ヒロ 41 引き続き話し合い
引き続きヒロ視点です
『災禍』の記憶を『視た』。
めっちゃ長い記憶に頭パンクしそうになった。
情報を整理するためにも、記憶を『視て』いなかったナツと佑輝に話して聞かせることになった。
『災禍』が姫様達にかけた『呪い』は『呪い』じゃなかった。『黄の王』から、滅びゆく『世界』から逃がすために『良かれと思って』かけたものだった。
その説明をしたくてもできなくてそのまんまになってるだけだった。
「誰かひとりでも『なんでこうなった』って強く思って問いかけてくれたら説明するのになーって、ずっと気にかけてたみたい」
「ああ……」
「それで……」
チラリとふたりが目を向けたのは菊様達。『ズズゥゥン』って書いてありそうな重苦しい雰囲気でうなだれていらっしゃった。
まあね。『まさかそんな』って思うよね。
五千年『呪い』だって思ってたモノが『助けようとした結果』だったなんて。『お礼と祝福』だったなんて。誰かひとりでも『願い』をかけたら説明してもらえてたなんて。
「この五千年は一体……」
「まさかそんな意図だったなんて……」
皆様がまたブツブツ言い出したのであわてて話題を変える。
「とにかく。『災禍』の過去も『真名』も、パスワードも認証コードもわかったんだ」
ぼくの言葉に菊様達はようやく顔を上げられた。おひとりずつ視線を合わせるとうなずきを返してくださる。晃も力強くうなずいた。
「今回の社長のたくらみを止めるのも、皆様の『呪い』を解くのも、この『万が一暴走したときのための認証コードとパスワード』でできると思うんだ。――ホントにできるかどうかはやってみないとわかんないけど……」
ぼくの説明にナツも佑輝も晃を褒めた。
「すごいじゃないか!」
「お手柄だな、晃!」
褒められた晃は照れくさそうに困ったような笑みを浮かべた。
「ただ。その認証コードがめっちゃめちゃ長い」
四人が三回ずつ入力したから、めっちゃ長くなったんだよね。
博士達はその長い認証コードを入力した四枚のメモリーカードを順番に差し込むことで認証させるつもりだったから長いほうが都合がよかった。でもそのメモリーカードは当然無いわけで。となると音声入力しかない。
つまり、ぼくががんばって言うしかない。
「あれだけ長いと、全部言い切るまでに逃げられるかもしれないですね」
「竹の結界で抑えるしかないわね」
ようやく復活された菊様がため息とともにこぼされた。
「なんにしても、やることは変わらないわ」
キッと、強い眼差しで一同を見回す菊様に自然に背筋が伸びる。
「まずは『災禍』のもとへ行く。逃がさないために竹の結界でビル全体を包んで、徐々にせばめていく。最終的には『災禍』だけを封じる」
そこまでは計画どおりだ。全員がうなずく。
「これまではこの状態に持って行って蘭が斬って滅する予定だったけど――ヒロ」
「はい」
「竹が『災禍』の動きを封じたら、私がパスワードを言うわ。そのあと認証コードを言って」
「承知致しました」
一礼するぼくに菊様はうなずかれた。
「がんばってね。ヒロ」
「頼むわね」
白露様緋炎様が励ましてくださる。うう。プレッシャー。
苦笑を浮かべるぼくをよそに菊様が話を進められる。
「私を『管理者』と認めたら色々話ができるでしょう。
『災禍』本人の口から、何があったか、どうしてそうしたのか、聞き出して、話をして納得させて、この『呪い』を解かせましょう」
そう言った菊様はなにかに気付き、蘭様に顔を向けられた。
「『呪い』を解かせてもいい?」
「おう」
『ホントに意味わかってる!?』って聞きたくなるくらいあっさりと、蘭さんは答えた。
「菊はいいのか?」
蘭さんの質問に菊様も「いいわ」とあっさり答えられた。
「もう十分生きたしね」
「だな」
「『呪い』が解けたら二十歳より先があるでしょ? そっちのほうがいいわ」
「だよな」
楽しそうなやりとりに、きっとこれまで大変なことやかなしいことがいっぱいあったんだろうなって思えた。
「緋炎達もいいか?」
蘭さんの確認に緋炎様も白露様も「はい」と微笑まれた。
「姫がもう転生されないのならば、私が不老不死である必要はありません。ヒトの姿に戻って、生命のある限りお世話しますよ」
「そこはもう好きにしたらいいんじゃないのか?」
「アナタみたいなヒトを野放しにしておくわけにはいかないでしょう」
軽口に軽口で応じる緋炎様に「うえぇぇぇ」なんてわざと悲鳴をあげる蘭さん。
そんなおふたりに菊様と白露様は困ったように微笑み、視線を合わせてうなずき合われた。
おふたりは突入前にトモから『呪い』について提案があったときに話し合いが済んでいるんだろう。
ていうか、やっぱトモはすごいなぁ。ぼくは『呪い』を解くなんて考えたこともなかったよ。そういうところが保護者達に『甘い』とか『まだまだ』とか言われちゃうところなんだろうなぁ。
じゃれあいはじめた蘭さんと緋炎様を菊様は放置することにされたらしい。
「じゃあ。いいわね」とぼくらに顔を向けられた。
その眼差しの強さに再びピッと背筋が伸びる。
ぼくだけじゃなくて晃もナツも佑輝も姿勢を正していた。
ピリッとしたその場の雰囲気に、蘭さんと緋炎様もじゃれあいを止められた。
「『災禍』の動きを封じ、パスワードと認証コードを宣言。話を聞き出して『呪い』を解かせる。『バーチャルキョート』に連れてきた人間を元に戻させ、『宿主』保志叶多の『願い』を破棄させる」
やるべきことを挙げていかれる菊様にうなずくことで了承の意を示す。
「すべて片付けたら、『災禍』は滅する」
きっぱりと宣言される菊様。女王の風格たっぷり。強い眼差しに「はっ」て平伏するしかできない。
と、横の晃かなんか言いたそうにしているのに気がついた。
その晃に向けて、菊様はもう一度はっきりとおっしゃった。
「滅する」
じっと見つめられ、晃はしゅんとしながらも「はい」とうなずいた。
そんな晃に菊様は『仕方ない』とでも言いたげにため息をつかれた。
「滅したら、またいつか生まれ変わるかもしれないわよ」
その言葉にキョトンとした晃。そのままじっと菊様を見つめた。でもじわじわと目が大きくなってほっぺが赤くなっていって、ついには満面の笑顔になった。
「はい!」って元気よくお返事する晃に、菊様は『やれやれ』ってかんじにちいさく笑われた。
「竹の状態によって変わるでしょうけど……。
とりあえずこの方向で行きましょう」
「「「はい」」」
どうにか方針が決まった。
これがうまくいけばなにもかもが片がつく。
その鍵を握るのは竹さんと、ぼく。
プレッシャーに潰されそう。胸も胃も痛い。
でも、やらなきゃ。これができるとしたらぼくだけだから。
「ヒロなら絶対大丈夫。おれ、信じてる」
晃の励ましにどうにか笑顔を返したけれど、引きつった苦笑になってしまった。
話し合いが一段落した。
「とりあえず竹が起きないと動けない」
「竹が起きて、それからもう一度話し合いましょう」
菊様の言葉に全員がうなずいた。
ちゃぶ台を片付けてたらちょうど梅様と蒼真様も目を覚まされた。
おふたりとも体調は「問題ない」とおっしゃる。竹さんの蘇生で使った霊力も「戻っている」と。よかった。
そんな話をしていたら黒陽様も起きてこられた。
いつの間にか寝てしまったことにめちゃめちゃヘコんでおられたけど、どうにかみんなでなぐさめる。
「それより聞いてください。実は―――」
さっきの話し合いでわかったこと、決めたことを梅様、蒼真様、黒陽様に伝える。お三方ともびっくりしておられた。そりゃそうだよね。ぼくもびっくりした。
『呪い』が『呪い』じゃなくて『災禍』が『黄の王』から守るためにしたことだと、『良かれと思って』やってことだと聞いて、梅様も蒼真様も「そんなのわかるわけないじゃない!」ってブチ切れた。『誰かひとりでも「願い」を持ってくれたら説明したのに』って話には黒陽様がヘコんだ。「私がもっと強く願えば……」とかブツブツ言い出した。
梅様も『呪い』の解呪は賛成された。
「もう十分よ」「それより歳取ってみたい」とあっさりと笑われた。蒼真様も黒陽様も賛成だった。
竹さんは突入前の話し合いで意思確認してるから問題ないってことで、『呪い』を解かせることは満場一致で決まった。
その竹さんにはこの一連の話は「黙っておこう」ということになった。
どなたもが「こんな話、竹に聞かせられない」とおっしゃった。ぼくも同感。こんな話聞いたらまた余計なこと背負い込むよあのひと。
長年の守り役様も「どうか姫には黙っていてくれ」って頭を下げられた。
「トモには聞かせてもいいが、姫にはとても言えぬ」
同感です。
そんな話をしていたらシーツがもぞもぞ動いているのに気がついた。
トモと竹さんが目を覚ました。
キリがいいのでまたしばらくおやすみします。スミマセン。
次回は7月1日を目標にしています。
よかったらまたのぞきにきてください。