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第百五十八話 ミッション

 馬鹿共を捨ててきたナツに同僚が「説明してくれないか」と言い出した。


「正直オレ達には何が起こっているのか、ここがどこなのかわからない。

 ナツはなにか知ってるんだろう? あなたも」


 俺に目を向けてそう問いかけてくるから「まあ」とだけ答える。


 ナツの同僚が俺に向けてキチンと姿勢を正した。


「オレはナツの同僚の井之原 健治と言います。料理人です。

 ここの責任者はあなたということでいいですか?」


 ちゃんと名乗り礼儀正しく接する男に、どうしたもんかと考えを巡らせる。


「………『責任者』ではありませんが、現時点で全体に指示を出せる人間がいるとすれば俺だとは思います」


 曖昧な表現にも井之原はうなずいた。


「さっきのひとたちは勘違いをしていたんだと思うんです。『これはゲームだ』と。『いつものバーチャルキョートだ』と」


 その意見は理解できるからうなずいた。


「オレ達もあの鬼を見ても、実際こわさを感じても、どこかで『ゲームだ』と思ってました。

 ――正直、あなたがあのひとの腕を折って、痛がっているのを見て目が覚めました」


「一体何が起こっているのか、これからどうなるのか、オレ達は何をすればいいのか。

 わかる範囲で構いません。どうか教えてください!」


 真摯に頭を下げる井之原に周囲も(なら)い「お願いします」「教えてください」なんて言う。ウザい。面倒。

 げんなりしたのをナツに見破られた。苦笑を浮かべたナツが話を引き取った。


「彼はまだやらないといけないことがあるんだ。

 代わりにおれじゃダメかな? わかる範囲で説明するよ」

 そうして一団を率いて別室へ行った。やれやれ助かった。



 ちょうど実働部隊が帰ってきた。数人怪我をしているが後方支援の人間が治すだろう。

 治癒と浄化のために一箇所に集められた実働部隊に話を聞く。数人がかりで一体ならどうにかなりそうだ。


「よし。じゃあ、また鬼が出たら浅野さん達でお願いします。絶対にひとりで戦わないこと。一体に対してチームで戦うことを徹底して」

「わかりました」

「実働部隊のひとはメシ食って寝て。霊力補充クリップは? 使った? 回復薬は?」


 できたこと、できなかったことを確認。これはかなり検証が必要だな。後方支援部隊にも頼んでいるが、実働部隊にもできることできないことの把握を急いでもらう。実働部隊は生命に直結するからな。最優先で検証してもらおう。


「社長は『ゲームクリアの条件を満たすまではここから出られない』と言っていましたが、実はデジタルプラネット六階の社長の部屋に『現実世界』と行き来できる『扉』があります。

 俺はこれからそれを確保に行きます。

『扉』が確保できたら『ゲームクリア』を待たなくてもそこから『現実世界(むこう)』に帰ればいいので……」


 そう話していた、そのとき。

 ブブブ。ピロリン。シャン。あちこちで一斉に着信音が鳴る。

 それぞれがスマホを確認する。全員同じ内容のメッセージが届いていた。


『四条通に現れた門に行け』

『一番に到達したものには特別ボーナス』


 ………どう見ても罠。

 さっき鬼が門から現れるのを()た。

 つまりは『四条の門から鬼が現れるから喰われに行け』ということ。


 俺の説明に実働部隊はうんざりという顔をした。


「ここにいるひと達にはそう説明して出ていかないように言えるけど……。

 ここにいないひと達は、信じて行きますよね……」

「……え? それを()めるのもオレ達の仕事?」

「でてきた鬼を倒すのもな」

「「「……………」」」


 全員が『ずうぅぅぅん』と沈んでしまった。まあそうなるだろう。たった今、命からがらの戦いを終えて帰ってきたばかりなのに、また『命がけで戦ってこい』というのだ。俺もうんざりする。


「これ、『この命令はウソですよ』ってメッセージ流したり取り消ししたりできないんですかね?」


「………ちょっとやってみる」


 風を展開して状況確認。今のところ鬼はいない。


「地図出せ」命じるとすぐに地図が広げられる。

 風を展開してみつけた人間のいるところにマルをしていく。


「現時点でひとがいるところがここ。今なら鬼がいない。走れるひと、説明に行って」

「橋本。野添。ユタカ。行けるか?」

 浅野さんの声かけに「行けます」と三人がうなずく。「お前はここ、お前はこっち」と分配して三人は飛び出した。


「他のひとは四条の門に向かって。門の場所はここ。他の通りはここと、ここと、」


 チェックをつけた地図を写メで撮らせる。


「後方支援で解呪のできるヤツが来ています。同行させてなにかできるか確認させます」

「頼む」


「まずは四条の門へ。他から鬼が出たときのためにナツはここで待機させる。

 俺はこれからメッセージの訂正ができるかやってみる。頼むぞ」

「「「はっ」」」



 実働部隊を送り出し、俺はデジタル部門の連中がいる部屋へ。

 事情を説明し、メッセージの取り消しができるかやってみる。うまくいかない。くそう。


「『取り消し』じゃなくて『訂正』じゃダメですか!?

『さっきのミッションは間違いでした』って」

「! やってみる!」


 どうにか不正アクセスしてメッセージを送ることができた。ただ、『異界(こちら)』に来ている人間だけに送れたかどうかはわからない。もしかしたら全ユーザーに送られたかもしれないし、一部のユーザーにしか送られていないかもしれない。少なくとも俺を含むこの場にいる人間には受信が確認できた。


 こっちはどうにかなった。四条は? 風を展開して確認すると、どうやら出現した鬼は一体だけだったらしい。実働部隊がどうにか倒したところだった。他の場所に鬼は――いない。ひとまず片付いたようだ。



「ふうぅぅぅ……」

 思わず息が漏れた。ぐったりして肘をついた両手に顔を埋めた。


 疲れた。さすがに疲れた。

 鬼何体も相手に戦って。馬鹿の相手して。ずっと風で情報収集して。システム潜って。


 ああ。竹さんに会いたい。

 会って思いっきり抱き締めたい。

 キスしたい。「がんばったね」って褒めてもらいたい。


 会いたい。

 そうだ。帰らなきゃ。彼女のところに。

 きっと心配してる。泣いてるかもしれない。

 抱き締めて「大丈夫だよ」って言ってやらないと。


 そう考えたらどうにか身体が動いた。やる気も出た。

 帰らなきゃ。彼女のところに。俺達は夫婦なんだから。


 顔を上げ、バチン! と頬を叩く!

「じゃあ、あとは頼む。俺、デジタルプラネットに行ってくる」

「! 無茶ですよトモさん! 少し休んでください!!」


 椅子から立ち上がり出て行こうとしたら止められた。


「せめて水分補給してください!」


 それもそうだ。

 アイテムボックスからペットボトルを取り出す。彼女の作った水。一口飲んだら身体中に染み渡るようだった。ゴッゴッと一気に飲み干した。

 空になったペットボトルをアイテムボックスに戻し、もう一本取り出す。再び一気に飲み干して、ようやく人心地ついた。


 水分も霊力も補充された。『半身』の霊力が込められているからか、ヘタな回復よりもよほど回復した。


 おかげで少し頭が回るようになった。アイテムボックスが使えることにようやく気付いた。

 他はなにができる? なにができない?

 風を展開して情報収集はできる。風刃も使えた。霊力の刀は出せなかった。霊力量の関係か? 一定量以上を使用するものは使えないとか?


 考えながらもう一本ペットボトルを出す。今度はゆっくりと飲んだ。


 染み込む。竹さんの霊力が。癒やされる。本人に会いたい。そうだ。帰らなきゃ。

 どうすれば帰れる? デジタルプラネット六階の扉を確保。だが結界があったな。『境界無効』でどうにかなるか? 行ってみないことにはわからないな。社長が『異界(こっち)』にいるなら『災禍(さいか)』もいる可能性がある。そしたらこの前突入失敗したときみたいになる可能性もある。

 ――竹さんの布はある。あのときのはボロボロになったが、その後『念のために』って彼女が持っていた在庫を全部もらった。あれをかぶっていけば防御は大丈夫だろう。あとは――。



 水を飲みながら考えを巡らせていたらまたスマホが鳴った。

 なにかと見ると、またしても鬼を倒す映像が流れていた。


『討伐達成! ミッションクリア!』の文字と共に『今回の報酬』が紹介される。

『次のミッションを待て!』で締められた画面に「クソ」と悪態をつく。


 予想どおりのコメントがあふれた。

『やっぱりゲームなんじゃないか』『行けばよかった』『あいつら騙しておれらを行かせなかったんだ』


「―――トモさん………」

「ほっとけ」


「……一応反論メッセージ送ります」

 泣きそうな顔でそういうから「やめとけ」と止める。

「炎上するだけだ」


「でも」と悔しそうにする男にもう一度「ほっとけ」と告げる。


「それよりも今後の対策を検討したい。ちょっとこっち来て」

 デジタル部門の三人を集めて説明する。

「ここのこれがミッション発令のシステムだと思う。三人いるから三交代で見張って。ひとりは飯食って寝るように」


 反論してきそうなのを「体調もメンタルも万全でないとミスする」と黙らせる。


「ミッション発令されたらすぐにこっちで訂正流して」

「はい」

「時々コメント流して。『これはゲームじゃない』『鬼と戦ったら死ぬぞ』って」

「わかりました」


他にも細々したことを指示する。こっちはこれで大丈夫だろうと判断し、ナツのところに行くことにした。

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