と『南の姫』も、『東の守り役』の『界渡り』によりこちらに来た他の姫と守り役達も、術式解除ののち『現実世界』に戻れば、その時点で解呪に必要なすべての条件が満たされ、解呪完了となります」


「――『呪い』は消えるのね?」

「はい」


 ―――ついに。

 ついに。ついに!


 竹さんにかけられた『呪い』が解ける! 二十歳までに死ぬことなく、これから先もずっと一緒にいられる!


 バッと妻の顔を見た。呆然とした彼女と目が合った。喜ぶ俺に彼女は『信じられない』というように口元をわななかせた。

 力強くうなずく俺に目を丸くした彼女。震える手で口を押さえぷるぷるしている。かわいい。


「術式を解除して『現実世界』に戻ったら、私達は二十歳すぎても生きていられるのね? 今後転生するとしても記憶を持って転生することはなくなるのね?」


 西の姫の確認に『災禍(さいか)』は「はい」と答えた。


「術式を解除すれば『記憶を持っての転生』はできなくなります」

「余命についてですが、『西の姫』『東の姫』『南の姫』に関しては問題なく百年の寿命を得ると予測されます」


「!?」

 なんで俺の妻が入ってないんだよ!?

 思わず口を開いた俺を西の姫がバッと手を向けて制する。『黙ってろ』の指示にグッと言葉を飲み込んだ。


「竹――『北の姫』は?」


「『北の姫』はすでに二十年分の霊力を使い果たしています。霊力水で残りの霊力をすべて奪いました。それが今こうして生きているということは、余命、つまり転生に必要な霊力を使用しているということになります」


「エリクサーを使って蘇生させたんだけど?」

 西の姫の言葉に『災禍(さいか)』は納得といったようにうなずいた。


 と、『災禍(さいか)』が妻に目を向けた。

 反射的に威圧が出そうになったが「抑えろ」と西の姫が命じてきた。

 グッと威圧をこらえる。肩の黒陽もナニカをこらえていた。おそらくは反射的に結界を張ろうとしたんだろう。


 黙ってじっと見つめる『災禍(さいか)』に妻はビビっている。ナニカを探られているとわかった。が、どうにも落ち着かない。そもそも男が妻を見ているというだけで腹が立つ。グッと歯を食いしばって必死で感情を抑えた。


 じっと妻を見つめていた『災禍(さいか)』だったが、つ、と西の姫に視線を戻した。


「『北の姫』は現在、エリクサーで霊力が補充され蘇生している状態、もしくは転生に使うはずだった霊力を使い蘇生している状態と思われます。

 術式を解除した状態で発動条件である『界渡り』を行った場合、どのような影響がでるかは私にもわかりかねます」


「すぐ死ぬってこと?」の質問に「断言できません」と答える『災禍(さいか)』。


「すぐに死ぬ可能性は低いと考えます」

「『二十年』という制限が解除されるので、余命を刻むと考えられます」


 その意見に納得を見せた西の姫。

「じゃあ、どんな影響が考えられる?」とたずねた。


「『界渡り』により解呪が完了したのちに考えられる可能性としては」

 そうして『災禍(さいか)』が次々と語る。


「霊力がこれまでよりも少なくなる。使用できていた術式などのうち使用できなくなるものがでてくる。エリクサーで強制的に蘇生させた影響で体調を崩す。免疫力等が弱くなり病気にかかりやすくなる」


 あり得る可能性に納得しかない。

 グッと彼女を抱く腕に力が入る。


「想定の百年よりも短い寿命となっている」

「!」


 息を飲んだ。

 それは、そうだ。

 残りの寿命を使って蘇生したというなら寿命が短くなって当然だ。

 だが。

 だが。


「そこはいいわ。仕方ないことよ」

 さらりと返す西の姫に文句を言おうと口を開けた途端、ジロリとにらまれた。


「想定より長く『半身』と共に過ごせるのよ? 文句ある?」


 そう言われたら「……アリマセン」としか答えられない。

 そうだ。すぐに死に別れるはずだったんだ。ならば共に過ごせる時間が増えたことを喜び感謝すべきだ。


 愛しい妻がそっと俺の胸に手を当てた。俺に抱かれたままの彼女は俺を見上げ微笑んでいた。

 その目に『一緒にいられることになってうれしい』と書いてある。かわいい。愛おしい。

 へらりと笑みが勝手に浮かぶ。ぎゅ、と抱き締めると彼女はくすぐったそうに笑った。かわいい。愛おしい。大好き。



 微笑み合う俺達を西の姫は無視して『災禍(さいか)』に問いかけた。


「他に懸念事項はある?」

「姫達にかけた術式に関しての懸念事項は『北の姫』に関することだけだと判断します」

「守り役達については?」


 その質問に『災禍(さいか)』は少し考える様子を見せた。そんな『災禍(さいか)』に西の姫は質問を重ねた。


「『人化の術』というのは『呪い』が解けたら自動的にかけられるの?」

「そのはずです。――が、長期間元の姿を保っていた現状ですぐさま『人化の術』が展開できるかは、実際その状況になってみなければわかりません」

「アンタはさっき『守り役達が無意識に己にかけている「人化の術」を解き、再度かけられないようにした』と言っていたわね」

「はい」

「じゃあ、念の為その『人化の術』を教えなさい」

「了解しました」


 そうして『災禍(さいか)』は術式を公開した。かなり複雑な術式だが、そこまでの霊力量は必要ない。だからこそ胎児でも赤ん坊でも無意識にかけられるのだろう。

『人化の術』と『人化の術を解く術』を教わった。


「私達四人の姫も、この『人化の術を解く術』を使ったら『本来の姿』になるの?」

「姫達は転生によって人間の身体を得ています。ですので『人化の術を解く術』を使っても獣の姿にはなりません」

「姫達が獣の姿を取りたければ『獣化の術』が必要です」

「そうすれば『本来の姿』になれるの?」

「姫達はすでに人間の身体なので『本来の姿』がすなわち人間の姿です。

『獣化の術』は思い描いた獣の姿になる術です。ですので、『管理者のイメージする本来の姿』にも、他の姿にもなれます」


 そうして『獣化の術』も教わる。こちらもそこまでの霊力量は必要なかった。



 術式を覚えたところで西の姫が質問を再開した。


「守り役達の寿命に関してはなにかある?」


 以前ヒロ達に『呪い』について相談したときにそういう話が出た。西の姫にも報告が行っていたらしい。油断なく質問する西の姫に『災禍(さいか)』がさらりと答える。


「守り役四人は高間原(たかまがはら)で術をかけた時点から老化を止めることで『不老不死』としました。今回すべての術を解除すれば、当時の年齢から時間を刻むこととなります」


「つまり。ウチの白露はあのとき確か三十二歳だったから、『呪い』が解けたらその当時のまま三十二歳の姿になるということ?」

「そのとおりです」

「そこから普通に歳を取っていくということね?」

「そのとおりです」

「それまでの時間が急激に押し寄せることも、守り役達だけ体内時間の進みが早くなることもないのね?」

「ありません」


 どうやらヒロが心配していたようなことはなさそうだ。ホッと肩が落ちる。守り役も姫達もホッとしたように表情をゆるめた。


「寿命と転生に関する『呪い』については確認のしようがないけれど、少なくとも守り役達が元のヒトの姿に戻れたならば『呪い』は解けたと証明できるわね」

「その意見に賛同します」


災禍(さいか)』の答えに西の姫は満足そうにうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ