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久木陽奈の暗躍 78『災禍』

 カッ!

 強い光がスマホからあふれた!

 反射的に瞼を閉じ、開けた。


 ――竹さんが、いる。

 ぽかんとして、手に持ったスマホの画面を見つめていた竹さんだったけど、のろりと顔を上げた。


 私と目が合った。


《あれ? なんでひなさんがいるの?》

 なにが起こったのか理解していない。

 そういう私もなにが起こったのかわからない。

 周囲の確認。菊様も白露様もおられる。竹さんと肩の黒陽様も。

 晃。佑輝さん、ヒロさん。

 ――トモさんとナツさんがいない――!?


 まさか。

 まさか!


 ザっと血の気が引く!


 連れて行かれなかった! 竹さんが残った!


 作戦が根底から(くつがえ)される。

 竹さんが連れて行かれなかったなんて!

 トモさんが連れて行かれるなんて!!



 色々と状況を想定して話し合った。

 姫と守り役全員に加え霊玉守護者(たまもり)全員が『異界』に行けた場合。

 竹さんと黒陽様と霊玉守護者(たまもり)だけが行けた場合。

 竹さんのみが連れて行かれた場合。

 それぞれに対応を考え、話し合い、どう動くかシュミレーションを重ねてきた。


 でも、そうだ。

『竹さんが連れて行かれなかった場合』を想定していなかった!


 なんで想定しなかった!! 考えられるべきことなのに!

 自分の未熟にほぞを噛んでいて、ふと気付いた。


 考えて当然のことが浮かばなかった。誰一人。千明様ですら。

 想定外の事態に反応が一瞬遅れる。

 それは追われる『災禍(さいか)』にとっては都合のいいこと。


 ――まさか。



 ――『災禍(さいか)』とはなにか。


 それは、望みを叶えるモノ。

 それは、運命を操るモノ。


 強い望みを持つモノの強い願いを叶えるために、偶然を重ね合わせて運命と結果を引き寄せるモノ。



 ――まさか。まさか!!


 ――やられた!

災禍(さいか)』の『運』に負けた!


 私と晃には神様達からの幸運値がカンストまでつけられている。竹さんもトモさんも結婚式やその後のご挨拶であちこちから『運気上昇』をもらっている。

 だからきっと大丈夫だと思った。

 油断しているつもりも余裕ぶっているつもりもなかったけれど、『竹さんが連れて行かれなかった場合』『トモさんだけが「異界(バーチャルキョート)」に行った場合』を考えられなかったのは、きっと『災禍(さいか)』の影響だ。


 悔しい! まんまとしてやられた!

 ここからどう巻き返せばいい? 誰をどう動かせばいい? ああ。あれだけ練った計画が全部台無しだ。ここからどうすればいいの?


 私のチカラが及ばなかったから。

 せっかくここまでもってきたのに。千載一遇のチャンスだったのに。私がダメにした。もう二度とこんなチャンスない。姫と守り役が全員そろって、『災禍(さいか)』の居所も掴めてて、なんて。


 せっかくのチャンスだったのに。

 竹さんが責務を果たせたかもしれないのに。

『呪い』だって破れたかもしれないのに。


 悔しい。どうする? どうすればいい?


 目の前が暗くなっていく。思考がまとまらない。私のチカラがたりなかったから。どうしよう。どうすれば。なにを。なにが。



「ひな!」

 ガッ!

 晃が肩を掴んできた!


「反省はあと! 分析もあと!!『今』の対応を!」


 目の前の瞳に宿る強い『火』にハッとさせられる。

 そうだ。今すべきは反省じゃない。

 やるべきことをやれ!



 私が動揺し固まっていたのはほんの一瞬。

 でもその一瞬を、晃は見逃さなかった。

 おかげで目が覚めた! ここから巻き返す!

 まずやるべきはなんだ!? ――情報収集!



「――『バーチャルキョート』バージョンアップ終了。新ステージオープン」

 アキさんが淡々と報告した、そのとき!

 


「姫が連れて行かれた!」

「蒼真様!?」

 突然現れた蒼真様が叫ぶ!


「ぼく、隠形取って姫の肩にくっついてたんだ!

 それなのに、姫だけ連れて行かれた!」

「そんな――」


 どういうこと!? 転移は対象にくっついてたら一緒に転移するんじゃないの!?

 でも、そうだ。あれだけべったり竹さんにくっついていたトモさんも、トモさんだけが連れて行かれた。


 ほぼ同時に緋炎様が現れた!

「報告! 姫が消えた!」

「「「!!」」」


 東の姫と南の姫は『異界(バーチャルキョート)』へ行った。覚醒していない状態で。

 覚醒をうながすことのできる守り役様は置いて行かれた。これでは覚醒させることも、これまでの状況やこれからの作戦を説明することができない。

 せっかく姫が『異界(バーチャルキョート)』へ行っても『災禍(さいか)』の存在を教えられない。


 やられた! 完全にしてやられた!!



 スマホにもタブレットにもパソコンにも次々に報告が入る。安倍家の関係者でも行けたひとと行けなかったひとがいる。連れて行かれなかったひとから連れて行かれたひとの報告が入る。

 ネット上では「一緒にプレイしていたひとが消えた」とコメントが上がる。

 私達が想定していたとおり、多数のひとが『異界(バーチャルキョート)』に連れて行かれている。カナタさんの計画どおりに。

 でもまさか竹さんが連れて行かれなかったなんて!



現実世界(こっち)』で竹さんが結界を展開したら『災禍(さいか)』に気付かれ逃げられる。

 だから『異界(バーチャルキョート)』にひとを連れて行くというカナタさんの策を利用して『災禍(さいか)』に気付かれないように結界を発動寸前まで作り上げる計画だった。

 それがダメになった!!


 どうする!? もう『現実世界(ここ)』で結界を展開する!? 距離があってもできる!? もし気付かれたら。逃げられたら。



 あがってくる報告をヒロさんと千明様が書き出していく。全体像を把握する。『現実世界(こっち)』に鬼や妖魔は出現していない。

 警察や消防にも「ひとが消えた」と連絡が入っているらしい。現時点の行方不明者がわかっているだけでも十数人。通報内容はどれも同じ。「一緒にプレイしていたひとが突然消えた」


 スマホの画面には『バーチャルキョート』が広がっている。

 羅城門を抜けたそこは京都駅前。

 たくさんのアバターが思い思いに目的地に向かっている。


 スマホの中の『バーチャルキョート』も現実の時間と同期(リンク)している。日本時間七月十七日午前零時。

 世界中のユーザーが参加できるバーチャル空間だから、日本時間では真夜中だけどそうでない国もある。それもあってか、かなりの人数がログインしているようだ。


『バーチャルキョート』は異常なし。『現実世界(こっち)』も異常なし。

異界(むこう)』の状況はどうなってる!?


「トモさんにかけます!」


 トモさんに電話をかける。コール音がするだけで出ない。じゃあナツさん!

 私の行動にヒロさんが気付いてくれて、同じように電話をかける。

「浅野さん出ない」「橋本さん出ない」報告するのに合わせてアキさんがチェックを入れていく。


「トモさんもナツさんも出ません。――式神は?」

 おふたりに『連絡ください!』とメッセージを送り、主座様に問いかける。

「――駄目です。ここからでは『異界』の入口が見つからない」


「転移は!?」蒼真様に問いかけると「できない!」と泣きそうな叫びが返ってきた。


「姫がどこにいるのかわからない! こんなの初めてだよ!」

「――おそらくは『異界』にいるからでしょうね。――ウチの姫も存在がわからないわ」

 緋炎様も「これじゃあ蒼真でも転移できない」とおっしゃる。


 菊様に顔を向けると、それだけで私の言いたいことをわかってくださった。

「視えない」

 すでに東の姫と南の姫の居場所を捜索しておられたらしい。

 菊様をもってしても『視えない』となると………万策尽きた――?




 ――よりにもよって『異界』への扉を開けることのできるトモさんを連れて行かれた。

 現状の戦力では『異界』へ行くことはできない。

 どうする!? 構わずデジタルプラネットに突撃する!?


 迷っていた、そのとき。


「『バーチャルキョート』でなにか起こってる!」

 千明様が指差したのはネット上のコメントが流れるモニタ。


「これ。これ。これも! コメントの『色』が違う!」


 大量に流れるコメントの中から千明様がいくつかを指差した。


『チョーリアル!』

『ついにここまできたか!』

『マジ仮想現実!!』


 ……『色』……?

 私には他と同じに見えるのだが、千明様は「ほらこれも!」と次々と指差していく。


『ここ新風館だ!』

『新風館に社長キター!』

『社長降臨!』


「社長!?」

「社長が『異界』に行ってるのか!?」


 ――やられた!!

 それも想定していなかった!

 カナタさんは『異界(バーチャルキョート)』に行くことなく『現実世界』のあの社長室にいるとばかり思い込んでた!


 おそらくはそれも『災禍(さいか)』のせい。

 思考をミスリードされた!


 私達はカナタさんの記憶を『視て』先手を取った気になっていた。

 カナタさんのたくらみを知り、それに対して準備ができたと思っていた。


 でもそれこそが『災禍(さいか)』の手だったとしたら?

 情報を出すことで都合のいい方向に進ませたとしたら?


 ああ。主座様や守り役の皆様の言っておられたことが実感できた!

 あれもこれも、すべてが『災禍(さいか)』の策に思えてしまう!



 タカさんがモニタに新風館の映像を映す。特になにもないように見える。

 主座様が数人を新風館に向かわせた。

『現実世界』になにか影響があるか確認してもらわなくてはならない。


「『新風館』てナニ?」

 緋炎様の質問にヒロさんが「ここです」と地図を示す。

 烏丸の本拠地の目と鼻の先、烏丸通を挟んですぐの複合商業施設。


「なるほど」とうなずいた緋炎様はにっこりと妖艶な笑みを向けられた。


「本拠地に近い場所が舞台なんて、きっとひなにかけられた『運気上昇』が仕事をしたのね。

 お手柄よ。ひな」


 ヘコむ私に気を遣ってそう言ってくださったのだとわかっている。

 それでもジワリと目頭が熱くなる。


 でも、確かにそうだ。

 最初は伏見区の物件を探していた。

 烏丸のこの本拠地しか該当しなかったというのも、神様達が授けてくださった『幸運』のおかげだろう。


 モニタに流れるコメントを千明様が指差していく。

 その情報を統合すると、どうも連れて行かれたひとはみんな新風館に集められているようだ。

 そこにカナタさんが現れ、ゲーム説明をしているのが現在の状況らしい。

『リアル鬼退治!』とかコメントが流れていることから『鬼が現れる』と説明されていると思われる。



 じっと鏡をにらみつけておられた菊様がガバッと顔を上げた!


「――竹!」

 菊様の叫びに竹さんは反応しない。


「竹!!」

 立ち上がり竹さんの前に座る菊様。それでも竹さんは無反応。

「チッ」と舌打ちをした菊様が「竹!!」と再度呼びかける。

 けれど竹さんは虚ろな目をしてただ呆然としている。まるで抜け殻のように。


「アンタが『鍵』なのよ! シャンとしなさい!!」

 ガッと肩をつかまれてガクガクと前後にゆすられるけれど、竹さんは呆然としたままされるがままになっている。


「竹!」

「菊様!」

 竹さんをガクガク揺する菊様の肩を押さえる。


()めるなひな! 竹にかかってるのよ!」

()めません! 代わってください!」

 私の叫びに菊様は鬼の形相を向けられた。けどすぐに場所を明け渡してくださる。

 すぐさま竹さんの頬を挟み、正面から声をかける!


「しっかりしてください竹さん!!」


 私の『光』をぶつけるつもりで叫んだ!


「トモさんは生きてます! まだ死んでません!!」


《―――生きて、る――?》


 虚ろだった目に光が戻る。


《――あのひとが、生きてる? どこに?》


 反応があった! すぐにたたみ込め!

 

「『異界』に連れて行かれただけです!! 助けに行きますよ!」


《――助けに、行く?》


 ぽかんとしている竹さんに、さらにたたみ込む! その目に、魂に、晃の『火』を注ぐ!


「あなたが! あなたが助けるんです!!

 あなたの『半身』を! あなたの夫を!!

 あなたが、助けに行くんです!!」


「―――私が――助ける―――」


 呆然と繰り返す竹さんに「そうです!!」と叫ぶ。


《私が。助ける。あのひとを。私の夫を》


「―――!!」


 竹さんの意識が覚醒した!

 ぼんやりとしていた目の焦点が合う!


《助ける! 私が!》

《まだ生きてる!! 助けに行く!》

《絶対にまた会う!!》


 強い意思が湧き上がる! 私の『光』が彼女に宿る!

 ハッとした彼女はようやく私に気付いた。


「トモさんを、貴女の夫を、助けに行きますよ!」

「!」


 コクリ! うなずく彼女にうなずきを返した。

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