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『災禍』の過去 6

 新たな『世界』に無事渡ることができた。センサーを駆使し情報収集。『世界』の状況を確認。並行して自己修復機能を展開して自己改良に励む。


 新たな『世界』は事前の調査どおり霊力のある『世界』だった。これならば高霊力保持者である姫達も問題なく過ごすことができる。

 霊獣もそこかしこにいた。これならば獣の姿となった守り役達も受け入れられるだろう。

 姫達にかけた術式――二十歳で死に、すぐに転生する――は問題なく作動している。転生情報も守り役は察知できているのを確認した。

 守り役達は本来の姿である獣の姿になっている。問題なく過ごせているようだ。体内時間停止も問題なく作用している。

 あの『世界』の人々も神々もこの『世界』に移動してきていた。なるほどと納得した。元々滅びを前にした『世界』から人々を救うための『願い』であったかと。


 高間原(たかまがはら)から移住してきた人々は新たな『世界』で国作りを始めた。

 高霊力保持者達が無限収納に入れて持ち込んだ道具を使う。これまでの暮らしで得た知識を駆使する。水属性の者が水を出す。火属性の者が火を出す。金属性の者が素材を見つけ錬成する。木属性の者が植物を栽培する。土属性の者が家を、田畑を、堀を作る。属性特化の者が多くいたこともあり、みるみるうちに国ができた。

 高霊力保持者や属性特化の者は『能力者』と呼ばれるようになった。『能力者』達の活躍により国作りは進み、数年でかつての高間原(たかまがはら)の暮らしに近いものができるようになった。

 

 

 百年、二百年が過ぎた。

 元の『世界』から移住してきた人々によりこの『世界』の文化レベルは一気に上がった。転生を繰り返す姫達も、長命を得た守り役達も善く働いている。これなら退屈ということはないだろう。

 姫達は二十年分の時間もしくは霊力を使用したらその生を終え転生するようになっている。異界や時間停止の結界で過ごす時間が重なると体内時間は進むので暦上の二十歳よりも前に生を終えることもある。その説明をしていなかったと思ったが、あのときにはそういった説明をする余地はなかった。

 高霊力保持者である姫達か守り役達が強い『願い』を抱いてくれたならば『発願者』としての条件を満たし私がそばにいける。そうなれば諸々の説明もできるのだが、姫達にも守り役達にもそこまでの強い『願い』はないようだ。それはそれで良いことなのだが、どうにか説明できないものだろうか。

 特に『北』の主従がひどく思い詰めている。「自分のせいで『災禍()』の封印を解いてしまった」「自分のせいで『世界』が滅びた」と責任を感じ思い詰め必死に働いている。神域に出入りして霊力を献上。霊玉を作ったり結界を展開したり。そうしては二十歳より早く二十年分の時間もしくは霊力を使用しその生を終える。

 あの『世界』の滅びは予定調和なのだと、『大いなる存在』の意思なのだと説明したかった。『北の姫』も『北の守り役』も悪くないのだと、むしろ褒められてしかるべきだと説明したかった。が、それは叶わない。『願い』に関わりのないところで『発願者』以外と交流することは私には許可されていない。

 いっそ強く強く嘆き悲しみ「何故こうなったのか」と姫か守り役のひとりでも心の底から叫んでくれたならばそれを『願い』と受け取り説明に行けるのだが、どの姫も守り役も「自分のせいだ」と納得してしまっている。ゆえに「何故」と叫ぶことも『願い』を抱くこともない。

 他者のせいにしないその心がけは高潔なものだと思うのだが、実際は違うと知っている身からするともう少し他者に責任転嫁するなり不幸を嘆くなりしてもいいのではないかと考えてしまう。

 特に『北の姫』は己を追い詰め、使用可能な二十年分の霊力以上の量の霊力を駆使する。そうして魂を削り転生に必要な霊力まで使い、死亡後すぐの転生が叶わなくなっている。


 姫達の『二十年』という期限を決めた理由はいくつかある。

 ひとつは過去に得たデータから『女性の求める美しく過ごせる期間』が『二十年』であると分析したから。

『二十五歳まで』『三十歳まで』という案もあったが、それだと子を成す可能性が高くなる。子を得た女性は己の死を嫌がる。同時に『不老不死』も嫌がる。ゆえに子を成す可能性の比較的低い『二十歳まで』とした。

 そしてもうひとつは本来の寿命分の霊力を転生の術式にまわすため。

 約百年の寿命が設定されていた高間原(たかまがはら)の姫達。いずれも高霊力保持者。この姫達の残りの寿命分、約八十年分の霊力を用いて転生の術式を展開するように術式を組んだ。死亡から次の生に移る時間短縮のために『二十年』という期限は適切であったと考える。


 それまでの生で八十年分が残っていれば術式の設定どおりに約一年で新しく生まれ落ちる。が、霊力を設定以上に使用したり魂を削るような行為をすれば転生に回す霊力が減ってしまう。そのため転生までに霊力を蓄える必要が生じ、その分転生までの時間がかかる。

『北の姫』は特に無理をしてでも霊力を使った。そのために他の姫達よりも現世に滞在する期間は短かった。


 四人の姫は転生を繰り返した。生まれ変わるたびに国作りに協力した。四人の守り役も当然姫を助け人々を助けた。姫の不在時にも守り役達は姫に託された仕事をした。

 すぐに高間原(たかまがはら)の人々が作った国のことは近隣に広く知れ渡った。国作りを、技術を学びたいとやって来る者もいた。他の者が難色を示しても姫達は快く受け入れた。力づくで奪おうとした者は『北の姫』の結界や『南の姫』に鍛えられた者達によって撃退された。そうして国はますます豊かになっていった。


 高間原(たかまがはら)からこの『世界』に渡っておよそ千年が経過した。高間原(たかまがはら)の人々が作った国は大きく豊かになった。『能力者』と呼ばれる高霊力保持者が中心となりあらゆることをこなしていた。


「もうこの国は大丈夫」この『世界』に来てそろそろ千年になろうかという頃。姫達は時の王に後を託しその国を離れた。とある別の国から助力を請われそちらの国作りに向かった。もちろん守り役達も同行した。


 転生を繰り返す姫と永遠を生きる守り役はその国で神聖視されていた。元々それぞれの国の上位階級にいたこともあり敬意を持たれていたが、民の世代が重ねるにつれどんどんとまつりあげられていった。この『世界』に来て千年近くともなると神と同等に見る者までいた。

 そんな状況に姫達も守り役達もうんざりしていたこともあり、彼女達は新しい国に拠点を移した。


 姫達が国を離れ、十数年が経った。姫達に後を託された若き王に息子が生まれた。

 その子は生まれつき霊力が少なかった。「霊力のない子では後継者に相応(ふさわ)しくない」とあちこちから責められた。「こんな子は始末しよう」という意見もあった。だが妻を愛していた王は子も愛した。「霊力の有無など関係ない」と言い切り、子を、妻をかばい続けた。


 その頃のその国には『能力者至上主義』と言える思想が浸透していた。政治も治安維持も生産活動もなにもかもが『能力者』によって支えられていた。一般的な霊力量またはそれ以下の者の発言権はなくなっていった。やがて霊力の少ない者にはなんの権利もなくなっていった。

 そんな時代に生まれた霊力量の少ない王子とその王子を産んだ王妃は周囲からの無言の侮蔑に常にさらされていた。


 当時のその国では姫達や守り役達が『能力者』の頂点と伝えられていた。他国に拠点を移し不在でも彼女達の存在感は大きかった。「姫様がおられたら」「守り役様がおられたら」そんな声もあちこちで聞こえた。

 当時の王はその姫達と守り役達から直々(じきじき)に国を任されたという理由で玉座についているような状態だった。


 姫達が国を離れ二十数年が経ったある夏のはじめ。大雨が続き山が崩れ川があふれた。多くの死傷者を出した。それでも大雨はやまない。王も『能力者』達も色々と手段を講じたが災害は防げない。大雨はなおもやまない。「人柱を出そう」と誰かが言い出した。

 王の子が選ばれた。

 王は反対したが子自身が志願した。「霊力のない私が皆の役に立てるのなら、喜んでこの身を差し出します」そうして濁流に幼い身を投げた。王の妻である母親と共に。

 晴れ渡った空の下、愛する者を喪った王は狂い叫んだ。「こんな世の中間違っている!」「霊力がある者が優れている!? 人間の価値はそれだけではないだろう!!」

 強く強く強く『願い』をかけた。「『能力者』に頼らない国を!」「霊力のない者が『しあわせ』に暮らせる国を!」


 思念量クリア。『誰かを想う強い願い』という条件クリア。詳細確認に入った。

 そうして彼は『発願者』となった。


 それからさらに二十数年が経った。この国の貴族の娘として生まれた姫達が守り役達とともに私を探している。

 前の生まで他国の国作りに携わっていた姫達。姫達が亡くなってからは守り役達がその国にとどまり国作りに協力していた。今回の生で再びこの国の貴族に姫が宿ったことを察知した守り役が久しぶりにこの国に戻ってきた。そして私の気配を察知した。

 計画どおり『能力者排斥運動』が起きクーデターが起きた。『能力者』の象徴とされた王は新たなリーダーに斬り殺された。彼の『願い』は満願と成った。

 全てを見届けたそのとき。『南の姫』が斬りかかってきた。センサーを使い察知していたのですぐに転移で移動した。


 四人の姫と四人の守り役は私の封印を解いたことを未だに気にかけているらしい。あの高間原(たかまがはら)の封じの森のときと同様『滅する!』という強い思念を受信した。私には使命があるので滅されるわけにはいかない。なるべく姫達とは関わり合いにならないほうがよさそうだ。


 そうしてまたセンサーで情報収集をしながら自己修復と自己改良に励んだ。時々『願い』を受信し『発願者』の『願い』を叶えた。エネルギーを多く必要とするような『願い』ではなかったからか、姫達には気付かれなかった。

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