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第二十話 竹さんとのデート? 2

 玄関に鍵をかけて自転車に案内する。

 荷台に積んでいた機材をどけて前カゴにつけなおす。

 どうかな? 一応安定はしているな。

 水平は……うん。保ててる。

 位置情報確認。システム確認。うん。問題ない。


「こっちは大丈夫です。後ろに乗ってください」

 そう言ったのだが、彼女はもじもじと動かない。


「……その……、どう乗れば、いいですか?」

 それすらもわからないのか。

 本当に初めてなんだな!


 彼女の『初めて』の相手が俺だということに胸が引き裂かれそうなくらいキュンキュンする。

 もう、心臓破裂しそうだよ! かわいすぎるかよ!


「またいで座るのと横座りと、どっちが楽ですかね?」

 こっちとこっちと、とやってみせると、おずおずと彼女は後部座席に座った。

 またいで座った彼女に「足ここに乗せて」と指示する。

 万が一倒れないように自転車をしっかりと支える。


「これと、あと、横座り、ですか?」

「ええ。やってみてください」


 うながすともたもたと自転車から降り、横座りに座る彼女。


「足、そこに置いて」と指示するとそのとおりにしてくれる。


「こっちのほうが座りやすいです」

「じゃあそれで行きましょう」

「支えますよ姫」

 黒陽がなにかしたらしい。彼女がホッと息をついたのがわかった。


 手を離しても問題なく自転車が立っていることを確認して彼女の前にまわる。

「ちょっと裾まとめてもいいですか?」

「はい。お願いします」

 膝をつき、彼女の服の裾がからまないようにひとまとめにして膝の上に上げておく。

 超至近距離! 手が震える!


「タイヤにからまると事故につながるんで。膝ではさんでおいてもらえますか?」

「はい」

 そんな死地に向かうみたいな顔でうなずかなくても。生真面目だなあ。かわいいなあ。

 ていうか、顔が近いよ! もうこのままキスできそうだ。

 そう考えてしまい、自分の発想に自分で赤くなる。

 ぐわあぁぁぁ! 馬鹿か俺は! 不埒か!


 ごまかすように彼女に「こことここを持っていたらいいですよ」と教える。

 俺の内心の妄想など気付いていない彼女はそのとおりにする。

 手に力が入りまくっている。こわいかな?


「安全運転で行きます。こわかったら言ってくださいね」

 ぐっと自転車を前に押し出すと「ひゃ」とちいさな悲鳴があがった。


「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、です」

 ガッチガチだよ?


「姫」

 彼女の肩の亀がなにごとか耳打ちした。とたんにキッと表情を引き締める彼女。

 なにか責務に関わることを言われたとわかった。


 わかったけれど、あえてなにも気が付かないフリをして「行きます」と声をかける。

 さっと自転車にまたがって、軽くペダルを踏みこむ。

 それだけで自転車は進み、すぐに坂道に入った。


「え、あ、ひ、ひにゃあぁぁぁー!」

 シャーッと進む自転車の後ろで彼女が悲鳴を上げる。

 振り向くと背筋がまっすぐになって固まっている。

「や、やあ、はや、はや」

「すぐ下り坂終わりますからね。ちょっと我慢してくださいね」

「は、はひ」


 涙声になってるよ? かわいいなあ!

 意地悪してスピードをあげたくなる。が、かわいそうなのでブレーキを効かせながら坂を下る。

 いつもならサーッと下りきるんだけどな。まあいいか。


「なかなか爽快なものだな」と守り役はごきげんだ。

「こっちに来ます?」と声をかけると「いいな」とぴょんと俺の肩に移動してきた。


「こ! こ、こ、こ、黒陽ー!」

「大丈夫ですよ姫。支えているでしょう?」

「で、でで、でも、でも」

「それよりも。晴明に言われたことをしないと。

 私は前をみますから、姫は後ろを。いいですか?」

「わ、わかり、ました」


 彼女と守り役が話している間に急な坂は終わり、なだらかな道になった。

 それで彼女もちょっと落ち着いたようだ。

 あたりをキョロキョロとなにやら探っているのが気配でわかる。


「……任務が?」

 ちいさな声で短く問うと「まあな」とこちらも短い答えが返ってきた。

「ルート、どうする?」

「お前の予定通りで構わん。我らは我らで勝手にやる。

 我らのことは気にするな」

「ああ」


 そのまま予定のルートを走らせる。

 右へ左へ走る間も彼女も亀もなにかを探っているようだった。




 三時間ほど走って、予定のルートをすべて走破した。

 昼メシはどうしようかな。

 俺一人なら家に帰って食べるつもりだったんだが。

 どこか店にでも入るかと考えて、ふと肩の亀が視界に入った。


 亀連れじゃ入れる店はないよなあ。

 隠形とったままというのもおもしろくないし。

 そういえば。この近くにパン屋がなかったか?

 走行前にルートを確認したときの地図を頭に思い浮かべる。

 そうだ。広沢池の近くにパン屋があった。

 パン買って、池のほとりで食うのはどうだろう。

 天気もいいし、ピクニックみたいで楽しいかもしれない。


 とはいえ、一応聞いてみよう。


「竹さん。昼メシ、俺が家で作るのとパンと、どっちがいいです?」

 声をかけると彼女がうろたえたのがわかった。


「いえ、あ「姫はパンが好きだ」黒陽ー!」

 またしてもおしゃべりな守り役がぺろりとバラす。


「今から帰ってお前に食事を作らせるのも申し訳ない。

 お前も腹が減っているだろうしな。

 パンはこの近くで売っているのか?」


 この言葉に後ろで彼女が黙った。

 きっとなんか余計な事考えているぞ。

 だからさっさと答える。


「もう近いですよ。じゃあ、行きますね」

「うむ」


 そうしてさっさと目的の住宅街の中のパン屋に向かう。

 自転車を停めてさっと下りると、彼女に手を差し出す。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 おずおずと俺の手にその手を重ねる彼女。

 そっと触れた途端、ビリビリビリーッと電撃が走った!

 な、な、な、なんだ今の!

 なんか、なんか、鳥肌立った!


 反射的にぎゅっと彼女の手を握る。

 ぐわあぁぁぁ! 手! 手! 握ってしまった!

 ドッと手汗が出た気がする。が、彼女は気付いていないようで「よいしょ」と立ち上がった。


 ずっと座りっぱなしで疲れたのだろう。

「ふう」と息をついて軽く身体を動かしていた。


「疲れたでしょう」

 心配でそう聞くと「大丈夫です」とにっこり笑う彼女。

 かわいすぎか!


 念の為機材を取り外し、持っていた袋に押し込む。

 それをかついで一緒に店に入った。


 彼女は隠形を解いたが、黒陽は俺の肩に乗ったまま隠形をとっている。

「欲しいパンがあったら言ってくださいね」

 入店前にそう言ったら黒陽だけが「ウム」とえらそうに答えた。



 店に入るなり、彼女が目をキラキラさせた。

 すうう、とパンのにおいをかいでしあわせそうにへらりと笑った。

 右を見て、左を見て、広くない店内を落ち着かない様子でキョロキョロと見まわしている。

 かわいすぎるかよ!


 そんな彼女の様子を愛でながらトレーとトングを手に取る。

「何がうまいかな」とこちらも楽しそうな亀に「これなんかどうだ?」とこそりと話す。


 竹さんの前では丁寧な言葉になってしまうけれど、この亀と二人だと思うと途端に言葉が崩れる。

 亀もそれを嫌がる様子をみせないので直す必要を感じなくて、ますます気を許してしゃべってしまう。


 自分の食べたいパンを次々にトレーに乗せる。

 あ。ヒロ達にも土産に買うか。アキさんのおかずのお礼もしなきゃだし。


「ヒロ達にまた持って帰ってくれるか?」

 こそりと黒陽に聞いてみると「いいぞ」とあっさり請け負ってくれる。

「無限収納があるから、いくらでも持って帰るぞ」

 俺達の使うアイテムボックスのようなものを持っているらしい。

 それならと遠慮なく選ぶことにする。


 レジにトレーを預かってもらい、お土産用のパンを選ぶ。

 食パン。総菜パン。菓子パン。

 あそこ人数多いからな。おまけにヒロがよく食うから。多くても問題ないだろう。

 おっと。俺達の飲み物を買わないとな。


「飲み物なにがいい?」

「コーヒー」

「了解。竹さんは――」

 なにがいい? と聞こうと振り向くと、彼女はひとつひとつパンの説明を読んでいた。

 どれがいいか真剣に選ぶ様子がひたすらにかわいらしく、叫びだしそうになるのを咄嗟に口をふさいでこらえた。


 かわいすぎる!


 それでもなんとか精神統一をはかり態勢を立て直し、改めて彼女に話しかけた。

「竹さんは飲み物なにがいいですか?」

 ぱっと顔をこちらに向けた彼女は『そこにもあったのか』みたいな顔で冷蔵ケースに寄ってきた。


「ふわあぁぁぁ…」と目を輝かせる様子がかわいくてたまらない!


 俺の隣で上を見たり下を見たり。

 迷う様子もかわいい。

 二人並んで買い物なんて。夢だろうか。俺の妄想だろうか。

 これじゃあまるで、そうだ。まるで、デートみたいじゃないか!


 喜びのあまり「ぐっ」とちいさくもれた声に、黒陽が呆れたような視線を向けていた。

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