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ヒロ 32 戦闘

 緋炎様の先導でキョートの街を駆ける。

 すぐに鬼に遭遇した! 佑輝が一撃で倒す! そのまま振り返ることなく走る。

 

 ここは市内中心部。鬼が出る門からは一番離れたエリア。

 さっき上から視たときはあちこちで戦端が開かれていたけれど、それらをすり抜けてここまで到達しているらしい。


 指定された、東の姫がおられるというエリアに近づいた。鬼がいる。三……五体! と、その隙間から見慣れた青が見えた。


「もー! どけよ! 姫のところに行けないだろ!?」


 バチッと一瞬発光した蒼真様だったけど、すぐにシュンッて収まった。


「なんで!? なんで雷出ないの!?」

 ムキーッ! と怒りながらも蒼真様はうまく鬼の攻撃を避ける。ああ、ぼくらもアドバイスもらわなかったらああなってたのか。


 三人で鬼に攻撃。そこまで強いヤツじゃなかったからすぐに倒せた。


「蒼真様!」

「ヒロ! 雷が出ないんだよぉ!!」

 ウチの双子のようにギャーギャー騒ぐ蒼真様に緋炎様が呆れておられる。


「なんか高霊力の術や技は使えないらしいですよ?『バーチャルキョート』の技なら使えるそうです」

「ぼく『バーチャルキョート』してないんだけど。どうすればいいの?」

「それは……」


 キョトンと問うてくる龍にそっと目をそらす。

 かしこい龍はそれで察してしまったらしい。


「どーしたらいいの!! これじゃ姫を守れないじゃない!!」

 わああああん! と騒ぐ蒼真様を緋炎様がバシッと縛る!


「なるほどね。このくらいの霊力量なら使えるのね」

「緋炎さん! 解いて! 離してー!!」

「ちょっと落ち着きなさい蒼真」


「まったく」と呆れたように息を吐いたオカメインコ。


「霊力量を調整して。少しだけ。その分一箇所に絞るの。そう。もっと。針の穴を通すくらい」


 緋炎様の指導に「むむむむむ」とうなっていた蒼真様。

「えいっ」の掛け声と一緒に鋭い稲妻が走った!

 それがちょうど角から出てきた鬼に直撃する。鬼は気を失ったのか、すぐに倒れた。


「できた!」

「そうそう。上手よ。じゃあ梅様のところに行きましょうか」

「うん!」


 途端に元気になり飛び上がる蒼真様をあわてて追いかける。と、鬼が密集している場所があった!


「あの向こうだよ! 姫! 姫ー!」

「待って蒼真様! ぼくらが!」


 蒼真様より先に駆け、鬼に向かう! 晃と佑輝が続いてくれた!

 鬼は十体はいる。高霊力を使う水の術は使えない。『バーチャルキョート』の装備の刀を携えて物理で戦う!


 鬼は皆ぼくらに背を向けていた。どこかに向かっている。きっと東の姫狙いだろう。

 まだぼくらに気付いていない! 今のうち!


 ザシュッ! ザッ!

 無言で鬼を斬り倒す! 背後から斬りかかるのは卑怯? そんなこと言ってられない。倒れた鬼の向こうにはまだたくさんの鬼がいるんだから!


 鬼が地に沈む音で他の鬼がぼくらに気付いた。数体がぼくらに向かってくる!

「「うぉおおお!」」晃と佑輝が咆える! 覇気をまとわせた刀で斬りつける!

 ぼくも刀を振るう。一体、二体、次々と斬り倒す!


 十体だと思ってたけど、単に見えてなかっただけだねコレ。倒しても倒しても鬼がいる!

 多分さっき説明を聞いた、トモが受け持つ予定だった場所だね。戦えるひとがみんな役割を振り分けられて向かったあとでトモが抜けたから『戦力の補充ができなかった』って坂本さん言ってたもんね。


 てことは、例の『宝玉』を持った強い鬼がいるはずだよね!?



 向かってきた鬼をすべて倒した交差点の中央で、大きな大きな鬼と少年が戦っていた!


 すごい覇気だ! 鬼の、少年の、ふたりの覇気がぶつかり辺りに渦巻いている!

 これじゃあ他の鬼は近寄れない。それでこのへんでたむろしてたのか。


 大きな刀を持ち少年と剣戟を繰り広げる鬼の胸には水晶玉みたいな玉が埋まっている。あれが『ミッション』にあったという『宝玉』なんだろう。


 少年以外のひとは誰もいない。角のコンビニの中からひとの気配がする。避難してるんだろう。

 この少年がひとりで『中ボス』レベルの鬼を引き付けてみんなを守っているんだ。すごい!


『バーチャルキョート』のレベルが高ければ鬼と戦える。理論上は。

 でも人間の心理というものはそんなに単純じゃない。

 おそろしいモノを前にしたらこわいし、生命の危険を感じたら逃げる。それが人間だ。

 なのにこの少年は『中ボス』レベルの鬼を相手に一歩も引かない戦いを繰り広げている!


 背はぼくと同じくらい。百七十ちょっと?

 装備を着けていて体型はわからない。でも太ってはなさそう。

 襟足を短く刈り上げた黒髪を振り乱し、目を吊り上げて相手をにらみつけ、必死に刀を振るっている。


『中ボス』レベルの鬼相手に一歩も引かない。その覇気。その剣技。これほどの人物がいたとは。


 一対一だけど、加勢したほうがいいよね?

「緋炎様」

 声をかけるとそれだけで緋炎様はぼくの言いたいことを理解してくださった。


「鬼の背後からではタイミングが取れない。左右から回り込みなさい!

 ヒロと晃は右から! 佑輝は左から!」

「「「はい!!」」」


 緋炎様の指示に駆け出す! 建物の壁を蹴って飛び上がり、少年の後ろに着地!


「加勢します!」

「! 助かる!」


 よかった。『オレの獲物だ!』とか『邪魔すんな!』とか言われるかもってちょっと心配だったけど、援軍を受け入れてくれるみたい。


「カウントダウンで一旦下がる! 交代してくれ!」

「了解! 佑輝!」

「まかせろ!」

「三、二、一、ゴー!」


 掛け声と共に少年は強烈な一撃を鬼に放つ! 鬼の動きが防御にまわった一瞬で少年はバックステップで下がる。空いたスペースに佑輝が入り込む!

 相手が変わったことに鬼はすぐに気付いたけれど、佑輝の猛攻にターゲットを佑輝に変えたらしい。

「グオォォォ!!」咆哮に合わせ強烈な覇気が佑輝を襲う!

 佑輝は顔をしかめるだけでそれをこらえた。

「ウオォォォ!!」佑輝も咆える! 覇気を鬼に叩きつけ、必殺の一撃を放つ! けど刀で受け止められた!


 その隙を見逃すぼくらじゃない! 晃と左右からタイミングを合わせて斬りかかる! けど鬼はその巨体に見合わぬ俊敏さで佑輝を跳ね飛ばしぼくらをなぎ倒した!


 え? さっきまでの鬼と全然レベルが違うんだけど。

 これが『中ボス』レベル。

 昔のトモが死にかけたのも納得!

 あの少年、よくこれを相手にひとりで戦ってたね!


 シタッと着地し、すぐさま反撃に転じる! 佑輝をメインに、ぼくと晃が補助する形で戦いを繰り広げる! ぼくらは連携の訓練とかしてたからお互いを邪魔することなく戦える。でも物理しか使えないのはイタイなぁ。水の術が使えたらずいぶん楽なんだけど。


 下がった少年は蒼真様からもらった回復薬を飲んだ。

 それから刀を構えて気を練りはじめた!

『バーチャルキョート』内の剣士最強の必殺技の予備動作! なら少しでも削らなきゃね!

 晃も佑輝も気付いたみたい。倒す攻撃から削る攻撃に切り替えた。


 少年の持つ長い刀にエフェクトがかかる!

 バチッ、バチッと火花が散る!


「――行くぞ!」

 ギッ! 鬼に向けられた鋭い眼光!

「ウオォォォォォォ!!」

 力強く咆え、少年が刀を振り駆け出した!

 バッと飛び退くぼくらの開けたスペースに少年が飛び込む!


(りゅう)(そう)(えん)(ざん)!」


 振り上げた刀から炎が吹き出し龍を形作る!

 龍の鳴き声のような音とエフェクトをまき散らす!

 そのまま袈裟斬りに刀を振るう!

 見事鬼を一刀両断した!


「ギャアァァァ!!」凄まじい断末魔をあげ、鬼が倒れた!

 ズズゥン! 大きな音と共に地に伏した鬼。絶命しているようで動かない。ふう、やれやれ。大変だった。


 周囲を警戒。どうやら他に鬼はいないみたい。式神を飛ばして確認。この周辺は大丈夫そう。


 ぼくが周辺警戒をしている間に晃と佑輝は「おつかれ」と拳をぶつけあっていた。

 少年はさすがに疲れたらしくゼエゼエと肩で息をしている。


「大丈夫? きみ、すごいね」

 晃が少年に声をかける。

 顔を上げた少年はニパッと笑った。

 さっきまでのは戦闘モードだったんだね。人懐っこい、子犬のような笑顔がそこにあった。


「あんた達もな。助かったよ」

 吊り目がちの丸い二重の目を細め、手を差し出す少年に晃が握手をする。


「おれは晃。こっちは佑輝。あっちはヒロ」

 晃の紹介ににっこりと微笑みペコリとお辞儀をする。


「ユウキ?」

 キョトンとする少年。

「もしかして、山科の春日佑輝?」

「そうだが、君は?」


 キョトンと問いかける佑輝に「やっぱり!」と少年は笑った。


「どっかで見た太刀筋だと思ったんだ!

 オレ、田神(たがみ)! あんたが毎年秋に戦ってる、田神(たがみ)(しん)はオレの兄貴!」

「京都府警の特練員の田神さん!?」

「そう! その田神!」


 楽しそうに笑う少年。

 ぼくらもそのひとは知ってる。といっても佑輝の対戦相手としか知らないけど。


「あんた、ミキの兄貴だろ?」

「ウチの妹を知ってるのか!?」

「同学年だから。たまに試合で会ったら話す程度。

 でもお互い四人兄弟の末っ子だから、よくお互いの兄貴や姉貴の話をするよ」

「……ちなみに、妹はオレのことなんて言ってた?」

「『筋肉ゴリラ』って」


 その言葉に佑輝はガックリとうなだれた。

「……間違いなくウチの妹だ……」


 晃もぼくも佑輝の妹のミキちゃんは知っている。そのミキちゃんの知り合いとわかって、田神くんに対するハードルが一気に下がった。親近感が沸いたというか。警戒が解けたというか。


 田神くんも同じようだった。

 ぼくらに対して、より親しげにニパッと笑ってくれた。


 と。

 パララパッパラー!

 どこからかファンファーレが鳴った。

 どうも田神くんのスマホからみたいだ。


「『ミッションクリア』『おめでとう』だってさ」


 吐き捨てるように言って画面を見せてくれた。

 そこにはゲームさながらの画面があった。

 今回の討伐成果、得られた報酬についての説明画面。あくまでも『ゲーム』として扱うことで鬼に向かって行かせようとしているのかもしれない。


「とりあえず、鬼はいなくなったな」

 あちこちキョロキョロする田神くんに「いないみたい」と答える。


「じゃあ、中の様子見ていいか? 今回の襲撃でかなり怪我人が出たんだ」


 田神くんの話によると、スマホにミッションが送られてきてしばらくして、この周辺に鬼が多数現れた。

 田神くんと一緒に戦っていたひともいたけどやられていって、そのひと達をコンビニの中に逃がすために田神くんはひとりで戦っていたらしい。


「ちいさい鬼は一撃で倒せたんだけど、あのデカいのはムリだった。

 助太刀に来てくれて助かったよ」


 ニパッと笑う田神くん。素直そうな、いい子だなと感じる。

 佑輝の妹のミキちゃんと同学年てことは、高校一年生か。こんないい子がミキちゃんと仲良しなんて、佑輝、ヤキモチ焼いちゃうんじゃないかな。

 そんなことを考えながら彼のあとに続いた。

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