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ヒロ 33 東の姫

「オレだ! 田神だ! 鬼は全部倒した!」

 田神くんがコンビニの入口に向かって叫ぶ。と、すうっとナニカが消えた。


「中から結界張らせてたんだよ」

 ああ。『バーチャルキョート』の中にあるね。その結界を展開していたらしい。


 結界が解けた途端、蒼真様が中に飛び込もうとして自動ドアにぶつかった!

 あわてて自動ドアの前に立ち扉を開ける。

 隙間が開いただけで蒼真様は飛び込んだ!


「姫ェェェ!!」

「蒼真!?」


 蒼真様が向かって行った先、レジ前に作ったスペースに座っていた女性が顔を上げた。


 大きな二重の吊り目。ふっくらとした頬は健康的に色づいている。背中の真ん中くらいまである髪をポニーテールに結び、『バーチャルキョート』の回復役の装備を身にまとっている。


 この女性(ひと)が『東の姫』。梅様。


 強いまなざしを持った女性だと思った。

 大きな目をさらに大きくして、自分に飛び込んできたちいさな龍をぎゅうっと抱きしめた。


「遅い!」

「ゴメン!」


 理不尽にも思える叱責に蒼真様は素直に謝る。


「もう! どこ行ってたのよ! 心配したじゃないのよ!!

 あんた守り役でしょう!? 私のそばにいないとダメでしょ!?」


 ポロポロ泣きながら怒る女性に蒼真様は頭をすり寄せた。


「ゴメン。ゴメンね姫」

「心配したんだから!」

「うん。ゴメンね」


 きっと情の深い、やさしい女性なんだろうな。

 ホロリとしていたら女性はガバッと蒼真様を離した。


「蒼真! 回復薬ある!?」

「あるよ!」

「出して!」

「はい!」


 見ると奥に何人もが横にされていた。

 ダンボールを敷いた床に転がされているけれど、そのダンボールにはあちこちに血がついていた。


 手前の通路にも何人もが座り込んでいる。誰もが疲れ果てた、不安そうな顔をしていた。


「ヒロ。これ、配って」

 蒼真様に渡された回復薬を座っているひとに渡す。晃と佑輝も手伝ってくれた。

「大丈夫ですよ」「もう鬼はいませんよ」

 そう言いながら渡すと「ありがとう」と弱々しく笑う。回復薬の瓶を持つ手が震えて持てないひとには飲むのを手伝ってあげた。


 その間に蒼真様と緋炎様が東の姫にザッと説明をする。安倍家が本拠地を用意していること。そこならば回復役がいるし、ごはんも毛布もあること。『バーチャルキョート』で使われている以外の術や技のうち、高霊力を必要とするものは使えないこと。


「―――今、鬼はいないのね?」

「いません」

 緋炎様の断言に梅様はうなずいた。


「全員、聞きなさい!」

 スクッと立ち上がった梅様は叫んだ。


「これから本拠地を移動する!

 歩けない者はこの龍に乗せて移動する!

 歩ける者は自力で歩いて! いいわね!?」


「移動って、どこにですか!?」

 叫ぶような問いかけに梅様が蒼真様にチラリと目を向けた。その蒼真様はぼくに目を向けた。

 はいはい。ぼくが説明するんですね。


「烏丸御池のビルを安倍家が本拠地として用意しています!

 ここからなら、歩いてすぐです。ぼく達はそこから来ました!」


 具体的な場所を示されてホッとするようなひともいればまだ警戒しているひともいる。


「ここに来るまでに遭遇した鬼はすべて倒しました! もし本拠地までに鬼が現れても、ぼく達が護衛します! 大丈夫です!」


「それなら」と言うひともいれば、まだ信じられないひともいる。そりゃそうか。


「確かにこれまでは『安倍家の本拠地』なんて情報は『フェイクじゃないか』って疑ってたわ。

 でも、この龍は私が一番信頼しているものなの。

 だから絶対大丈夫! 移動するわよ!」


 梅様の言葉に一同が「はい!」と応える。すごい信頼されてるなぁ。

「他のコンビニにも伝えに行って!」

「わかりました!」

「全員そろったら出発するわよ!」


 テキパキと指示を飛ばす梅様。すごいリーダーシップ!

 田神くんが横たわっていたひとを担いで運ぼうとしていたから手伝いに行く。

「サンキュ」

「大丈夫。ぼく、運ぶね」

「頼む」


 コンビニの外では蒼真様がぼくらを乗せてきたときみたいに大きくなっておられた。一応伏せの格好になっておられる。ええと、この意識のないひとをどうやって乗せようかな?


「ハチ。ナナ。ミサト。コズエ」

 梅様に呼ばれたひとが進み出る。足を怪我してるひとと、女性が三人。

「あんた達、この龍に乗って。その間に意識のない三人を乗せる。支えて」

「「「はい」」」


 梅様の指示に従って晃と佑輝と三人で蒼真様の背中に乗る手助けをする。

 どうにか名前を呼ばれた四人を乗せ、その間にひとを押し込む。

 でも意識がないから今にも倒れそう。

 と、梅様がどこからか紐を出して来られた。着物を着るときに使う腰紐みたいな紐。

 それがふわりと勝手に動き、意識のないひとを前のひとの背中にくくりつけた。


「全員、丸太に掴まるみたいな格好になって。――そうそう。そんな感じ。

 しっかりつかまってるのよ?

 蒼真。動いて」

「りょーかいっ!」


 ふわりと浮き上がる蒼真様に、背中のひと達はちいさく悲鳴をあげた。恐怖からかガッチリしがみつくことになり、おかげで安定した。


「オッケー。そのまま行くわよ。

 蒼真。低空飛行で。ゆっくりね」

「りょーかい」


 他にも具合が悪かったり怪我をしたひとがいた。そのひと達はお互いに支え合ってどうにか歩いた。


 先導は佑輝。その後ろに晃。皆さんをはさんで、ぼくが殿(しんがり)

 なにがあっても対応できるように警戒しながら本拠地(ベース)を目指す。


 梅様はぼくの少し前。全体を確認しながら蒼真様の尻尾あたりに手を添えて歩いておられる。


「ヒロ」

 蒼真様の頭にいたはずの緋炎様が飛んでこられてぼくの肩に止まられた。


「梅様を背負ってあげてくれる?」

「は「緋炎!」


 了承の返事をする前に梅様の雷が落ちた!


「余計な気を回さなくていいの!」

「ですが梅様、もうすぐ倒れますよね? 覚醒してから休息取りました? 覚醒してどれくらい経ってますか?」

「うるさいわね! まだ大丈夫よ!」

「大丈夫じゃなさそうだから言ってるんじゃないですか」


 はぁ、と、わざとらしいため息をつくオカメインコに梅様は眉を上げて黙った。


「……護衛の手をふさぐことはできない」

「今のところ周囲に鬼はいませんよ」

「……まだ倒れるわけにはいかない。私が休むのは、全員の安全を確認してからよ」

「強情なんだから」


 どうやら誰かに背負われたらすぐに意識を失う自覚がおありのようだ。それだけ限界に達しているのに精神力だけで指揮をとっておられるらしい。すごい方だ。


 そんな梅様に田神くんが近寄った。

「オレが背負ってやるよ」

「は!?」


「ホラ。来い」

 背を向けてしゃがみ、後ろ手でぴょいぴょいと手招きする田神くん。


「話聞いてなかったの? 余計なお世話よ」

「あ。お姫様抱っこのほうがいい?」

「阿呆!」


 梅様の雷にも田神くんは平気な顔。

「じゃあこっちに乗れよ」と蒼真様の身体をペチペチと叩く。


「温存できるところは温存したほうがいい。違うか?」

「―――」


 その一言は梅様にも納得のものだったらしい。

「チッ」と舌打ちをし、ため息をつかれた。


「蒼真。ゴメン。尻尾のほうに乗せて」

「まかせて!」


 器用に尻尾を梅様に伸ばした蒼真様。そのまま身体を支えるようにすくい、梅様を座らせた。

 背もたれのように尻尾の先を上に向けた蒼真様に腰掛けた梅様は明らかにホッとされた。そうして蒼真様の尻尾に抱きついた。


「よし。じゃあ、足手まといがいなくなったところで」

「誰が足手まといよ!!」


 梅様に噛みつかれても田神くんは平気な顔。周囲も苦笑してる。多分こんな掛け合いをしながらこの四日を乗り切ってたんだろうなぁ。


「みんな! あと一息だ! しんどいだろうけど、がんばれ!

 鬼が出てもオレが絶対守ってやる!」

「「「はい!」」」


 頼もしい田神くんに一同の表情が明るくなった。

 ニパッと笑う田神くん。この状況でこんな顔ができるなんて、すごい子だなあ!


 今は特に大きな霊力は感じないけど、『異界』だから制限されてるのかな?『現実世界』ではどうなのかな? 高霊力保持者じゃなくてもこれだけの戦闘力があるなら安倍家(ウチ)にスカウトしたいね。


「田神くんは大丈夫?」

 心配で聞いてみたら「さっき回復薬もらったから大丈夫!」と言う。


「まだ迎えに行かないといけない場所があるから。こいつらをあんた達のところに送り届けたらオレはそいつらを迎えに行く」


 ホントは怪我人や梅様達をぼくらに任せて自分はもっと東に避難しているひとを迎えに行きたいと田神くんは言っていた。

 でも田神くんが抜けることを皆さんが不安がって、それで同行してくれている。


 梅様だけでなく田神くんも皆さんに信頼されてるみたい。

 ポッと出てきたぼくらを信用できない皆さんの気持ちもわかるからぼくらもそれを不快に思ったりしない。


「行くときにはぼくらも同行するよ」

 そう申し出たら田神くんはニパッと笑った。

「助かるよ! ありがとな!」

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