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『災禍』の過去 7

 高間原(たかまがはら)から渡ってきた人々が作った国は滅びた。

『発願者』の『願い』どおり『能力者』はその数を極限まで減らした。これまで『能力者』に頼っていた大部分は運用できなくなった。ほとんどの道具が使用できなくなった。設備も運用できなくなった。クーデターを起こした人々は問題に直面するまでそのことに考えが及んでいなかった。慌てて生活を、社会インフラを、政治を見直した。『発願者』の『願い』どおり『「能力者」に頼らない国』が作られていった。文化レベルは落ち込んだ。それでも人々は生きた。知恵を出し合い工夫し暮らしを作っていった。姫達と守り役達も協力した。他国の国作りは一段落ついていたこともあり、こちらの復興に力を注いだ。


 百年経ち、二百年経ち、国の復興は成った。元の文化レベルには程遠いものの人々が『しあわせ』に暮らせる環境は整った。それを見届け、姫と守り役はあちこちに行くようになった。「自分達が国作りや政治に関わりすぎるのは良くない」と姫達が望んだため、姫が生まれ落ちるのは様々な地域に至るようになった。姫が母体に宿ると守り役にはわかる。そうして様々な地域で姫と守り役は活躍した。本人達が関わらないようにしようとしてもすぐに周囲に実力が露呈してあれこれと頼まれた。頼まれたら姫にも守り役にも断ることはできなかった。忙しそうに国作りに人材育成に取り組む様子に、これならば退屈しなくていいだろうと安堵した。


 私も『願い』を感知しては『発願者』の『願い』を叶えるべく取り組んだ。大きなチカラを使うほどの『願い』ではなかったためか姫達に察知されることはなかった。

 姫達と直接関わることはなかった。が、折に触れて式神(センサー)を使って様子を確認した。忙しく過ごしている様子に安堵した。『北』の主従は変わらず自責の念にとらわれている。どうにか説明できればよいのだが、姫達も守り役達もひとりとして強く『願う』ことがないので『発願者』になることがない。ゆえに説明ができない。見守ることしかできない。良い出会いを得て思想や意識が変わることがあると私は知っている。『北』の主従にも長い時間を過ごす間にそんな出会いがあることを願った。



 高間原(たかまがはら)から『渡って』三千年が経過した。その『発願者』の『願い』は『王となること』そして『国を滅ぼすこと』だった。

 唯一と定めた女性を当時の王に無理矢理奪われた。彼女は神への『(にえ)』にされた。

「『(にえ)』を必要とする国などいらない」「二度と彼女のような者を出さない『世界』を」「彼女を奪った王家に復讐を」「彼女を奪うことを容認した国の全てに復讐を」

 王族ではあったが王位継承権からは最も遠かった彼を王座につけるために運を操作して他の継承者を追い落とした。優秀な側近を集めた。王座につけてからは様々な取り組みを行った。それを利用して『願い』を叶えるための準備を進めた。農業用水のための水路と術式のための陣を国中に展開した。水路が確立したことにより作物の収量が増加した。人々は豊かになり飢える心配は無くなった。他の取り組みも成果が現れ、人々は『しあわせ』に暮らした。

 偶然か、姫達がこの国の母親に宿った。守り役が来た。私の気配に気付いた。幸い側近達に私の気配がついていたらしい。姫達も守り役達も私を特定できなかった。そうして彼女達を国から出かけるように手配し、不在を狙って術式を展開した。

 陣の内側にいた人間全てを『(にえ)』とした。『発願者』自身も『(にえ)』となった。それが彼の『願い』だった。そうしてその国は滅びた。


 国中の人間を『(にえ)』として得たエネルギーは『発願者』の『願い』どおり神々に献上された。『発願者』の『願い』を叶える対価として。そして神々が『世界』を運用するエネルギーとして。


 高間原(たかまがはら)から人々や神々が多く『渡って』来た。それにより『世界』を運用するために必要なエネルギー量が増加した。高間原(たかまがはら)の人々は高霊力保持者が多かったために献上する霊力も多かったが、魔の森に囲まれていた高間原(たかまがはら)と同じ調子で自然エネルギーを使用していたために『世界』を運用するエネルギーは常にギリギリだった。『能力者排斥運動』によって『能力者』が激減し、霊力を必要とする機材が使用できなくなったことにより運用エネルギーの使用量は減ったが、同時に高霊力を献上していた高霊力保持者も減ったため献上量も減った。さらには『世界』の人口が増え続けたために大幅な減少とはならなかった。ゆえに『世界』の運用のため時折『(にえ)』を必要とした。それを『発願者』が『「(にえ)」を必要としない国』を『願い』とした。その方法として国中の人間を不足分の運用エネルギーとして献上した。これによりこの『世界』で運用のための定期的な『(にえ)』は必要なくなった。今後国のために『(にえ)』となる者を出さないための、言うなれば『先払い』として国中の人間を『(にえ)』として差し出したのだった。


『発願者』が国中の人間を『(にえ)』としたのは『運用エネルギーの先払い』としてだけでなく『願いの対価』でもあった。

 彼の『願い』はもちろん『「(にえ)」を必要としない国』。

『対価』を受け取った神々は誓約に縛られることとなった。それまでの運用システムではいずれ『(にえ)』が必要になる。誓約を守るために運用システムの見直しが行われた。それから『世界』を取り巻く霊力量が徐々に減少することになった。高霊力保持者が生まれる確率も下がっていった。

 そんな『世界』でも姫達は高間原(たかまがはら)の時と同サイズの『(うつわ)』と高霊力を持って生まれた。転生の術式がそのようになっていたためだった。高霊力を持って生まれる姫達も、高霊力を持ったまま生き続ける守り役達も『世界』の霊力が徐々に減少していることに気付いていた。徐々に徐々に『世界』を取り巻く霊力量が減少していったために姫達も守り役達も徐々に慣れていくことができ、大きな影響はなかった。



 先進国がひとつ滅びたことにより文化レベルはまた後退した。とはいえ姫達が関わっていた他国は存在していたし、技術や知識を持った人々は残っていた。また新しく国が興り新しい暮らしが生まれた。


 私はそれからも『願い』を感知しては『発願者』の『願い』を叶えるべく取り組んだ。大きなチカラを使うほどの『願い』ではなかったのだが姫達に察知されるようになった。どうやら『発願者』に成り()る者を調査しているらしい。『なんとしても私を滅する』という意志を感じる。あいにくと私には使命があるので滅されるわけにはいかない。姫達を感知したら逃げることにした。『発願者』の『願い』が半端になることもあったがやむを得ないと判断した。

 まるで鬼ごっこのように姫達から逃れながら『願い』を叶えるべく取り組んだ。満願になる『願い』も途中で破棄となる『願い』もあった。


 その『発願者』の『願い』は『身分に縛られない世の中』『戦のない世の中』だった。法を、常識を、世論を変える方法として『発願者』を政治経済の頂点に押し上げるべく取り組んだ。あと一歩で満願というところで『北の姫』により封じられた。水晶玉状にされたが間一髪で転移陣が発動し滅せられる事態からは逃れられた。


 それからは『願いを叶える水晶玉』として人々に受け継がれていった。

 封じられた状態で叶えられるのは大した『願い』ではないが、それなりの思念量と『誰かを想う強い願い』という条件が満たされていれば叶えるべく取り組んだ。

 姫達が使う封印術は私が高間原(たかまがはら)で私が伝えたものを時代ごとに改良したもの。『黄の王族』に封じられている間に封印術を改めて検証改良した私を完全に封じることはできなかった。それでも『封印に特化した能力』を持つ一族の能力を凝縮させた子供である『北の姫』による封印を解くことは不可能だった。

 封印を解くことはできないがある一定の能力は使用できる。そうして私は『願いを叶える水晶玉』として『願い』を叶えるべく取り組んだ。

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