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第百七十六話 突入

 ピリリリリ。


 話し合いを続けていたところに電話がかかってきた。ヒロのスマホだ。


「はい。ヒロです」

『ヒロさん! 坂本です!』

 スピーカーモードで通話を始めたヒロのスマホから後方支援の坂本さんの叫びが響く。


『また鬼が出ました!』

『堀川通の門から一直線にこの本拠地に向かっています!』


 風を展開して情報収集。

 坂本さんの言葉どおり、鬼がいた。

『堀川通の門から』と坂本さんは言っていたが、風を展開して俯瞰で視ている俺には全体像が視えた。


 鬼はすべての門から出現していた。

 ただし、内向きなのは堀川通の門のみ。

 あとの門はすべて外向きに鬼を出現させていた。そんなこともできるのかよくそう。


 市内中心部を取り囲む塀の外側に出現した鬼はおよそ三十。もしかしたらまだ増えるかもしれない。

 そのどれもが中ボスレベル。なかには宝玉持ちもいる。


 外向きに出現した鬼達は皆同じ方角へと足を運んでいる。どこかを目指している? どこを? 向かっているのは――南。

 南? ――もしや――!



「鬼が来る」

 俺の声に全員が表情を引き締めた。

 式神を展開して俺と同じように情報収集をしていたらしい守り役達やヒロもうなずく。


 瞬時に戦略を立てる。

 俺達はこっちに集中すべきだ。本拠地(ベース)本拠地(むこう)にいる人間でどうにかしてもらおう。

 竹さんの結界石があれば籠城できるか? さすがに保たないか?


本拠地(ベース)の結界、保つと思うか?」

「おそらくは無理だろう」

 黒陽が即答する。


「数が多い。一体ならばあの程度でも十分はじけるだろうが、今本拠地(あそこ)に向かっているのは、現時点で私が確認できただけで十三体。

 数が多い。レベルも高い。

 集中攻撃を受けたら破られる」


「――本拠地(ベース)に到達するまでに各個撃破するほうが確実か――?」

 俺のつぶやきに「おそらくな」と黒陽が答える。

 目を向けると緋炎様も西の姫もうなずいた。

 それにうなずきを返し、戦略を組む。ギリギリどうにかなりそうだ。


「ヒロ」

 手を伸ばし、スマホを受け取る。


「坂本さん。トモです」

『はい』

 俺の名乗りに坂本さんが反応する。


「俺達は戻れない。そっちは現状戦力でどうにかして。浅野さんはいる?」

『浅野です』

 すぐに浅野さんの声がした。


「浅野さん。

 そっちに向かっている鬼は現時点で十三体。

 ローテーション組んでた十五チーム全部出して。

 本拠地の守りに二チーム配置。他は各個撃破へ」

『はい』

「坂本さん。後方支援で妨害や幻術使えるひとがいたな?」

『います』

「そのひと達動員して。

 まずは通りを利用して妨害や幻術使って鬼を一体ずつに分散。

 鬼一体になったところでチームで討伐。

 絶対に一対一にならないように。

 回復役も各班にひとりはつけて」

『はい』


 指示を出している間にもこちらに鬼が近づいてくる。急がねば。


「あとはそっちに任せる。絶対に死ぬな。ヤバいと思ったら引け。最悪の最悪は本拠地(ベース)を捨ててコンビニへ逃げろ。いいな」

『『はい!!』』


 坂本さんと浅野さんの返事に通話を終わらせる。

 ヒロにスマホを返却し、ぐるりと全員に目を向ける。

 誰もが緊張しながらも闘志を燃やしていた。



「急ぎましょう! 鬼が来る前に決着をつけるわよ!」

 叫ぶ緋炎様に「はい!」と答える。


「竹!」

「はい!」

 西の姫の呼びかけにピッと背筋を伸ばす妻。


「ビル全体を囲う結界を!『災禍(さいか)』を逃さないように!」

「! はい!」

「ビル全体を囲ったら一階から侵入。徐々に範囲をせばめていきなさい!」

「はい!」

「智白!」

「はっ」

「竹を抱きかかえて移動させなさい。できる!?」

「無論」


 言うと同時に妻を抱き上げる。

 笛が吹きやすいように縦抱っこ。俺の腕に座らせるようにして、足をがっちりと固定した。


「これでどう? むずかしくない?」

 そっとたずねると愛しい妻は安心したようにほにゃりと笑った。

「大丈夫」

 信頼されてる! 誇らしい!!


「重くない?」

「ちっとも」

「トモさんは大丈夫?」

「大丈夫だよ」


 いつものやりとり。どこまでも俺の心配をする妻が愛おしくてたまらない。


「貴女は貴女のやるべきことだけに集中して。

 貴女のことは、俺が必ず守るから」


「なにがあっても、絶対に離さないから」


 決意を込めて彼女を見つめれば、彼女は一瞬驚いたように目を丸くした。

 が、すぐにくしゃりと泣きそうな表情になり、そっと顔を伏せた。

 こっそりと俺の肩に手を伸ばした彼女はそのまま俺に身体を預け、俺の頭に額を寄せた。


「―――うん」

 ちいさなちいさな、声が届いた。


「はなさないで」

「―――!!」


 ―――くっっっっそかわいいぃぃぃ!!

 ああもう! 俺の妻、天使か! 女神か!! なんでこんなにかわいらしいんだ!!

 もう絶対離さない! なにがあっても守り通す!! 『災禍(さいか)』だろうが『呪い』だろうが倒してやる! 絶対に彼女を奪わせない!!


 興奮のあまり抱いた腕に力が入り強く抱き締めてしまう。

 そんな俺の興奮や葛藤に気付かない妻は顔を上げ「えへへ」とちいさく微笑んだ。


「私、がんばる」

「うん」

「貴方が支えてくれるから。できる。がんばる」


 なんてこと言うんだこのひとは! そんなに俺のこと頼りにしてくれるのか! 任せてくれ! いくらでも頼ってくれ!!


 飛び出しそうな心臓も叫びもぐっと抑えたがニヤニヤと顔がゆるむのは抑えられない。

 だらしない顔になっていると思うのに、そんな俺を見る彼女はそれはそれはしあわせそうに笑った。


 ズキュゥゥゥン!

 なにその顔!

 そんなに俺のこと好きなの!? 俺を見てそんなにしあわせそうにしてくれるの!? 俺もしあわせだ! ああもう、好きだ!!



「オイ」

 突然耳元から聞こえた声にビクリと跳ねる。

 彼女をもたれさせている左肩の反対、右肩に黒陽がいた。いつの間に!?


「あまり浮かれるなよ?」

「………」

 ハイ。今落ち着きました。

 そんな思念を読んだらしい優秀な守り役は呆れたようにひとつため息をついた。


「どうせ聞いてなかっただろうから、もう一度説明するぞ」


 黒陽に指摘されて腕の妻が青くなる。いつの間にか話が進んでいたらしいと気付いてしまいオタオタしはじめた。

 それを落ち着かせるように黒陽がゆっくりと話す。


「姫がビル全体をおおう結界を展開したら、佑輝の『絶対切断』で一階正面玄関の結界のみを斬ります。

 そうして一階正面玄関から突入。

各フロアを確認しながら上階に進みます」


「そのフロアに『災禍(さいか)』がいないことを確認したら、そこの結界は縮める。

 そうやって確認しながら徐々に徐々に結界の範囲をせばめていきます。

 できますか?」


「わかります。できます」

 生真面目にコクリとうなずく妻。

 黒陽も彼女が理解したことがわかったのだろう。うなずいて続けた。


「『災禍(さいか)』を見つけたら、姫は結界を展開して逃げないようにだけしてください。

 封じようとする必要はありません。

 あとは菊様とヒロが対応します」


 その説明に妻はキョトンとした。


「封じなくていいの?」

「はい」

「蘭様が斬るんじゃないの?」

「それは菊様とヒロの対応次第です」


 どうやら俺達が寝ている間になにか進展があったらしい。

 その説明をする前に突入することになったと。


「とにかく、姫は結界を展開維持することだけに集中してください。

 トモは姫を運ぶことだけを考えろ。

 護衛はこの黒陽がします」


 黒陽の説明に妻とふたりでうなずく。

 彼女に目を向けると、こわばった、緊張しまくった顔をしていた。


「がんばろうね」

 わざとそう声をかけると、彼女は俺を見つめほにゃりと笑った。


「うん」

「大丈夫だよ。俺が守るからね」

「うん」


 そっと彼女に霊力を流す。彼女を守るつもりで。

 すぐに気付いてくれた彼女も俺に向かって霊力を流してきた。


 ふたりの霊力が循環する。ひとつになる。チカラが満ちる。


「俺達は『半身』だ」

「うん」

「ふたり一緒なら、(おぎな)い合える。支え合える」

「うん」

「絶対、死なせない」

「―――うん」


 コソコソとふたりでささやきあっていると「智白!」と西の姫に呼ばれた。

 妻を抱いたままそちらに向かう。

 

「内側の結界、解除します」

 ヒロが展開していたという結界を解除する。

 舞っていた桜の花びらは白露様が風でひとまとめにして西の姫がアイテムボックスにすべて収めた。

 配置してあった結界石も風で回収した白露様。これも西の姫がアイテムボックスに収める。


『バーチャルキョート』の結界のみになった。

 桜吹雪がなくなったために視界がクリアになった。

 目の前には六階建てのビル。


「竹」

「いけます」


 西の姫の短い確認にうなずく妻。

 バサリと翼を広げ、大きな赤い鳥の姿になった緋炎様が蘭様の肩から全員をぐるりと見回した。


「全員突入準備。竹様の結界がビル全体に展開したら突入。佑輝が一階入口の結界を切断したら順に侵入して。

 下から順に各フロアを確認。『災禍(さいか)』発見を第一目標とする」


 緋炎様の最終確認に全員がうなずく。

 それを確認して緋炎様が西の姫に顔を向けた。


「菊様」

 うなずいた西の姫。鬼の気配はどんどんと近づいてくる。


「竹!」

「はい!」


 西の姫の声に妻が応える。

 俺に抱かれた姿勢で笛を構えた。

 すう、と息を吸い込み、妻が唇を笛に添える。


 ヒイィィィ!

 高い音が周囲を清める。彼女の霊力が音に乗り結界を展開していく。

 事前に準備していたいくつもの陣を瞬時につなぎ合わせ、あっという間にビル全体を包み込む結界が展開した。


 尚も笛を吹き、結界に霊力を注ぐ妻。瞼を閉じ集中している彼女の額にうっすらと汗がにじむ。

 少しでも助けになればと俺の霊力を彼女に注ぐ。

 そうしながら風を薄く展開し全体の状況を確認する。



 市内中心部の門から出現した鬼はもう間もなくここに到着する。

 ヒロが、ナツが、晃がそちらに警戒を向けている。


「結界展開完了!」

 笛を吹いて話せない妻のかわりに黒陽が宣言する。

「佑輝!」

 緋炎様の声と同時にヒロが『バーチャルキョート』の結界を解く。一斉に正面玄関に向けて駆け出した!


 西の姫は白露様に、梅様は大きくなった蒼真様に乗って進む。俺も妻を抱き黒陽を肩に乗せたままそれに続く。

 すぐに正面玄関に到着。佑輝が刀を一閃!『災禍(さいか)』の展開していた結界が裂けた!

 その裂け目から突入! 弾かれることなく全員一階に突入できた!


 俺の腕の彼女は集中して笛を吹き続けている。彼女の邪魔をしないようしっかりと下半身を固定させ移動する。


 一階は誰もいなかった。ヒロも守り役達も式神を展開して確認。俺も風を展開して調査した。隠れるところもおかしなところもないと判断して一階を切り捨てる。妻が結界をワンフロアせばめた。


 二階も三階も同じように調査。どちらも異常なしとしてさらに結界をせばめる。


 内階段を駆け上がる。その間も妻は笛を吹き続ける。

災禍(さいか)』にこの笛の音が届いているかはわからないが、今のところ妨害はない。

 単に気付いていないのか、『現実世界』に逃げていないのか。

 駆けながら風を飛ばすが、やはり六階に侵入できないのでわからない。


 四階には数人の男がいた。『異界』に連れて来られたエンジニア。

 こいつらの思念も『読んだ』晃によると、保志のたくらみも、自分達がどうなるかも知らず、ドローン経由で送られてくる映像は『あくまでゲーム』だと思っている連中。


「さっきの!」と晃とヒロを指差す男達。

 水びたしのフロアをモップで拭く者、机やパソコンを運ぶ者。どうやら先の佑輝の一撃で破壊されたフロアを片付けていたようだ。


 さっきはここに『災禍(さいか)』がいたらしいが、晃が無反応なところを見るに今はいないらしい。

 ぐるりとフロア全体を見回す晃と守り役達。姫達も油断なく様子を探っている。


「いない」

「上へ」

 短くやりとりする姫達はさっさと上階へ駆け出す。

「お邪魔しました!」と晃が叫び後を追う。

「あっ」「待って!」と声がかかったが無視して俺もすぐさま続いた。

またしばらくおやすみします。

申し訳ありません。

次回は5月1日投稿予定です。

よろしければまたお付き合いくださいませ。

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