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閑話 竹 6『災禍』

 ヒロさん達と別れて急いでトモさんのいるお部屋を目指す。

 なんだか周りがざわざわしている気がする。ひとがたくさんいる。

 みんなゲームの『バーチャルキョート』の服を着てる。私、高間原(たかまがはら)の服だけど、いいかな? 私も『バーチャルキョート』の服にしたほうがいいかな? トモさんが起きたら相談してみよう。


 角を曲がる。あと少しでトモさんのいるお部屋。

 急いで向かっていた、そのとき。


「見つけた!」


 突然、通路の向こうから現れたひとが指さしてきた。

 黒陽が警戒してる。私も足が止まった。


 まだ若くみえる男のひと。 

『バーチャルキョート』の剣士の服を着て、手にスマホを持っている。

 たたっと駆け寄ってくるから壁に背をつけて警戒態勢をとった。


 結界――自分の周りには展開できてる。肩にいる黒陽も結界の範囲内。

 いざというときのために弱い水の術を左手の中に待機させる。


「なあなあ。あんた、『北の姫』だろ!?」

「!? なんで、それを――」


 現代に高間原(たかまがはら)のことは伝わっていない。ヒトで知っているのは安倍家のひとくらい。

 てことは、このひと、安倍家のひと?


 そう思ってたら男のひとが手にしていたスマホの画面をパッと私に向けた。

「『北の姫』見ーつけた!」

 その画面上にあったのは。


「!!」


 あっと思ったときにはもう違う場所にいた!

 ここどこ!? 真っ暗! お外じゃないみたいだけど――!?


 向けられたスマホの画面に映し出されていたのは、転移陣。

 五千年前、私達を高間原(たかまがはら)から落としたのと同じ感じがした。

 なんで!? なんであの男のひとがそんなものを持ってるの!?


 私の立つ足元の床が淡く光ってる。まるい、なにかの陣。これ、もしかして!


高間原(たかまがはら)の『黄』の王城にあったものと同じものです」

「黒陽」


 よかった。黒陽が一緒ならどうにかなるかも。


「………申し訳ありません姫。この陣から逃れることは、私には不可能のようです」

「!!」


 そんな! 黒陽でもどうにできないなら、もうこの陣から逃れられないの――!?


 試しに、と陣の外側に出ようとした。描かれている陣から手足を出そうとしたけど弾かれた!

 なんか壁がある。ペタペタと手のひらで探ってみるけど、継ぎ目もなにもない。円筒に閉じ込められてるみたい。


 どうしよう。どうしたらいいんだろう。

 トモさんのところに帰りたいのに。あのひとのそばにいたいのに。


 ―――そうだ! 転移!


 いつも使ってる転移は使えないけど、『バーチャルキョート』で使われている術なら使えるんじゃないかな!?


「それならいけるかもしれません」って黒陽も言ってくれる。


 試しにやってみよう。

 ええと、アイテムボックスに発動寸前にした陣を込めた杖を用意してた。転移先をトモさんに指定。できるかな……?


 アイテムボックスを思い浮かべながらその中の陣をいじる。あ。できそうかも。

 よーし。じゃあ転移を――。


 してみよう、と思ったそのとき。



「ようこそ。『北の姫』」


 コツ。コツ。

 靴音から誰かが近づいてきているとわかった。誰!? なに!?


 じり、とあとずさる。陣の中央にまで戻された。

 その『誰か』はどんどん近寄ってきて、陣のすぐそばまで来た。

 陣の放つ淡い光がそのひとを浮かび上がらせた。


 痩せた白髪(はくはつ)のおじいさん。落ちくぼんだギラギラしたその目に見覚えがあった。


『バーチャルキョート』を作った、デジタルプラネットの社長。

『宿主』保志 叶多!


 ぎゅっと口を引き結び、ギッとにらみつけた。

 このひとがいるということは、ここはデジタルプラネットのビル? 六階の社長室?


「私の名は保志 叶多」

 保志社長はニヤリと(わら)った。

 その右手に水晶玉を持っていた。


 ――あれは。あれこそが――『災禍(さいか)』!


 認識した途端『災禍(さいか)』の気配が刺さる。こわい。こわい。逃げなきゃ!

 発動寸前にしていた転移陣を展開!

 取り出した杖をアイテムボックスから取り出して床に突き立てた!

 床に陣が広がった! けど、最初の陣に飲み込まれて消えてしまった!


「おやおや。せっかくご招待したんだ。お茶の一杯でも飲んでいってくれたまえよ」


 転移に失敗したと社長にもわかったんだろう。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて私を見ていた。


 こわくない。くやしくない。

 そんなふうに見せるように社長をにらむ。

 その間にもう一度転移陣を使う。床がダメなら頭上に展開!

 展開したかに見えた転移陣はパキリと音を立てて散った。――失敗!?


 ――ううん。諦めない。

 アイテムボックスに隠しておいた転移陣はまだある。大丈夫。逃げられる!



『諦めないでね』

 結婚式のあと。トモさんに言われた。

 

『なにがあっても。どんなことになっても。

 絶対に最後の最後まで、諦めないでね』


『どんなに絶望的な状況でも。最後の最後まで。

 諦めないで。

 絶対に「俺のところに帰る」って、信じてがんばって』



 うん。がんばる。

 約束したから。

 諦めない。

 絶対に貴方のところに帰る!



 にらむ私をどう感じているのか、社長はニヤニヤと嫌な笑みを向けてくる。


「――こんな小娘がお前の封印を解けるのか?」

「そうです」


「!!」



 今のは――『災禍(さいか)』!

 そんな。水晶玉の状態でも話ができるの!? 四百年前の封印は弱まってるの!?


 内心ではオロオロしてるのをかくして、グッと拳を握った。

 弱いところは見せない! 王族らしく! 毅然と!!


 これまでに教わったことを精一杯かき集めて、どうにかまっすぐに立つ。

 こわい。どうしよう。トモさん。トモさん!!


「姫」

 こっそりと黒陽が声をかけてくれる。

「ご自身にかけている結界だけは剥がされないようにしてください。――できますか?」


《がんばる》

 思念で答えると黒陽がうなずいたのがわかった。


「発動させる『バーチャルキョート』の転移陣。

 床も頭上も『災禍(さいか)』の陣に消されます。

 姫の身体に直接展開させましょう」


 その手があった。

 すぐに準備。使える陣はあとふたつ。一回失敗しても大丈夫!



 私達がコソコソ話してる間に社長も『災禍(さいか)』と話をしていた。


「どうすれば封印は解ける?」

「『北の姫』が手のひらで私に触れれば、それだけで封印は解けます」

「フム」


「どうすれば触れさせられるかな?」

 社長が右手に持った水晶玉を私に差し出した。

 でも私を捕らえている結界がその手をバチッと弾いた!


「チッ」と舌打ちした社長。


「この結界を解け」

「了解しました」


 ふ、と足元の陣が消えた! 今だ!!


 肩の黒陽が水刃を飛ばした! でも社長のすぐ手前で弾かれた!

 その隙に転移陣を展開! 陣が込められた杖の先を私の身体に押し当てる!

 転移陣が広がった! 行ける!!


 そう思ったのに。


 パチン。

 社長が指を鳴らした。

 その瞬間、転移陣はパッと散ってしまった!


 散った陣のカケラが私の手足にからみつく! なに!? なにこれ!!


「姫!!」

 黒陽が結界を展開しようとしたけど発動しない!

 私の身体に常に自動展開している結界は生きてる。だから直接肌に触れることはないけれど………! 身動きが、取れない!


 黒陽がちいさな刀を取り出して陣のカケラを斬ろうとしてくれる。でも刃が立たない!


 黒陽が焦ってる。黒陽が焦るなんて!

 どうしよう。どうしよう。どうすれば!



「ハハハハハ!」

 足掻く私に社長は楽しそうに笑った。


「どうした『北の姫』。身動きが取れていないじゃないか。

 どうした『守り役』。大事な『姫』を守れないじゃないか!」


「ハハハハハ!」と社長はまた楽しそうに笑った。



 このひと、こわれてる。


 ひとが苦しむ(さま)を見て(よろこ)ぶなんて。


 前にこのひとの記憶を『視た』。

 家族想いのやさしい少年だった。

 他人(ひと)を思いやることのできる少年だった。

 それが。こんな。


 ――私が『災禍(さいか)』の封印を解いたから――


災禍(さいか)』さえいなければ、このひとは家族を喪わなかった。

災禍(さいか)』さえいなければ、このひとは罪を犯すことはなかった。

災禍(さいか)』さえいなければ、こんな他人(ひと)がもがき苦しむのを悦ぶような人間(ひと)にならなかった。


 私のせいで――!


 私のせいでこのひとは罪を犯した。

 私のせいでこのひとはココロをこわした。


 申し訳なくて、自分が情けなくて、ポロリと涙が落ちた。


 私の涙に気付いた社長はうれしそうに(わら)った。


「悔しいだろう。情けないだろう!

 どれほどのチカラを持っていようとも、所詮は小娘!

 大したことはできないんだよ!」


「ハハハハハ!」と嗤う社長に黒陽がギリッと歯ぎしりをした。

 黒陽、怒ってる。悔しがってる。

 ごめんなさい。私がダメな子だから。

 私が『災禍(さいか)』の封印を解いたから。



『貴女は「ダメな子」じゃないよ』

『「俺の大切なひと」だよ』



 胸の奥でトモさんが笑ってくれる。

 やさしい風が、あたたかい風が私を包む。


 私の『半身』。私の唯一。

 ただひとりの、私の大切なひと。


 大好きなひと。


 

『好きだよ』

『大好き』


 トモさんが笑ってくれる。



 好き。

 大好き。


 諦めない。必ず帰る。

 あのひとのところへ。

 私の居る場所は、あのひとのところだから。



 キッと社長をにらむ。

 負けない! 諦めない! 絶対にあのひとのところへ帰る!


 私ににらまれた社長がムッとしたのがわかった。

 不機嫌そうににらまれたけど、負けない!

 こわくない! あのひとを失うこわさに比べたら、あなたなんかこわくない!!


「チッ」って舌打ちされた。

「生意気な」なんて言われても負けない!



 どうにか転移陣を発動させなきゃ。

《黒陽》

 思念で呼びかけたら、陣のカケラを斬ろうとしていた黒陽が手を止めた。


《転移陣を仕込んだ杖を出す。発動させて》

「是」

 ちいさく答える黒陽。


《――行きます!》

 アイテムボックスから杖を取り出そうとした、その瞬間!

 社長がバッと手を伸ばしてきた!


 びっくりして一歩下がった。そのせいでアイテムボックスから杖が出せなかった!

 社長の手は私の肩――黒陽の目の前に伸びた!

 その瞬間! 黒陽が消えた!!


「!!」


 息を飲む私に社長はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。


「邪魔な守り役は退場してもらった」


 退場!? どういう意味!? 黒陽は――!?


 気配を探るけど『災禍(さいか)』の気配が強すぎてわからない。黒陽は!? 無事なの!?


「ひとの心配をしている場合だと思うかね」

 ニヤニヤと嗤う社長。パチンと指を鳴らした。

 途端に身体にまとわりついていた陣のカケラが強く拘束してくる!

 両腕を真正面に伸ばされて身動きが取れない。それでも必死に手を拳に握る。


 ――いや。イヤ! こわい! トモさん! トモさん!!



 ニヤニヤと嗤う社長が右手に持った水晶玉を突き出してくる。


「さあ。この水晶玉を持て」


 ふるふると首を振る。そんなこと、できない。『災禍(さいか)』の封印を解くなんて、しちゃいけない。


 高間原(たかまがはら)の二の舞にするわけにはいかない。

 これ以上、誰も死なせるわけにはいかない!


 社長はムッとした。

 こわいお顔でにらんできた! こわい! でも、負けない!


 トモさん。

 トモさん。

 チカラを貸して!


 社長がムリヤリ水晶玉を私に押し付けようとする。

『ステータスオープン!』

 頭の中で念じて透明な板を出す。結界を展開させる!


 予想どおり『バーチャルキョート』の術は使える!

 バチッと衝撃が走り、社長は顔をしかめた。


「――生意気な――!」

 

 こわい。こわい。こわい!

 助けてトモさん!

 負けないように。貴方のところに帰れるように。

 チカラを貸して!!



 胸の中の風が身体のナカを駆け巡る!


『がんばれ』『がんばれ』

『大丈夫』『がんばれ』


 やさしい風が励ましてくれる。頭を、ほっぺを、背中をなでてくれる。


 私を、満たしてくれる。



 うん。がんばる。負けない。

 絶対に貴方のところに帰る!



 あのひとの風が私を強くする。霊力が満たされる!


 私は『黒』の一族。

 封印や結界に特化した一族。

 それだけじゃない。解呪も無効化も得意な一族。

 だから、こんな拘束も、解ける!!


 解ける!!


 グッと全身に霊力をみなぎらせる!

 その瞬間、私を拘束していた陣のカケラがポロリと取れた! 今だ!


 身体強化発動! 動作倍速!

 バッと後ろに飛び退き社長と距離を取る!

 アイテムボックスから発動寸前にした杖を取り出す! 転移陣発動!


「逃がすな!」

「了解しました」


 バチィッ!

「きゃあっ!!」


 発動した転移陣が弾けた! 持っていた杖も爆発した!

 びっくりしてふらついた途端、ドンッて押された!


 床にうつ伏せに倒された。社長が私の背中に馬乗りになってる。

 痛い。重い。苦しい。こわい。

 助けて。トモさん。トモさん!


「――手こずらせおって……!」


 なんでこのひと私に乗れるの!? なんで結界効かないの!? 承認がなかったら私に触れようとしただけで弾かれるはずなのに!!


災禍(さいか)』のせい!?

災禍(さいか)』がナニカしてるの!?


 ヤだ。こわい。痛い。苦しい。

 助けて。助けて。トモさん! トモさん!!


 ぎゅっと目をつぶって両手を肩の下に隠した。亀みたいにちいさくなって歯を食いしばった。


 こわい。こわい。でも、負けない。

 トモさん。チカラを貸して。トモさん!


「手、を、出、せ!」

「イヤ!!」


 ギギギ、って社長が私の腕を掴んで引っ張り出そうとする。でも、負けない!

 身体強化がかかってるからいつもより力持ちになってる。丈夫にもなってる。負けない。負けない!!


 ゴッ。

 頭を殴られた。

 痛い。でも我慢できる。

 負けない。諦めない。絶対に諦めない!


 トモさんと約束したんだもん。

 絶対に『トモさんのところに帰る』って。

 約束したんだもん!



 これまでの私はすぐに諦めてた。

 ココロのどこかで『どうせダメだから』って見切りをつけてた。

 でも、トモさんにお願いされた。


『諦めないで』


『どんなに絶望的な状況でも、最後の最後まで諦めないで』


 約束したから。

 諦めないって、約束したから。


 だから、諦めない。

 絶対にここから逃げ出して、あのひとのところに帰る!


 ゴッ。ゴッ。

 何度も何度も殴られる。

 痛い。こわい。でも、負けない!


 私のナカを風が吹く。

『がんばれ』『がんばれ』って励ましてくれる。


 がんばる。負けない。

 待っててトモさん。

 絶対に帰るから。

 貴方のところに帰るから!



「チッ」社長が舌打ちしたのがわかった。


「どうにかしろ」

「具体的にお願いします」

 私の背中で会話が続く。


「この娘の手を開かせろ」

「了解しました」


「―――カ――ッ」


 息、が、でき、な、い――!?


 突然息ができなくなった。

 首を絞められているわけでも、口をふさがれているわけでもないのに。

 なんで!? なにこれ!?


 ――苦し、い。

 ヤ、だ。死にた、く、ない。


 あのひとの、ところ、へ。

 帰る。帰、る――。




「――なにをした?」


 背中が軽くなった。コツ、コツ、と靴音が聞こえる。


「北の姫の顔周辺の酸素濃度を下げました。

 それにより窒息を引き起こし意識不明の状態にしました」


「なるほど。やるな」


 ぼんやりする。誰かが腕を引き抜いた。

 ぺたり。なにか冷たいモノが手に触れる。

 その途端!


 ド!


 とてつもない大きなチカラがあふれた!

 激しい爆発の中心で、立つことも指を動かすこともできない。


 誰かが私の前に立った。


「封印を解いていただき、感謝する」


 誰? なに?

 どこかでそんなことを言われた。

 いつだっけ。どこだっけ。


 それよりも、帰らなきゃ。あのひとのところへ。

 私の愛するあのひとのところへ。




「現在の姫は高間原(たかまがはら)にいたときよりも霊力か満ちています。

 これならば、姫ひとりでこれまでに得た『(にえ)』すべてに相当します」


「つまり?」

「姫を『(にえ)』とすれば、当初の計画どおり『現実世界』と『異界(ここ)』を逆転させることが可能となります」


「つまり、京都に鬼を呼び出し、皆殺しにできるということか」

「そのとおりです」


「―――ハハハハハ!

 やはり天はおれに味方しているんだ!

 神仏がおれを導いてくれているんだ!

『間違った人間達を懲らしめろ』と。

『正しい世界に導け』と!!」


「じゃあすぐに殺そう」

「殺すのは得策ではないかと」

「ならどうする?」

「他の『(にえ)』同様、沈めるのが得策かと」

「ああ。『アレ』か」


「『霊力をしぼり取る』だったか?」

「はい」

「電池みたいにその水から霊力を供給するんだったな」

「そうです」


「北の姫は水属性特化なので、水にはよく溶けると予測されます」

「フム」


「じゃあそのようにしろ」

「了解しました」


 ズブリ。ズブリ。床に沈む。

 と、スポンと抜けた。

 と思ったら、ドボン! と音を立てて水の中に落とされた。


 沈んでいく。どこに? 底に?

 ぼんやりする視界の先にたくさんのナニカが敷き詰められているのが見えた。

 あれは、ナニ? あれは――骨――?


『他の「(にえ)」同様、沈める』

 さっき誰かが言ってた。

 私は水属性特化だから『水によく溶ける』って。

 私も溶けてああなるんだろう。


 沈んでいく。

 ぼんやりする視界にうつるのは、自分の腕。

 左手の指でナニカがキラリと光った。


 あれは――指輪。


 結婚指輪。トモさんとの。


 あの結婚式が現実(ほんとう)だったという証。

 私があのひとの妻だという証。


 そうだ。帰らなきゃ。あのひとのところへ。

 諦めない。約束したから。

 最後の最後まで、諦めない。


 身体の周りに結界を展開。大丈夫。できてる。

 結界を展開する前よりも吸い取られるカンジが減った。


 大丈夫。大丈夫。

 きっと逃げられる。

 諦めない。がんばる。約束だから。


 待っててトモさん。

 必ず帰るから。

 貴方のところへ。


 貴方は私の唯一だから。

 ただひとりの、大好きなひとだから。



 待ってて。


 待ってて。


 必ず―――

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