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第百三十八話 指輪作り

 どうにか精神統一を図り、動けるようになった。

「行こ」とちいさくうながすと「うん」と彼女も動いてくれた。

 ふたりでゆっくりと歩いていると、うつむいたままだった彼女が口を開いた。


「貴方は――」

「ん?」

「貴方のこと覚えていない私でも、いいの?」


 そろりと顔を上げて俺を見上げるの、かわいすぎ!

 情けない顔で上目遣いで。俺のこと殺す気かな?


「いいよ」


 また好きになってもらうから。

 記憶なんてなくても大丈夫だって、俺、知ってるから。

 俺は前世の記憶なんかなくても、貴女に出会ったその瞬間にとらわれたから。

 だからきっと貴女もまた俺を好きになってくれる。


「貴女が貴女なら、それでいい」


 貴女が貴女なら、俺は間違いなくまた『恋』をするから。

 どんな貴女でも、間違いなく好きになるから。


「俺は貴女に『とらわれて』いるから」



 そうしてじーさんの実家である静原家に伝わる話を聞かせた。

『唯一』に『とらわれた』『半身持ち』が多く出たこと。『静原の呪い』なんて言われていること。じーさんばーさんも『半身』だったこと。両親も『半身』なこと。


 俺の両親も祖父母も『半身』と聞いた彼女は「そんなこともあるんだ」と驚いていた。

 黒陽も三世代『半身』が続くというのは「初耳だ」と言っていた。


 そもそも『半身』はそんなに多いものではないらしい。

 それにしては俺の周り『半身』だらけだけどな?

 祖父母に両親、タカさん千明さん夫婦、晃とひなさん。あ。黒陽も『半身持ち』だよな。


 それからじーさんばーさんの話になった。

「あんなひとで」「こんなことが」なんて話しているうちに池についた。



 池について俺の手を離し、いつものように浅い場所に入っていく彼女。

「お前もついていけ」と黒陽にうながされ彼女のあとを追う。


「ここでいいかな?」と彼女は周囲をうかがう。

 同じように周囲を確認していた黒陽が俺の肩から「いいでしょう」と告げる。


「トモさん」

 かわいく呼びかけてくれた妻がハイタッチのように差し出す両手に、同じように両手を差し出して(てのひら)を合わせる。

 ぎゅ、と指を絡めて握りこむと、彼女も同じように握ってくれた。


「うふふ」と照れくさそうに笑うその顔は初めて見る心からの笑顔で、またしても胸を貫かれた。


「じゃあ、お願いします」

「お願いします」


 彼女の言葉に同じように返す俺に、彼女がうれしそうに微笑んだ。

 その笑顔がこれまたかわいくて、愛おしくて、叫びそうになってしまう。


「さっさとやれ」

 肩の黒陽にうながされ、どうにか呼吸を整える。


 ブワッと風を展開する。打ち合わせどおり、俺達を中心に、渦を巻くように。

 そこに彼女が水を生成し、加える。

 まるで渦潮のようになったそれに、ふたりで霊力を込めていく。


「霊力量、どう?」

 俺の問いに「もーちょっと多くてもいいかも」と彼女が答える。

「ん。わかった」

 短く答え、風にもう少し霊力を込める。


 彼女が霊力量を調整してくれてふたりの霊力が均等になるようにしてくれる。

 霊力操作も彼女が主導。情けないと思う気持ちもあるが、霊力量も霊力操作の経験値も彼女のほうが段違いに上だ。仕方ない。


「このくらいかな」と彼女がつぶやき黒陽がオーケーを出したところで彼女が渦潮を収縮させていく。

 俺と彼女の間に、ピンポン玉サイズの霊玉ができた。


「――二分割」

 彼女の言葉と同時に霊玉がぱかりとふたつに割れる。


「どの指にする?」と聞いてくるから「左手の薬指だよ」と教える。


 繋いだ指をゆるめると彼女が俺の左手を取り、自分の左手に重ねた。

 ぷかぷか浮かんでいる霊玉の片割れを俺の左手薬指に乗せた。

 それだけで霊力の欠片はシュルリと俺の左手薬指に巻きついた。


 あっと思う間もなく彼女は重ねた手を返した。

 彼女の左手が上になり、俺が支えている形になった。

 彼女は俺のときと同様に自分の左手薬指に霊玉の欠片を乗せた。それだけで霊力の欠片は彼女の左手薬指に巻きついた。


 どうやら念珠のための穴開き霊玉作りでまたスキルが上がったらしい。

 継ぎ目ひとつない輪が左手薬指に現れた。


 俺の左手をはさむように自分の右手を下に、左手を上に乗せる彼女。


「これでどうかな?」

 自分の左手薬指を見ながらつぶやく彼女に「もう少し細くできる?」と問うと「できる」と言う。


 そっと彼女がふたつの指輪に霊力を注ぐ。すると太かった指輪は半分くらいの細さになった。


 保護者達の指にはまっている指輪を思い出す。うん。このくらいの太さだったはずだ。


「いいね。これならずっとつけてても邪魔にならない」

 にっこりとそう言うと、彼女もホッとしたように微笑んだ。かわいい。


 彼女の左手の上に俺の右手を乗せる。

 サンドイッチのようにお互いの手をはさむ。


「竹さん」


 互いの重なる左手の薬指には揃いの指輪。

 ふたりの霊力がひとつになった特別なもの。

 ひとつの塊をふたつに分けた、まるで『半身』。


 俺達は『夫婦』になった。

 改めて、実感した。


「俺の『妻』で、いてください」


 ずっと。

 たとえ死んでも。生まれ変わっても。

 ずっと俺の『妻』でいて。

 貴女の『夫』でいさせて。

 貴女の『一番』でいさせて。


 好きだから。

 ずっと好きだから。


 もうすぐお別れだって、わかってる。

 だが、それで『おしまい』じゃない。

 また会える。きっとまた『恋』をする。

 貴女は俺の『半身』。俺の唯一。

 ずっと、ずっと、貴女は俺のただひとりの『妻』。


 行かせたくない。守りたい。逃げだしたい。

 死なせたくない。別れたくない。ずっとそばにいたい。


 好き。

 好きだ。


 こんなに好きなのに、もうすぐ別れなくてはならない。

 こんなに好きなのに、もうすぐそばにいられなくなる。


 くやしい。かなしい。つらい。

 それでも、そんなこと、言えない。


 彼女にはカッコいい俺だけを覚えていてもらいたい。

 少しでも頼りになると、カッコいいと思ってもらいたい。


 俺の『半身』。

 俺の『妻』。

 ただひとりの、俺の愛しいひと。



 まっすぐに見つめる俺に、彼女はわかりやすく赤くなった。

 口元をぷるぷると震わせているのがかわいくて、ついニマニマと顔がゆるむ。

 そっと視線をそらせた彼女はぶすぅっとした顔でちいさくちいさく答えた。


「……………はい」


 恥ずかしがり屋の精一杯の返事に、またしても胸を貫かれた。




 指輪は無事完成した。

 はめているだけで彼女に包まれているよう。

 そう言ったら彼女は彼女で「指、あったかい」「トモさんがそばにいてくれてるみたい」「ありがとう」なんてかわいいことを言ってくれる。


 ウチの妻、天使か。

 こんなにかわいいとか、あるのか!?


 ああ! もう、愛おしすぎる!! 胸がキュンキュンする! キュン死する!!



 また恋人つなぎで手をつないでのんびり歩いて離れに戻る。

 話して、池までのんびり往復していたからもう昼近くなってしまった。昼飯どうしようかな?


 今までだったら俺達は俺達で勝手に作って食っていたんだが、昨日はひなさんと晃がいるからと大勢の昼食になった。

 今日は特に聞いていないんだが、どうするかな?


 とりあえずアキさんに確認してみようとメッセージを送る。

 と『ごめんなさい! そっちで三人で食べて!』と返ってきた。

 念の為にと晃にも連絡したら『ひなと食べるからいいよ』と返ってきた。


 ……………。

 なんかやってんのか?

 まあ決戦が目の前に迫ってるから、あっちもこっちも忙しいのはわかるが……。


 まあいい。それならそれで三人で食おう。


「みんな忙しいみたいだ。三人で昼飯にしよう。

 竹さん、なに食べたい?」


 試しに聞いてみると、いつもは「なんでもいい」というひとがめずらしく少し考え、ハッとした。


「? なに?」

「あ、あの、あの、ね?」

「うん」

「パン、食べたいなぁ……って……」

「パン?」


 パンて、なんだ? 俺が焼くの食べたいのか? それともサンドイッチか?

 困惑していたら、彼女は恥ずかしそうにもじもじしながらポソポソとしゃべった。


「――あの、あの、ね?

 春に二回目におうちにお邪魔したときに、池でパンを食べたでしょ?

 ――考えたら、あれが『初めてのおでかけ』だったなぁって、気がついて……。

 だから、その、………」


 頬を染め、上目遣いで俺を見つめる愛しいひと。


「………また、あそこで、一緒に、パン、食べたいなぁ……って………」


 ――キュウゥゥゥン!!


 なんだこのひと! 愛おしすぎか! かわいすぎか!!

 そんな、俺との『初デート』を再現したいなんて! そんなに俺のこと好きなの!? 俺も大好きだ!!


「――じゃあ、あのときのパン屋に行って、パン買ってから行く?」

 そう提案すると、パアッと表情を輝かせた!

 満面の笑顔でうなずく妻。愛おしいが過ぎる。かわいいが過ぎる。俺、キュン死するかも。


「馬鹿なことを言っていないで。行くぞ」


 黒陽に急かされて風を展開。修行で風を使っての調査精度は格段に上がった。

 あの店の駐車場にはちょうど誰もいないことを確認。玄関で靴を履いてすぐに黒陽が転移してくれた。

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