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ヒロ 40 『災禍』の記憶投影終了

ヒロ視点です

 ふ、と意識が浮上する。

災禍(さいか)』の記憶の再生が終わった。

 あまりの情報量の多さにめまいがする。倒れそうになるのをどうにか手をついてこらえる。目を閉じ、うつむいたまま息を整える。


 ――めっ………ちゃ長かった………。


 なにあれ。何十億年分の記憶視せられたの? 一応今回の件に関係なさそうなところは早送りになったりダイジェストになってたりはしたけど、それでも途方もない長さだったよ!? そりゃ記憶を『視た』直後の晃があんなになるよ!

 もう頭パンクしそう。ぼく『絶対記憶』があるから全部『記憶』された。情報量過多だよ。処理能力追いつかないよ。


 どうにか頭を整理しようと両手で顔をおおって必死に息を整える。頭の中を情報が流れていく。あれがああなって、それでこうなって。あのひとがああで、このひとがこうで。

 分析とかは後回し。とにかく情報整理して頭の中落ち着かせなきゃ。


 両手で顔をおおったまま深呼吸を繰り返す。

「ヒロ」

 ナツの声にどうにか手をはがし瞼を開ける。と、そっとペットボトルが差し出された。

 フタも開けてくれてる。さすがナツ。気が利くなぁ。


「ありがと」

 どうにか顔を上げてお礼を言う。ペットボトルを受け取ろうとしたんだけど手が震えて受け取れない。見かねたナツがぼくの手を取ってペットボトルを持たせてくれた。そのままぼくの手ごとナツの手に包まれてどうにかペットボトルの飲み口に口をつけた。


 コクリ。一口飲むとホッとした。そのままグビグビと一気に飲み干してしまった。それでどうにか落ち着いた。


「ありがとナツ」

「……まだムリしないほうがいい。もう一本飲みな」


 ナツがペットボトルをもう一本渡してくれた。今度はちゃんと受け取れた。ありがたくいただく。自分で口に運び、ゆっくり、ゆっくりと飲んだ。


「これ『竹さんの水』?」

「そう」

 どおりで。めっちゃ回復するよ。浄化もされてるかな。すごいね竹さん。


「これも食べな」っておにぎりを手渡される。『竹さんの水』で炊いたおにぎり。ひとついただくとようやくホントに落ち着いた。


 どうにか周りを見る余裕ができて周囲をうかがう。と、菊様も蘭さんも、白露様も緋炎様もそれぞれに葛藤しておられた。

 菊様は座り込んでがっくりと両手をついてうなだれて「まさか」「そんな」とブツブツ言っておられる。白露様は伏せの状態で頭を抱えて。緋炎様は羽を広げてパッタリと突っ伏しておられる。おふたりもなんかブツブツ言っておられる。蘭さんは仰向けに倒れて両腕で目元をおおって「ああー」とか「ゔー」とか唸っておられる。


 気持ちはわかる。ものすごくよくわかる。思わず苦笑が浮かんじゃう。

 晃はそんな皆様を苦笑で見守っている。

 皆様の周りに空のペットボトルやらラップやらが転がっていることから『竹さんの水』もおにぎりも召し上がられたみたい。


「とりあえず、なにか甘いものでもいかがですか?」

 皆様があんまりにもヘコんでおられるから気の毒になったらしいナツが声をかけながらちゃぶ台を出してくれた。その上に次から次へとスイーツを並べていくナツ。おはぎ。アイスクリーム。羊羹。生クリームたっぷりのショートケーキ。クッキー。フィナンシェ。ドーナツ。上生菓子。みたらし団子。ああ! どれも美味しそう!


「羊羹……羊羹ちょうだい……」

 手を伸ばしたら「はい」とナツがお皿ごと渡してくれた。黒文字もちゃんとつけてくれてる。早速一口。

「――おぉぉいしぃぃぃ!!」

 ああ。甘さが()みる。美味しい。甘い。涙出ちゃう。

 ナツがそっと冷茶を出してくれた。綺麗な緑色を口に含む。羊羹の甘さと相まってもう最高!


 ぼくの反応に刺激されたのか、菊様達もちゃぶ台に集まってこられた。あれこれと指定されるのをナツと佑輝がせっせとお渡しする。晃はお茶をお出しした。


 甘いものいただきながらナツに聞いたところによると、ぼく達が記憶を視るために車座になって目を閉じてから一分も経たないうちに晃以外の全員ががっくりとうなだれたらしい。


「なにがあったの?」って聞かれても、なんて答えたらいいのか……。

 困って菊様に目を向ける。全員の視線を集めた菊様は優雅にお茶を召し上がり、トンと湯呑を置かれた。


「――そうね。第三者に話すことで情報が整理できるかもしれない」

 それはその通りですね。

 うなずくぼく。白露様も緋炎様もうなずいておられた。


 そうしておやつをいただきながらぼくがナツと佑輝にぼくらが視たことを話して聞かせることになった。



「『災禍(さいか)』は元々別の『世界』で作られた人工知能だったんだって」

「『人工知能』?」

「って、なんだ?」

 キョトンとするふたりにどう説明すればいいか考える。

「ええと、AIみたいな――って言ってもわかんないか……」

 うーん、なんて説明しよう。

「なんでも答えてくれるロボット。めちゃくちゃエラい神様みたいな」

 晃の説明に「へー」とふたりは納得した。それでいいの? まあいいや。


「その『世界』はふたつの国が戦争の真っ最中で、『災禍(さいか)』は戦争を止めるために生み出されたんだ」

 ふんふんと聞いてくれるナツと佑輝。菊様達もうなずいておられる。


「でも『戦争を止める』って言っても、やり方色々あるでしょ? それこそ『人類滅亡させておしまい』って案だってある。

 だから『「誰かを想う強い願い」を叶える』っていう使命が与えられた。そのために学習して自己改良していくように設定された。自己修復機能も搭載された。

 万が一暴走したときのために認証コードとパスワードを設定することにした。そのパスワードが『災禍(さいか)』の『真名(まな)』」


「『真名(まな)』がわかったのか!?」ってふたりともびっくりしてる。わかるわかる。ぼくもびっくりしたよ。

 

「なんていう『真名(まな)』なのかはまだナイショにしとくけと……。その『真名(まな)』を名づけた博士が、竹さんそっくりなんだ」


「穏やかで、大人しく見えて頑固で」と話すと「へー」と驚くふたり。


「その博士をお母さんみたいに慕ってた」


 そう。はっきりと言葉にはしてなかったけど、記憶と一緒に感情まで流れてきた。

 自分の子供みたいにかわいがって愛情を注いでくれる博士のこと、特別に慕ってた。あの感情は、あの想いは『お母さん』に向けるモノ。


「だから『災禍(さいか)』は、意識してではないかもだけど、竹さんを守ろうとしてる」


 ぼくのこの言葉にナツも佑輝もびっくりした。

「『守る』!?」

「『殺そうとしてる』の間違いじゃないか?」


 まあね。これまでのこと考えたらそう思うよね。実際さっきも菊様の時間停止が間に合わなかったら死んでたし。

 

高間原(たかまがはら)から『呪い』をかけられてこの『世界』に『落ちて』きたって姫様方も守り役様達もおっしゃってたんだけどね。『災禍(さいか)』に言わせたら『姫達を殺そうとする黄の王』から助けようとしたんだって」


「は?」

「『黄の王』って、誰?」


 そういえばふたりにはトモが鬼に襲われて死にかけたときにざっと話をしただけで高間原(たかまがはら)のこと詳しく説明してなかった。ぼくは守り役様達やハルから色々聞いてたけど。

 改めて高間原(たかまがはら)のことをざっと説明する。


「本人は『呪い』のつもりじゃなくて、自分の封印を解いてくれた『お礼』のつもりだったって。

 あのままだったら『黄の王』に殺されるか、滅びゆく『世界』と一緒に死んじゃうから、違う『世界』に逃がして『しあわせ』になってほしかったみたい」


「そんな……」って絶句するナツ。佑輝は驚きすぎて声も出ないみたい。

 そして菊様達は頭抱えたり絶望を顔に貼り付けたりとヘコみまくっておられる。

 そんな皆様に気が付かないフリでナツと佑輝に話を続ける。


「『災禍(さいか)』的には『良かれと思って』色々したみたい。姫様達が『二十歳までしか生きられない』で『転生を繰り返す』のも、女性は『永遠に若く美しいままでいたい』っていうひとが多かったからそうしたって。ずっと若いまま変わらなかったら周りから怪しまれたり迫害されたりするから転生するようにしたんだって。

 守り役様達が『獣の姿になって』『死ねない』のも、姫達のお世話をするのにそのほうが都合がいいからって」


「『良かれと思って』って……」

「いいか? それ」


 ううん、ってうなるふたりに「ひとによっては『喉から手が出る』くらいには欲しがると思うよ」って言ったら「それもそうかも」って納得した。


「言い換えたら、姫様達は『永遠に若いままで人生を繰り返す』、守り役様達は『そんな姫様を守れるように永遠の生命を持たせる』『ただし周囲からの迫害を避けるために獣の姿になる』ってことだったんだって」


 ぼくの説明にナツと佑輝は「そうなのか!?」ってびっくりした。逆に菊様達はぐったりとうなだれた。

「そんなこと、思いもしなかったわよ…」菊様が悔しそうに唸られた。


 まあね。五千年ずっと『呪い』だって思ってたんだもんね。衝撃だよね。


「説明してあげたらよかったのにな」

「なんか『黄の王』ってひとが相当根性曲がってたみたい。姫様達が苦しむのを見て喜ぶようなひとだったから『親切で』なんてちょっとでももらしたら反対されそうだったんだ。だからわざと『呪い』って言って了承させたんだって」


 ナツのつぶやきに答えてたら佑輝もつぶやいた。

「この『世界』に来てからだって説明できただろうに」

 だよね。ぼくもそう思う。


「説明したかったんだって。でも『発願者』――『願い』をかけたひと以外とポンポン話することは禁止だったみたい」

「そういうもん?」

「『人工知能』だから。決められたこと以外はしないみたい」

 その説明にふたりは「そうなんだ」って納得した。


「誰かひとりでも『なんでこうなった』って強く思って問いかけてくれたら説明するのになーって、ずっと気にかけてたみたい」

「ああ……」

「それで……」


 チラリとふたりが目を向けたのは菊様達。『ズズゥゥン』って書いてありそうな重苦しい雰囲気でうなだれていらっしゃった。

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