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第百五十六 戦闘

「さあ。ゲームのはじまりだ」


 パチン。

 社長が指を鳴らした。

 その瞬間に新風館を取り囲んでいた結界が消えた!


 同時に四方の建物が壊れた!

 ガラガラ! グシャ!「うわーっ」「ぎゃあああ!」破壊音と悲鳴がまじる!

 建物を破壊した勢いのまま巨大な鬼がなだれ込んで来た!


 させるか!

 ビュオッ! 円を描くように風刃を走らせる! 致命傷にはならなかったが伸ばした手を引かせることには成功した。


「今だ! 行け!」

 俺の叫びにナツが駆け出す! つられるように安倍家の人間が反応し後を追う!


 建物の崩壊に巻き込まれなかった人間は呆然としていた。

「え」

「鬼?」

「――鬼だ!!」


「わあぁぁぁ!!」津波のような激しい叫びが辺りに満ちる。わけもわからず闇雲に逃げようとする者。ぶつかり倒れる者。無謀にも鬼に向かって行こうとする者。その場はパニック状態になった。


 建物が崩れたときに投げ出され倒れたままの者。崩れた建物の下敷きになった者。周囲には動けない人間が何人もいる。何人かはそれを助けようとしている。


 気付くと社長はいなくなっていた。見上げる空にドローンが飛ぶ。おそらくは転移でデジタルプラネットに戻り、ドローン映像を見て高みの見物を決め込んでいるんだろう。くそう。憎たらしい。



 ナツは新風館を出た。立ちふさがる鬼に取り出した刀で一撃を喰らわす。

 ズズゥン、大きな音を立てて一体が倒れた。


 さすがナツ。一撃か。

 風を展開して周囲を確認している俺にはナツの様子が視えている。


 パン! 柏手を打ち手を合わせたナツが霊力を込めていく。その手をバッと地面に叩きつけた途端、両側からズワッと土壁が立ち上がった!


 土壁はトンネル状になり、まっすぐに本拠地(ベース)に向かった。

「先に行く!」

 短く告げ、ナツは本拠地(ベース)の開設に走った。


「ナツさんのあとに続け!」

 浅野さんが指示を出し後方支援部隊とデジタル部門の人間がナツのあとを追う。

 トンネルになっていて鬼が見えない連中はただ必死に走っている。


 残った実働部隊は周囲の人間を誘導している。

「我々は安倍家の人間です!」

「本拠地を用意しています! こちらへ!」


 その言葉を信じて従う者もいれば「胡散臭い」「罠じゃないか」と信じずトンネルを使わない者もいる。

 文字通り蜘蛛の子を散らすように人々が逃げ惑う。中には無謀にも鬼に向かっていくヤツもいる。

 そんな阿呆に仕方なく実働部隊が手を貸す。


 ハルとヒロにより『絶対に一対一になるな』と教育されている実働部隊だから数人がかりで鬼に向かう。

 そんな実働部隊に何も知らない阿呆共は「邪魔すんな!」などと罵声を浴びせている。

 物知らずが。


 俺が前線に出ては全体をフォローできない。

 風刃で威嚇しながら鬼の動きを制限する。

 範囲が広いから致命傷は与えられない。


「戦うな! 逃げろ!」

 そう叫ぶが、見ず知らずの男の言うことなど誰も聞かない。パニック状態になっていて誰の声も届かないヤツのほうが多い。


 建物が崩れ入口が役割を果たさなくなっている。その瓦礫(がれき)を乗り越え四方八方好き勝手に逃げる人々。迫る鬼を風刃で邪魔して逃げる手助けをする。


 やがて鬼共は俺の存在に気付いた。

 先程から獲物に手を伸ばそうとするとかまいたちのように邪魔をするのが、中庭だった瓦礫の山に立つ俺だと気付いたらしい。

 まあな。気付かせるために霊力開放してるからな。


 なかなかないレベルの高霊力に鬼共が舌なめずりをしているのがわかる。完全にエサとして見てやがる。

 くそう。足が震える。霊力の刀はうまく出せない。『バーチャルキョート』の装備で戦えということだろう。不正レベル上げで手に入れた刀を取り出して握る。


 俺に引き付けておいたら一般人は逃げられるだろう。さあ。来い! 返り討ちにしてやる!


 ジワリジワリと取り囲んでくる鬼。威圧をまといにらみつける!

 手を伸ばしてきた一体の、その腕を斬り落とす!

「ギャァァァ!」叫ぶ鬼を押しのけるように次の鬼が来る!

 周囲に風刃を展開する余裕はなくなった。自分に向かってくる鬼相手に風刃を駆使し刀を振るう!


 大きい相手が密集してくるので逃げるのは楽だ。ちょこまかと動いては同士討ちを狙う。

 一体倒すとステータスが反応してファンファーレが鳴るのがウザい。あくまで『ゲーム』にしようとするのがウザい。ああくそう。俺は竹さんのところに帰りたいのに。


 三体、四体と斬り倒す。

「トモ!」ナツが加勢に戻ってきた! これでかなり楽になる!


本拠地(ベース)開設できた」

「サンキュ」


 背中合わせになり短くやり取りする。


「とりあえずこの場の鬼はどうする?」

「ナツ、イケるか?」

「トモが一緒ならイケるよ」


 肩越しにニコッと笑うナツに、ふ、とチカラがゆるむ。


「宗主様の高間原(ところ)でもこんな修行してたんだよ」

「あー。俺もやられたわ」


 ふたりで無駄口をたたきながらも目の前の鬼に威圧をぶつける。俺達の威圧に鬼もなかなか手を出せないようだ。


「――じゃあまあ、この場にいるのは殲滅ってことで」

「りょーかいっ!」


 俺の軽い宣言にナツが明るく答える。

 そうしてふたりで刀を振るった。




 どうにかその場の鬼を蹴散らし本拠地(ベース)に向かう。

 後方支援の坂本さんがすぐに駆けつけてきた。


「状況は?」

「安倍家からの転移者二十六名、全員無事です。

 現在その他一般人五十三名を保護しています。

 重症者もいましたが治癒済です」


「治癒はできたのか?」

 歩きながらたずねると「治癒術と回復薬でできました」と答えが返ってくる。


「霊力の刀は出なかった。ナツは?」

「おれも出なかった。土の術も使えるのと使えないのがあった」


「高霊力を使う高威力のやつは使えない」とのナツの言葉に坂本さんも「後方支援でも使える術と使えない術がありました」と言う。


「……検証がいるな。『バーチャルキョート』で使っていた技や術は?」

「! まだ確認していません」

「手の空いたひとに確認させて」

「はっ」


 頭を下げた坂本さんがそばにいたひとに目配せする。

 パタパタと走り去る様子にそっちはいいかと頭を切り替える。


「兵站は?」

「無事取り出せました」


 さすがナツ。感謝の目を向けるとナツはにっこりと微笑んだ。


「俺はデジタル部門に顔を出す。ナツ、メシ食って休め」

「え」


『大丈夫だよ』と続けそうなナツを制し、言葉を続ける。

「一眠りして体力霊力回復したら、すまんがもう一度出てくれ。

 今戦っている連中を引き上げさせる」


「! わかった」

「戦況は俺が風で確認する。実働部隊は誰が来ているかわかるか?」

「リスト作ります」

「三チームに組み分けて。ローテーションで出す」

「はっ」


 ついて歩いていた坂本さんの部下らしきひとが一礼して離れた。


「ごはん作ったらトモにも持っていくな」

「俺はいいよ。アイテムボックスにあるの食べる」

「そ?」


 話しながら歩いていたら、簡易キッチンにしている部屋から男女がでてきた。


「やっぱり! なっちゃん!」

「ナツ!」


「わあぁぁぁ!!」と泣きながらナツに抱きついたのは先日この簡易キッチンを作るのに協力してくれたナツの同僚だった。女がナツに抱きつき、男もナツにすがって泣いていた。

 キッチンからもうひとり男が出てきて「ナツぅ!!」と手にしていた箸を投げた。


「まきちゃん。井之原さん。ケイさん」

「なっちゃあぁぁん! こわかった! こわかったよぉぉぉ!」

「どうなってんだよナツ! お前なんか知ってんのか!?」

「無事でよかったよぉナツぅぅ!」


 大騒ぎになった一団。めんどくせ。放置だ。

「じゃな。ナツ。あと、頼む」

 軽く告げたら押しくら饅頭の中心になったナツは手を挙げひらひらと振ってきた。

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