表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/573

第三百六話 保志 叶多の記憶 5

 高校の入学式。

 誰もいない入学式。

 それでもちゃんと出席した。

 どこかで家族が見てくれているかもしれないから。

 高校生になったおれに、きっと家族は喜んでくれるから。


 学校には真面目に通った。

 授業も真面目に受けた。

 家族に自慢してもらえるおれで在るように。

 でも休憩時間はひたすらに専門書を読み込んでいた。

 時間さえあれば教室でもどこでもいつもログを考えていた。


 帰宅したらすぐにログを書いた。

 繰り返し『異界』を展開しているうちにおれの霊力量が増えたとかで、二日に一回だったのが三日に二回になった。

 とにかく必死でログを書いた。

 現在のデジタル環境でできる限りのことを『声』と考えて構築していった。



 そうやって、こちらの時間で三ヵ月が過ぎたある日。

 どうにかゲームの基本ができた。

 もう少しで完成だ。

 が、これをどう広めればいいのだろうか。


【願えば、叶います】

『声』の答えはいい加減なものだった。

 だからいつものように願った。


『ゲームが売れますように』

『そうしていつか、願いが叶いますように』




「いつもなに読んでるの?」

 ある日、いつものように女が声をかけてきた。


 同じクラスになったおせっかいな女。

 おれがひとりでいることを気にしてか、入学以来たまにこうして声をかけてくる。余計なお世話だ。

 邪険にしても無邪気に迫ってくる女がうっとうしくて面倒で、いつも無視していた。


「これってなんの本?」

 表紙を見ればパソコン専門書だとわかるだろうに、しつこいおせっかい女はそうやって構ってくる。

 うっとうしくてわざと背を向けたら、回り込んでのぞき込んでくる。


「ゲーム? の、作り方?」

 丁度開いていたページの見出しが目に入ったらしい。


「ゲームって、あのゲーム?」

「え? それを、作るってこと?」

「え? ゲームって、作れるの?」


 作る人間がいるから世に出回っているんだろ。アタマ悪いな。


「え? もしかして、保志も作ってるの?」

 いつもなら無視していたのに、その声に褒められているのを感じて、つい得意になって――うなずいた。


 するとおせっかい女は目を丸くして息を飲んだ。


「――すごい! すごいよ保志!」

 その称賛があまりにも心地よくて「見せて!」というのを断れなかった。



 部屋におせっかい女が来た。というか、帰るおれに無理矢理ついてきた。

 仕方なく部屋に上げて完成間近のゲームを見せて説明する。


「――すごい! すごいよ保志!

 同じ高校生なのに、こんなものが作れるなんて、すごい!」


 手放しの称賛に、得意になった。

「これはまだ足がかりなんだ」

 得意になって、つい、口が滑った。


 今は簡単な作りのマップだけど、ゆくゆくは現実と遜色のない『世界』を作りたいこと。

 そこに世界中の誰でも簡単に訪れることのできる『キョート』を作りたいこと。

 ただのゲームでなく、日常を楽しめるような、そんな『世界』を作りたいこと。


 おれの話を聞いたおせっかい女は声もなく震えていた。

 そして。


「――すごい! すごいよ保志!

 そんなの見たことも聞いたこともない! 天才なの!?」


 大声をあげておれを褒め称えた!

 そしてガッとおれの手を取った。


「ねえ!私にも協力させて!」

「そんなすごいもの、世の中に広めるべきよ!」

「保志の考えていることが現実になったら、それは世界を変えるものだわ!

 常識を、文化を、歴史を変える。間違いない!

 私にもその手伝いをさせて! お願い!」



 そうして夏休みに入るなりおせっかい女は動いた。

 どうやって広めたらいいかわからなかったゲームをどこかに持ち込み、販売にこぎつけた。

 期待していたほどの大ヒットにはならなかったけれど少しは売れたようで、『声』によると【霊力が集まった】らしい。


 おれも一本ゲームを完成させたことで経験値を得た。問題点もわかった。

 改良した次のゲームを作ろうとすぐに取り掛かった。


 デジタル環境は少しずつ変化していった。

 できることが増える中、できる限りのことをしようと取り組んだ。


 おせっかい女こと三上も動いた。

 第一作が期待したほどのヒットにならなかったことが三上には納得いかなかったらしい。

 あちこちのゲーム会社を調べ、販売方法を学んでいった。

 販売方法だけでなく、どんなゲームが受け入れられるかも三上は調べてきた。

「もっとよくなるはず!」と三上は第一作のゲームのどこを変えたらいいのか提案してきた。


 単純に『鬼と戦う』だけだったゲームに物語性を取り入れた。

 どこからか伝承を調べてきてモチーフにした。

 三上のアドバイスを受け、改良案を考え、ログを書いた。



 そうして高校二年の七月。

『バーチャルキョート』販売。

 すぐにブレイクした。


 大絶賛の中、大手と呼ばれるゲーム会社から声がかかった。

「一緒に作ろう」「提携しよう」と誘われたが、そんな大人達からは『未熟な子供』から『搾取してやろう』という考えが透けて見えた。

 おれは『搾取される側』じゃない。

 だから断った。

 おれはおれひとりでこの『バーチャルキョート』を広める。

 そうしていつか、この京都の人間を消してやる。

 じいちゃんを、おれの家族を助けてくれなかった京都の全ての人間を。



 翌年発表した第二弾もブレイクした。

 おれは『ヒットメーカー』と呼ばれ、多くの霊力が集まった。



 三上は「『バーチャルキョート』を広めるためにもっと勉強がしたい」とマーケティングの勉強ができる大学への進学を決めた。

 おれは進学をしなかった。

 大学に行かなくても、こうして『ゲームプログラマー』と呼ばれ収入を得られるならば、家族は喜んでくれるだろうと思ったから。


 だから「進学しない」と三上に伝えたら、「じゃあ会社を作れ」と言われた。

「手続きは全部自分がやる」「会社を作って、保志が社長になれ」


 そうして三上に言われるまま書類にサインし、会社ができた。

 おれは『社長』になった。

 じいちゃんと同じ、『社長』。

 きっとじいちゃんはびっくりしてるぞ。

 なんだかおかしくなって笑った。



『社長』なんて言ってもおれと三上だけの会社。

 事務所もなにもなく、おれの自宅アパートが会社の所在地。

 使う機材はおれのパソコン一台。

 それでも十分に売り上げが伸びて行った。


 話題が話題を呼んでいるとかで、『バーチャルキョート』はどんどん広がっていった。

『声』に集まる霊力も増えていき、封印の一部を弱めることに成功した。

『異界』を展開できる時間も増えた。

『声』の提供できる情報量も増えた。

 三上の提案してきた物語性を取り入れるのに『声』の知識を使った。

 一般に知られていない事件やアイテム。いくつもの陣や呪文。登場する鬼。

 そうすることで第三作、第四作も大ヒットとなった。



 三上が大学で知り合った人間が「ゲーム制作を手伝いたい」と言っているという。

「役立たずはいらない」と言ったら、自主製作のゲームを「見ろ」と持ってきた。

 見ると、なかなかのログが書いてあった。

「これなら」と会うことにした。

 ひとの良さそうな丸っこい男が加わった。


「法務と税務を管理する人間がいる」と三上が言い、大学で知り合ったという人間と「会え」という。

「どうでもいい」「お前のいいようにしろ」と言ったら文句を言っていた。

 それも放置していたら、三上が勝手になにかやったらしい。

「経理はこのひと。税務はこのひとに頼むからね!」と報告してきた。


 ゲームが広がるにつれ、デジタル環境も徐々に整ってきた。

 扱えるデータ量が増えた。新しいゲームの筐体が出た。

 それに対応したゲームを作り、販売。

 そうしてまたゲームが広まった。

「手伝いたい!」という人間が増えた。



 必要な人材が勝手に集まる。

 必要な環境が勝手に整う。

 少しずつ、少しずつ『世界』を作っていく。

 現実世界と同じになるように。

『そのとき』を目指して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ