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ヒロ 35 デジタルプラネットへ

ヒロ視点です。

時間は少し戻って『ヒロ 34』のつづきからです。

「トモが起きたら連れてくる」

 そう言っていそいそとトモのもとに戻る竹さんを見送ると、誰からともなくため息が落ちた。


「――なにアレ。あれ、ホントに竹?」

 梅様のつぶやきに蘭様も「別人じゃないか?」なんておっしゃる。

 菊様は苦笑をうかべ「ホントにね」って呆れたようにおっしゃった。


「まえに言ったじゃないか。『半身』のところでは竹様『甘々のデレッデレだよ』って」

 蒼真様が梅様にそうおっしゃる。どうやらトモと竹さんは前世でもラブラブだったらしい。


「それにしたって」

「ホントよね。この目で見ても信じられないわ」

「オレ知らないんだけど。竹の『半身』ってどんなヤツ?」

白蓮(ウチ)の人間だったのよ。智白って言って――」

「え!? そうなの!?」

「転生してるってことか!?」

「そうそう」


 姫様方の話に守り役様達も加わって高間原(たかまがはら)の頃の話や最近の話をしていた、そのとき。


 コンコンコン。

 ノックの音に立ち上がり扉に向かう。

 そっと扉を細く開くと、後方支援の坂本さんがいた。


「ヒロさん。ちょっとご報告したいことが――」

「どうしました?」


 ボソボソふたりで話してたら菊様に気付かれた。

「坂本? 入りなさい」なんて名指しされて坂本さんは「ハッ!」って緊張の面持ちで入室した。


 安倍家では『姫』と『守り役』について厳しく教育されている。

『主座様の恩人の姫』である竹さんはもとより『そのお仲間の姫』に対しても『守り役』に対しても敬意を払い協力することを教育されている。


 そんな『姫』と『守り役』に囲まれ、坂本さんはガッチガチになりながらも発言した。


「ご報告します! 現在、一部のユーザーに対して『ミッション』が発表されました!」


 は?


「ぼくら、受け取ってないですよ?」

 ぼくらはまあ正規でないルートから『異界(ここ)』に来たから受け取れないにしても、ナツと梅様蘭様は正規ルートから来てこれまでも『ミッション』を受け取っている。

 その三人が受け取っていないのはどういうこと?


「どうやら今回新しく本拠地(ここ)に来た者にだけ流されたようです」

「……つまり、『災禍(むこう)』は個人の状況を把握していて、狙ったスマホに『ミッション』を流したり流さなかったりできるということね……」


「チッ」と舌打ちする菊様に坂本さんはビビりつつも「ご明察でございます」と頭を下げる。


「内容は?」

 菊様に重ねて問われ、坂本さんがピシッと背筋を伸ばし、報告する。


「『北の姫を探せ』と」

「「「!!」」」


 息を飲んだ。なんで。そんな。竹さんが来てることもバレてる。

 一般人に竹さんを捕まえさせようとしている?

 竹さんが捕まったらどうなるの?


「どうやって『北の姫』だってわかるのかな」

 晃の質問に坂本さんが答える。


「特徴も一緒に流されていました。

『膝より長い髪』『竜宮城の乙姫様のような恰好』『袴と千早の色は若竹色』」


 それだけの情報があれば竹さんを見つけられる。


「探してどうするの?」

 続く晃の質問にも坂本さんは答える。


「『ミッション挑戦中』画面にしたスマホに『北の姫見つけた』と声をかければ陣が浮かぶようです。

 その陣を『北の姫』に向けたら姫が消える。

 アイテムが『姫』の姿になって歩いているから、それを捕まえアイテムをゲットしろと、そういうことのようです」


 坂本さんの説明にぼくは自分の血の気が引いていくのを感じていた。

 え? 竹さん、いつもの巫女装束だったよ? そんなの『見つけてくれ』って言ってるようなもんじゃないか。

 トモのところに戻ったけど、そうだ。護衛は黒陽様だけだ!


 油断した! 完全に油断してた!

 これだけ不特定多数の人間がいるんだ。警戒してぼくか晃が護衛につくべきだったのに!! 甘かった!


 自分の未熟に青くなるぼくに坂本さんもなにか察したらしい。

「………『北の姫』様は、トモさんとご一緒ですよね……?」なんておそるおそるたずねてくる。


「………さっきまでここにいました。今、トモのところに戻っているところのはずです………」


 ぼくの答えに坂本さんも青くなった。

「い、急いで連絡を――」とスマホを取り出した、そのとき。


 バン!


 壊れるんじゃないかって勢いで、扉が開いた!

「トモ」

「竹さんは」

 顔面蒼白で鬼気迫る表情でぼくに迫る、その様子に、察した。


 竹さんはいなくなった。


 ―――ヤバい!


 バッと菊様に顔を向けると、菊様は般若もかくやという表情になっておられた。

 その眼が金色になっておられる。

 非常事態の気配にぼくらも一気に緊張が高まる!


「黒陽!」

 突然トモが叫んだ! と思ったら部屋を飛び出した!

「追いなさい!」

 バッと白露様に飛び乗る菊様。飛び出す白露様につられるように全員駆け出した!


 ぼくらと蘭様は駆けて。梅様は大きくなった蒼真様に乗って。緋炎様は自力で飛んで、先を駆けるトモと白露様を追う。

 四条通の結界の塀はぴょーんと飛び越えた。そのまま南へ、南へと駆ける!

 着いたところは予想通り、伏見のデジタルプラネットだった。


 ドン! いくつもの水刃がビルを襲う! でも全部跳ね返されて大きな黒い亀を傷つけた!


「黒陽!!」

 トモがすぐに駆け寄った。え。あれ、黒陽様!? なんであんなに大っきくなってんの? ていうか、竹さんは!?


 黒陽様が簡単に説明してくれたところによると、やっぱり『ミッション』を受けた人物に転移陣で転移させられたらしい。

 転移したそこにデジタルプラネットの社長と『災禍(さいか)』がいた。

 逃げようとしたけど黒陽様だけがここに飛ばされた。


 多分守り役様がいたら邪魔だからって排除されたんだろうね。

 ビルは結界が張ってあって侵入できないから、どうにか結界を破ろうとできる範囲の霊力量で出せる水刃をいくつも使って攻撃してた。でも効果はなくて、ことごとく自分に跳ね返ってたみたい。


 蒼真様がすぐに黒陽様に治癒をかけて傷はふさがった。

 すぐさま「トモ! 頼む!」と叫ぶ黒陽様に「まかせろ!」とトモが応じる!


 飛び出すトモの肩に黒陽様が飛び乗る。

 なにもない空間を蹴って駆け上がるトモだけど、まっすぐに進まない。なんかカクカク動いてる。

 多分アレだね。『道』が消えてるんだね。前にデジタルプラネットに侵入しようとしたときも「『道』をどんどん変えられた」って言ってたもんね。

 つまり、今あそこに『災禍(さいか)』がいて、トモの侵入を防ごうとしていることは間違いがないね。



「菊様!」

 緋炎様が叫ぶ。


「これでは間に合いません! 祐輝を使います!」

「許可する!」

「祐輝!」

「! ハイッ!!」

 緋炎様に呼ばれた祐輝が直立不動で返事をする。


「特殊能力であのビルを結界ごと斬りなさい!」

「了解しました!」


 ずわっと『バーチャルキョート』の装備品の大剣を取り出す祐輝。


「トモが上の階を目指してるわ! 下は放置! 六階を狙いなさい!」

「了解です!!」


 トモは必死で駆けている。それを見上げながら、祐輝は気を練り始めた。

「ぬぬぬぬぬぬ」

 どんどんと霊力が刀に込められていく。その様子にハッとした。

 高霊力の術も技も使えないって言ってなかった!? これ、ダメなんじゃ――。

「ちょっと祐――」止めようとした、そのとき。


「トモ! どけぇぇ!!」

 祐輝は叫び、刀を振り上げた!

「絶・対・切・断!」


 ズガガガガン!! すさまじい大音声があがり、ビルの上階の壁面に縦に亀裂が入った!!

 と、五階部分からブシャーッって水が噴き出した! なに!? なんで!?


「あの水! あぶない! 触れるな!!」

 蒼真様が叫ぶ!

「霊力を奪う水だ! 下がれ!」

 は!? なにそれ!! そんなものがあるの!?


 下がろうとしたぼくの横で晃が飛び出した!

「晃!?」

「四階にひとがいる!」

 あああ。『水がかかるとあぶないですよ』って逃がしに行くのか。もう! お人好しなんだから!!


「ナツと佑輝はここにいて!」

「わかった!」の返事を後ろに聞きながら晃を追う。トモは五階に入っていった。なんで? 竹さんがいるのは五階なの? まあトモなら間違わないだろう。



 四階部分の亀裂は上階ほど大きくなかった。それでもぼくらひとりが入れるくらいには開けている。

 天井部分に近い、広い亀裂からビル内部に侵入すると、反対の壁際に男性が数人固まっていた。

 どうやら突然の爆発にあわてて避難したらしい。


 部屋の中は報告で聞いた『現実世界』のデジタルプラネットと同じく、机の上にいくつものモニタとキーボードがあった。どうも祐輝の一撃の衝撃を受けたらしく、どこも倒れたりひっくりかえったりして部屋の中はぐちゃぐちゃになっていた。


 ぼくらの侵入した亀裂から上の水が流れ伝い、床に水たまりを広げていた。

 侵入するときに水を浴びたけど、確かにぐっと霊力が流されたカンジがした。

 すぐさま術で晃と自分を乾かす。なるべく水に触れないように気を付けて部屋の奥に進んだ。


「皆さん!」晃が叫ぶ。

「この水は危険です! 絶対に触れないようにしてください!」


 言いながら晃は火を出し、少しでも水を蒸発させようとしている。仕方ないからぼくも水を操作してそれ以上部屋に入らないようにする。

 けど、なんかうまくいかない。この水が操作するための霊力を奪ってる気がする。


「なんだあんたらは!」「どこから来た!?」

 騒ぐ男性の奥で守られるようにしていたひとが出てきた。

 そのひとを目にして、息を飲んだ。


 痩せこけた、白髪の老人。

 保志 叶多! なんでここに!?


「なんのつもりだ!!」

 白髪の老人はいきり立ちぼくらにつかつかと近寄ってきた。

 それより早く晃が動いた。

「この水は危険です! 下がって! 別の部屋に移動を――」

「うるさい!」

 てっきり社長を止めるのかと思った晃はなにかに気付き、社長をスルーしてさらに奥に行った。

 だから仕方なくぼくが社長を取り押さえ「下がってください」って押し返そうとした。


「貴様らがこんなことをしたのか!?

 一体なにをしたのかわかっているのか!

 せっかく貯めた水が!!

 これでは計画が台無しじゃないか!!」


 癇癪(かんしゃく)を起こしたようにぼくにつかみかかる老人。


「こんなことをして許されるとおもっているのか!!」

 えらそうにそんなことを怒鳴られて、さすがのぼくもムッとした。


「それはこちらの台詞ですが?」

「なにぃ?」

 バシバシとにらみ合っていたその間に晃は一番奥にいた若い男性の腕をつかんでいた。


「! そいつを離せ!」


 社長はぼくに背を向け、驚き固まる男性から引きはがすように晃の腕をつかんだ。

 男性の腕をつかんだままの晃がのろりと顔を社長に向けた。


 どこか呆然とした晃の目に、さすがの社長も気圧されたらしい。

「む」とひとつうなり、手を引いた。

 それにつられるように晃も男性から手を離した。

 じっと社長をみつめる晃に、社長が後ずさる。周りの男性達も晃の無言の迫力に何も言えずただじっと見守っていた。


 なに? なにする気?

 晃がなにを考えているのか、なにをしようとしているのかわからなくて、見守るしかできない。

 どうしようかと困っていたら。


「晃!」

 突然伸びた腕が晃の腕をぐっとつかんだ。

 祐輝だった。ぼくの横にはナツがいた。


「菊様が『連れ戻せ』って」

 コソリとナツが耳打ちしてくれる。

 うなずき、晃の様子を見ると、なんか目が覚めたみたいにオタオタしてる。


「行くぞ!」

 祐輝にひっぱられながら、それでも晃は男性達に向けて叫んだ。


「この水は危険です! できれば別室に避難してください!」

「ああもう! 放っとけ!! 行くぞ!!」

「すぐに助けますから!」


 ―――?

 今、晃、なんかへんなこと言った――?


 疑問が形になろうとしていたのに、ナツに「行くよ」とひっぱられたせいで霧散してしまった。

 最後に社長をにらみつけてからナツ達の後を追ってビルを飛び出した。

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