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第百五十七話 馬鹿共の制圧

 デジタル部門に顔を出す。デジタル部門からは三人が『異界(こちら)』に来ていた。


「室長にメールは送りましたが、返信はありません」


『室長』というのはタカさんのこと。『現実世界(むこう)』との連絡は取れないらしい。


「『バーチャルキョート』の動きは?」

「至って平和です」

 ひとりが自分のスマホを見せてくれる。

 スマホの中では鬼の出現も四方の結界もなくのどかな夜を多くのアバターが楽しんでいた。


「こちらから『バーチャルキョート』に侵入しようとしたのですが……できませんでした」


「スミマセン」パソコンの前の男がうなだれる。

「いいですよ。それより、ここにくるまでの話を聞かせてください」


 三人の話を統合すると。


 烏丸御池の本拠地(ベース)で『異界(バーチャルキョート)組』として待機していたのは八人。そのうち実際に『異界(ここ)』に来たのは三人。

 なんでそれが確定できるのかというと「他の人五人は電話が通じない」という。


異界(ここ)』に来た者同士の通話はできる。メッセージアプリも機能する。

 でも『異界(ここ)』に来ていない人間とのやりとりが「できない」という。


現実世界(むこう)』に向けてメールは送れる。が、返信はない。

 メッセージアプリのメッセージも送れる。ただ、既読がつかない。


「………妨害されているのか、単に『異界』だからか……」


『バーチャルキョート』のメッセージも送れる。チャットもできる。数多あふれるメッセージのところどころに『異界(こちら)』に着た人間が流したであろうメッセージが見られる。

 試しに俺も流しておく。届くかはわからないが、どんな手でも試しておくべきだ。


「バックドアは?」

「そのままついてます」

「侵入してみる。どいて」


 パソコンをあけてもらい、すぐさま侵入する。

 調べて、すぐに理解した。


「………これ、通常の『バーチャルキョート』じゃない」


 途中からこれまでのものとシステムが若干ちがう。

「おそらくはこの『異界』でのみ運用するシステムだ」


 おそらくは俺とタカさんが潜ろうとして潜れなかった部分。システムを分ける。なんのために? この装備やステータスの具現化のために?


 頭を動かしていると「ブブブ」とスマホが鳴った。俺だけでなく、全員のスマホが好き勝手な音を立てる。


 タップして画面を開くと『おめでとう』の文字が現れた。


『今回最高討伐数を記録! アイテムゲット!』


「……なんだこりゃ」

 思わず漏れた声に「トモさん」とひとりが自分のスマホを差し出す。


 そこには俺が鬼を倒す映像が流れていた。

『今回討伐数第一位! テン 十九体』なんて文字と一緒に。

 続けてナツ、そして浅野さんの映像が流れる。


『討伐達成者にはアイテムを贈呈!』

『次のミッションを待て!』



 あくまでゲームにしようとする姿勢にムカつく。

 そうやって馬鹿な奴を騙して鬼に喰わせ『(にえ)』とするんだろう。


 タカさんと晃は社長を「救いたい」なんて言っていたが、俺から見れば社長はただの自分勝手な殺人鬼だ。情けをかける必要など感じない。


 そもそも社長が自分勝手な『願い』をかけたから『災禍(さいか)』がたくさんの人間を死なせた。そのせいで竹さんはまた罪を抱え苦しんだ。



 ムカつく気持ちをどうにか抑え、風を使って周辺を確認。

 実働部隊が最後の鬼を倒し終わり本拠地(こちら)に向かっているところだった。

 周囲を探るが、今のところ他に鬼はいない。


「――とりあえず、今回出た鬼はどうにかなったな。じゃあ俺、予定通り伏見のデジタルプラネットに――」


『行くから』と続けようとして、口を閉じた。扉の外がうるさい。なんか騒いでる。なんだ?

 扉の隙間から風を送った。


「やめてください!」と制止しているのは後方支援部隊の人間。そいつを数人の男がどかしにかかっていた。

 数にはかなわず、後方支援部隊の人間は押しのけられた。

 バン! と扉が開かれる。


「やっぱり! こいつだ!」

 いきなり指さしてくる無礼者にムッとする。

 馬鹿共はズカズカとこちらに乗り込んできた。

「なんですか!」デジタル部門のひとりが立ち上がって制止したがやはり押しのけられた。実働部隊でないとはいえ、弱すぎないか?


「お前! わざとおれたちを逃げさせたんだろう!」

 は?

「そうだ! 自分が得物を独り占めしようとしてだましたな!」


 馬鹿共の話を統合すると、俺がわざと周囲の恐怖心を(あお)りこの本拠地(ベース)に誘導した。そうしてライバルがいなくなってから鬼の討伐をし、討伐数を稼ぎ特別アイテムをゲットしたと言う。


「馬鹿馬鹿しい」

 ハッ。思わず吐き捨てたら馬鹿共はさらにいきり立った。


「おれだってあのくらいできたんだ!」

「オレだって! オレはAランカーなんだぞ!」

「お前が邪魔したからだ! 責任とれ!」


 ギャアギャアと騒ぐ馬鹿共にナツが同僚達と顔を出した。他にも何人もの野次馬がやってきた。


「なに?」とナツが聞くから「俺がこいつらが鬼を倒す邪魔をしたんだとよ」と教える。


「は? 馬鹿なの?」

 真顔で言うナツに馬鹿共はさらにいきり立った。


「あ! お前! お前、二位のヤツだな!」

「お前らグルか!」


 うるさいから面倒になって言った。

「グルもクソもない。俺達は安倍家の者だ」

「『アベケ』ってなんだよ! それっぽいこと言ってごまかす気だろう!」

「「……………」」


 ……そうか。一般人には安倍家の存在は知られていないのか。面倒くせえ。

 チラリと後方支援部隊の人間に目を向ける。と、それだけで察してくれて「コホン」と咳払いをして注目を集めてから説明してくれた。


「安倍家は、開祖安倍晴明様から続く霊能力者集団です。京都で起こる怪事件の対処にあたっています。

 今回の件も安倍晴明様の生まれ変わりである主座様が予知なさり、準備をしてきました」


 どこか誇らしげに言う後方支援部隊の人間に周囲は驚愕と納得の色に染まっていく。が、馬鹿共は馬鹿だから納得しなかった。


「『準備してきた』って言うならもっとしっかりやれよ! 使えないな!」


 カチン。

 

「―――誰に向かって『使えない』なんて言うんだ」

「その『主座様』ってやつだよ!」


 カッチーン。


「………何も知らないヤツが、勝手なことを………」


 馬鹿共以外が一歩、二歩と下がる。自分でも威圧が漏れているとわかる。だが怒りが抑えられない。隣のナツも静かに怒っている。


「だいたいゲームなのに必要以上にビビらせすぎなんだよ!

 お前らが大袈裟にこわがらせるからついつられてここまで来たけど、これは『鬼を倒すゲーム』なんだよ。邪魔すんなよ!」


「……………ほぉう?」

 低い声になったが馬鹿共は気付かない。


「つまり、怪我をしても死んでも文句はない、と」

「ゲームなんだ! 関係ないだろ!?」

「そうか」


 一番手前にいた馬鹿の前腕を取り、ぽっきりと折ってやった。

「―――ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

 馬鹿は大袈裟にのたうち回る。「痛い! 痛い!」ところげる仲間に馬鹿の連れは青くなっている。


「お、お前! こ、こ、こんなことして、許されると――」

「そっちが言ったんだろ?『怪我をしても死んでも文句はない』と」

「だ、だからって」


「痛い! 折れた! 痛いぃぃぃ!」と泣き叫ぶ馬鹿を蹴とばす。壁にぶち当たって静かになった。ついでに場も静かになった。


「―――これでも『ゲーム』だと言うか?」


 ぐるりと集まってきた人間を見回す。誰もが口をつむぎ青い顔で首を振った。



「はっきり言っておく」

 見据えたら馬鹿共は青い顔でようやく黙った。


「俺はあんた達が生きようが死のうが関係ない。自己責任で勝手にすればいい」


 周囲が息を飲む。が、放置で話を続ける。


「だからここが気に入らないなら出ていけばいい。安倍家の支援が不要というならばそうすればいい。

 俺達は別にどこかに依頼されてここにいるわけじゃない。

『京都の平和を守りたい』『ひとりでも多くのものを救いたい』という主座様のご意思で遣わされただけだ」


 安倍家の人間が一様にうなずく。


「その主座様を愚弄(ぐろう)し、自分勝手な理屈で俺達の仕事を妨害するならば、ここにいさせるわけにはいかない。あんた達は出ていってもらう」


「え」「そんな」とモゴモゴ言うふたりをナツがサッと後ろ手を()め拘束する。

「連れ出せ」「了解」短く答えたナツがふたりいっぺんに押し出す。


「いてててて!」「離せチビ!」この状況でも文句を言うとは。本当に馬鹿だな。

 ナツは罵声を浴びせられてもニコニコとしたまま。「はーい。さっさと歩いてねー」とのんきに、だが確実にふたりの人間を連れ出すべく歩き出した。


「な、なっちゃん」

 すれ違いざまにナツの同僚が声をかけた。


「そのひとたち、その、追い出したら……死んじゃうんじゃ、ない?」

「かもね」


 ケロッと答えるナツに周囲が息を飲んだ。腕を極められている本人達はようやく事態を理解したらしい。


「す、すみませんでした! 調子に乗ってました!」

「謝るから! 追い出さないで!!」


 手のひらを返すように叫ぶが、それ、謝罪というのか?

 俺が失神させたもうひとりは後方支援のひとがちゃんと治癒をかけて骨折やら打撲やらを治した。そのうえでふたりががりで担いで外に放り出そうとしている。


「あんた達だって『あのくらいできる』んだろ?

 無理にここにいる必要はない。自力でがんばってくれ」


「そんな!」

「オレ達に『死ね』って言うのか!?」

「誰もそんなこと言ってないだろう?」


 馬鹿にもわかるように説明してやる。


「あんた達が言ったんじゃないか。『あのくらいできる』『安倍家は使えない』」


 グッと詰まる馬鹿共に、わざとにっこりと微笑んでやった。


「お互い不愉快な思いを我慢することなんかない。

 文句があるなら出ていけばいい。

 どこにいるかは、あんた達の自由だ。そうだろう?」


「連れ出せ」再度命じたら馬鹿共はさらに暴れた。暴れてもナツの拘束からは逃れられない。


「知らなかったんだ! ゲームだと思ってたんだ!」

「ごめんなさい!! 助けて!! 放り出さないで!!」


 わめく馬鹿共をナツが押し出していく。

「他にも気に入らない方は出ていってもらって構いませんよ?」

 野次馬にそう言ったら誰もが首を横に振った。


「な、なっちゃん……」

「ダメだよ」


 同僚の女に笑顔できっぱりと告げるナツ。


「こいつらはおれの友達を馬鹿にした。身勝手な理屈で友達の邪魔をした。許せない。許さない」


 そうなんだよな。ナツは女顔の童顔で穏やかに見えるけど、実はかなりシビアなんだよな。これが晃や佑輝だったら甘っちょろく「許してやれよ」なんて言うだろうし、ヒロは必要なことだと判断しても最後の最後で手を差し伸べるに違いない。


 俺とナツに喧嘩を売ったのが運のツキだったな。

 まあ死ぬことはないだろうからナツも容赦なく放り出そうとしているんだろう。これが本当に『間違いなく死ぬ』場面だったらさすがのナツも手心を加えるだろう。俺はしないけどな。


「こいつらを置いといたらまきちゃん達にも危害が及ぶ。

 おれはおれの大事なひとを守るためなら容赦はしない」


 きっぱりと断言するナツに同僚達がキュウンと胸を押さえている。男まで(とりこ)にしてんのかナツ。


 そうして馬鹿共をポイッと追い出したナツと後方支援のひと。

「戻ってこないでね」と言いつつも「コンビニにいれば大丈夫だよ」と情けをかけるナツ。

 だが馬鹿共は馬鹿なのでナツの情けが理解できないらしい。なんかわめきながらどこかに走って行った。

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