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第二十九話 日曜日ー竹さん(とタカさん)が来た

「竹さん!?」


 玄関を開けたらかわいいひとが立っていた。


「……その、おはようございます」


 なんだか恥ずかしそうに、いたたまれないというように、そっと目をそらして彼女が挨拶する。


 今日もかわいい。

 今日は白のロングスカート。ワンピースになっている。ヒラヒラフワフワしている。かわいい。

 それに若竹色のパーカー。前の部分が切り込みが入ったようになってボレロのようだ。

 白の靴下にスニーカーを履き、ちいさなポシェットを肩から下げている。

 ふんわりした彼女の雰囲気によく似合っている。

 だぶっとしたパーカーのおかげで体型もそんなにはっきりとわからない。あの大きな胸が目立つこともない。

 ただただ可愛らしい彼女から目が離せない。


 制服風の服も昨日のチュニックにズボンも可愛かったけれど、こういう女の子らしい服も似合うな! かわいい!

 髪はいつもどおり、真っ直ぐな長い髪を後ろでひとつに結んだだけ。あ。でも、なんか飾りつけてる。


 かわいいなあ。他にはどんな服が似合うかな。

 若竹色の服が多いけど、好きな色なのかな? あの母親達が『竹』という名前から勝手に選んでるのかな? でも明るめの色を選んでいるから春っぽくていいな!


 春といえば、桜色とかも似合いそうだよな。竹さん、色白いし。

 空色はどうかな。藤の薄紫もいいかも。いや、タンポポみたいな色もいいんじゃないか?

 ああ、何着ても何色でも似合いそう!



 彼女から目が離せない。

 服とか色とか余計なことばかりが頭をぐるぐるする。

 俺の脳味噌がピンクになってんじゃないか?


 じっと彼女を見つめていたら、彼女がそろりと顔を上げた。

 ――目が、合った!


 それだけでキュウゥゥン! と心臓締め付けられて息が止まる!

 かわいい! かわいい! かわいい!

 ナニその情けない顔! かわいすぎか!

 犬だったら耳ペタンコになってるだろう!


 あ。彼女に犬耳ついてる想像してしまった。

 かわいすぎる。

「きゅーん」て鳴いてる幻聴まで聞こえる。

 そんなのがダンボールに入ってたら即刻連れ帰るぞ!



「おっはよートモ!」


 ビックウゥゥッ!

 突然の声に全身跳ねた!

 あわてて声の方に視線を向けると、ニヤニヤしているタカさんがいた。


 え? いつから居た?

 え? 今の、見られてた!?

 息を飲んで固まっていたら竹さんの肩の上に黒陽がいるのに気付いた。

 今まで気付かなかった! どうなんだ俺!


 黒陽は呆れているのを隠すこともなくため息をついた。

 全部バレてる! 恥ずかしい!

 弁解を! と口を開こうとする俺より早くタカさんがグイグイ迫ってきた。


「昨日はパンありがとなー! 今朝いただいたよ! 旨かったよ!」

「ど、どういたしまして」

「それで、これ、お礼!」


「ハイ!」と大きな紙袋を押し付けられる。

 反射的に受け取って、チラリと中をのぞく。

 大きなタッパーがいくつも入っている。


「おかず?」

「そ! 今日はオレも作った!

 唐揚げと、白身魚のフライと、ポテトサラダと、ほうれん草のバター炒めと、肉じゃが!」

「……ありがと……」


 昨日もアキさんから大量におかずもらってるんだけど……。


「とりあえず入れてくれ」とタカさんに言われ、あわてて玄関を大きく開ける。


「どうぞ」とスリッパも出す。

「おっ邪魔っしまーす!」とタカさんはいつもの陽気な調子で上がり込む。

 それに従うように竹さんがおずおずと「……お邪魔します……」と入ってきた。


 と、タカさんが「お願いします」と黒陽に靴を差し出した。

「ウム」と黒陽がなにかすると、タカさんの靴が消えた。

 アイテムボックスに入れたのだとわかった。

 見れば竹さんも靴をアイテムボックスに収めている。


 なにかある。


 即座に感じた。

 つまり、このおかずもなにかの理由付けか。


「客間でいい?」

 四歳から付き合いのあるタカさんが相手なので気楽に聞いてみた。


「いんや。とりあえず台所で」

「了解」


 今日はタカさんが一緒だからか昨日も来たからか、竹さんも大人しくついてきてくれる。

 台所につくなりタカさんはまるで自宅のように勝手にグラスを出し、勝手に冷蔵庫を開けて茶を入れる。


「竹ちゃん。座って座って」

 アンタん家か。

 大人しく椅子に座った竹さんに「ハイ」とグラスを差し出すタカさん。

 チラリと俺を見る竹さんに俺からも「どうぞ」とすすめると「いただきます」とグラスを手にした。


 自分の茶も勝手に入れるタカさんに猪口(ちょこ)を渡すと察してくれ、黒陽に茶を出してくれた。


 その間に俺はもらったタッパーをテーブルに並べていく。どれもうまそうだ。

 だが、注文した買い物はどうしようかなぁ…。


 そう考えていたら丁度呼び鈴が鳴った。

 出てみるとネットスーパーの配達だった。

 受け取って台所に戻る。


「買い物?」

 タカさんの問いに「そう」と答える。

「今から料理しまくる予定だったから」


 一人暮らしの俺は基本的に日曜日に料理を一週間分作り置きする。

 それを弁当に詰め、夕食にしている。

 朝は簡単に済ませるから毎食料理する。


 今日も一週間分の作り置きを作る予定で材料を注文した。

 でもタカさんのおかずがあるからいらないよなぁ。この買い物どうしよう。



 そう考えたのはタカさんにあっさりと見抜かれたようだ。

「昨日のおかずまだ残ってるのか?」と聞かれ、タカさんのおかずの横に並べる。


「一週間分作るんだっけ?」

「うん。弁当と夕飯」

「今日何作る予定だったんだ?」

「きんぴらとか、シチューとか……」


 答えるとタカさんはガサガサと買い物をチェックした。


「こっちの日用品はトモ片付けな。

 料理はオレがしてやる」


「え。いいよ。あとで俺がやるよ」

 あわてて言ったが、タカさんは意外なくらい真面目な顔になった。


「急で悪いんだけど、トモの時間をもらいたい」


 いつもと違うタカさんの様子に気圧される。


 彼女と黒陽が同行していることから、彼女達の責務に関わることだと理解した。

 一昨日のハル、昨日の黒陽の様子から『バーチャルキョート』がなにか関わっているのだろう。

 俺が関わっていると知ったハルがタカさんを向かわせたのだとわかった。



 タカさんは俺と同じ霊玉守護者(たまもり)のヒロの父親で、俺のパソコン関係の師匠。

 四歳のときにハルとヒロを連れてウチに来たときにノートパソコンで仕事をするタカさんに俺が興味を持ち、それから色々教えてもらっている。

 ホワイトハッカーの会社もタカさんの紹介だ。


 タカさん自身は『半身』である妻の千明さんのサポートをすることを至上命題にしているので、今はホワイトハッカーもシステムエンジニアもしていない。

 だが、千明さんのために作った会社のシステムを構築したのはタカさんだし、安倍家のデジタル部門の立ち上げもタカさんの仕事だと聞いた。

 今でも情報収集は(おこた)っていないらしく、おそらくはすぐにでも現役に戻れるだけの実力の持ち主だ。


 実際安倍家でデジタル関係に問題が発生したらしょっちゅう駆り出されている。

 今回も駆り出されたのだろう。


「どのくらい?」

「六時間まではかからないと思う」

「わかった」


 了解すると竹さんがホッとしたように息をついたのがわかった。


「トモの用事先に済ませて昼飯食って、それから頼みたい」

 了承するとタカさんが質問してきた。


「トモ、今日は何事する予定だったんだ?」

「ひたすら家事」

 正直に答える。

 とはいえ、洗濯は終わったし掃除はササッとすればいいし、なんならしなくてもいいし、


「掃除なら私が浄化をかけてやる」

「……浄化で『掃除』になるのか?」

「駄目か?」


 キョトンと首をかしげる亀になんとも言えず「……とりあえずやってみよう」と答える。


「料理はどうする? 今日の昼飯はこれとこれと、シチュー作るのでどうだ?」

「そうだね。あとは……」


 タカさんと話をして一週間分の献立ができた。

 余った肉類は冷凍したりと処理してくれるという。ありがたい。


「ほい。じゃあ、目標十一時昼食開始。十二時仕事開始。十八時終了。やるぞー。おー!」


「おー!」とつられて腕を振り上げる竹さんがかわいい。つられて「おー」と腕を上げる。

 そんな俺にチラリと目を向けた竹さんが「うふふ」と笑った。

 楽しそうに。


「―――!」


 か わ い す ぎ か !


 心臓止まる! 息止まる! 死ぬ!

 赤くなっているのが自分でもわかる。

 それでもなんとか微笑みの顔を作ると、彼女はまたうれしそうに微笑んだ。


 だから死ぬ! かわいいが過ぎて死ぬ!

 それでも目が離せなくてじっと彼女を見つめる俺に、黒陽は呆れ、タカさんはただニヤニヤとしていた。

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