久木陽奈の暗躍 59 作戦会議 3
「カナタのたくらみをぶち壊す」
開口一番、タカさんはそう宣言した。
「それで、カナタを救う」
「異議なしです」
お昼ごはんをいただいて、お腹いっぱいパワー満タンになった。
改めて話し合いをしようと広い机のある離れに移動して作戦会議が始まった。
出席者は守り役の皆様、主座様、ヒロさん、晃、保護者の皆様、そして私。
竹さんは予想どおり熱を出して寝込んでいる。
トモさんが抱き込んで霊力を注いでいるし蒼真様の薬も飲ませているから「じき熱は下がるだろう」と黒陽様はこちらの会議に来られた。
『保志社長』でも『保志氏』でもなく『カナタ』と呼ぶタカさんに、皆様ナニカを感じておられる。けれど、ただ黙っておられた。
間髪入れず同意した私にも驚いておられるみたい。でもなにもおっしゃらず黙っておられる。
タカさんと私の熱量に、千明様と晃だけが強く同意を示してくれる。
タカさんの『想い』があふれて『読めた』。
自分が進むかもしれなかった『道』を選んだカナタさんのお祖父様にココロを寄せ、同じく自分が進むかもしれなかった『道』を選んだカナタさんにココロを寄せている。
どうにかカナタさんを止めたい、救いたいと強く強く『願って』いる。
これまでのタカさんは、あくまでも『主座様の直属の部下』だった。
主座様の命令で『姫達の手助け』をしていた。
でも、カナタさんの『記憶』を『視て』変わった。
『姫達の手助け』ではなく。
『己の願い』のために動くと、決めた。
かく言う私も同じだ。
これまでの私はただただ『晃の無事』だけを願ってきた。
『ボス鬼』なんてものと戦わなくてもいいようにと、そう考えて動いてきた。
晃はそんな私の『願い』を叶えるために『手助け』してくれていた。
私達ふたりの間で、『願い』の『主』は私だった。
でも、カナタさんの『記憶』を『視て』晃が変わった。
茉嘉羅と同じ『痛み』と『願い』を持つカナタさんを救いたい。
強く強く、晃は『願った』。
晃の『願い』を叶えるのは、私の役割。
そうして私達の『願い』の『主』は晃になった。
私達の姿勢が変わったことでナニが変わるのかはわからない。
わからないけれど、この身の内に燃え盛る『熱』のおもむくままに作戦立案をしていこう。
再度わかっていることを確認しあう。
出た意見をヒロさんがどんどんと付箋に書き出す。
大きな紙を大きな机いっぱいに広げて、そこに貼り付けていく。いわゆるブレインストーミングだ。
現状わかっていること。わかっていないこと。これまでのこと。これからのこと。
ヒロさんの読みやすい字で次々に貼り出される。
洩れはないか、考え違いはないか、話し合いながら確認していく。
参加者全員の見解の統一化をはかりながら情報を整理していく。
そうするなかで「そういえば」「もしかして」と意見が出てくる。それも付箋に書き出して貼り付けていく。
『災禍』のこと。『バーチャルキョート』のこと。カナタさんの『願い』のこと。
高間原のこと。姫達のこと。守り役様達のこと。『呪い』のこと。
とにかく全部出し切る。
思いつきもひらめきも全部。
全部出切ったと思われるところで次の紙を出し、今度はこれからのことを出し合う。
カナタさんの計画。『災禍』のやりそうなこと。デジタルプラネットに侵入できる可能性。三上女史を引き入れられる可能性。
ありとあらゆる可能性を付箋に落とす。貼り付けていく。
突拍子もない考えも、荒唐無稽な考えも全部出す。
できること、できないこと、考えられること、これはないだろうということ。
『バーチャルキョート』で使われる陣のこと。
『バーチャルキョート』で行われていること。新しく導入されること。
全部出切ったと思われるところで再度次の紙を出し、今度はどう行動するかを話し合う。
現在考えられているパターンは大きく分けて三つ。
ひとつめ。
七月十七日のバージョンアップ前に『災禍』を斬る。
この場合『異界』にいるであろうひとは切り捨てることになる。
ふたつめ。
七月十七日のバージョンアップ前に『カナタさんの異界』に侵入し残っているひとを助けてから『災禍』を斬る。
当然だけど難易度は爆上がりだ。
みっつめ。
七月十七日零時のバージョンアップのときに『特定のユーザーを異界へ連れて行く』というカナタさんの作戦を利用する。
『宿主』であるカナタさんがあれだけ『願い』をかけているのだから、おそらく竹さんは連れて行かれる。
それに乗じて守り役の皆様も晃達霊玉守護者も『異界』に行き、連れて行かれたひと達を助けてから『災禍』を滅する。
ただこの案は博打に近い。
本当に竹さんが連れて行かれるのか定かではない。
もしかしたら『災禍』の強運が働いてこちらの関係者は誰ひとり行けない可能性だってある。
竹さんひとりしか行けない可能性だってある。
それでも、可能性はゼロではない。
ならば、意見のひとつとして検討するに値する。
思いつく限りの意見を出し、付箋に書き出して貼り付けていく。
ヒロさんが貼り出す付箋を私の頭の中でパズルのピースにしていく。
並べ替えてみる。組み替えてみる。向きを変えてみる。ひっくり返してみる。
そんなことをしながら意見を出し合った。
そうしていたらアキさんに電話がかかってきた。
『目黒』で働くアキさんのお母様からだった。
『もう夕ごはんの時間になるけれど、双子はどうする?』『こっちで食べさせる?』
今日のデジタルプラネットの訪問は、成功するにしても失敗するにしても多くの情報を得られることは間違いなかった。
訪問したタカさん達が戻ってから話し合いになるのはわかっていたので、双子は朝から一乗寺で預かってもらっていた。
勘のいい双子には『非常事態』『自分達は邪魔になる』とわかっていたようで、大人しく『目黒』で過ごしていたという。
が、さすがに半日以上放置され、おなかも減ってきて、ご機嫌ナナメになってきているとの連絡にアキさんと千明様が離脱。
千明様は『目黒』へ双子を迎えに行き、アキさんは夕ご飯の支度に向かった。
意見はあらかた出切っていた。
ここからは私とタカさん、守り役の皆様で作戦立案をする段階だ。
主座様とオミさんには残ってもらい、ヒロさんと晃にはアキさんのサポートに行ってもらった。
考えられるだけの考えを出す。あらゆるパターンを想定してシュミレーションしてみる。
『バーチャルキョート』で使われている技や陣を再検討する。
意見を出し合い、付箋に書き出して貼り付ける。
並べ替えて再度検討。話し合い。また付箋に書き出す。
次の意見を書こうとして、付箋が無くなっていることに気がついた。あんな山積みにあったのに。
手が止まったら急におなかが鳴った。
おなかがすいたのを自覚したら、急にドッと疲れが押し寄せてきた。
「一旦休憩にして、夕ご飯食べよう」と御池に移動することになった。
晴臣さんが下の弁護士事務所に行って付箋を大量に確保してきてくれた。これでまた検討できる。でも今はムリ。おなかへった。脳味噌にエネルギー入れなきゃ。
もう時間は二十一時をまわっていた。
おやつも食べず時々水分補給するだけでずっと話し合いをしていた。そりゃおなかへるわ。
ちびっこはご機嫌ナナメで爆発寸前だったらしい。ふたりの守り役の霊狐だけでなく、アキさんと千明様の専属護衛の霊狐までお守りについてなだめていたという。
千明様に抱きかかえられて連れて帰られたそこに晃がいるのをみつけ、ふたりは途端にゴキゲンになった。
ふたりは晃が大好きだという。
最近はなかなか会えない晃が、ふたりががんばっていたことを認めてくれて手放しで褒めてくれ、それはそれは誇らしげだったらしい。
さらに大好きなお兄ちゃんであるヒロさんまで晃に負けじと褒めるものだから、それはそれは得意になった。
結果ゴキゲンをなおし、晃とヒロさんにごはんを食べさせてもらった。
いつもは晴臣さんにお風呂に入れてもらうのに晃とヒロさんに入れてもらい、さらにテンション上がった。
「水があるところなら大丈夫かな」と晃がお得意の火の玉お手玉を披露して大喜びし、負けじとヒロさんが薄い水でシャボン玉のようなものを作ってプカプカ浮かばせ、ふたりはもう大興奮。
そのまま晃とヒロさんにはさまれて寝かしつけてもらった。
テンション爆上がりのちびっこ達だったけど、晃とヒロさんのやさしい声で「よくがんばったね」「えらかったね」「ありがとう」なんてささやかれ、頭ナデナデされ、満足そうにスコンと落ちたという。
そんなちびっこ達の世話をしていた晃とヒロさんも一緒に夕ご飯。
竹さんとトモさんにはアキさんが持って行っていた。
同行した蒼真様が「熱上がっていってるけど、多分大丈夫」とおっしゃっていた。
夕ご飯いただいてエネルギーチャージしたら再び話し合い。
黒陽様も参加。竹さん熱あるのに大丈夫ですか?
「トモがいるから大丈夫だ」
「ふたりが動けないぶんは私が働く」
そうですか。では遠慮なく。
そうして日付が変わっても話し合いを続け、最終案が出たところで一旦解散することにした。
「一回しっかり寝て、体力と精神力回復させた状態でもう一回検討しよう。
夜のおかしなテンションで決めた可能性も否定できない」
タカさんの言葉には納得しかない。
気は急くけれど、言われたとおり一回寝ることにした。
そうして翌日。
しっかり朝ごはんもいただいて、改めて昨夜出した結論を検討。
「――うん。やっぱり、これでいこう」
最終案が出たところで菊様にご報告。
菊様はわざわざ転移でお出ましになった。
そうして私達から説明を聞き、鏡を使って『先見』をされた。
「――いいわ。この案で行きましょう」
そうして作戦が決まった。