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第百四十七話 月曜日6 宗主様の考えとひなさんによる事情聴取

 蒼真様とじゃれていたら白露様と緋炎様が来られた。

 おふたり揃って西の姫のところに報告に行き、意見を聞いてきたという。


「ウチの姫は『解けるものならば解けばいい』って」


 白露様が困ったような顔で言った。


「ウチの姫のアレは、もう、クセのようなものなのよね。

『白』の王族は『神の声』なんてものをしょっちゅう見聞きしているせいで、あんまり強いこだわりを持つことがないのよね。

 目の前にチャンスがあれば拾うけど、そのチャンスに向かってガツガツすることはないのよね」


 なんか守り役として色々思うところがあるらしい。

 とにかく西の姫も『呪い』による転生は「無くなってもいい」ようだ。



「ついでに楽ちゃんのところにも行ってきたのよ」


 万が一西の姫の『呪い』が解けたら、それは『白』の王を改めて決める必要があるということではないかと白露様は考えた。


『白の一族』は『神に仕える一族』。

 神々に仕え、神々と言葉を交わし、人々に神々の言葉を伝えるのが使命。

 その王は霊力が強くて『先見』の能力がある人物が求められる。


 西の姫が『呪い』により何度も転生することが証明されたあと。

 当時の『白』の女王は当然のように生まれ変わった西の姫に王位を(ゆず)った。


 何千年も経って、この『世界』に『白』の一族なんてものは存在しなくなった。

 だが『宗主様の高間原(たかまがはら)』には『白』は存在している。

 他ならぬ宗主様自身が『白』の王族だ。

 

 これまでは何度も転生を繰り返す西の姫が『白の女王』として君臨してきた。

 だがもし万が一『呪い』が解けたとしたら。

 西の姫が生まれ変わったときにその記憶を失うとしたら。

 新たな『白』の王が必要なのではないか。

 そしてその資格があるとすれば、現在は宗主様とその血族だけということになる。


 それで白露様と緋炎様が宗主様のところに行って話をしてきたらしい。



 まだ起きておられた宗主様は白露様の突然の来訪を大喜びで出迎えたという。

 どうにか落ち着かせてから今朝の話を聞かせた。


 宗主様の判断は『成るように任せる』だった。


「白菊様が『白』の王。それは『白楽(わたし)高間原(せかい)』でも変わりません。

 もしも白菊様の『呪い』が消え、もう『記憶を持って転生』することがなくなるとすれば、それこそが『神のご意思』ではないでしょうか」


 宗主様はそう語ったという。


「本来ならば『白』の一族はとうの昔に滅びていた存在です」


 高間原(たかまがはら)が滅びたとき。

 能力者排斥運動が起きたとき。

 滅びていたはずの存在。

 現に『こちら』では四方のどの国もどの一族も跡形もない。


「それが白菊様が『記憶を持ったまま』転生される『呪い』を持っていたから『白の王』は残った。

 偶然私が研究のために『異界』を作っていたために能力者達が集い、四方の国所縁(ゆかり)の者で集まるようになった」


 そう説明をして、宗主様は『答え』を出した。


「いま在るものをそのまま残す必要はないのではないでしょうか」


「きっと『変革の時期(とき)』が来たのです」


「『変革』を見届けるのが私の『白の王族』としての最後の勤めとなるのでしょう」



 宗主様は『成るように成るのだろう』と、それをすべて『そのまま受け入れる』と答えたという。


 きっとアレだな。俺が前に『宗主様が死んだあと、この「世界」はどうなる』とか聞いたときから色々考えておられたんだろうな。俺あのときかなり余計なことまで言った気がするし。



 とにかく宗主様の意見を聞いて、白露様も『白の王』がいなくなることを考えたらしい。


「もしも本当に『呪い』が解けるならば、それが『神のご意思』と受け取って受け入れるしかないのでしょうね」


 まだ全部納得はしていないらしいが、白露様もそうやって飲み込もうとしているようだった。



 肝心のおふたりの気持ちはというと、やはり「姫次第」とのことだった。


「私達はあくまでも『守り役』なのよ」

「ええ。

 自分の姫が転生を繰り返すならば、しぶとく生き残ってお守りしなければならない。

 けどその姫が天命を(まっと)うし、正しい輪廻の輪に(かえ)ることができるならば、私達がこの世に留まる必要はないと思うの」


 おふたりの意見に黒陽も蒼真様もうなずいていた。


「とはいえ、『呪い』が解けてすぐに死んじゃうのは嫌よねぇ」

「ねー。

 死ぬにしてもせめて晃とひなの子供の成長を見届けてからにしてもらいたいわ」


 白露様と緋炎様のオバサン臭い台詞(せりふ)に晃は喜色満面になり、ひなさんはげんなりとした顔になった。


「男の子かしら。女の子かしら」

「晃もひなも火属性だから生まれてくる子供もきっと火属性よね」

「アラ緋炎。そうとは限らないわよ」

「可能性は高いじゃない。火属性だったら私が修行つけてあげるわよひな」

「私も。晃のときみたいに子育て手伝うわよひな」


 キャッキャと楽しそうな白虎とオカメインコに、ひなさんはただ頭を抱えた。


「……………そのお話はもう数年先にお願いします……………」


 晃は黙ってただ嬉しそうにしていた。なのにひなさんにいきなり殴られた。


「やっぱりひなって乱暴……なんでもないでふごべんだざい」

 無言でいきなり蒼真様の首を締め上げるひなさんに愛しい妻がビビっていた。

 ウチの妻のかわいさにデレッとした俺に、ひなさんが龍の首を絞めながらにらみつけてきたが無視しておいた。




「―――『呪い』についてどうお考えかはわかりました!

 それは置いといて! お話を聞かせてください!」


 蒼真様を開放したひなさんは、ダン! と机を叩いた。


「現段階での戦力確認をさせてください」


 ひなさんの剣幕に守り役達も竹さんも大人しくうなずいた。

 が、俺はまだ相談したいことがある。


「ひなさん。どうやって『災禍(さいか)』に『呪い』を解かせるか、相談に乗ってもらいたいんだけど」

「それはあとです」

 バッサリと斬り捨てられた。


「現有戦力がわからないと戦略が組めません」

 なるほど確かに。


「『現有戦力』っていうけど、前にも報告してるよね?」

 そう指摘したら「そうですね」と肯定する。


「『どんなことが』『どの程度』できるかはうかがいました。

 今日お聞きしたいのは『過去と比べて』の『現段階の戦力』です」


「『過去と比べて』?」


 どういうことかと首をひねる俺を無視し、ひなさんは守り役達にたずねた。


「まずは。

 トモさんが『あちら』から帰ってきたときには『昔の蒼真様レベル』になったとうかがいました。

 その『昔の蒼真様レベル』というのは、他の言い方をするならば『どんなレベル』でしょうか」


 どう答えようか困っていたら、ひなさんはさらに言った。


「以前トモさんが戦った『中ボスレベル』の鬼とひとりで戦うとして、勝てるレベルですか?」

「ひとりだと『どうにか勝てる』レベルだったろうな」


 黒陽がサラリと答える。

「あれからトモはさらに強くなっているから。

 今ならば『すんなり勝てる』レベルじゃないか?」

「!」


 え。俺、そんなに強くなってるのか!?

 そして黒陽。そんなに俺のこと認めてくれてるのか!!

 嬉しい! 誇らしい!!

 おまけに隣に座る愛しい妻がキラキラしたまなざしを送ってくれてる!!

 ああもう! がんはってよかった!!


 喜びに震える俺を無視して黒陽は話を続ける。


「トモだけではない。霊玉守護者(たまもり)五人全員が同じくらいには強くなっているぞ」


「つまり『昔の蒼真様より強い』ということでしょうか」

 ひなさんの問いかけに「まだぼくのほうがちょっと強いかなー」と蒼真様は笑う。


「なに言ってんのよ蒼真。アンタ式神何体も使って修行つけてるでしょ?

 純粋な一対一なら、わかんないわよー」


 緋炎様に冷やかされるように指摘された蒼真様は「ヴッ」と詰まった。


「修行つけてあげましょうか?」

「遠慮しまーす」


 じゃれるおふたりを放置し、黒陽がひなさんに説明を続けた。


「『昔の蒼真』という表現は、ある意味正解なのだ」

「というと?」

「『呪い』のために我らは獣の姿になった」


 うなずくひなさんに黒陽が続ける。


「そのために昔のような動きはできなくなっている」


 説明を求めるひなさんの視線に黒陽がさらに続ける。


「昔のような物理での対人戦――今霊玉守護者(たまもり)達へつけている修行だな。これを行うには式神を使わなければならない。

 獣のこの身体での戦いとなると、間合いも太刀筋も違うからな」


「ああ。なるほど」と納得するひなさん。


 そうなんだよな。

 俺達が戦うであろう鬼は人型。だから守り役達はいつも人間の形の式神で修行をつけてくれている。


「式神を何体も使って連携攻撃もできるし、アレはあれでなかなか使えるのだが。

 やはり全盛期から比べると数段落ちる。特に反応速度が」


「……………アレでですか……………」

 ヒロが今にも吐きそうな顔でこぼした。気持ちはとてもよくわかる。チート亀め。


「ただまあ、その分、術の精度は上がったな。

 蒼真も今『純粋な戦闘』となったら、おそらくあのときの鬼程度ならば雷撃一発で倒せるだろう」


 黒陽に太鼓判を押されて「えっへん」と胸を張る青い龍。

 白露様と緋炎様は苦笑を浮かべるだけで何も言わなかった。


「戦闘とは、単純な戦闘力だけで量れるものではないのだ」


 黒陽の説明に「それは理解できます」とひなさんもうなずいた。

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